——8時です。8時です。—— 朝、目覚ましの音で目が覚める。 まだ眠い。起き上がる気力があまりないが、とりあえず、うるさいので消す。 朝目覚ましの音を聞いて飛び起きると、その目覚まし以外の時計はまだ7時半なのだ。 といいつつも、実はその目覚ましをかけるのは私。 いつも直さなければと思いつつ、直していないのが現状。 いつもより目覚めがよいほうなので、まだ7:30だろうということが分かる。だがなぜだか妙な違和感がある。 なぜなのか。 普通の人なら違和感なら適当に済ませるだろうが、私の違和感はよく当たる。 不安になり、時計を凝視。もちろん1個だけではなく、部屋中の時計すべて。 見ると時計はすべて8時を指していた。 「え〜〜〜?」 信じられないが、事実部屋中の時計は8時を指していた。ベッドから飛び起きて寝癖を直し、学校の用意をする。 「なんで直っているの〜?まさか岬人?」 岬人は私の幼馴染であり、実を言うと私の好きな人でもある。 私の家には私しかいない。 両親はずっと前に他界した。 寂しかった。そして悲しかった。 その寂しさ、悲しさを岬人は埋めてくれた。一緒にいて、埋めてくれた。 もちろん岬人だけではない。 私の幼馴染は、岬人を含め、あと二人いる。 屋入 水津(やいり みつ)と清崎 佳久(しんざき かく)。ちなみに私は岬人が好きで、水津は佳久が好き。 この3人が私を支えてくれた。だから今の私がある。 とりあえず昨日岬人たちが家に来た。 だからその時に直したのかも…と思っていた。 「あっ」 急にそのことを思い出している余裕がないことに気づき、着替える。 「灯季(ひとき)〜」 水津の声が聞こえる。そしてガチャと扉があく音がした。 「ごめ〜ん。寝坊した。」 私は扉のほうに顔を向けてそう言った。 「珍しいわねぇ。」 「ごめんね!でも文句なら岬人に言って。」 事実、岬人が目覚ましを直すからいけないのだ。 「オレがどうした?」 朝のまだ眠いとか言う気持ちも岬人の声を聞くと、元気いっぱいになる。 だが今は着替え中。あと少しで終わるにしろ、入ってこられては困る。 「こらっ。レディーの家に勝手に入るな!」 「誰がレディーだって?」 「私よ。私。とりあえず着替えているのよ。出てって。」 「マジかよ。なら出なきゃいけないな。」 そう言って岬人が出ようとしたとき、私の着替えは終る。 「よし1着替え終わった。急ご!」 私はすぐに水津と岬人を家の外に出して、鍵を閉めた。 「ほれっ!」 「え?」 サンドイッチが飛んできた。飛ばしたのは、岬人。 「朝食ってないだろ?やるよ。」 「ありがと。でもなんでこんなもの持ってるの?」 「岬人の母さんが作ったんだってさ。誰にあげるためだと思う?」 意味ありげな目で佳久は私を見つめる。 知りたいだろう?といっているような目だった。ふと水津を見ると、 同じように意味ありげな目で笑っている。 「誰?」 「それはな、」 「おい。おまえら。言ったらどうなるか分かるな?」 そう言ったのは、もちろん岬人。 「言ったって、灯季は分からないって。」 「だからって、言うな。第一、時間。」 「自転車で10分じゃないか。いつもより遅れるだけだろ?」 「とりあえず岬人の言うとおりね。こぎながら行きましょ。 灯季、ちょっと行儀悪いけど、こぎながら食べなさいね。 いつも灯季を見ている男の子達が、愕然とするから、 すぐに食べちゃいなさい。」 「あ。そっか。でもそれならすぐ食べないほうがいいと思わない?」 「どうだろう?なぁ岬人。」 「なんでオレにふるんだ?」 「岬人の顔が見たかったから。」 「だんだん、いらついてきた。秘密をばらすにはいい機会だ。なぁ。佳久。」 「それと同時におまえの秘密もばらされる事を覚えておくんだな。岬人」 「…」 今までの会話で分かる通り、オレは灯季のことが好きだ。 佳久に言った秘密は、佳久が水津を好きなこと。 さっき灯季に投げたサンドイッチは、灯季にあげなさい。といわれてもらったもの。 要するにオレの母親もオレの気持ちに気づいている。 基本的に気づいていないのは、灯季と灯季を好きな奴らだけ。 灯季は人にもてる。 灯季を好きな連中は大勢いる。 灯季がそっちのほうを向いて笑うと(たまたま。)そいつらの顔は赤くなる。 オレは。というと、感情を押し殺すことは慣れていたから、赤くなることはない。 サンドイッチを食べる時間。 本音を言うと、やはり灯季自身が言ったように、灯季を好きな奴らに見せるように食べて欲しかった。 が、結局的に灯季は学校に着く前に食べた。 ちょっと寂しかったが、あとでこの寂しさを打ち砕くようなことがおきる。 学校に着くとオレたちは、真っ先に教室に向かう。 多少余裕があるとはいえ、さすがにいつもよりも遅いため、あせってしまう。 「じゃ〜な〜。」 「ばいばい。」 佳久と水津は、オレと灯季に別れを告げた。 二人はオレたちとはクラスが違う。 オレは多少の不満はあったが、このクラス編成が少しうれしくもあった。 ちなみに今は3学期。高3だから、明日から学校に来なくていい。 そして、4人とも推薦類を使い、同じ大学に進学することが決まっていた。 ガラッ 「おはよ〜。」 灯季はクラスメイトに声をかけた。あちこちから声が返ってきた。 もちろん?オレは挨拶をしない。声を出して挨拶はしないが、灯季を好きな連中とは目で挨拶。 オレと奴らの間には(三里さん(灯季のこと)はいつかいただく。)(灯季はオレのだ。)という感情が動いている…はずだ。 今日一日の予定は、学年集会をやることだけだった。 だから、いつもより早く終わった。 だが、気分は最低に重かった。 いつも灯季は俺と一緒に教室を出るのに、今日はさっさと出て行ってしまったのだ。 学校に来るときにいつもより話せなかったので、さすがに寂しい。 家まで帰るときは4人ではない。 水津と佳久のクラスは遅い上に、HR終了後も二人はよく教師に使われる。 優秀だし、作業も早いし、信用もあるから。 ゆえに帰るときは、二人ずつ。 オレが学校に来る理由は2つで、1つ目は学校に来るまでの会話。(も、もちろん、灯季だけじゃなく、佳久も水津も入っている) 2つ目は灯季と帰ること。こうやってよくよく考えると、まともな理由ではないことがよくわかる…。 だから今日の気分は最低。 どんよりしながら自転車置き場に行く。 いつもより思い足取りで下を向きつつ歩く。自分の自転車が見えたから顔を上げた。 すると…そこには人がいた。驚きすぎてつい声が出る。 「え?」 そこにいたのは灯季だったからだ。 「『え』ってなによ〜?にしてもやっと来た。遅いよ。岬人。」 意味不明。 なんでここにいるんだろう? 先に出たからには、先に帰るのではなかったのだろうか? 「なんでここに?」 「これだよ。これ。」 「え・」 灯季は俺に向かって何かを投げた。 受け取る前にそれが紅茶の缶だと分かっていた。 だからなおさらびっくりした。こんなものをもらう義理はないからだ。 学校内にそんなものはおいていないから、 すぐ側の店からわざわざ買ってきたのだ。 その事実にもびっくりした。 「なんで?」 「今朝のお・れ・い。だよ。」 ドキィ! 今朝のお礼というからには、母親がつくったサンドイッチになるのだろう。 そんなに気にしなくてもいいのに、と思うが、気分は最高。 朝、灯季が学校に着く前に食べたことなど、一切気にしない。 オレは母親に感謝した。 そしてオレたちは、2人で帰路に着くことができた。 「ねぇ、今日うちに来ない?」 「え?なんで?」 「簡単に言うと暇だから。」 「ああ。いいよ。」 理由を聞く前から了承済みのことだから、と心の中で付け加えた。 「じゃあちょっと待ってて。着替えて鞄を置いてくる。」 「あ。私も行く。おば様に感謝の意を伝えたいから。」 「別にいいって言うと思うけどな。」 そして灯季はオレの家にやってきた。ふたつめのしずく 私は久しぶりに岬人の家に来た。 岬人が着替え終わるまでは岬人の母親と話していようと思っていた。 岬人の家の玄関をくぐった私を、岬人の母親は快く出迎えてくれた。 「あら久しぶりねぇ。今朝のサンドイッチおいしかった?」 「ぇ?私のためだったんですか?」 かなりびっくりする。それと同時に疑問がわいた。 なぜ今朝、佳久と水津。そして岬人がその事実を隠そうとしたのか、 という疑問だ。 「…岬人!」 考えようとしたが、岬人の母親と岬人の会話に耳を取られ、考えられなくなった。 「…なんだよ?」 「だからおまえは駄目なんだよ。とられても知らないからね。」 「母さん!」 親子ならではの他人にはわからない会話を二人は交わした。 「じゃあ待ってて。」 「うん。」 岬人は自分の部屋へ行った。 「ところで灯季さん、あなた好きな人はいるの?」 「ええ!?」 びっくりして大声を上げてしまった。 なにしろ好きな人の母親に言われたのだ。どうしていいのかわからない。 「いるのね?」 「ぇ…いや……その……」 「母さん!」 ドキィ 声がして、その方向をみた私の胸は高鳴った。 はっきり言うと、岬人の私服姿に見とれた。 昨日も見たはずだし、ここ数年たくさん見ている。 だけど、この胸の高鳴りは、飽きるということを知らないようだ。 「だいたいおまえがねぇ」 「母さん!とりあえず、灯季の家に行ってくるから。じゃあ。」 「はいはい。ついでなら晩御飯も一緒に食べておいで。 ぁ。もちろん灯季さんが迷惑でなければね。」 その提案に私は大賛成だった。一人で食べる夕食は悲しみしか伴わない。 朝も昼もそうだが、朝は大抵すぐ岬人たちに会えるし、昼は友達と一緒だ。 だが夜は…孤独を私の胸に植えつける。悲しみが増す。 「あ、ぜんぜんかまわないです。」 実をいうと一人で食事をすることが寂しかっただけではない。 岬人とゆっくりと話ができると思った。 ようするに二人でいたいという恋心からだ。 「じゃあ宜しく頼みますね。」 「?はい。」 岬人はなんだか照れていたようだった。 とりあえず私たちは、私の家に来た。 「おじゃまっす。」 「どーぞ。」 「にしても寝坊なんて珍しいな。」 「岬人、昨日目覚まし時計、直したでしょ?」 「直した?オレが?」 「そうそう。だからいつもと同じ時間にセットすると、 7:30に起きられるはずなのにさ、8:00に起きたのよ。」 「オレ直したっけなぁ?」 「直したと思うわよ。ほら。これ。」 私は部屋の目覚まし時計を指差した。 ちなみに岬人が遊びに来るときは必ず私の部屋で話をする。 「ん〜〜。直したかどうかは思い出せないけどさ… この目覚まし、昨日までとは違うな。」 「え?」 「おまえのだろ?もっと真剣に見ろよ。ほら。この妖精。」 「え…」 私が岬人に言われたとおり見ると、時計には今まで小さくしか描かれていなかった妖精が大きくなっていた。 「ほんとだ。おっきくなってるね。」 「だろ??」 「ん〜。にしてもよく気づいたね。変なところまでみていないでしょうね?」 「変なところってなんだよ?」 「別に。やましいことが無ければ、それでいいのよ。」 「毎回押し倒したい衝動にかられているけどなぁ。」 「なっ!」 冗談半分で言ったのに、そういう答え方をされてどうしていいかわからなかった。 灯季はオレの言葉にびっくりしたというか、呆れたというか、とりあえず、、驚いていた。 冗談半分で言ったが、ここまでびっくりされたからだろうか? だんだん、彼女のことが好きだとか。 そういった気持ちを抑えるのが困難になってきた。 「灯季…」 そう呼んでしまった。いつもよりも真剣に…真顔で。 本当に真剣に…灯季のことが好きだと…そういう気持ちを込めて… 灯季はひどく驚いて、そして顔を赤くしていた。 その顔がなんともかわいくて…衝動が限界に来た。 その衝動を抑えなければ、灯季は二度とオレに近づこうとはしないだろう。 だが、とうとう押さえる事ができなくなって、 オレは灯季の肩をつかもうとして、手を伸ばした。 <だめ> 声が聞こえた。その声が灯季の声だと思ってオレは『はっ』として のばしかけた手を元に戻した。 「ぇ?」 「なっなんだ?」 「岬人、今なにか言った?」 真顔で聞いてくる。俺と灯季しかいないはずの部屋から、どうして他の人の声がするのだろう? ありえない話だ。だから灯季に再度聞いた。 「いいや。おまえだろ?言ったの。」 「言ってないよ〜〜」 「じゃあ俺たち以外の誰かがいるって事か?」 「ねぇ、見てきてよ。」 「?ああ。」 オレは立ち上がり、部屋のドアを開けた。 そこら辺を適当に見渡すが、何もないし、何もいない。 誰かが立ち去った気配もない。 念のために、部屋を一つ一つ回るが(あまり部屋数はない)何も無かった。 仕方なしに、オレは灯季の待つ部屋へ戻った。 「どうだった?」 「何も無いし、何もいない。」 オレは事実を告げた。 「そっか…よかった。……にしてもびっくりしたよぉ。 迫ってこないでよね。びっくりするから。」 びっくりしないときならいいのかな。と思いつつも、灯季の顔は真っ赤だった。 心臓を押さえている。 オレも押さえたい。衝動とともに。 とりあえずさっきの妙な感覚。というか声というか… そのおかげで冷静さを取り戻してきた。 そしていつもどおり、冗談で灯季に話しかけた。 「そっか〜?ん?お前照れてる?」 「なっ!」 灯季は顔を赤らめたままでそう答えてくれた。 『彼女のことが好きだ。本当に好きだ。彼女に愛されたい。』 オレの胸の中にはこの思いだけだった。 「やっぱ?オレってやっぱ灯季に愛されているんだな。」 その言葉を口にした。その言葉はただの願望。 こうなればいいな。と思う願望。 願望ならばいくら口にしても、冗談半分にしか見えないだろうから、 いいだろうと思った。 「なに言っているのよ!もう!」 灯季は少しむくれて目をオレからそらした。 横から見る灯季の目は寂しげだった。 話はがらっとかわるけども、俺の思い違いならいいのだが、 ここ最近、灯季は無理をしているようだった。 多分両親のことだとか、いろいろ思い出してしまうのだろう。 元気でいるはずなのに、どこか寂しそうな灯季を見ていると、、どうしようもなく… 助けてあげたいとか、支えてあげたいとかという思いが強く、 そして抱きしめたくなってくるのだ。 「わっ!」 気づくと灯季を抱きしめていた。その事実に自分自身、驚いていた。 抱きしめたいと思っていたら行動に出てしまった…。 灯季を抱きしめたのは初めてだった。思っていた以上に、居心地?が良かった。 永遠にこのままでいたいと心のそこから願ってしまった。 いつも 触れたいのに、触れられない。 好きだと告げたいのに、告げられない。 それが灯季だった。 でもいつもできないのに、彼女に触れられた。だから今なら…励ませると思った。 「な…」 「おまえ最近、無理しているだろ?」 言ってしまってから、灯季に対してこんなこといえる義理じゃないのに、という罪悪感がオレを襲った。 だが灯季は答えた。うそを言った。 「大丈夫よ。心配ない。」 「心配だ。」 そう、心配だ。灯季は無理を平気でする。俺にはそう見える。 「ぇ」 「最近妙に無理して笑っている。俺の推測は心労。」 家族のこと、ひとりで食べる食事。いろいろあるだろう。 ここまで回復できた灯季を尊敬のまなざしで見ることができる。 俺なら無理だ。 「なんでっ!」 いつもは笑ってそんなことないというのに、今日のこの態度… オレには図星だったことがよく分かった。 「図星。」 「っ!」 俺の腕の中から出ようとしたが、俺はそうはさせなかった。 まず居心地がいいから…次に、こうしておけば灯季は泣いてくれるから。 「やっぱりそうだったのか」 オレはそうつぶやいた…。みっつめのしずく 最近無理をしてる…って自分で思ってる。 でも少しだけ……。ばれるはずない。そう思ってた。 だけどどっかで誰かに気づいて欲しかった。 そして私には、その誰かが誰なのかはわかっていた。 岬人にばれるだろうことは、少しはわかっていた。 わかってほしいという願望もあった。 そう。私は岬人に気づいて欲しかった。 だけど、本当にばれるとは思わなかった。 どうして急に寂しくなったりするのだろうか。 どうして急に二人のことを思い出したりするのだろうか。 どうして急に一人で食べる夕食で…涙を流したりしたのだろうか。 自分でもわからないことだらけだった…。 そう考えているうちに、視界がぼやけてくる。 泣いちゃいけない。いけない…。 そんな思いを持っている私を見透かしたように 岬人は私の頭と背中に回されている手に今まで異常に力をかけた。 「見えない。見えないからな。」 「なんのことよ?」 「そういうこと。言葉が事実。見えない。見えないから…」 泣いてもいいってこと?泣けってこと?岬人… そう聞きたかった。だけど、聞けなかった。 聞く前に…涙があふれてきて…言葉が出なかった。 なき終わりそうになったとき、さっきから高鳴っていた胸のコドウは半分ほどおさまっていた。 岬人のことが好きだから高鳴っていただけではないらしい… 岬人には、ばれるかもしれないと思っていたから、少し…いつもと違っていた。 これが結論らしい。 私は岬人の腕の中から出ようとした。 居心地がとてもいいし、大好きな人の腕の中だから永遠にでもいたいけど、 いつまでもこのままだと岬人が迷惑すると思ったからだ。 しかし岬人は私を抱きしめたままで言う。 「もう平気なのか?」 「ん…平気。」 「じゃあ、悪いけど、あと5分だけでいいから… このままでいさせてくれないか?」 「え」 「嫌なら嫌とはっきりいってくれてかまわないけど?迷惑だろ?」 「…別に…嫌じゃないよ。大丈夫。迷惑してないから。」 「そっか…ありがとな。」 「どういたしまして。」 岬人はほんの少し笑っていた。 5分後、私はまだ岬人にくっついていたかったが、それができずに離れた。 「ごめんな。」 「なっなんで岬人が謝るのよ?」 「なんとなく。悪いことしたなぁって思うから。」 「私は別に」 悪いことはされてナイと言おうとしたが、 かぶさるように岬人が声を発した。 「悪いことされてないから大丈夫。じゃないんだよ。」 「え?」 「オレが謝りたくて…悪いことしたって思ったから謝ったんだ。だからはっきりいえば灯季の感情?は無視したものだ。ごめん。」 「べっべつに…。大丈夫。私こそ言いたい言葉なのに先に言っちゃうんだもん。」 ありがとうと言いたかった。今まで支えてくれたことや、今涙を流させてもらったこと。 未来に希望が持てるようになったこと…。 感謝しても、感謝したりなくて…素直になりたいのに、なれない。 だから言えるときにいいたかった。 「ありがとう。ほんとにありがとう。そんで、ありがとね☆」 私は笑顔でそう言った。さっきよりもいい笑顔ができたと自分で思う。 私は彼に助けられた。だから何かあったら助けてあげたい。 昔の人はいった。人という字は助け合いを示す。 ある人が言った。人という字は絶対に右側の人のほうが頑張っていると。 私は今人という字の左側にいると思う。だから何かあったら右側になってあげたい。 助け合いたい。 あなたが…好きだから。 「別にお礼を言われるほどのものはしてない。」 「だから私が言いたかったの!さっきの岬人のいいわけと同じよ。」 「…。どういたしまして。」 「…(笑)」 私は笑ってしまった。心から、笑えたと思った。 この人といたら何でもできる。そう思った。 「ねぇ、今日の夕飯の買出しに行こうよ。」 私は思いついて言った。 「ああ。」 岬人は了承し、私たちは家の鍵を閉めて外に出た。 「なに食わしてくれるんだ?」 「なにがいい?」 「ん〜」 「あれ?灯季?」 私は急に名前を呼ばれて驚き、顔を向けた。 するとそこには私服姿の水津と佳久がいた。 「あれ〜?二人ともどうしたの?」 「それより灯季たちは?」 「私たち?夕飯の買出し。」 私は特に隠す必要もないと思い、正直に告げた。 すると二人は異常なほど驚いていた。 「「夕飯の買出し??」」 なんでそこまで驚くのだろうか?その疑問を抱えつつ、そのとおりだと答えた。 オレは佳久と水津がとても驚いた姿に半ば唖然としたが、 もし俺たちが幼馴染じゃなかったら?という考えを持つと、驚きも当然だ。 同棲…という発想が浮かんでくるから…。 「おまえら…やっぱりそういう関係…」 「は?」 灯季はなにを誤解しているのかわかっていないらしく、俺は事情を説明した。 「あのな、今日、灯季の家で夕飯を食ってくれば?って親に言われて、灯季がかまわないって言ってくれたから、夕飯は灯季と食う。 だから一緒に買出しに行くってこと。わかってるか?おまえら。」 「な…なんだぁ…。」 「びっくりしたぁ…」 「そういうおまえらこそ、なんで二人一緒にいるんだ?」 「そうだよ。」 こんどはこっちが攻撃?を仕掛けた。 「ん〜、私が変な夢を見るのよ。最近。」 「変な夢?」 「ええ。ものすごく…非現実的な夢を見るの… それで相談に乗ってもらおうと思って…。」 「大丈夫なの?その夢見てて、つらくなったりしない?」 「ええ。大丈夫。だけど、ここにいる4人が出てくる変な夢なの。」 「4人が?」 この場合の4人とは、もちろん、オレ、灯季、佳久、水津のことだ。 「ふ〜ん。ねぇ、明日さ〜、その夢の話を聞かせてよ。」 「いいよ。じゃあ佳久、灯季たちがいる明日話すから、今日はいいや。 で、どうする?よってく?」 オレはほんの少し疑問を抱いた。明日話すからは、夢の内容。問題は次。 「?もしかして、さっき驚いてたけど、あなたたちもそうなの?」 「「え…」」 オレは灯季の言葉と二人の言葉で、意味がわかった。 「なるほど〜、さては水津の家に佳久が行く予定なのか。 あれだけ驚いていてなんだよ。」 「だって…ねぇ?」 「ああ。おまえら、同じなんだぜ?びっくりしたよ。」 「私たちもびっくりしたわよ。ねぇ?」 オレは灯季に同意を求められ、素直にうなづいた。驚いたのは一緒だから…。 「じゃあ、4人で夕飯の買出しに行こうよ。」 「そだね〜。」 こうしてオレたちは夕飯の買出しに行った。 オレたちは食材を買ったあと、佳久たちと別れて、灯季の家に居た。 灯季とはたわいもない話をしたし、夕食の準備も手伝う。 そしてオレたちは二人で食卓を囲んだ。 「あいかわらず灯季の料理はうめぇなぁ」 「ありがと〜☆」 灯季はにっこりと笑う。その顔にドキッとしてしまう。 実を言うと、緊張は最初に家に入ったときからずっと続いていたりする。 とりあえず、飯がうまいのは事実だから、軽く平らげる。 そして後片付けを手伝い、俺は家に帰ることにした。 これ以上居たら迷惑だろうし。 「じゃあ、今日はありがとな。」 「・うん。」 灯季は笑顔だったけれど、いつもと同じではなかった。 「寂しい?」 「なっ!」 灯季は顔をほんのり赤く染めた。 「そんなわけないじゃない!」 大丈夫なら、いいんだ。オレは緊張しながら言葉をつづる。 「明日……、また来てもいいか?」 「ぇ…うん?」 「昼飯から…いいか?」 「?うん。」 「明日…泊まってもいいか?」 「うん?…ええええええええええええ?」 灯季は思いっきり驚いていた。当たり前だろうと思う。 だって俺自身驚いているし、緊張もめちゃめちゃしてるから。 「い・嫌ならいいんだ。嫌なら嫌できっぱりと…」 「別に…」 「え?」 オレは否定の返事しか返ってこないだろうと思っていた。 だが、今きいた言葉は…肯定? 「だから、別に……かまわないよ。部屋…いくつもあるし……」 「…」 オレは唖然として声が出せなかった。 唖然としすぎて……。 「どうしたのよ?」 「いや…あの…絶対に断られると思ってて…。」 「…あ…そっか」 やばい。気持ちが悟られた。そう思ったが、違った。 「断らなきゃいけなかったのね。最初からそんな気持ち、なかったのね。 そうならそうと早く言ってよ…」 まずい、このままだと泊めてもらえない… 「あったよ。」 努めて冷静にそういう。 「へ?」 「そういう気持ち…あったけど、絶対に断られるから… 半ば希望…みたいに…思っていただけ…。」 「…そっか……じゃあ明日、お昼においでよ…。」 「ああ(^^)」 オレは幸せいっぱいで帰ろうとした。 「あの…」 「へ?」 呼び止められるとは思わず、びっくりして振り返った。 「よく考えればおばさまに、感謝の意を示すのを忘れたから …岬人の家に迎えに行く。」 「…ああ。待ってる。今日はありがとな。(^^)」 オレは幸せに包まれながら、家に帰った。帰り道はスキップをしたい衝動にかられていた。 それくらい・・・ばかみたいに・・・うかれていた。よっつめのしずく 美しい女性、躬侶(みとも)は神殿の外を見つめた。 躬侶がいるのは、とある世界の神殿の中… 躬侶は巫女と同じ力を持った姫である。 普段はこんなことないのに、今日に限ってあまり落ち着かない…。 あの人がくるから…。 コンコン 扉をたたく音が聞こえた。 「どうぞ…。」 「失礼します。」 入ってきたのは、この神殿で躬侶たちの世話をしてくれる皐月だった。 「躬侶(みとも)様…」 「どうしたの?皐月(さつき)」 「桐柚(きりゆう)様から伝言です。」 桐柚は躬侶の幼馴染。数少ない、躬侶の友達。 「桐柚から?なに?」 そういうと皐月は少し笑っていた。 「?なによ。どうしたの?」 「いえ…もうすぐいらっしゃるそうですよ。私は迎えにいってまいりますね」 皐月は微笑みながら出て行った。 「…うれしいけど…恥ずかし…。」 躬侶はすごく照れながら、待っていた。 コンコン 「どうぞ…。」 皐月が先に入り、扉を開ける。 「ぁ…玖柳(くりゅう)様」 躬侶は胸が高鳴るのを感じていた。 「久しぶりですね。躬侶さま。」 「ええ、本当に…。」 「お久しぶりです。躬侶さま。」 「あら…寡怜(かさと)様。お久しぶりですね。」 躬侶たちは一通りの挨拶を交わした。 「皐月」 「はい。」 「寡怜様を案内して差し上げて。」 「はい。ではこちらへどうぞ。」 「せっかく来たのに残念ですね。私を追いやられるとは…。」 「あら…でもあなたは、ここではなく、桐柚の元に行きたいのではないのですか?」 「…」 寡怜は頬を赤くした。それを見て躬侶と玖柳は笑った。 「では、失礼します。」 「ええ。」 パタンと扉が閉まる。 「にしてもすんごい久しぶり〜きゃ〜」 躬侶ははしゃいだ。 「どっどうしたんだよ?」 「だって…久しぶりなんだもの…」 「まぁなぁ。あ。」 「?どうした…きゃっ」 躬侶は玖柳に抱きしめられた。 「玖柳?」 「オレも…逢いたかった。躬侶…」 玖柳は躬侶の目を見つめた。胸が高鳴った。 この玖柳は、躬侶と恋人同士…そしてさっきの寡怜は桐柚と恋人同士。 「あの…躬侶さま?」 躬侶から少し離れ、でも肩に手をおいたままで、玖柳は躬侶にそう問う。 「二人でいるときは躬侶って約束したでしょ?」 「…躬侶?あのさ…目を………」 「目?」 「そう。目を…………閉じて…。」 「?はい。」 躬侶は目を閉じた。 「!」 頬にやわらかい感触がした。そして躬侶は目を見開き、玖柳にキスされたことを知った。 顔を赤くして躬侶はキスされた頬を触った。玖柳もほんのりと顔を赤く染めていた。 玖柳はもう一度躬侶に近づくと、額に口付け、躬侶を抱きしめた。 「ごめん…急に…」 「気にしないで。うれしかったから…。愛してる。」 「オレも…」 二人は固く抱き合った。 ——気をつけてください。あなたを狙うものが近くにいます。 そしてあなたのそばにいる3人を探してください。 そしてもう二度と…繰り返さぬよう…—— (だれ?) ——もうじきあなたのところに咲良(さら)がやってきます。咲良がすべてに答えてくれます。—— (あなたは、誰?) ——ずっと昔に、あなたとあったものです。あなたの無事を心よりお祈り申し上げています—— ——8時です。8時です。—— 私は目覚ましにより起きた。 「なんなのよ…今の夢…んと〜、躬侶が私で〜、玖柳が岬人で〜、桐柚が水津で〜?寡怜が佳久で…?」 私は夢の内容を軽く思い出して思った…。名前も、顔も…誰なのかも、私にはわかった。 なんで夢のことをここまで鮮明に覚えているのだろう?しかもなんで私たち4人が…? そういえば、最後、夢が終わったあとに…誰かの声がした…咲良って人が来るって…言ってた…? 急に夢の最後の場面を思い出し、私は微笑した。 『岬人と両思いだけじゃなくて、岬人にキスされるなんて…頬と額だけだったけど…幸せだな〜。』 そう思いつつ、私は起き上がった。 髪の手入れやら、昼食の準備やらであっという間に昼になってしまった。 今日は、岬人が家に来て…泊まってく。一人で過ごさない夜は、、何年ぶりだろう? そして私は浮かれながら、家に鍵をかけて、岬人の家へ向かった。 ピンポーン 「は〜い?あら。灯季さん。」 「おはようございます☆」 「おはよう。今日は岬人をお願いしますね。」 「え?あ。はい。…ぁ、昨日、サンドイッチをありがとうございました。」 私は忘れないうちに岬人の母親に礼を言った。 「?ああ。あれね?別にお礼なんていいのに。わざわざありがとう。」 「いいえ…実は昨日たまたま寝坊してしまった日で… おばさまにサンドイッチをいただけたので、無事朝食を取ることができました。 本当にありがとうございます。」 「いえいえ。喜んでもらえてよかったわ。」 岬人の母親と話していると、トントンと階段を下りる音が聞こえてきた。 「母さん、誰か来たのか?」 「灯季さんが来たのよ。」 「灯季が?」 岬人は私服で階段を下りてきた。そして私の目に岬人の姿がうつった。 ドキィ 今朝見た夢を思い出し、いつも異常にコドウが高まる。 「あ…おはよう……灯季。」 「お、おはよ……岬人。」 私たちは互いにいつもと違う(ような)挨拶を交わした。 私は少し頬が赤くなる気がした。少しというのは、願望…でもあるけれど。 岬人も私を凝視していた。 そして気のせいか、岬人もほんのり顔を赤く染めていたように見えた。 私たち二人はお互いに何も話さず、ただ相手を凝視していた。 そんな状況に岬人の母親は意味不明の顔をしていたようだったが、 私たちが動かず、相手を凝視したまま。 という状況を進展させるために、声をかけてくれた。 「じゃあ岬人、いってらっしゃい。」 「へ?あ。うん。行ってきます。」 私は岬人と共に、家に向かった。 その間、私は緊張してしまっていて、いつものように話すことができなかった。 「にしてもなんでさっきオレを凝視してたんだ?」 「えっ!」 突然そのことを言われ、驚きつつも…話してみようかと思った。 「ん…今日ね、変な夢を見たのよ。」 「変な夢?」 「ええ。私たちと、水津たちが出てくる夢なんだけど…なんか姫様と王子様っぽくてね。 私は岬人を待ってて、そのときに外の景色を見たの… すっごいきれいでね…そうだなぁ …一番印象に残ったのがねぇ…空にかかる虹と…」 「「水色の地面」」 「え?」 岬人は私と同時に同じ言葉を言った。そして岬人は続ける。 「そしてその地面は海のようで、、だけど人が歩いてた。 そして…ある人がこけて…その地面に足を入れてしまった。 海の上にガラスみたいなものがあるから…歩くことができる…。」 私は唖然として岬人を見つめた。信じられない…同じ夢を? 「ねぇ…夢の中で岬人…私に何かした?」 「え」 岬人は固まった。そして顔を真っ赤にした。 照れているらしいことがよく分かる。 もちろん私も人のことは言えないけれど。 「岬人…あなたもしかして……頬にキ」 「言うなっ言わないでくれ。頼むから。」 「…やっぱりそうなのね・・・。」 「ああ。オレも同じ夢を見た。その……………ごめん」 「え?」 「だから…頬と額だけにしろ…キ…」 キスをしてごめんと言いたいことはわかった。そして私も顔を真っ赤にしながら答える。 「いいよ……夢…だし。さ。」 「ん。ごめん」 「ん・・・」 そして私たちは照れながら・話をしながら・家へ向かっていたNext
ばっく