『件名:XXX』
   秘密の始まり





       マドンナと秘密とティータイムを ・ ひと葉





 そのサンルームは庭に迫り出した形であった。緑濃く溢れる庭にあって、それは麗らかたる日の光に反射してさざめく湖面の様にも見える。
 サンルームに絶える事なく流れている音楽はクラシカルなワルツ、その音楽に合わせるかの様に一人の男性が慣れた手つきで紅茶を入れていた。

 「崇子様」

 どうぞ、と差し出された先には、品のよい婦人がゆったりとした時間を楽しむかの様に座っていた。

 「ありがとう」

 日の光が眩しいばかりに溢れるサンルームに、優雅に流れる音楽、まさに絵に描いた様な午後の一時。だが、ただ一言で、薄い硝子の様に砕けてしまう。

 「十年に、なるかしら」

 何処か遠く、静かに重い一言。誰に聞かせるでもなく、だが独り言でもなく、まるで小さな断定を含んだ問いかけの様で。それは、数える事を適わない時間への問いかけ。

 「そう、なりますかな」
 「津積、あの子は最後に何を思っていたのだろうね」

 その答えを津積は持っていない。また崇子も望んではいなかった。
 ただ澄んだ空だけが、高く、高く、そこにあった。



       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 松山はるかは悩んでいた。いや怯えていた。ここ最近ずっと誰かに見られている様な気がしているのだ。それは一人でいる時や、友達といる時、バイト先など区々である。
 つい先日には家に何者かが侵入した痕跡もあった。警察に相談しても念のため巡回します、とだけ。
 はるかの家は普通の家だ。両親が早くに他界したため母方の祖父母と兄の四人で暮らしているが、祖父は持病を抱えており、兄も深夜までバイトをしているため家にいる事は少ない。
 だから何者かに家を荒らされた時は本当に怖くて眠れなかった。
 誰が、どうして自分たちを?
 相談しようにも友達には相談出来ない。親戚などここ数年顔を見た事もない。
 安心出来るのは学校にいる時だけ。それだけにはるかは自分の机に入っていたカードを見つけた時、心臓がひやりとした。まさか学校にも? そう思うとはるかはどうすればいいのか分からなかった。震える手で確かめたカードにはこうあった。

 『あなたの身辺の事で相談あり。明日の放課後、図書室にてお会いしましょう。
                            アライバル探偵事務所』

 はるかの視点がある一点で止まった。「探偵事務所」その一言がとても嘘の様に見えた。警察が当てに出来なくて、誰にも相談出来なくて、だからこんなのは嘘だと思った。
 けど、本当ならいい。微かな希望にも似た思い。
 それが、昨日の事。
 チャイムと共にSHRが終わる。
 チャイムの音にハッとした様にあたりを見渡すはるか。クラスメートの半数は席を立ち、担任は教室を出ようとしていた。

 「はるか、帰らないの?」

 仲の良い絵里が不思議そうに声をかけてくる。はるかは学校の許可を得てバイトをしている。だからいつもならすぐに帰るのだ。

 「うん、今日は用事があるからバイト休み貰ったの」
 「そうなんだ。じゃ、あたし部活行くね」
 「頑張ってね」

 バイバイと手を振って絵里を見送ると、はるかは机の中からカードを取り出して黙り込む。
 賑やかさの減った教室。それでもまだ数名の生徒がお喋りに興じていた。
 はるかはカードを手に悩んでいた。本当ならいい、でも嘘だったらどうしよう。このカードに書かれてある事が本当である確証はどこにもない。それでもそうであったらいいと願う自分がいる。
 一応確かめる為にバイトを休みにして貰ったのだ。少し、少しだけ覗いて誰もいなかったら帰ろう。
 はるかはカードをバックに終い込むとクラスメートに挨拶をして図書室に向かう。廊下ですれ違う誰もが知らない人に見える。
 図書室は新校舎の二階、渡り廊下の先にある。
 1.5クラスほどの広さを持つ図書室には、勉強するには申し訳程度のテーブルと椅子があるだけ。出入り口は一つで貸し出し受付のカウンターが設けられている。週交代で図書委員がカウンターに座っているがまだ来ていない。
 静かな図書室で入り口を気にしながらたたずんでいる生徒いた。制服は着てはいるが、生徒、と言うには語弊があるのかも知れない。

 「来る、でしょうか?」

 図書室の一番奥にある椅子に、まるでちょこんと云えそうなほど小さく座っている夏樹が、隣の飛鳥を仰ぎ見る。

 「来て貰わないと困るけどな。なんの為に俺たちがここに居るんだ?」

 図書室には二人、夏樹と飛鳥しかいない。シンとした空間が煩い。
 そうですよね、小さくため息にも似た息を吐く夏樹は何処か落ち着きがない。視線をあちらこちらと彷徨わせている。方や飛鳥は腕を組み、本棚に背を預けている。
 カタリと小さく音が聞こえた。扉が静かに動いている音だ。

 「対象者、でしょうか?」
 「さぁ。違う生徒かもな」

 今回の対象者について話は聞いている。かなり怯えていると。誰だってストーカー紛いの事をされると怯えもするだろう。静かにゆっくりと足音が近づいてくる。
 列の一つを確かめる様に足音は止まり、そして歩く。その事に飛鳥はその足音の主が対象者であると確信する。もし誰かがここを待ち合わせ場所に選んでいるとしたらもっと足音は軽快である。
 飛鳥の視界にビクリと動きを止めた影が映る。飛鳥は自然に顔を上げてその影を確認する。
 松山はるか。資料の生徒だ。
 夏樹もはるかに気がついてこんにちはと挨拶する。

 「こ、こんにちは」

 返事もそこそこにその場を去ろうとするはるかの背に、静かにけれどもはっきりと

 「ようこそ、アライバル探偵事務所へ」

 驚いて振り返るはるかに飛鳥は少し悪戯っぽく笑いかける。

 「あ、あの」

 その場の雰囲気に戸惑う様にはるかが口を開くがそれを遮る様に飛鳥が

 「松山はるかさん、ですね? 初めまして。俺は八剱(やつるぎ)で、こっちは葛井(ふじい)」
 「初めまして、葛井です」

 葛井と紹介された夏樹がはるかに頭を下げる。

 「探偵事務所からの使いだよ」
 「じゃ、これ、あなた達ですか?」

 ハッとした様にはるかはバックから取り出したカードを飛鳥の前に差し出す。与り知らぬ間に机の中に入っていたカード。飛鳥はそう。と頷く。
 はるかは飛鳥と夏樹を交互に見比べる。その顔には自分と同じ位のこの人達が? と言うのが有り体に見える。飛鳥は少しだけ苦笑いを浮かべると

 「身辺状況についてボスから話を聞かせて貰った」

 はるかの表情が僅かに緊張を帯びていくのが分かる。

 「本当なら警察とかの方がいーのかも知れないけどそれだと目立つから俺達がはるかさんの護衛する。それと俺らの他の担当にも会って貰うんだけど、場所変えるけどOK?」
 「え? あの、どういう……」
 「一応調べて安全だって確認して此処に呼んだけど、どうやって相手に話が漏れるか分からないしな。より安全な処で話しようって事なんだけど?」

 飛鳥の真面目なのかそうでないのか分からない対応にはるかは黙って頷くしかない。緊張しているのだろうか、それとも話の内容に怖さが漫ろ出てきたのだろう。顔色が悪い。夏樹は安心させる様に

 「あの、大丈夫、です。僕達、はるかさんの味方ですから」

 安心してください、と笑いかけられた笑みにはるかも笑おうとするも、それは笑みと云うには遠く及ばないものだった。



       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 黒須学園。サッカーの名門校で優秀な選手を輩出している。専用のグラウンドでは練習に励んでいる少年達の姿があった。その練習風景を見ながら一七夜月はグラウンドへと続く道を若いっていいな、とおよそ同年代とは思えぬ事を思いながら歩いていた。
 グラウンド傍まで来るとピッと笛が鳴るのが聞こえ

 「近藤、畑、藤代の代わりに森長、木田、藤村」

 監督である西園寺の声がグラウンドに通る。
 一七夜月がグラウンドを見渡し、練習中に声をかけるのも悪いと思ったので休憩まで待つかと思った矢先、「あっ」と声がしたのとそれに重なる様に「危ない」と叫んだのは誰だろうか。そしてドコッと思わず耳を塞ぎたい様な音がして地面に蹲る藤代の姿。
 シンと中断された練習。聞こえるのは合唱部が練習しているのだろうコーラスと、同じく吹奏楽部のパートごとの少し耳障りな演奏。そして他のグランドで練習している運動部のかけ声。
 倒れている藤代を見て青ざめているもの8割、驚いているもの1割、呆れているもしくは平然としているもの1割である。その平然としている1割に入る当事者である一七夜月は

 「すいません玲さん、練習を中断させてしまい」
 「いいえ、こちらこそ相変わらず躾がなってなくてごめんなさい」

 同じく平然どころかにこやかに応える監督の西園寺。そんな二人に藤代の心配しろよ、とは口が裂けても言えぬ選手達。そして何が起こったのかと云えば、交代した藤代が一七夜月を見かけて走り出し、それに気付いた杉原が「危ない」と声上げ、一七夜月は突進してくる藤代に足を突き出した、即ち蹴りを入れた形になった。と云うだけの事である。
 なお、一七夜月と西園寺の会話から量られる様に日常と化している。基本的に藤代はスキンシップが好きだがそれを好まぬものからすれば鬱陶しいだけなので相手によってはこの様な目に遭う。もっとも藤代の場合自業自得とも言えるので誰も助け船を出さない、仲間思いな仲間達である。
 渋沢を初めとして風祭、小岩、杉原、笠井らは藤代に駆け寄る。動かない藤代に声をかける。

 「あ、あの、藤代君?」
 「白目むいてねー?」
 「あー、完全にいっちゃってるね」
 「仕方がない。保健室に運ぼう。笠井、監督に断っておいてくれ」
 「あ、はい」

 藤代を背負った渋沢に風祭が付き添いの形でグランドを去っていくが、誰も気にもとめていない。それよりも

 「お前、いったい何者(ナニモン)と。藤代ばこげん目に合わせよっとば徒者(タダモン)やなかっ」

 ズカズカとグランドからやってきて一七夜月の前に来ると興奮した様に捲し立てる高山。一七夜月の目が剣呑さを増したがそれに気付いているのかいないのか、ばっと右手を開いて一七夜月の前に差し出しながら

 「いわんでもよか、当てちゃるけんね」
 「………」

 何をしてそこまで得意げになれるのか甚だ不思議だが、そんな高山をよそに後ろでは

 「高山の奴、一七夜月に会った事なかったっけ?」

 若菜が不思議そうに呟くと、郭が当たり前の様に

 「会ってるよ。ただ見た事なかったんじゃない?」

 その一言に誰もが納得しながら一七夜月と高山に注目する。高山は何やら百面相で考えているが、そんな高山を無視して一七夜月に声をかけるのは近くにいた近藤。

 「処で、臣は誰に用なんだ?」

 忍さんこんにちは、と挨拶する一七夜月。先ほどの藤代との差はなんなのだろうか。

 「大地」

 その一言に珍しいのな、そう言って不破に向かって叫ぶ。

 「不破ー。お前だって」

 視線が一転不破に集中する。グランドの奥から不破が歩いてくる。

 「どうした」
 「いや、お前の部屋を借りたい。いいか?」
 「む? かまわんが部活が終わってからでいいのか?」
 「別に支障はないが、出来るならば今すぐが望ましい」
 「そうか、では待て」

 ものの見事に二人は高山を無視していた。二人以前にみんな半ば半分高山を無視しているのだが、無視された高山はぬがーと吠えるとゴーグルを外して

 「俺ば無視しよっとなかっ」

 ずびしと指さす方向は見当違いの方向で、一七夜月は西園寺に向かって

 「この眼鏡犬はなんですか?」

 眼鏡犬呼ばわりされてなぬ? と振り返る高山に

 「ああ、気にしなくてもいいわ。ちょっと飼い主に似て煩いけど藤代君の様に害はないはずだから」

 止めの様な一言がズサズサと目に見える様に突き刺さっていく。哀れ高山、だが誰も崩れる高山に声をかける者はいない。なお飼い主とは功刀であるが、幸いにも今日は委員会があるとかで部活にはまだ来ていない。

 「そう、ですか」

 一七夜月の性格を熟知していた者と、ある程度予想していた数名を除き、ちょっと待て、一理はあるがその説明で納得するな。そう思った者多数が固まった一瞬である。だがそれよりも一同をさらに凍らせる一言が発せられた

 「前から思っていた事ですが、何故この学校では鶏犬や眼鏡犬の様な動物が放し飼いされているんですか?」

 その一言にやっぱりと頭を抱える近藤。肩をすくめ失笑したのは黒川と三上で、天城は深くため息をついた。
 これに応える者は誰もいない。西園寺は面白そうにどうしてかしら? と軽くかわす。

 「臣……」

 本気だ。マジ本気だ。それは冬ではないというのにまるでこのグランドだけ渺々とした吹雪舞う極寒の地であるかの様な錯覚を起こさせるほどだ。

 「それでは大地を借りていきます。練習中お邪魔してすいませんでした」
 「いいえ、またね臣ちゃん。今度は練習に参加してね」

 一七夜月は何も云わず礼をしてもと来た道を歩いていく。その先にはいつの間に着替えたのか不破が待っていた。

 「また振られちゃったわね」

 残念と西園寺はため息をついて凍り付いている選手に気付く。

 「どうしたの? さ、練習の続きをするわよ」

 黒川、天城、三上、近藤らは顔を見合わせて、練習っていってもなぁと未だ固まったままの仲間達を見る。比較的軽少な、ある程度予測していた椎名や郭、杉原、須釜ら強者でさえ練習を再開したものの、その動きにはいつもの精彩はなく動揺が見てとれる。この場にいなかった渋沢と風祭、功刀は運が良かったなと、思わずにはいられないほど。各人の胸に去来したものは何であったかは言わずもがなであろう。
 藤代を保健室に運んだ渋沢と付き添いの風祭がグランドに戻ってきた時、沈みきった高山と、凍った仲間達に何が起こったのか不思議そうに首を傾げた。
 この日一日、サッカー部は練習が出来なかったのは云うまでもない。
 余談だが、高山は功刀の飛び蹴りを喰らうまで正気に戻らなかった事を記しておく。



       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 その家は一言で云えば変わった家だ。
 はるかは最初その奇天烈さ故に家だとは思いもしなかった。あからさまに怪しげな雰囲気を醸し出しているその家は、外見もさる事ながら中も奇天烈だった。階段と言う階段がすべて行き止まり、開かないドアに落ちてくる天井。新手のお化け屋敷の類ではないのだろうかと思った程だ。
 飛鳥と夏樹についてきたものの、本当についてきて良かったのだろうかと不安が襲ったが案内された部屋がまともだった事に少なからず安心した。
 案内された部屋には先客が四人いてそのうちの一人、不破が立ち上がり飛鳥達三人と入れ違う様に

 「ゆっくりしていけ」
 「ありがとうございます」
 「終わったら声かける」

 うむ、そう言ってこの部屋の本当の主で烽髟s破は部屋を出る。しっかりとドアが閉め鍵をかけると飛鳥ははるかにどうぞと座る様に促す。座ると云っても何もない部屋。見ればそれぞれ適当に床やベッドに座っているのではるかもそれに習い床に座る。

 「んじゃ、改めて。事務所から派遣されたのは俺を含めた五人」

 云われて改めてはるかはここにいる飛鳥と夏樹以外の三人を確認する。私服の二人は自分と同じくらい、もう一人は見覚えるのある高校の制服を着ていた。

 「はるかさんの護衛を担当するのが俺と葛井。情報収集担当の八月一日宮(ほづみや)と秋戸(あきと)。はるかさんのお兄さんの護衛を担当する仁科(にしな)」

 飛鳥は一七夜月、東、水上の順でそれぞれ紹介する。やる気があるのかないのか、それぞれ気のなさそうな返事をする。はるかは水上を紹介された時に思い当たった。あれは兄と同じ高校の制服だと。

 「一応一通りの話は聞いてるけど、何か思い当たる節、ある?」

 ないです、と小さく首を振るはるか。相応に応じてそんなものだ。

 「家族の話を聞きたいんだけど、どう?」

 飛鳥は夏樹達に向き直る。

 「無理だな」

 一七夜月が呟く様に応える。

 「おそらくは盗聴器が仕掛けられているだろう。当然その場所での会話は危険だな。ましてや会話をしながらの筆談は無理だろう。話を聞くだけなら兄だけでいいだ」

 面倒だといわんばかりの態度の一七夜月に飛鳥が

 「もう少し相手を考えた言い方が出来ないかな?」
 「遠回しで後から相手を傷つけるよりもいいと思うが?」

 バチッと火花が散る様なピリピリとした空気にはるかは不安げな表情で飛鳥と一七夜月を見る。はるかに耳打ちする様に小さく、隣に座っていた夏樹が

 「あの、大丈夫です。いつもの事ですから」

 聞こえない様に云ったつもりだが聞こえたのだろう

 「葛井、余計な事を云わない」

 飛鳥の声におそるおそる様子を窺うと二人とも無表情に夏樹を見ている。飛鳥と一七夜月、二人は違う云うだろうが似ている面が多い。顔立ちや全体の雰囲気と言うわけではない、それも一端を担うのだろうがその性格が大きいのかも知れない。もっとも一七夜月の方が古風な印象だ。
 シークレット・クローバーのチームは仕事に対して適性を持ったメンバーで構成されている。その際には各々の能力と性格を考えて支障を来す事ない様に選ばれるが、仕事の危険度によりメンバーとなるべき顔ぶれは自ずと決まってくる。飛鳥と一七夜月は決して仲が悪いわけではない。ただその性格故かぶつかる事が多く、また互いに互いの云う事が一理ある事も理解している。

 「ご、ごめんなさい」
 「別にお前が謝る必要はない。とりあえず、兄の話だけでいい」

 それが一七夜月の妥協案だと気付いてため息をついた飛鳥は、東に何か意見は? と視線だけで問いかける。

 「……別に、関係ないもの」

 人と関わるのを極端に嫌う東は表だった行動をほとんどしない。こうして集まる事すら稀なのだ。本人の性格もあるのだろうが、周りの環境が大きく影響しているのだろう。東の行動や言動からはあまり生活を感じない事が多い。感じさせないと云うべきなのか。多くを語らない東の抱える問題(きず)は、深く、鋭く、その口を開けているのかも知れない。
 その場の雰囲気をぱっと変える様に水上が

 「とりあえずや、八月一日宮と秋戸は情報を集めてや。資料だけじゃ見えへん部分もあるしな。お兄さんの話はあたしが聞くとして、三日後にまた此処に集まるでええ? あ、松山さん」

 急に話をふられたはるかは大きく体を揺らす。

 「は、はい」
 「お宅にこん中の誰かが泊まってもええか? あ、今すぐやのうて次集まる時でええ、返事欲しいんやけど」
 「あ、はい」

 大丈夫だとは思います、と小さく付け加えるはるか。
 その場の雰囲気が和らいだ事に夏樹が

 「でも、大変ですよね。お父さんも、お母さんもいないって」
 「……ええ、二人ともあたしが小さい時に死んだので。だから、どんな人だったのか知らないんです」

 少し寂しそうな笑みを浮かべるはるか。夏樹はごめんなさいと謝る。

 「気にしないでください。祖父も祖母も、あまり両親の事は話してくれませんし」

 水上は少し考える様に呟く。

 「ほならお兄さんの話が重要なんか」

 はるかは不思議そうに水上を見る。夏樹もはるかと同様に少し首を傾げている。飛鳥や一七夜月、東は何も云わない。おそらくは、検討がついているのだろう。
 水上は言葉を選ぶ様に

 「お兄さんは、両親の事知っとんのやろ?」

 それは問いかけではなくて確認。

 「それは、そう、ですけど」

 いったん言葉を区切った水上ははるかを見ながら

 「チラッとでも両親の話聞いた事あるか?」

 はるかは少し考えていいえ、と首を振る。
 それを確認した飛鳥と一七夜月の視線が合った。それぞれ考えている事は大きく違い、前者がやはりな、であり後者が厄介事押しつけやがったな、である。夏樹も水上の意図する事が分かったのだろう、その表情に驚きと戸惑いが見える。東は表情を変えずただ黙っていた。

 「あの……」

 不安そうなはるかに水上は半ば独り言の様に

 「お祖父さんとお祖母さんが話せーへんのは、ほんまに知らんか、お母さん未婚かもしれへんな」
 「え?」
 「ほんまの事はお兄さんの話次第やけど」

 はるかの表情は傍目にも分かるほど顔色を失っていた。何故両親の話をしてくれないのか、その理由を今まで考えた事もなかったのだろう。横で見ていた夏樹は声をかけるか迷う。

 「この場で話す事やあれへんかったかも知れん。けど、自分が狙われとう理由がそこやとしたら、重要な事や」

 顔を上げたはるかは、震えてはいたがはっきりと

 「あたし、両親の事知りたいです」

 そこに怯えの色は見えない。水上は頷いて

 「ほな、三日後。はるかさんの都合に合わせて集合やな」







   秘密のクローバー
   その葉は謎で出来ている











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 ・ ・ ・ お謝り ・ ・ ・

 初めまして、和泉水鶏と申します。
 とりあえず、ありがちな展開の読める話ではありますが最後までお付き合いいただけたらと思います。
 そして各キャラマスターの方には平謝りしか有りません。イメージと大きく外れていない事を願うばかりですが少しでも楽しんでくだされば幸いです。
 なお、北の人間ですので東・西・南にあたる言葉はかなりエセです。



 ◆作中に出てくる各キャラの偽名は以下の様になっております。
  飛鳥 怜(あすか れい):八剱 慧士(やつるぎ けいと)
  東 世々巴(あずま せぜは):秋戸 絽生(あきと りょう)
  横山 夏樹(よこやま なつき):葛井 絢(ふじい じゅん)
  水上 亜離紗(みなかみ ありさ):仁科 眞遙(にしな ますみ)
  一七夜月 臣(かのう しん):八月一日宮 凛(ほづみや りん)
  
  ※他のキャラの偽名についてはおって紹介したいと思います。
 
 コメント
和泉さんより投稿されましたドリです。
……凄いとしか言いようのない素晴らしいドリです。
そして、偽名という新案まで!まったく考えてなかった発想です!(だめじゃん!/汗)
…早く偽名の募集をした方が良さそうですね。
では、本当にありがとうございました!


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