16th key 枸子:高2 夏


兄貴たちは笑っていた。
そんな二人を枸子は呼び止めた。
「ぁ。美奈!」
「ん?」
枸子は少しだけためらって言葉を発した。
「気をつけてね。」
「「「!」」」
「うんっ!」
先輩はにっこりとうなづいて人ごみに消えていった。
「俺たちも行くか?」
「うん。」
枸子の手首を隠すことを心がけながら手を握り、少しだけ意味ありげな視線を送り、目をそらした。
「枻杜?」
「俺は、一生枸子の隣にいるから。」
「・ありがとう。」
そして二人は人ごみの中に入った。

櫂樹も美奈も、枻杜もわかっていた。
依子たちが死んでから、枸子は極度に人の身を案じたこと。
極度に人がいなくなることを恐れていること。
それは枸子にはどうしようもなく、ほぼ無意識でやっていることだった。
枸子を見ている者は、その行動に気づき、彼女の身を案じていた。

そして、枸子と枻杜以外の人は皆、枸子には枻杜が必要だということも気づいていた。
枻杜がどれだけ枸子を支えているか。そして枸子がどれだけ枻杜を必要としているか。
それはきっと後々枸子自身が気づくだろう。そして、その時に枸子は自分の気持ちに気づくのだろう。


「大丈夫か?」
「え?」
聞き返した枸子にわかるように言葉を直す。
「夏祭り来て本当に大丈夫か?」
「ぇ、なんで?」
意味がわからなくて聞き返す。
「自覚ねぇの?すごい辛そうで・無理してる気がする。」
「無理してるように見える?」
「ああ。」
枸子は少し下を向き、顔を上げた。
さっきよりも悲しそうな顔を見て、胸が張り裂けそうだった。
「心配かけてごめんね。少し、話そうか?」
「ああ。」

枻杜たちが来たのは、裕が依子に告白したところだった。
「枸子・」
枸子の真意がわからない。枸子はつないでいた手を離して、背を向けて話し始めた。
「ここね、私たちの秘密の場所なの。ずっと前、ここ見つけて、隠れ家みたいで、すごく楽しかったの。だから、ここ、誰も知らないの。」
「うん。」
「私ね、私ね枻杜、やっぱり、つらいんだよ。」

言うつもりじゃなかった。こんなこと。なんでだろう?なんでこんなこと・・・言っちゃうんだろう。
わかんないよ。
セーブ、聞かないよ。
言葉だけじゃない。涙も・・・セーブ、聞かないよ・・。
両手で顔を覆い、話し続けた。

「つらいの・いつも想うの。どうして?どうしてって。
 ずっと支えてくれて、ずっと守ってくれたの。
 二人がいてくれたから1人じゃなかった。
 私、枻杜がそばにいてくれるの、ちゃんとわかってる。
 一人じゃないってわかってるの。なのに・・なのに・・。」





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