リプルアーチを後にして、雪中を進む。
相変わらず口論を繰り返すトロデ王とヤンガスを尻目に進んでいると突然雪崩に見舞われる。
気がつくと山小屋の中であった。
「おや、気がついたかい?お仲間はもう下の部屋で集まってるよ、アンタも下においで」
どうやら助かったようだ。
老婆が入れてくれたスープを飲みながら、あらためて礼を言う。
「いいんだよ、こんな山の中で暮らしてると人に出会うのも少なくってね・・・久しぶりに賑やかになってこっちも楽しんでいるからさ」
名をメディという老婆は、いかにも優しそうな雰囲気を醸し出している。
「そうだ、あんたたちオーにクスに行くんだろ?だったらちょっと頼まれてくれないかい?」
「これをグラッドって男に届けて欲しいんだよ・・・あたしは代々この裏手の遺跡を守る役目で、此処から離れられないからねぇ・・・」
気のせいか少し寂しげな目をしながらメディはフリードたちに袋を渡す。
頼みを聞き、礼を言ってオーにクスに向かう。
街の人々に話を聞くと、グラッドは薬草園にいると言うので探しに行く。
薬草園の奥で人が倒れている
「フリード!あれグラッドさんじゃない?」
駆け寄って助け起こすが、グラッドはひどく弱っている
「助けてくれたのか・・・しかしもう凍えそうだ・・・何か暖めるものは・・・」
「そ、その袋は・・・まさか・・・頼む、その袋の中身を私に」
差し出した袋の中身には、ヌーク草という特殊な薬草が入っていた。
それを噛み締めたグラッドの顔にみるみるうちに赤みが差す。
「助かったよ・・・これはメディという人から預かったものだろう・・・そうか・・・あの人が」
「とりあえず家に戻ろう・・・それからゆっくり話をさせてくれ」
グラッドを伴いオーにクスに戻る。
「あらためて礼を言わせてくれ、助けてくれてありがとう」
「君達にまだ話していなかったね、あのメディという人は私の母親なんだよ・・・私の一族は代々あの山小屋で遺跡を守って暮らしてきた」
「しかし私は、代々受け継がれるこの知識を人の役に立てたくて、家出同然で飛び出したんだよ」
「この薬草は、栽培が難しくてね・・・私もなかなか上手くいかないんだよ」
「これをくれたのは・・・母さん、私の行いを認めてくれたと思って良いんだよな」
じっと考え込むグラッドにゼシカが声をかける
「そうよ、家族だもん・・・解ってくれるわよ・・・そう、家族だもんね」
ゼシカは大喧嘩して飛び出してきた自分の家のことを思い出していた。
「大丈夫だゼシカ、お前の母さんもきっといつか解ってくれる」
フリードが声をかける
「そう・・・だよね」
笑顔を作るゼシカにグラッドが話しかける
「そうですよ・・・私が言うのもなんですが、親子とはいつか解りあえるものですよ」
「そうだ、皆さんにお願いしてよろしいでしょうか」
「最近野生の狼が異常なくらい里に下りて来ています・・・独りで暮らしている母が心配です、私は患者がいますのですぐには様子を見に行けないので、皆さん先に行って頂けないでしょうか?」
他ならぬ命の恩人の身が危ないかも知れぬ大事、すぐさま山小屋に引き返すことにした。
この時、グラッドを伴わなかったことが更なる悲劇を巻き起こす事になろうとはまだ誰も知らなかった。