10th key 枸子:高1 夏
4月20日
ガチャ
枸子は、扉を開けた。
「おはよう。枸子」
「…おはよ。枻杜。あなたには、尊敬の念に似たものがあるわ。よくこれるね。」
「まぁな〜。オレはなぁ…」
枻杜は言葉を切って、枸子を意味ありげな目で見つめた。
「なによ」
「…枸子のためなら、火の中だって、水の中だって、どんな中だっていけるんだ!」
枻杜はほんのり顔を赤く染めて、そう言った。
「あっそ〜。じゃね」
「あ。枸子。あとちょっとだから、ごめんな。」
「なにが?」
「オレ、受験生だからな、5月からこれない。」
「あっそ…じゃね〜。」
「枸子〜〜。」
「…」
「枸子!おいっ!枸子!」
「何?」
「夏休み、いつから?」
「中学とほとんど変わらないわよ。」
「じゃあ、いける?夏祭り」
「え?ええ。」
「そっか。あのさ…」
「…枻杜の話、ながくなりそうだから、正午過ぎに携帯に電話ちょうだい。」
「え?でもオレ………番号…知らない。」
「えっ?教えてなかったっけ?」
「そんなにびっくりすることか?」
「だって…」
「・・・。とりあえず、番号。」
「あ、うん。090-1985-0130だよ。」
「…オッケー。あ。オレの番号は知らないよな?」
「うん。」
「だったら、電話したときに、登録しといて。」
「わかった。」
「で、メールアドレスぁ・
「それも知らないのか…あ・えっと、[email protected]だよ。」
「わかった。電話のあとに送るから、そのときにみて。」
「うん。」
〜学校〜
昼休み
♪ ♬ ♩ ♪
(はい)
(枸子?あのさ、、今年の夏祭り…………………)
(夏祭り〜?あと二ヶ月もあるじゃない。)
(まぁ、そうなんだけど…)
(それで?夏祭りが、どうしたの?)
(ああ。あのさ……オレとっ……………………一緒に………………………………行かないか?)
(枻杜と?)
(ああ…。)
(別にいいよ。多分、依子と裕くんも行くけど。)
(まじで!やったぁ。)
(じゃあ、とりあえず、受験、頑張りなよ〜。)
(おぅ。じゃあ、メールする。)
(うん、ばいば〜い)
♪ ♪ ♬ ♩
『あ。枻杜からだ。』
メールの受信欄には、枻杜、と書いてあった。
『登録、登録っと……』
「え?」
「どうしたの〜?枸子」
「依子…、なんでもないの。ごめんね」
「うん?」
『なに?このアドレス。』
[email protected]
枸子の名前が入ったアドレスの、最初のI,l.fの意味はわからない。だが、枸子の名前がさも当たり前のように入っていた。
『このアドレスをいったい何人の人に知らせているんだろう?…周りからみたら公認じゃない…。』
枸子は、とても気になったので、5時限目が終わってから電話した。
トゥルルル
(枻杜!最初の、I,l,fってなに?)
(知りたいのか?)
(もちろん。)
(I love foreverだよ)
(え?)
(I love forever.もう二度といわない。)
(は?)
(受験、頑張る。オレ。)
(!…急に言わないでよ。びっくりするわね。)
(そう?)
電話をしている枸子に、依子は話しかけてきた。枸子、依子、裕は、三人とも同じ高校に進学したのだ。
「枸子、枻杜くん?」
「?そうだけど?」
「ふ〜ん。」
「裕くんも依子もなによ〜?」
「なんでもないよ。なぁ依子。」
「うん。なんでもないよね。裕。」
「なんなのよぉ?」
「あ。枸子、枻杜に俺達から伝言いいか?」
「うん。」
「頑張れ。そう伝えてくれ。」
「?うん。」
「じゃな。」
「うん。」
(枸子?)
(あ。枻杜、依子と裕くんから伝言。)
(なに?)
(頑張れ。だってさ。)
(…ありがとう。先輩達に、頑張ります!って伝えてくれ。)
(別にいいけどさ、なんで私だけタメ口で、二人には敬語なの?)
(敬語使うと、壁があるような気がしていやなんだよ。)
(あっそ〜。じゃね!)
(へ?あ。うん。)
枸子は、依子と裕に夏祭りの件を話そうと思い二人を探したら、案外すぐに見つかったので声をかけた。二人は話をしていたが、わざわざ枸子から離れてするような話らしい…。ほんの少し憎たらしくなった。
「依子〜。」
「なっなに?」
「?夏祭りなんだけどさ、行くでしょ?」
「あぁ。夏祭りね。行くよ。でもなんで急に?」
「さっき枻杜から電話があってね、一緒に行こうって言われたから。」
「あ。そうなんだ。」
「うん。」
「あ。依子、オレ次、遅れるとまずいんだ。じゃあまたな。」
「あ。うん。」
「枸子も、じゃな。」
「うん。あ。そうだ。枻杜が、頑張ります!って伝えてくれって」
「そっか。サンキュ。じゃーな。」
裕は去っていった。
「何を話していたのかな?」
「え!」
「だって、あんなに赤い顔してたじゃない。それに私から離れてするような話なんでしょ?」
「ぅ……」
「話してくれるよね?」
「ん…あのね…裕が、今日親いないから、家に泊まらないか?って」
「ええ!」
「枸子!」
「ごめん。…にしても、初夜じゃない。きゃ〜依子も大人になるのねっ」
「ん…」
依子は顔をとても赤くして、そう答えた。
「ま。頑張ってね。じゃ。」
「うん。」
結果的に依子は裕の家にとまって、きっちりと、初夜を迎えたらしい。
「枸子〜。」
「依子っ?」
「えへへっ。」
「無事に終えた?ちゃんと結ばれた?」
「うん♡」
「よかったねぇ。」
「うんっ。あ。裕。じゃね。枸子。」
「うん。」
二人はとても楽しそうだった。いわゆるバカップル。思い起こすことがないように、そうも、見えた。
そして、二ヶ月がたち、夏祭りの日が来た。
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