17th key 枸子:高2 夏
もう見てるだけなんてできなかった。
枸子をきつく、抱きしめた。
「・・・かいと」
枸子は泣いた。
泣いてくれるだけでもいいと思った。
完璧に癒せるはずなんてない。
いなくなった人のことは大抵覚えてる。まして親友なら一生だ。
誰でも同じだ。人がいなくなってしまったことで出来た心の傷なんて、永遠に残るんだ。
突然いなくなってしまったのなら、傷はより深く、回復も遅く、そして、永遠に痛みを抱えて生きるんだ。
「しょうがないんだ。枸子は。」
枻杜は突然そう言った。
「枸子を支えたのは、両親じゃない。先輩たちだ。」
少々痛い事実だが、それがほんとうなのだから仕方ない。
「・・うん。」
「だから、枸子は、両親と、親友をいっぺんになくしたことになる。
枸子の中で4人の人間が、いっぺんに死んでしまったんだ。だから、しょうがないんだ。」
枻杜は私を離してくれた。
私は、枻杜の言っている意味はわかるけど、わかるけど、納得いかない。
「でも・・・」
でも、わかってる。私のそばには、枻杜がいること。
「わかってる。」
「え?」
え?私、何も言ってない…。
「言わなくてもわかるよ。」
「何が?」
「俺はそばにいる。それなのにって思ってくれてること。」
「枻杜?」
どうしてそんなにわかるの?
私の気持ちが、どうしてわかるの?
「そんな疑問を表にだしまくった目で見ないでくれよ。」
「ごめん・・・。」
「とりあえず、後で疑問ぶつけて。」
「うん。」
「先輩たちが死んでしまってから、俺がずっとそばにいた。だけど先輩たちは、もっと前から枸子と、生きていたんだ。
はっきり言うと、やっぱり俺じゃ役不足なんだ。役不足を解消するのは、数十年って言う時間の長さ。
ま、それまでに俺が枸子に嫌われないって言う前提のもとで。だけどな。」
枻杜は目を伏せた。
「悔しいよ。本当に。先輩たちには、叶わない。」
重苦しい雰囲気が流れた。
それをかき消すように、枻杜は続けた。
「あ!一番大事なこと、言い忘れてた。」
「何?」
私の目を見つめながら、枻杜は離し続けた。
「枸子は、忘れないでほしい。」
「え?」
「忘れないでほしい。先輩たちのこと。ずっと覚えててほしい。そうじゃないと、枸子は元に戻れないから。」
「どういうことなのか、わからない。」
「ま、そうだと思う。つまり、先輩たちは、生き返らない。だけどな、先輩たちは、枸子の中で、生きているんだ。」
「生きてるの?」
「覚えてるだろ?先輩たちのことを、枸子が覚えていればいるだけ、先輩たちは、俺たちの記憶の中で、笑顔で笑ってくれるんだ。」
「…。そっか・・・。」
そっか。そうだよね?
死んでしまった人は、誰が何をしようとも、過去の人になってしまうよね?
だけど、覚えてさえいれば、その人は、覚えてる人の中で…生きていてくれるね…。
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