兄弟



 やっとの思いで囚われた煉獄島から脱出したフリード達。
サヴェッラ大聖堂に戻ると、なんと法皇が亡くなりマルチェロが新法皇の位に就くとのこと。
急いで就任式の行われる聖地ゴルドへ向かう。
「まさかあの杖・・・今度はマルチェロが・・・ねぇ、フリード、アタシ達今度はククールのお兄さんと戦わなきゃならないの?」
不安げな顔つきでゼシカが問う
「そうあって欲しくは無いが・・・その時は・・・」
フリードが言葉に詰まる。
「いいさ、気にするな・・・俺だって覚悟は出来てる、ただな・・・出来れば俺にカタ付けさせてくれ」
ククールが意を決した表情で皆に言う。

 聖地ゴルドではマルチェロの演説が始まっている
「・・・法皇の重責を担いましたうえは鋭意専心、この世界の発展のために精励いたす所存でございます。なにとぞ前法皇同様のご指導ご支援を賜りますよう・・・いや、奇麗事はよしましょう」
会場がざわめく
「私は、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません・・・貴族出身でもなければ、さらには妾の子です・・・その私が己の力をもってこの地位まで登りつめました」
「以前から私は、この貴族社会の身分制度に疑問を持っておりました・・・力も無い老いぼれどもがのうのうと支配するこの世界・・・全てぶち壊して全く新しい秩序を作ります」
「そうです、この世界は今日より我が教団、我が騎士団の統制の元で新たに生まれ変わるのです」
「さぁ、会場においでの貴族の皆さん・・・お選びください、従うか・・・それとも死か!」
ざわめく会場の奥で扉が開く
「そりゃあ間違ってるぜ!」
勢いよく扉を開けたのはククールだった。
「兄貴!確かにこの貴族社会はおかしいかも知れねぇ・・・だがな、あんたのやろうとしてることはただの独裁だ!」
ククールを先頭に四人が教壇に駆け上がる。
「また貴様等か・・・どこまで邪魔をすれば気が済むんだ・・・まぁ良い・・・此処の貴族ども共々あの世に送ってくれるわ!」
マルチェロが杖を構える
「兄貴!いつも誇らしげに構えていた剣はどうした!心まで暗黒神にのっとられちまったか!」
騎士団最強と謳われたマルチェロの面影はそこには無かった
「ククール、しっかりケリをつけろ!こいつでな!」
フリードが何やら投げ渡す
「こいつは・・・すげぇ、今までの隼の剣の比じゃねぇ・・・」
「兄貴とトロデ王が改良を加えた『隼の剣・改』でゲスよ」
「今日はアタシ達サポートに回るからねっ」
ククールを突出させ、三人が少し下がった位置につける変則の陣形をとる。
「すまねぇ・・・皆、この借りは必ず返すからよ・・・行くぜっ!兄貴!!」
普段ククールが行っていた回復の役目をフリードが、マジックバリアやバイキルトをゼシカが、そしてスクルトはヤンガスが担当し、全ての戦闘力をククールに集中させる。
「小賢しいわぁっ!」
マルチェロがグランドクロスを唱える
「ぐわぁっ」
全員の体力が根こそぎ持っていかれそうだ
「ククール!どうした!お前の今までの積み重ねはそんなものか!・・・自分でケリつけるってタンカ切ったんだ!意地見せてみろ!!」
フリードが叱咤激励と共にベホマズンを唱える
「そうだったな・・・こんなところで死ぬわけにゃいかねぇ・・・後ろにお前達もいてくれたんだしな!」
体勢を立て直し、ククールが詠唱に入る
「風の精霊達よ この剣に集え 破邪の力を纏い 真空の刃となりて 我が意志の元 全てを切り裂け!」
ククールの得意とする呪文「バギクロス」が、彼の持つ剣に集まりだす。
「出来たぜぇ・・・このギリギリの状況で・・・行くぜ!真空鳳翼斬舞!」
全身に風を纏ったククールが、瞬く間に四度マルチェロを斬りつける。
「ガァァァァァァ!」
マルチェロが膝を着く
「ついにやったか・・・あいつ、ギリギリのところで隼斬を進化させて、完全にオリジナルの技を作り出しやがった」
「陰でいっつもコソコソやってたのはあれでヤんしたか・・・つくづく努力を見られるのが嫌いな男でゲス」
「すごい・・・フリードのギガスラッシュに引けを取らない威力じゃない・・・」
三人が驚き見入っているその時、明らかにマルチェロとは違う声が響く
「フハハハハ・・・礼を言うぞ貴様達・・・この男の人並みならぬ精神力で完全に操れずにいたが・・・賢者の末裔全て亡き今・・・もはや傀儡も必要ないわ」
マルチェロの手から離れた杖が、ゴルドの巨大な女神像に突き刺さる。
その中から、黒き禍々しい気が満ち溢れたと思った刹那、巨大な塊が上空高く舞い上がる。
「フハハハハ・・・貴様等の命運もあとわずかだ・・・残り少ない命を今のうちに楽しんでおれ・・・」
黒き塊は飛び去っていった。
「クッ・・・逃げられた!」
「待って!マルチェロは?!」
女神像崩壊の余波でゴルドは見る影も無く崩壊しようとしていた。
大地のあちこちに裂け目ができ、人々が飲み込まれる。
マルチェロがその裂け目に飲み込まれようとしたその時
「兄貴!」
ククールがその腕を掴む
「離せ!貴様になど・・・貴様にだけは助けられたくないっ!」
振りほどこうとする手を必死でククールは引き上げる
「情けをかけたつもりか・・・同情などいらん!さっさと殺せ!」
叫ぶマルチェロにフリードが言葉をかける
「楽な道を選ぶつもりか?・・・少しでも貴様に良心が残っているのなら、その命、この地の復興に賭けてみろ」
「俺に・・・生き恥を晒せと言うか」
「人それぞれ役目がある・・・俺たちは必ず暗黒神を倒す。貴様も、もう一度思い出せ、偉くなると心に誓ったあの時の気持ちをな」
その場を離れるフリードの背中にマルチェロが叫ぶ
「いいのか?また俺は道を逸れるかも知れんのだぞ」
後ろからククールが声をかける
「その時は俺が止めるさ・・・何度だってな。」
「たった二人っきりの兄弟じゃねぇか・・・俺はいつだって強い兄貴に憧れるダメな弟だけどよ」
「くっ・・・」
マルチェロは胸につけた騎士団長の紋章を外しながらククールに対峙する。
「貴様にそこまで言われるとは・・・俺もまだまだだな。やってやるさ・・・もう一度最初からな。支配ではなく、皆が平等な世を必ず。・・・・持って行け、俺にはもはや必要ない」
紋章をククールに投げつけ、マルチェロは足を引きずりながらその場を去った。
(兄貴・・・俺もこの戦いが終わったら必ず・・・)
兄から託された紋章を握り締め、ククールはいつまでも兄を見送っていた。






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