7th key 枸子:中3 夏
「ありがとうございましたっ。」
「え。。ええ。」
美奈は唖然としていた。
「て、言うわけ。兄貴っ早退したって言っといてくれ。」
「ああ。」
櫂樹はわが弟ながら熱心だなと思った。
「じゃっ!あ。木下先輩も、さようなら。」
「えぇ。」
枻杜は走っていった。
櫂樹は枻杜が去ったあと、美奈にさっき思っていたことを告げた。
「熱心だよなぁ。あいつ。」
美奈は苦笑したが、すぐに真面目な顔になっていった。
「そうですね。枸子はあんな一途な人に想われているんですね。
枻杜君の想い、いつか通じますよね。」
「そうだな…。」
あいつは絶対に大丈夫だと櫂樹は思った。
「櫂樹先輩はいないんですか?」
「え?」
唐突な質問に櫂樹はびっくりした。
「一途な想いを伝えたい人。」
「………まぁ、いる。」
櫂樹は正直に本当のことを言った。
『美奈がそうだからな。でもいえないんだよなぁ。』
「おまえは?」
「ふぇ?」
美奈が理解できていないと思った櫂樹は聞いた。
「いないのか?」
「………いますよっ。」
『櫂樹先輩が、そうですよぉって、いえないな。』
「伝わるといいな、おまえも、オレも」
『オレはおまえに伝えたい。』櫂樹はそう思った。
「そうですね。・・・にしても枻杜くん帰っちゃいましたよ。
どうするんですか?」
「ん〜。まず職員室で、枻杜の担任に早退したって言って…」
「言って…?」
「そうだな。美奈…一緒に屋上行くか?きっとまだ昼休み、あるだろう?」
「え?まぁ、たくさんありますけど…屋上ですか?」
美奈は驚いた。屋上に行こうといわれたのは初めてだったからだ。
「あぁ。たしかあそこに自販機あるだろ。」
「え?ええ」
「おごってやるよ」
「本当ですかっ?」
「あぁ。じゃあ行くぞ〜。」
「は〜いっ。」
美奈はおごってもらえる事よりも、一緒にいれることがうれしかった。
「ぜぇ…ぜぇ…つ…ついた。」
枻杜は、今までにないほどものすごく早いスピードで、走ってきた。
ピンポーンピンポーン
「枸子!!」
ピンポーンピンポーン
「枸子!枸子」
押しても声をかけても枸子が出てくる気配がない。
パタパタ
やっとドアの向こうで誰かがドアに向かって歩いてくる音がした。
ガチャ
出てきたのは枸子だった。思考がワンテンポ遅れているらしく、少しだけぼーっとしていた。
「ぁ…枻杜」
びっくりした。とても、いつもの枸子とは思えない。
重苦しい空気が回りに付きまとっている。
「!どうした?」
「別に…なんでもないわ。」
「枸子…」
「…なに?」
「……」
枻杜は何もいえなくなってしまった。
枸子の精神が壊れかけているように見えた。
「・・・」
「とりあえず、入れて…。」
「……どうぞ…。」
とりあえず、入れてもらおうと思ったので入れてもらった。
だが枸子の様子は前までと同じ…
「…」
「…」
「枸子、ミルク、飲めるか?」
「ぇ?うん。」
「台所、借りるぞ。」
「うん。」
カチャカチャ
枻杜はてきぱきと何かをしていた。枸子は、イスに座って、ぼーっとすることしか、
できない…
「はい」
「ぇ?」
「ホットミルク。どうぞ。」
「…ありがと…。」
「どういたしまして。隣いい?」
「うん」
枻杜は枸子の隣に座って、ミルクを飲み始めた。
「ごちそうさま。枸子、飲み終わった?」
「ん。」
カチャカチャ
枻杜はてきぱきと片づけをしているようだった。
じきに枻杜は、枸子の隣にまた座った。
「片付けといたから。」
「ぇ。うん。」
「じゃあ、また明日…。」
「え?」
「?どした?」
「何も…聞かないの?」
「何かしてやりたいって思っただけだから。オレ。」
枸子は枻杜がそんな言葉を口にすると思っていなかったため、びっくりした。
「話さないから、聞かない。その話題にもふれない。ただそれだけ。
じゃ」
『もう無理。抑えきれない。』
枸子の眼には涙が浮かび、ぽろぽろと流れ始めた。
枻杜はその涙を見て、一瞬眼を見開いたが、すぐ元に戻った。
「絶対涙を、こらえている…。」
「ぇ」
「ずっとそう思っていました…。」
「かいと…」
「オレでよければ、ずっといます…。だから、泣いてください。」
「…っ」
枸子は泣き始めた。
隣に枻杜がいた。ただ、いたのだ。
「かいと…」
「はい?」
「私の父と…母は離婚寸前でね…だから一人で暮らしていたの…。
父か母………どっちか一方なんて…選べない…し、選びたくもない…
そう思ったの………だけどね…………………
父と…母が…正式に……離婚したの…」
「!」
「一人きりの生活に・・・なれていたから、平気だと思ってたのに…。」
「はい…」
「何も考えられなくて・・・。何もできなくて…」
「当たり前のことだと思います…。」
そのとき枸子は、枻杜のやさしさに触れた気がした…。
「枸子はいつも、そうなんだ。」
「え?」
「いつも…こらえているんだ。」
「枻杜?」
「もっとたくさん…泣いてください。」
「…」
「そして、泣きつくしたら……また」
「…」
「また…笑ってください。」
「…ん」
「じゃぁ、オレ、帰ります。」
「ぁ!枻杜…」
「ん・」
「ありがとう。」
「…はい。」
「また、、、学校でね」
「!はいっ!」
パタン
枸子は今まで奥底に流し込んでいた悲しみを、すべて出すかのように、
ないて、泣いて、泣いたのだった。
そして、次の日には、楽しそうに、本当に楽しそうに、笑っていたのだった。
そして枻杜はあいかわらず、毎日毎日枸子の教室まで来ていた。
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