5th key 枸子:中3 夏


枻杜から見ると、枸子はとても楽しそうにゲームをしたり、かき氷を食べたりしていた。
「楽しそうだな。枸子。」
「枻杜は楽しくないの?私はたのしいよ〜。」


『実は、そこまで余裕ない。だって、枸子…すっごいきれいなんだ。
見とれちまうし、すっげぇドキドキするんだ。ものすごく。
そりゃ、楽しくないわけない。楽しいさ。
でも、楽しいよりも、うれしいだとか、ドキドキするだとか。
そっちの気持ちのほうがおっきいんだ。』


そして二人はしばらく、くるくると回っていた。
『あ。依子。裕くん。…あっちの方向は・・・。』

見届けたいと思った枸子は枻杜の口の堅さを確認する。

「ね、枻杜、あんた口、堅い?」
「え?まぁ。」
「しゃべったら、絶交よ。」
「ぜったいしゃべらねぇ!!」
「あははっ」
「な。なんだよ〜」

「なんでもない。おいでっ」
「オレ、男なんだから、、ちゃんと男として、扱ってくれよ。」

枻杜は普段ないような真剣な顔をしながら、男らしい口調でそういった。
「なんか言った?」
言ってないという言葉を期待しながら、枸子はそう聞いた。
「言った。」
よそうに反して枻杜は真剣な顔で言った。
少し前から感じていたことだが、枸子に対する気持ちは本気らしい。
だが、こんなところで枻杜にくどかれていたら、見届けることができない。

「そ、じゃぁ、言わなかったことにして、早くいこう!」
「お・・おぅ。」
枻杜は枸子の言ったことを間に受けて(流されて)何もなかったことになった。


そして枸子は、二人が向かう先が想像できたので、そこへ行った。
そこは、思い出の場所。
とてもきれいで、、とてもすばらしい景色…。
ただ、この場所も、高校2年になった今では、一度もこれない場所だ。
悲しみが、とてもあふれる…。

案の定二人はそこにいた。

「あっ。」
枻杜は依子と裕を見ていなかったらしく、そこに二人がいたことにびっくりしていた。
「し〜。」
「…。」

枸子はそういうと二人を見た。
二人には、会話が無かった。二人とも、異常にどきどきしているようだった。


「…。」
「…。」
「…。」
「わっ!………ぇ。」

とても唐突に、だが、いいタイミングともいえる。裕は、依子を抱きしめた。

「ゅ…た…?」

「…すきだ」

「ぇ?」
「好きだ…。オレ、依子が、好きなんだ。オレ…
 おまえが、好きだ。依子が…依子が一番好きなんだっ。」
「裕…。っ」
依子は、なき始めた。
「…依子?」


「好きよ。」
「ぇ?」
「私も、裕が、好きよ。うれしいの。
一番に、私を選んでくれて、、ありがとう。すごく、すごく、うれしい。」
「…サンキュ。」
「私も…ありがとぉ。裕。」

裕は、依子を離して、依子の額にキスをした。そして、二人は、また、抱き合っていた。



「行くよ。」
「え?」
「行くの!」
「…」

これ以上はもういいだろうと思い、枸子は枻杜とともにそこを離れた。
そして二人は、活気あふれる祭りの中に戻ってきた。
そして花火の時間が近づいてきた。

「花火まだかなぁ?」
「ええっ?」

枸子は意識していなかったが、枻杜からしてみれば、
枻杜は枸子がまるで同い年のように親しく話しかけたことが、
ありがたくもあり、びっくりするような言葉だった。

「え??どしたの?枻杜。」
枸子は急に驚いた枻杜を見て、とてもびっくりしたため、そう聞いた。

「いや。なんでも…ないです。」
枻杜は枸子がびっくりしたかもしれないということは思ったが、
急に問われたため、否定する言葉が敬語になってしまった。

「??」
枸子はまだ不思議そうな顔をしていた。
枻杜は話題を変えるために口を開いた。


「…いつも、花火見ているのか?」
「ん〜。そ〜だよ。」
花火の時間が迫っているせいだろうか。枸子の顔は笑顔だった。
「へ〜。」
「いつも依子と裕くんは、最初の一時間で帰ってしまうから、あとは、一人だっ…。」



枸子が急に言葉を止めたので、枻杜は聴いた。
「どうかした?」

「一人じゃないか…。」

「え?」
「ん〜、なんか花火を一人で眺めていると、誰かに大量に声をかけられた気が…。」


「なんだってぇ!」


枸子のその言葉を聴いた枻杜は、驚きと怒りが混ざり、大きな声を出してしまった。

「枻杜!」
「…ごめん。」
そして、枸子にとがめられ、枻杜は声を小さくした。
「でも、花火に見とれていて、気づかなくて…」
「…」

もしかしたら話しかけられたかも。とは言うが、枻杜の嫉妬心をあおるのは、それで十分だった。

「話しかけられたような気がする。だけであって、、
きれいには、覚えていないのよね〜。」

ふと枸子が枻杜を見ると真剣な顔をしていて、なおかつやる気に燃えていた。
「…。オレ、二時間、枸子の隣をキープしてやる!ぜってぇ。わたさねぇ!」
枸子は唖然とした。
「かいと?・」
「見てろよぉ!!」



『でも、枸子の隣に座って花火を見ることができて、うれしいんだ。
だけど、だけど、やっぱりドキドキしちまう。』


こうして、二人は2時間、ゆっくりと、花火を見…


たのは、枸子だけだった。
枻杜は、枸子に言い寄ってくる男達を、次から次へと追い返していたのだ。
「きれいねぇ。枻杜?」
言い寄ってくる男達を追い返していた枻杜は枸子のその言葉に対して少々乱暴に答えた。

「んぁ!」
「なによ。きれいなのに…。」

枸子はなぜこんなにきれいな花火を見て怒っているのだろうかと思った。


『きれいということは、花火の話題だ。
ということは、あれだけ激しく言い合っていたのに、

気づいていないのか?』


枻杜は思い切って聞いてみた。
「気づいてない??」
「なにを?あぁ、さっきの花火?」
「は?」

さすがに唖然とする。まさか本当に?という思いが枻杜の中で強くなってきた。
「失敗したよねぇ。惜しかった。」



決定的だ。間違いなく枸子は気づいていなかった。
枸子は、やっぱり誰にでも失敗はわかるものだなぁと思っていた。
「…。」

基本的に、枸子よりも年下なのだから、なめられる気もするが、
1年前、一年にもかかわらずレギュラーに出た事からもわかるが、
年齢を言わないと、丁度、枸子と同じくらいの年に見えるのだ。

まぁ、枸子が高校2年になった今では、年下に見る人はいないけど。




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