14th key 枸子:高1 夏
次の日、依子はこの世を去った。
依子と裕の両親は泣き崩れ、枸子はうそでしょ?としか言わなかった。
信じたくなかったのだ。
依子が死んでから4時間後、裕は目を覚ました。
しかし依子のことだけ、まったく覚えていなかった。
それで、よかったのかもしれない。だけど、つらくもあった。
だから裕とあまり会わなかった。
だけど、これを枸子は今も後悔している。
その日、朝から扉を叩く音が聞こえた。
ドンドン!
「何…?」
しょうがなく起き上がる。それと同時に扉を叩く音が止み、携帯がなった。
「?枻杜」
『もしもし?』
『あけろっ!枸子!』
開けろということは、さっきまで叩いてたのは枻杜だということだ。
少し怒りが湧き上がり、枻杜に問う。
『さっきのあんた?』
枻杜は無視してせかした。
『いいから早くっ!あっ着替えてこいよっ。』
『?わかったわよ。』
いつもとはまったく違った。
なにか嫌な予感がしつつも着替えを済まし、扉を開けた。
「おはよう。どうしたの?」
「鍵閉めてっ早くっ」
「?」
わけがわからないまま、鍵を閉める。
「後ろ、乗って。」
「枻杜?」
「頼む!急いでるんだっ。」
「?」
そしてさっきと同様わけのわからないまま、枻杜の自転車の後ろに乗り、
枻杜の腰に手を回した。
「どうしたのよ?」
枻杜は相変わらず無視して何処かへ向かって必死にこいで行く。
途中話しかけたが、枻杜は無視を決め込んでいた。
しばらくすると、依子の死んだ病院にたどり着いた。
「な…なんでこんなところに来るの?来たくなかったのに。…私、帰る。」
「どうしても入ってもらわないと困るんだ。というわけで入ってもらうぞ。」
「いや。」
「ったく、」
相変わらず切羽詰った声だった。
「ぇ。」
次の瞬間枻杜に抱き上げられていた。
恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になる。
「ちょ・いやだっ枻杜…。」
枻杜の顔が耳斜め上にあった。
男の子らしい顔つきにドキッとなる。
枻杜はこのまま病院に入るらしかった。
入りたくはないけど、このまま入るよりかは、歩いたほうがましだ。
「わかった、入る。だから下ろして。」
枻杜は無言で下ろして手をつかんで走り始めた。
手を引かれるまま走る。
ついた先は手術室だった。手術中のランプがついている。
「だれ…?誰がいるの?」
枸子はようやく
知り合いの誰かがこの手術室にいるだろうこと、
その人の命があまり長くないと思うから、自分を連れてきたこと
を悟った。
「枸子…これはうそじゃない…。現実なんだ。」
「誰?…ねぇ!誰!」
「…裕先輩。」
聞いた瞬間、頭が真っ白になる。それでも…涙はあふれてきた。
「本当に?」
「ああ。そうなんだ。中に…もう入れる。」
「え?でも手術中…。」
「どうして両親が外にいないんだ?」
もう…お医者さんが、サジをなげたんだね…。
「…わかった。枻杜、側にいてね。」
枻杜は無言でうなづき、手を握り締めてくれた。
その手が離れないように握りしめて、手術室へ入る。
「あ、枸子さんっ。」
「おばさん…。」
「裕、裕、枸子さんが来たわよ。」
「枸……子」
「裕っ?裕!裕!」
「俺…思い出した・・・依子。」
「依子のこと?思い出したの?」
裕はうなづき、続けた。
「だから…側にいく………俺…轢いた車…ナンバー書いた紙…。」
「わかった。」
紙を受け取ると、裕は枸子の手をつかんだ。
「ごめん…俺たち…いなくなるけど……おまえの側に………枻杜が…代わりに…」
枸子は裕の口が『いるから』というふうに動いたのを見た。
そのすぐあと、枸子の手をつかんだ腕は、重力に逆らわなかった。
涙があふれてくる。もういない…友達はもういない。
だけど友達が一番心配してくれたのは…自分のことだった。
もういれないけど、枻杜が代わりにおまえの側にいるから、って言ってくれた。
手術室を出て、枻杜の胸に顔をこつんと当てる。
「裕の…遺言だからね。」
「ああ…。」
「変わりに…そばにいてよ?」
「わかってる。」
「…絶対よ」
「もちろんだ。」
「枻杜ぉ…」
枸子はそのまま涙を流した。
悲しくて、悲しくて…悲しい…。
ずっとそばにいてくれた。
ずっと支えてくれた。
ずっと励ましてくれた。
ありがとう…枻杜。
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