いつつめのしずく


オレも灯季と同じ夢を見た。まさか灯季も同じ夢を見るなんて事があるはずないと思っていたから、起きたときは本当に幸せだった。
とりあえずオレたちはぎこちなさを残しつつ、灯季の家へと向かった。
よくよく考えれば、あんな夢を見た後に、灯季の家で一緒に過ごす。というのは、きついかも…しれない。

とりあえずオレたちは灯季の家につき、灯季は鍵を使い、家の中に入った。
「あれ?」
「どうした?」
灯季の視線の先を見ると、箱が置いてあった。
「ん…。私、鍵をかけて出かけたの。」
「当たり前だろ?さっき開けていたじゃないか。」
「だから、変なの。私が家を出るときは、こんなもの…なかったもの」
「ぇ」
オレは固まった。灯季も同様だった。しかも、その箱の中からは、ガサゴソと音が聞こえる。何かいるのだ。
「ど…どうしよう?」
「そんなこと言われたって、どうしていいかオレにはさっぱり」
ガチャ
「きゃああっ」
「うわああっ」
そんな緊迫した雰囲気のときに玄関の扉が開いたので、オレたちは叫んだ。
「きゃああっ」
「うわああっ」
すると、相手も同じ事をしていた。
「え…」
オレが恐る恐る相手を見ると、佳久と水津だった。
「なんでおまえら…?」
「へ?ああっ」
オレたちは驚きあっていた。そしてここではなんだから、ということで、リビングへ向かうことにした。
「あれ〜?灯季、この箱は置いていっていいの?」
「ん……んん・・・あ、佳久、持ってきてくれない?」
「あ?ああ。」
オレたちは心の中で佳久に謝った。

「にしてもどうして灯季の家に、岬人がいるの?」
「あ?ああ。昨日…」
オレは昨日の出来事を説明した。灯季が泣いたことは、落ち込んでいたことにした。
事実だし、灯季が泣いたことを言われたくないと思ったから…。
そしてオレの話を聞くうちに、(その間、灯季は紅茶を入れてくれていた。)佳久と水津の顔はどんどん赤くなっていった。
「と、言うわけ。」
「なに赤面してるの?」
「え…だって…ねえ?」
「あ…ああ。」
オレたちは佳久たちのその言葉の意図がわからなかった。
「なんだよ?」
「……………おまえらやっぱり…いくとこまで行っちゃってたんだな。」
「…は?」
オレにはうっすらといいたいことがわかってきた。だが灯季はわかっていないらしく、さらに突っ込んで聞いていた。
「行くとこまでって?」
「いや…だから………今日…寝るんだろ?」
「寝るけど?」
灯季は意味がさっぱりわからないようだった。オレは赤面して、しょうがなく、助け舟を出した。
「いいか、灯季。佳久たちの寝るってのは…………い…一緒にって意味。」
「一緒に??誰と誰が?」
「オレと、灯季が。」
「………は?」
「やっぱりわかっていなかったんだな。一緒に寝るってのは………どういう意味か、わかるだろ?」
灯季は少し考えて、顔を真っ赤に染めた。オレも真っ赤だろうけど。
「なっなっなっなっ」
灯季は何もいえていなかった。

「とりあえず!なんで、おまえらは灯季の家に来たんだ?」
オレは話題を変えた。これ以上進んだらまずすぎる。
「あ?ああ。…昨日、水津が変な夢を見ているって言っただろう?」
「え?ええ。」
灯季はやっと冷静になり、話に参加することができた。
「その夢を、佳久も見たって言うの。だから、あなたたちも見ていると思ったの。」
オレの頭の中に、今朝の夢がよぎり、オレは再度、顔を赤くした。


横目で岬人を見ると、顔が赤かった。もちろん私も赤いけど…。
「どうしたの?」
「ん…見たよ。同じ夢。」
「そう。」
「躬侶、玖柳、桐柚、寡怜。でしょ?私たちは同じ場面を見たわ。私のところに、岬人が会いに来てくれた夢。そのときに佳久もいて、佳久を水津のところにやったわ。」
「偶然だな〜。俺たちも同じ場面を…」
「…。」
水津と佳久は顔を赤く染め始めていた。そして何があったのか、大体想像がついた。隣にいる岬人はあまり想像がついてないようだったので、私は意を決して話すことにした。
「あなたたち、キスしたでしょ。」
「「えええ?」」
その反応はその事実を認めていた。
「そうなのか…。」
「う…うん。」
「普段冷静な水津が、こんなに動揺してるの始めてみたぁ。」
「そっちはどうなのよ。」
水津は顔を赤くしながら、そう言う…。
私は岬人のほうを向いた。すると岬人は迷った末に、顔を立てにふった。
「したよ。頬と、額に…キスされた。」
「「頬と額?」」
水津と佳久がそういったのは、同時だった。
「そうだけど?」
ふと横目で岬人を見ると、にやにやしている。
「おまえら、普通のキスだったんだろ〜?」
「え〜普通のキスって、あの、口付け?きゃ〜」
私は上機嫌だった。そういう話を聞くのは初めてだったから。
「ほんとごめん!」
佳久は水津に頭を下げた。
「やっやだ。やめてよ。佳久が悪いわけじゃないでしょ?しょうがないよ。」
「ん…。」
水津と佳久は押し黙り、私と岬人も顔を赤く染めて、4人とも無言だった。
そのときだった。

バシバシ
「…なんか、音しない?」
「さっきの箱からよ。」
「やっぱり何かいるよぉ。」
「やっぱり?」
「どうでもいいじゃない。ねぇ、岬人、あけて。」
「ええ?」
私はねだった。そして岬人を攻めることを決意した。
「昨日の夢、キスをしたのはどっち?」
「………………オレです。」
「じゃあ、それをおば様にいったら、なんていうかしらねぇ…。」
「ぅ…………開けます。」
「そうして。ね。はやくっ」
岬人はしぶしぶ向かっていった。もちろん私たちは、リビングの入り口のところに逃げている。
岬人は思い切って開けた。
「ふぅ。やっと出れた。あ。玖柳様〜。」
中から現れたものは………信じられないけど、妖精。
「あれぇ?躬侶さまは?躬侶さまはどこです?!」
「ぇ。ああ、灯季のことか、あそこに…。」
妖精は灯季に飛んできた。私はついつい叫んでしまった。
「きゃあっ」
岬人は灯季の元に妖精よりも早く走ってきて、灯季の前に言った。
「?どうなさいました?にしても躬侶さま〜久しぶりです〜。それに桐柚様、寡怜様もいらっしゃいますね。」
「あ…あんたは?」
「あ、申し送れました。咲良と申します。」
「咲良?」
そう叫んだのは、私。他の3人は、なにがなんだかわからないという顔をしている。
「とりあえず、イスに座りましょ。このまま話しても、話が聞けないわ。」
「あ、ああ。」
こうして私たちは席につく。
「あなたたちは見なかったの?咲良から聞いてくれ。って声。」
「夢の後の声のことかしら?」
「ええ・」
「それは、私と佳久は同じだったわ。」
「??とりあえず、私の話を先にしてもかまいませんか?」
咲良はそう言う。私は夢の意味が知りたかったので、了承する。すると咲良は話しはじめた。
「あなた様方が見られた夢と呼ばれるものは、実際にあった出来事です。これが、結論です。」
「そうなんだ…。」
「はい。あなた様方は、遥か昔、ある異世界に住んでいらっしゃいました、しかしあることが起きて、あなた方は…。」
「??」
「あ、そうだ。夢の後の声…というものを聞かせてもらえますか?」
「あ。うん。じゃあ、私から。
『気をつけてください。あなたを狙うものが近くにいます。そしてあなたのそばにいる3人を探してください。
そしてもう二度と…繰り返さぬよう…もうじきあなたのところに咲良がやってきます。咲良がすべてに答えてくれます。
あなたの無事を心よりお祈り申し上げています。』だよ」
「なんですって!」
咲良は驚き、震え始めた。
「どしたの?」
「いえ…続けてください。」
次に話したのは、水津と佳久の言葉だった。
『あなたのそばにいる3人の人を探してください。そして、あの方を守ってください。私には伝えることしかできません。
ですが、めぐり合うように、同じ夢を見てもらいます。明日、あなたのそばにいる3人に、聞いてみてください。
めぐり合えたら…帰られると思うので。』
咲良の震えはとまらない。
「…。あ、すみません。では最後に玖柳様。お願いします。」
「あ?ああ。オレの場合は、
『あの方を守ってください。
あの方を愛してください。
あの方の側にずっといてあげてください。
あの方を悲しませないで下さい。
あの方を…どうかお守りください。
そして…あの方と幸せに生きてください。』だった。」
「あの方ってだれ?」
咲良は震えたままで何も言わない。誰が見ても咲良の様子は尋常ではない。
「少し休めば?」
「え?」
「だって…辛そうだから…。」
「ありがとうございます。でも、平気です。桐柚様と、寡怜様はどこまで見ましたか?」
「んと…二人で死ぬところまでよ。」
私は驚いた。私が見たのは、キ、キスをした後、抱き合うところまでだ。岬人は底まで見たのだろうか?そう思って岬人を見ると、岬人もわけのわからないような顔をしていた。
「死ぬ?あなたたちが?」
「ええ。」
「………わかりました。ではあなた様方に過去をお見せします。」
「え?」
「見てもらいます。よろしいですね?」
「………う、うん、」
「では行きます。」
すると咲良は私たちの頭に水津、佳久、岬人、私の順で触れていった。最後に私の頭に触れるときは、少しつらそうだった。
触れられた私は、目の前が真っ暗になった。

むっつめのしずく

オレは目を開けた。起き上がり、周りを見渡し、ここがあの夢の中の世界だということがわかった。
オレの周りには、灯季、佳久、水津がいた。みんなまだ眠っているということは、一番最初に目がさめたようだ。
ふとみると佳久が起きて、水津を起こそうとしている。それを見て、オレも灯季を起こすことにした。
灯季はなかなか目覚めなかったから、起きないのではないか。という不安があったが、灯季は目を開けてくれた。俺は心の底からほっとして灯季に『おはよう。』といった。
「岬人…おはよ」
「立てるか?」
「うん。」
オレが灯季に手を差し伸べると、灯季は笑顔でその手をとってくれた。
オレたちは再度周りを見渡す。
「きれい…ね」
「ああ。」
本当にきれいだった。きれい、などという言葉では足りないくらいに…きれいだった。

「お目覚めですね?」
咲良はいつのまにかそこにいた。そして少し悲しそうな顔をしていた。
「ああ。」
「では…躬侶様たちの生活をご覧になってください。」
咲良がそういうと、今までオレたちは外にいたのに、いつのまにか神殿の中にいた。
「どうして?」
「これは、私の記憶ですので、ビデオのように見ることができるのです。あ。躬侶さまです。」
オレは胸がドキドキした。
今の灯季よりも、もう少し上。22くらいの…大人の灯季がそこにはいた。
今のままでも美しいが、22になると、美貌に磨きがかかっている。
「お〜い。岬人!見とれてんなよ!」
「なっ」
オレは顔を少しだけ赤く染めた。
「見とれてた?そんなにきれい?」
オレは顔を赤くして、返答に困っていると、咲良が大人の灯季に声をかけた。
「躬侶さま〜」
「咲良?どうしたの??」
「はいっご報告に参りました〜。もうすぐ、皐月様がやってきます。何でだと思いますか?」
「なんで?」
「玖柳様が参るので、案内をしておりますっ」
「ほんとにっ?玖柳が来るの?」
本当にうれしそうに灯季は…躬侶は言った。
「はいっ」
コンコン
「はい。」
「失礼します。玖柳様をお連れしました。では私は寡怜様を桐柚様のところに案内してきます。」
「ご苦労様です。」
「はい。では」
皐月は出て行った。
「玖柳〜〜」
躬侶は玖柳に抱きついた。
ふと灯季を見ると、顔を赤く染めていた。俺の顔はさっきから赤いまま…。
そして灯季の奥にいる佳久たちは笑っていた。
「わぁっ!いきなりどうしたんだ?」
「だって〜久しぶりなんだもん!元気してた?」
「ああ。してたよ。躬侶は?」
「寂しかったけど、元気してたよ!」
「そっか。良かった。」
玖柳は本当にうれしそうに言って、躬侶の髪をなでていた。そして二人はソファーに隣あわせで座り、じゃれあいながら、時を過ごしていった。
「うわぁ…ラブラブだね。」
水津は面白そうに言った。
「では、次の記憶、行きます。」
「ああ。」
オレは少し残念だったが、しょうがなく次の記憶に進んだ。次の記憶には佳久と水津がいた。
「きゃ〜寡怜!」
「桐柚!」
二人とも両手を広げて互いの元にむかって行って、二人は抱き合った。
「元気だった?怪我とかしてない?」
「ああ。平気。君は?」
「ぜんぜん平気。寂しかったよ〜。」
「オレも。」
見てるほうが恥ずかしくなってくるほど、ラブラブだった。
さっきの躬侶と玖柳は、恥ずかしがっていたが、こっちにそんな様子はない。
「桐柚。」
「なに?」
寡怜は桐柚を一度離し、桐柚の頬に手を当てて…
「きゃ〜もしかして!もしかして!」
オレの隣では灯季が騒いでいた。水津と佳久の顔はもう本当に真っ赤だった。
灯季の予想通り、寡怜は桐柚に口付けをした。
「きゃ〜〜」
灯季は騒いでいた。
「ちなみにこれがお二方の日常生活です。」
「へ〜。で、これはどれくらい続くの?」
「これは、もうずっと続きます。あ。そういえば、寡怜様と桐柚様は、何時ごろまで躬侶さまの神殿にいらっしゃるおつもりですか?」
「神殿ってなんだ?」
オレは気になって聞いた。神殿とは、今いるここのところだろうか?
「あ。今のお住まいのことです。」
「あ、なるほど〜。んとね、7時ぐらいかな。」
「…大変!じゃあ、一度戻ります!」
「へ?」
咲良は胸の前で手を組み、目を閉じた。すると景色が真っ暗になった。

「ん…」
オレは気づくと灯季の家のリビングにいた。もちろん、灯季、佳久、水津もいる。
しばらく待つと、全員が起きた。
「ふゎあ。」
「おはよう。灯季。」
「おはよ。って…きゃ〜〜」
「どっどうした?灯季!」
オレは灯季を見てあわてた。
「時間!時間!」
「へ?」
オレは灯季のリビングにある時計を見た。時間は7時をすぎていた。
「なんで?なんで?」
「向こうにいるときは、時間が早くすぎますので。特にこちらの時間の昼からだと、あれだけ見て精一杯です。」
「へ〜。」
「じゃあ帰るね。灯季。また明日。」
水津は灯季と挨拶を交わしていた。
「あ。うん。」
「岬人!」
「んぁ?」
佳久はオレを呼んでいるようだったので、佳久の側に行った。すると俺は佳久に灯季たちに声が届かないような場所に連れて行かれた。
「なんだよ!」
「オレ…言うから。」
佳久は真剣な眼をして、俺にそう言った。わけがわからず、聞き返してしまう。
「え?」
「水津に…今日……好きだって言うから…。」
「マジで?」
「ああ。言いたいんだ。なんか、あの夢見てから…今まで異常に水津が愛しくて…オレ、死んだ夢も見たって言っただろう?」
「ああ。」
「だから今、一緒に入れて…うれしくて……言いたくなったから、言う。」
オレは、佳久の持っている『ふられるかもしれない』という恐怖を知っている。
俺はそれが強いから、まだ灯季にはいえない。
だけど…自分と同じように幼馴染を好きになったこいつを…応援してやりたいと心から思った。
「頑張れ。おまえなら、きっと水津もオッケーしてくれる。」
「サンキュ。」
「佳久〜?」
気づくと水津は佳久を探していた。
「あ!今行く!…じゃあな、岬人。」
「ああ。頑張れ。」
佳久は灯季の家から帰っていった。俺は明日の報告が良いものであるように願いながら、リビングに戻った。

ななつめのしずく

佳久と岬人がどこかに行ってしまった後、水津は、死んだ夢をみたあとなのか、わからないけど、今一緒にいられることが、すごく嬉しいといっていた。
そして、水津と佳久は帰っていった。
それを見送る岬人の顔がいつもと違うように見えたのは気のせいだろうか。
「岬人。ご飯待ってね。今から作る。」
「あ?ああ」
私は急いでご飯の準備を始めた。
「手伝う。何かすることある?」
「え!」
岬人がそういったのは初めてだったのでびっくりした。
「なんだよ?」
「…なんでもないっ。ありがと。じゃ〜ね〜」
こうして私たちは二人で料理をして、二人でご飯を食べた。
片付け終わった頃に、咲良が来た。
「躬侶さま?」
「咲良…あのさ、私のこと、灯季って読んでくれないかな?」
「え?あ。はい。」
「じゃあ、オレのことも岬人で。」
「あ。はい。わかりました。あの、明日のことなんですけど、ん…と…」
「あいつらも現代で。」
「はい。水津様と佳久様は最後まで見ているようなので、お二方だけを今日の夜から向こうの世界にお連れしたいと思うのですが…」
「そうねぇ。じゃあ、お願いするわ。ところで、私たちは寝れるの?」
「あ。はい。こっちの体は寝ていることになっています。では、寝る前にお二方に伝言を残して置いてください。では。」
それだけ告げて咲良は他の部屋へ行った。
「なぁ灯季?」
「なに?」
「なんか…運命感じないか?」
「運命?」
「そう。俺たちが遠い昔に逢って、なおかつ今も会えるなんて…運命を感じる。」
「…そうね。」
私は岬人の言いたいことの主とするものがわからなかった。
「…なにが言いたいの?」
「ん…内緒だぜ?」
岬人は微笑みながら私に言った。ドキッとしながら私はうなづく。
「佳久さ…水津のこと…好きで…今日、水津に告るんだって。」
「ええ!」
びっくりした。佳久も水津が好きだったとは…。」
「それで…うまくいくといいなぁって…思っただけ。」
「そう…大丈夫よ。絶対に。」
「?どうして?」
「だって水津も佳久が好きだもの。」
「ええ!」
やっぱりびっくりした。でも彼の驚きは別のところにあった。
「え!じゃあおまえは?」
「え?なんで私が出てくるのよ?」
「いや…。で?」
「??私の好きな人は、佳久じゃないわよ。」
「そっかぁ。」
岬人はうれしそうにしていた。
「佳久…もてるから。おまえも好きなのかと思ってた。」
「あなただって…もてるじゃない?」
「そう??」
去年のチョコは確か…15個だったと思う。その中のひとつが…私の。
「去年のチョコだって…。」
「あ〜あれ?断って…返したよ。」
「え!でも私のもらってくれたじゃない?」
「おまえのはいいの。義理だってわかってるから。」
「あっそう。」
本命なのに…。少しいじけながら、私はそう思った。
「じゃあ、そろそろ寝ましょうか。」
「ああ。オレの布団は??」
「あっちの部屋。」
「そっか。」
私と岬人が別々の部屋に入ろうとしたときだった。
「あの〜〜」
「?どうしたの?咲良。」
「お願いがあるんですけど…」
「なに?」
私と岬人は同じように、疑問を抱く。すると次の瞬間、予想しなかった答えが返ってきた。
「一緒の部屋で…寝てもらえませんか?」
…
「「は?!」」
私たちは同時に言った。
「ですから…。同じ部屋で…」
「「なんで!」」
「そうしないと…いけないんですよ。」
「「…。」」
「本当は同じ布団のほうがいいんですが」
「「は!」」
咲良は赤面するようなことを平気で言う子だと思った。
「とりあえず、灯季さまの布団を岬人様の布団のある部屋に…」
「なんで私の部屋じゃないのよ?」
「だって…ベッドじゃないですか。」
「………………」
一緒に寝るなんて…小学校低学年以来だ。
「私は……別に。」
「……オレも…別に。」
「じゃあ決まりですね!それ!」
気づくと私の部屋のベッドの上に布団は無かった。
「うわぁっ」
どうやら岬人の部屋に移動したようだ。
私はパジャマに着替えて、岬人の部屋に行った。そして布団に横になる。
「なんか…小学校の低学年以来だな。」
「うん…」
私は懐かしくて、岬人のほうを見た。
岬人も私のほうを見てくれた。私たちは向かい合って、笑っていた。
「手・つないで寝る?」
「…それもいいかもな。」
私は岬人がOKするとは思わず、言ったのだが、OKされた以上、なし。とはいえない…。
私はドキドキしながら岬人の手に自分の手をのせた。
「おっきいね。」
「おまえはちっさいな。」
私たちはまた笑いあった。
「では行きます。」
咲良はそういい、私たちは互いの手のぬくもりを感じながら、眠りについた。

やっつめのしずく

オレが目を開けると、あの夢の中にいた。隣には灯季がいて、昨日よりも早く起きた。
「では、最初のほうから行きます」
咲良がそういうと、オレたちは神殿の中の躬侶の部屋にいた。前に見た躬侶は22歳くらいだったけれど、今回の躬侶は12歳くらいだった。
コンコン
「躬侶?」
「どうしたの?お母様?」
22歳の躬侶にとてもよく似ている女性を躬侶はお母様と呼んでいた。(実際そうなのだが。)
「あなたにお友達よ。桐柚。」
躬侶の母親(躬侶が姫ということは母親は女王様)の後ろにいたのは、桐柚だった。
「お友達?桐柚?」
「そうよ〜。あなた、この神殿から出たことないでしょ?友達もいないでしょ?だから、一緒に住んで、一緒に遊ぶ子よ。」
「ほんとに?ずっと?」
「ええ。」
「わ〜い。はじめまして。桐柚!私は躬侶!宜しくね!」
「う、うん!」
二人はすぐに仲良くなった。

ここまで見ると、場面がとんだ。場所は同じだが、躬侶の年齢が、今と同じくらいに、なった。一緒に桐柚もいた。
「ね〜咲良、お願いがあるんだけど?」
「なんですか?」
「今日の誕生日パーティー、出たくない。」
「はぁ?」
「出たくない。」
「駄目ですよ〜。」
「やだっでたくない。」
「女王様に相談してみたら?大様に問いあってくださるかもしれないわ。旦那さんだし、神殿の中で一番力のある巫女だもの。」
「桐柚ナイスっ!じゃあ、お母様にお願いする。」
躬侶は部屋を出て行って、しばらくすると、にっこりと笑いながら戻ってきた。
「どうだったの?」
「OKよ〜。桐柚は?でるの?」
「ええ。私は別になれているし。」
「そう?じゃあ、私、出かけてくるねぇ!」
「なっ!」
咲良は一生懸命止めようとしていた。
「今日は、玖柳というとの約束があります!出て行かれては困ります!」
「そんなのいつものお見合いでしょ?好きな人くらい自分で決めるわよ。」
「そうじゃなくても、心配です!行かせません」
「じゃあ、ついてくれば?」
躬侶はそれだけ言うと、窓からロープを伝って、降りていった。咲良は苦笑しながら、ついていった。
「ねぇ、咲良?」
「はい?」
「泳ぎたい。」
「なっ!だから、ここで待っててね。」
躬侶は急に今まで来ていたドレス?を脱ぐ。
オレは顔を赤く染めたが、それは、水着だった。

「なぁ・・・灯季?」
「なに?」
「あの躬侶、おまえと同じくらいの年齢だよなぁ?」
「?そうねぇ。」
「ふ〜ん。」
オレは躬侶をじっと見た。なかなかいいプロポーションをしている。
「いやらしいですよ。」
オレは咲良のその言葉にギクッとした。
「さ〜き〜と〜?」
恐る恐る灯季を見ると、怒りの炎が回りにある。
「まっ待て!灯季。」
「待つわけないでしょ!」
やばい。そう思ったときに、咲良は言った。
「あ。玖柳様です。」
「え。」
オレは心の底からほっとしつつ、その場面を見た。

「あれ?妖精。君、名前は?」
「え?あ、咲良と申します。」
「そう、咲良っていうんだ。君のご主人は?」
「え?」
「妖精って、ご主人に仕えるんだろ?ご主人は?」
こっちの世界では、妖精はご主人につかえるものとしているらしい。
「今、泳いでいます。」
「泳いで?どこを?」
「ここを。」
「なんだって!」
玖柳は驚いた様子だった。
「どうかなさいました?」
「泳ぎ始めてどれくらいたった?」
「30分くらいです。」
「まずいっ」
「なにがです?・・・きゃっ」
玖柳は咲良の問いかけに答えず、羽織っていたマントを脱ぎ捨て、躬侶が入ったところに飛び込んだ。

「なにやってんだ?」
「ほんと。わけわかんない。」
「だよな〜?」
「ん〜。ねぇなにやってるの?」
「この海って危なかったんですよ。私も躬侶さまもこっち来たの初めてで・・・知らなくて・・・。」

「ぷは〜」
海の中から玖柳が出てきた。玖柳は水面から出ると、一緒に連れてきたらしき、躬侶を引き上げた。躬侶は眠っているようだ。
「躬侶さま!」
「この人が躬侶さま?あ。もしかしてこの人?君のご主人。」
「ええ。」

「あ、灯季さま、向こう向いてください!」
咲良は急に灯季にそう言った。
「え?なんで?」
「早くしてください!」
「わかったわよ〜。」
灯季は、後ろを向いた。俺は疑問いっぱいで眺めていたが、すぐ疑問は解決された。

「じゃあ、ちょっとごめんな。」
「はい?」
玖柳は躬侶にキスをした。もちろん唇に。
オレは、驚きのあまり、声を発することも忘れていた。
すると咲良はオレの耳元でささやいた。
「人工呼吸をしています。」
「あ、なるほど。」
しばらくして、唇を離すと、躬侶はうっすらと目を開けた。


「あ、灯季さま、もうオッケーです。」
「そう?」
私がまた躬侶と玖刘のほうを向くと、躬侶はおきていた。
「あれ?おきてる。」
率直な感想を述べた私に、岬人も咲良もなんの説明もしてくれなかった。

「私・・・どうしたの?」
「この方が・・・。あの、どういうことです?」
「ここの海・・・おかしくてね、泳ぐと、眠くなるんだよ。眠くなるだけじゃなくて、、いろいろと危ないんだけど・・・。にしてもよかった、偶然通りかかって。」
「そうだったんですか・・・。」
「そうだったんだ。ありがとう。私の名前は躬侶。ねぇ、あなたの名前は?」
「またすぐ逢えますよ。そのときに。」
「?ええ。」
「じゃあ、私はこれで。」
「ええ。」

場面は神殿にまた変わった。
「躬侶さま、今日こそは玖柳様とお見合いしてもらいます!」
「いや!」
「相手方が、どうしても一度だけでもいいから躬侶さまにお会いしたいとおっしゃられているのです!」
「やだ!」
「強制です!今回は。女王様の命令です。」
「えー。」
「じゃあ、急いで支度してください。あの、シンプルかつ、動きやすいドレスにしましょう。」
躬侶は服に手をかけて、服を脱ぎ始めた。

さっきの水着姿だけでも恥ずかしいのに、下着姿なんて、最悪だ。そう思い、岬人に後ろを向かせることを決意した。
「なっ岬人!後ろ向いて!」
「はい・・・。」
岬人は後ろを向いた。
その後躬侶は案の定、下着姿になった。そして着替え終わったあとに、また岬人に声をかけた。
「いいよ」
私は心底ほっとしながら、また続きを見た。

着替えたあと、躬侶はイスに座っていた。
これから始まる見合いにうんざりしていた。

ここのつめのしずく

「みっみっ躬侶さまっ」
咲良はえらくあわてていた。
「どうしたのよ??」
「あの・・あの・・・玖柳様って・・・あの・・・」
「?」
トントン
「はーい。」
躬侶はいやそうにそう答えた。
「玖柳様がいらっしゃいました。」
「あっそー。」
「では。」
「皐月?あんた行っちゃうの?」
「ええ。玖柳様のご希望です。二人きりで話したいと。」
「最悪・・・。」
皐月が出ると入れ替わりに男の人が入ってきた。
顔がよく見えないらしく、躬侶の周りにはクエスチョンマークい弔い討い拭
「お久しぶりですね」
「躬侶さま?」
顔をあげた人は、躬侶を助けた男・・・。ようするに、岬人だった。
「あ、あ、あ、あ、あ、あなた・・・」
「躬侶様、あえて光栄です」
それだけ言うと、玖柳は苦笑した。
「一度声を聞いたことがあってね、そのときはずいぶんとおしとやかで、気品あふれ、高級感漂う人だったけど・・・オレと同じ、猫をかぶっている人でよかったよ。」
躬侶は反論しなかった。
猫をかぶっているというのは本当らしい。
「あなたが玖柳・・・なのね?」
「ああ。改めて、はじめまして。オレは玖柳。」
「だから、逢えるって言ってたんだ。」
「ああ、躬侶様の態度がそうだったように、オレも躬侶という人との見合いは嫌で嫌でしょうがなくて、ずっと避けていたのに、躬侶さまと始めてあった日に、
『もう約束を取り付けた。行ってこい』って言うからさ、逃亡したんだ。でも、躬侶様を見て、躬侶様とならお見合いしても、いいと思ったんだ。」
「え」
躬侶は顔を赤くした。
「あなたが・・・玖柳なら・・・私もお見合いしてもいいわ。」
「そう?じゃあ、よかった。」
玖柳は微笑んでいた。
私は今の岬人の笑顔が大好きだから、この時代の私も今の笑顔でドキッとしたんだろうな。とおもっていた。


「あ、あと、二人きりの時は、躬侶でいいからね。」
「あ、ああ。実は、俺の親友が今日来ているんだ。」
「え?」
「君の親友の桐柚様に逢いにね。桐柚様は君がすっぽかした誕生日パーティーに出ていただろう?」
「どうせ私ははしたないわよ!」
確かに躬侶が怒るのもわかる。行事をこなさない姫ということで定着しているらしいから。
「あ。君をせめた・・・もとい、けなしたわけじゃない。オレもそのパーティー、すっぽかしたから。」
「え?」
「よく考えてみろよ。俺は君と見合いをさせられる人間だぜ?君のパーティーに呼ばれてて当たり前だろう?」

「なるほど〜。」
オレは納得して声に出してしまった。
「あははっ」
躬侶はそんなオレを見て笑った。とても楽しそうに笑ってくれた。となりで咲良も苦笑していた・・・(汗)

「そっか。それで?」
「あ、うん。それで、そのパーティーに出たのが、オレの親友の」
コンコン
「はい?」
「桐柚様が、お見えです。」
「どうぞ?」
扉からは、桐柚とあと一人、知らない人がいた。
パタン
扉が閉まってから、桐柚は躬侶に駆け寄ってきた。
「ねぇ、あの人は?」
「あ、うん。私の婚約者の」
「婚約者!?」
躬侶はとても驚いていた。
「あのな〜、躬侶?」
「なによ玖柳?」
「気づいていない?俺も君の婚約者なんだけど・・・。」
「え゛」
「躬侶が嫌ならいいんだけどさ、破棄してくれて・・・」
『本当は良くないけど』

「え?」
「どしたの?岬人。」
「今、破棄してくれて・・・のあとに、なんか聞こえなかった?」
「え?ううん。聞こえない。」
「あ、それは、玖柳様の声です。」
「あっそう?」
オレは納得して、また続きを見始めた。

「そんなことは・・・で、桐柚の婚約者の?」
「はじめまして、躬侶様。寡怜です。さすがに玖柳が一目ぼれしただけあって、きれいな人だね。桐柚。もちろんオレは君のほうがきれいだと思うけど?」
「恥ずかしいこといわないでよ〜」

「なぁ、灯季?」
「いいたいことは、わかる・・・くさいセリフね。」
「ああ。」
今の佳久と水津もこうなると思うと多少うんざりした。

「今、寡怜、何か言わなかった?」
「え」
「さすがに玖柳がなんとかした・・・って」
「あ〜。人目ぼれ。うわっ」
玖柳は顔を真っ赤にして寡怜に殴りかかったが、寡怜は寸前のところでよけた。
「一目ぼれ?」
「ふざけんなよな!おまえ!」
顔を真っ赤にした玖柳は寡怜に罵声を浴びせていた。
「さ、寡怜、もう行きましょ。」
「待て!このやろ!」
「嫌だ。じゃ〜な〜」
寡怜と桐柚は出て行った。

部屋の中には気まずい雰囲気が漂っていた。
「じゃ・じゃあオレはこれで。」
「あ!玖柳!」
帰る意志を伝えた玖柳を躬侶は呼び止めていた。もちろん私自身もあんな状態になったら、呼び止めると思う。
「え?」
互いに顔を赤くした玖柳と躬侶が目を合わせると、さらに顔を赤く染めていた。
「あの…ね。」
「…」
「また……来ていいいから…っていうか……………来て欲しい。」
「え」
「も〜二回目は言わないよ!」
「み、躬侶?」
「・・・なに?」
「抱きしめても・・・いいですか?」
「えっ・・・」
私はその光景をみながら、真っ赤になった。
岬人にこれを言われたら、真っ赤になりつつ了承するだろう。岬人にそんな言葉を言ってもらえる日が、くるのだろうか?そう思い、うらやましかった。
「ど・・・どうぞ、」
玖柳は躬侶を抱きしめた。
「あなたを・・・愛しています。」
「え」
「だから、毎日・・・あなたに逢いに来ます。」
玖柳はそれだけ言って、躬侶を離そうとした。
「え」
躬侶は玖柳の背に手を回していた。
「私も・・・あなたを愛しています・・・だから、毎日逢いに来てください。」
「はい。」

私は横目で岬人を見た。岬人の顔も、すっごく真っ赤だった。
「ちなみにこの後はずっと前のような場面が続きますが、どうしますか?全部見ます?飛ばします?」
「じゃあ、飛ばして。あんな恥ずかしい場面を何日も見ると、恥ずかしくて耐えられない。」
咲良の質問に私は率直に意見を述べた。
「じゃあ、飛ばします。では…変化の現れた…あの日に…飛びます。」
そう咲良はいい、早送りをしていた。咲良はとてもつらそうだった。
その表情をみて、これからあまりかんばしくない場面が来ると思った。
私は少し、怖かったけど、覚悟をして、見ることにした。

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ばっく