Episode9: 廃墟の世界
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ばっく   







脳が休めない・・・俺は起きている間、疑問ばかりだ・・・
俺は風にそれらをぶつけても理解できないでいる。
俺は一人部屋に戻り脳を整理したかった。だが、
できるはずもない。
俺は首をかしげるしかない。
「実行するしかねぇな。」
?!
振り返れば頬にタトゥー・・自らを魔人と呼ぶ男だった。
「よぉぉ・・眉間に皺がよってるぜ。・・・来い!」
「どこに!?」
「どこにだと?そんなのは重要じゃない。来るか来ないか、どっちだ?!」
「そんなこといわれても・・」
「知りたくないのか!・・・この世界を。」
「・・知りたいよ・・」
「・・・ついてこい。」
そう言うと、彼は振り返ることなくただひたすら歩き始めた。
魔人・・・一体彼はなんなんだ?・・風といい魔人といい、俺をどうしたいんだ・・・
そうこう考えているうちに街は視界から消えた。
あえて質問はしなかった。ただ後について歩いた。
暗闇の中、ランタンの灯りだけをたよりに・・・
ボッ
突然灯りが消えた。
見失った。盲目の世界を彷徨う。
「魔人!どこだ!どこだよ!・・・答えてくれ!」
全く返事はなかった。また、孤独か・・・
何時間・・・何分・・・何秒経っただろう。
闇では時間は存在しないかのように長く短い・・・
「真夜中・・・・」
(魔人?)
「月の隠れる地より・・・」
(魔人なのか!)
「蘇生を繰り返す・・・地涌の鬼どもが姿を現す・・・」
ザワザワ・・・冷たい風が吹き抜ける・・・
前と同じ感覚・・・恐怖と孤独が襲ってくる・・・・
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--------ゆっくりと目が開く。 空は曇っている。
また道端に倒れている。また瓦礫の山の中。また廃墟の街。
見覚えのある街並み・・・!!!
(ここは風の!風の街だ!)
んぐっ!
立ち上がろうとした瞬間、激痛が襲った。痛みの元を辿ると胸からヘソにかけて真っ直ぐ斬られ、
その跡は枝分かれしたかのように横にも広がっていた。
なんとか助かったようだ。
ゆっくり立ち上がり胸を抑えながら生存者を探しまわる。
「無駄だ。」
また背後から声がする。魔人だ。
「俺達と重傷者が一人いるだけだ。助かりそうもないが・・」
(?!風!)
「どこにいるんだ!?」
魔人は目で示した。
俺はその重傷者に駆け寄った。
!!
「ハァ・・ハァ・・ングッ・・うぅ・・」
風だった。
綺麗なエメラルドの瞳が霞んでみえる。
とても苦しそうだ。
「しっかり!」
「ん・・貴方は・・・何故・・・」
??
意味深な言葉をつぶやいた。
「風の・・あたる場所へ・・」
「?・・風のあたる場所だな!よし!」
俺は彼女を抱きかかえ風の吹く場所を探した。だが、
無常にも風は・・・
(!!息が弱くなってきた。)
「なんで吹かない!吹けよ!」
(そうだ!!あそこなら!)
俺は彼女のとっておきの場所に向かった。
(頼むぞ・・もってくれよ・・)
「はぁ・・着いた。」
彼女の髪が靡く・・
「おい!ここなら!・・!?・・・・」
彼女の胸に耳を当ててみる・・・聞こえない・・・響かない・・
涙が頬を伝う・・・
「なぁ・・ここが昨日見た景色か?・・君には見せたくない光景だ・・・」
彼女の恐れていたこと・・・それはいつかこの街が廃墟に化してしまうこと・・・
今、目の前に広がる世界は現実なのか・・・俺には夢にみえる・・・
あまりにも早すぎる・・・壊すことがこんなにも容易に成されている・・・
この世界にどんな怪物が潜んでいるんだ。
「やはり助からなかったろう?フフっ」
歩みよる魔人。
「泣いているのか・・・」
「アンタは悲しくないのか・・」
「俺の涙はとうに枯れた。・・・慣れだ。人の死なんてもの腐るほど見てきた。」
「なんで助けてあげなかったんだよ。」
「助けてどうする?また半殺しになりたいと思うか?助ければまたそれを繰り返すんだ。弱いやつが生き残っていける世界じゃない。」
「じゃあ、アンタは強いんだ。無傷ってことは・・」
「フフッ俺は世渡り上手なだけだ。」
「アンタの教えたかった世界ってこういうことか。」
「何を言っている。お前はまだ何も学んじゃいない。水面に浮かんでいるだけだ。今のお前じゃ泳ぐことも潜ることもできない。深く知ろうとすればした分、周りに押し潰される。俺は波を起こしてやってるだけだ。」
「手助けを?」
「簡単に言えばな。」
「俺は助けるのか。」
「お前は無知なだけだ・・・せいぜい今は感傷にひたってろ。そのうち涙など忘れる。」
彼はそういい残すと姿を消した。
バタンっ
音のするほうに目をやると
「あら・・仮死状態?私。」
歩み寄るもう一人の風。
「君は無事だったのか?」
「ええ・・何があったの?」
「わからない・・君はどこにいた?」
「ずっとここにいたはずなのに憶えてないの。」
「君はどっちの風だ?戸口にいた方か?それともここに連れてきた方か。」
「どっちと言われてもわからないわ。どちらも私だから。」
「君はいったい何人いるんだ。」
「一人よ。」
「俺をおちょくっているのか?」
「貴方こそ私に何をしたの?」
「俺は君を助けようとここへ連れてきた。・・・って事件を知らない同士がいがみ合っても埒があかない。とりあえずもう一人の君を・・」
(何!)
俺が抱きかかえてきた方の風の姿がなくなっていた。
気になったがあえて謎のままに。
「これからどうするの?」
「俺は放浪するが君はどうする?家を失ったんだ。」
「私も一緒にいくわ。貴方は無知過ぎる。」
「それは心強い。で、ここから一番近い街はどこに?」
「ここからだと北西の賢者の街かしら。知識人達の集う街・・きっと何かわかるはずよ。」
「では、そこに決まりだ。」
「今日は日が暮れるまでに準備を整えて、明日出発しましょう。」
俺達は廃墟の街に残った戦利品や食材を集めた。
彼女は歩きながら涙を浮かべていた。
俺はただ、知らぬふりをして別のルートへと足をのばした。
誰もいない・・・昨日まで大勢の人が犇めきあっていた窮屈な街がたった一晩で・・
死体すらない・・・何故三人は生きていた・・・
街人達は逃げたのか・・・いや、逃げてはいないか・・・壁や床の血痕は助かりそうな量じゃない・・・
間違いなく皆死んだんだ・・・




by nanty