忽然と消えた少女。
いったい何が起こったのか…

真実はまだ闇の中。



涙色の雨



突如校内で起こった不可解な事件。
それは、瞬く間に生徒達の間に広がる事となった。

「教室で傷だらけで倒れてたんだって。」
「意識不明で今は面会謝絶らしいよ。」
「なんでも生意気って先輩にやられたんだって聞いたよ。」
「え〜?こっわ〜い。」

部分的に情報は押さえられたらしい。
でも、どこから情報を得ているのか、どこにいってもこの話題ばかり。
同じ教室で騒ぐクラスメートに世々巴は眉を顰めた。

(…うるさい…)

元々喧騒や人との関わりを好まぬ世々巴。
騒ぐクラスメートから一人離れ本を呼んでいたが、こんなにうるさくては適わない。
本の内容も苛つきから入ってこない。

(…さぼるか…)

だが、かと言っていちいち言う気もない。
次の授業が体育で団体競技だったこともありサボる事にする。
本を閉じ立ち上がり廊下にでるとそこに意外な人物がいた。

「…麻実?」
「あ、世々巴ちゃん。会えてよかったです。」

どうやら世々巴の事を探していたらしい。
ちょうど逆の扉の前で中を伺っていたが、世々巴を見つけて嬉しそうに近付いてくる。

「…どうしたの?」

世々巴が9組で麻実が5組。
クラスも離れているし、世々巴があまり人と関わるのが好きでないために用事がない限り誰かが尋ねることはない。
……雷紀や勇利のような構ってくる人間は別だが…

「あ、今から緊急会議だから至急講堂に来なさいって…」
「あぁ、昨日の件のね。…でも、携帯のメールで連絡すれば…」
「したけど出なかったんだよ〜。だから、僕が来たの。」

その言葉にポケットの中の携帯を出してみる。
すると、確かにメールの着信があった…どうやら、騒がし過ぎる教室の雑音で聞こえなかったらしい。
自分らしからぬ失態に密かに世々巴が溜息をついていると麻実が付け加えるように行った。

「あと、ちょっと僕は遅れちゃいそうだから言っておいてくれないかな?」
「…水上は?」
「う〜、亜離紗ちゃんはもう行っちゃったんです。」

どうやら話を聞くと、行こうとした所で先輩に頼まれごとをしたらしい。
伝言を頼もうと思ったが誰もおらず、世々巴にいいにくるついで伝言を頼もうと思ったらしい。
別にそのぐらいは世々巴としても構わないのだが…


「ふ〜ん…一人で平気なわけ?」


なんとなく、口をついて出た言葉。
普段なら言いはしないだろうが、なぜか今は言ってしまった。
麻実は一瞬驚いたようにきょとんとした顔をした。

「え?別に一人でも大丈夫だよ。」
「…そう。」
「うん、心配してくれてありがとうね。」
「別にそういうわけじゃないわ…」

本当に無意識に言った言葉。
特に麻実が手伝いが必要じゃないなら構わないし、それ以上言う気もない。
言った自分自身に違和感を感じつつも世々巴は引いた。

「じゃあ、伝言お願いね。」

そう言って手を振って走っていく麻実。
その後姿になぜか妙な胸騒ぎを感じつつも、世々巴それを振り払うように講堂へ向かった。



講堂は、すでに数人を除き揃っていた。
それぞれ思い思いに適当な席に座って説明を待っている。

「東っち!遅いぞ!」
「あと、1分遅かったら迎えに行った所だったよ。」
「…麻実は、頼まれごとで遅れるそうよ。」

自分の姿を見つけ騒ぐ雷紀と勇利に世々巴は一瞬眉を寄せる。
だが、すぐに表情を戻し教壇の横にいる理事長秘書の佐原忍に伝言を伝えるとそのまま後ろの離れた席に座った。
それに対して二人は騒いだが、いつもの事なので収まるのを待って佐原は壇上に上がる。

「…じゃ、用事の子以外は全員揃ったみたいですね…今から、昨日起きた件について説明します。」

昨日の件とは…突如学園で起こったあの事件。
学園内で起こった事件は、SCの専門であるが
今はまだ校内で暴力事件らしく者が起こったらしいということしかしらない。
本来は直にSCに来るのだが、負傷者が出たために先に警察が介入して来た為に遅れたのだ。

「では、まず被害者ですが…」

説明をまとめると、事件が起こったのは昨日の放課後。
学校が閉鎖される7時の30〜40分の間でその間に怪しい人物の出入りはない。
教室にいたのは3名で全員が、体に全身に殴られたような痕があり打ち所が悪かったのか意識不明。
消えた少女は、友人と別れ教室に忘れ物を取りに行ったのだがそれ以降の行動は不明。
現場には、彼女の内履きが片方だけ落ちていたがぐっしょりと濡れていた。
倒れていた3名と少女との接点は、クラスメート・同級生というだけで特にはないが彼女はあまりいい印象は持っていなかった。
無論、このようなことに及ぶような怨恨やトラブルなどはなかったようだが…

「彼女については、犯人に誘拐されたか顔を見て逃げたか…それとも彼女が関わっているのはわかりません。」

そこまで言うと見ていた書類を教卓に降ろした。
その説明の後ろでは、薄暗い部屋の中スクリーンに消えた少女の写真が写っている。
明るい感じのする笑顔の可愛い女の子だった。

「ただ消えた事は事実ですし、まだ見付かっていません…混乱を避ける為にあえて情報は伏せることにしました。」
「確かに…その子も危険なら下手したら集団登校拒否でも起きそうだわ。」

誘拐なら犯人の目的も身代金の要求もなく…まるでこれでは神隠しだ。
自分が通っている学園でこんな事が起これば気の弱い生徒は脅え、学校自体を拒否するかもしれない。
そうなれば、騒ぎが必要以上に大きくなってしまうと侑輝は考えながら小さく溜息を付いた。

「ご両親にも理由を説明しわかっていただきましたが、それでも長くなればそうはいかなくなります。」
「…つまり、内密に調査できるのは限られているという事か?」
「はい、1週間…これが精一杯引き伸ばして内密に進められる時間です。」

臣の質問にそれ以降は、公開捜査になると告げる。
公開捜査になれば情報は手に入りやすくなるが、ことが公になる為に避けたいの学校側の正直な意見。
だが、それは酷く難しい事だ。

「この捜査にはSC全員が関わっていただきます。現在任務がある方はそちらを優先し終わらせてから合流してください。」

本来の任務は大体4〜5人の少数で行なわれる。
それを全員で行なうというのだから、今の状態がいかに悪いかがよくわかった。
メンバーはみな、それぞれ真剣な面持ちで佐原を聞き行動を開始する。

「これってこの後は、何も起きないよね?」

移動する中、ふと誰かがこぼした言葉。
ただの独り言だろうそれはなぜか全員の耳に届いた。




そして、その日の夜。
突然の緊急コールから皆は、知ることになる。




『SCに次ぐ、昨日の件と同様の暴力事件発生。…また、本校含め都内中学で数名が姿を消した。』

すでに第2の事件は起こっていたことを…





『本校で行方がわからないのは中等部2年5組……進藤麻実…」

そして、それは自分たちの身にも迫っている事を…




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*アトガキ*
…最初に柚木さんに深くお詫び申し上げます。
麻実ちゃんが登場してすぐに行方不明に…本当に申し訳ありません。
でも、これちゃんと(?)理由がありますから!
これからも数人キャラやメンバーが消えたりすると思いますが、暖かい目で見守っていただければ嬉しいです。

2004/07/07