4th key 枸子:中3 夏
季節はいつのまにか夏になった。夏祭りの季節だ。
子は祭りがとても、とてもすきなのだ。
ただ、高2となった今では、好ましくない思い出しかない。
「依子〜、」
「あっ。裕。ど〜したの?」
裕が依子に話しかけるのは、枸子をいれた3人の間では日常的だが、
一人になったのを狙ったかのように裕が依子に話しかけるのは、
珍しいことだった。
「ん………………あのさ、今年、……二人で行かないか?祭り。」
「えっ」
依子は思いがけない言葉に最初は戸惑った。
しかし依子はうれしい気持ちいっぱいで返事をした。
「うんっ。枸子に言っとくね。」
「ああ。」
依子には、裕もうれしそうな顔をしているように見えた。
「枸子〜」
「あ。依子!いいことあったでしょ??」
依子が幸せそうな顔をしていたので、
なにかいいことがあった
ということが、枸子にはすぐわかった。
「え〜、わかる??・」
「おもいっきり。で?」
「今年、二人で行くね、祭り。」
「裕君と??すごいじゃんっ。やったね!」
「ありがと〜〜。」
まさかあの奥手…というか、恋に関して自身のない裕が依子を誘うとは思わなかったからびっくりした。
しかしその事実がすぐにうれしくなった。その枸子に返事をした依子もうれしそうだった。
「枸子〜〜〜」
「え?ぁ。枻杜」
向こうから枻杜が走ってきたのだ。
「何の話してるんだ??」
「夏祭りのお話よ。」
枸子は素直にそういった。
後々から聞くと、依子は枸子が素直にそういったことで
枸子も枻杜に気があるのではないだろうか。という誤解をまねいたらしい。
「いつもの3人で行くのか?」
「ううん。私は、クラスの友達と。」
「えええ?」
「なによ。」
「誘おうと思っていたのに…。」
寂しそうにいう枻杜を見て枸子は笑って答えた。
「ごめんねぇ〜。」
「ゲッ聞こえてた??」
「もちろん。」
「オレも…一緒に行きてぇな…。」
寂しそうにいう枻杜を見ていた枸子は、
別に枻杜がいてもいなくても支障はないだろうと思い、枻杜を誘うことにした。
「あんたも来る?」
「えっ?」
「来るかって聞いているの!」
「もち!…行く!」
枻杜は最初枸子の口からそういう言葉が出るとは思わなかったらしく、
ものすごくびっくりしていた。
しかしすぐに顔に最高の笑顔を浮かべて、了承の返事をした。
「おっけ〜、伝えとく。ところで枻杜、どしたの?」
「話をしようと思ったけど、クラスにいなかったから、先輩に聞いて、外だって。」
「そう。」
「で、話。」
「?」
話がどうかしたのだろうか、と思った枸子はわからないという顔をした。
「しようぜ。」
「あ。話をしようってことね。別にいいわよ。どこで話するの?」
「屋上。」
「ん〜。屋上か。いいかも」
屋上には自動販売機がある。
枸子たちは使えないエレベータがあり、業者の人はそれを使って飲み物を補充しているらしい。
「まじ?なら、行こう。あ。木里先輩、枸子をお借りします。」
「ええ。どうぞ。」
枸子は、自分はいったい何なのだろうと思ったので、素直に口に出した。
「私はなんなのよ…。ま。いいや。じゃあばいばい。依子!」
「うんっ!」
枸子と枻杜は屋上で飲み物を飲みながら、話をした。
そのとき、枻杜がどうしても!と言うので、
枸子は枻杜の飲み物をおごり、枻杜は枸子の飲み物をおごった。
そのとき枻杜は枸子からもらった飲み物を嬉しそうに受け取り、おいしそうに飲んでいた。
そして夏祭り当日。(8月31日)
ちなみに、同じ中学の友達なので、
枻杜も枸子も近いと呼べるかはわからないが、おなじような地区に住んでいるのだ。
枸子は浴衣を着て待ち合わせ場所に行った。
今回のメンバーは、
繭(まゆ)・英里(えり)・拓野くん・健之(けんじ)くん
季夏(きか)・仙渡(せんと)くん
美奈・櫂樹・枻杜・枸子だ。
枸子が待ち合わせ場所に着くと美奈が浴衣でいた。
「枸子っ。」
「あっ、美奈〜〜。かわいい。その浴衣。」
「ありがとっ。枸子のもかわいいよ☆」
「ありがと〜〜。」
二人はお互いの浴衣をほめあった。
「櫂樹先輩は??」
「枻杜くんとくるって〜。」
美奈は笑顔でそういった。後々聞くと、枸子をひやかしたかったらしい。
「そ。」
「枸子〜〜。」
遠くから呼ばれて振り向くと季夏がいた。
「ぁ。季夏!仙渡くん!」
「枸子〜〜。」
「ぁ。繭!英里!拓野くん!健之くん!」
「結構来たねぇ。」
「そうだね。あとは…。」
枸子が誰がいないのだろうと思ってメンバーを数えていると、美奈が笑いながら言った。
「櫂樹先輩と、枻杜くんだね。」
「へ〜あの二人だけなんだ。でも美奈はいいわよねぇ。
好きな人を待つんだからさっ。にしても久しぶりじゃない?櫂樹先輩に会うの。」
冷やかしてあげようと思いそういうと、美奈は顔を少し赤くしながら答えた。
「ん〜。そうでもないかもしれないな」
「え?」
枸子はあっけにとられて聞き返した。
「先輩が休みで練習があるときは、いつも来てくれるし、その後勉強も教えてくれるんだよ〜。」
「へ〜。」
のろけだ…。
と、枸子は思った。
そして同時になぜこんなに互いに好きなのに、告白をしないのだろう?
と思った。同じような例が依子と裕だ。
だが、あの二人は今日告白するらしいから、まだましだろう。
「枸子は違うの〜?」
冷やかしてやろうと思ったのか、美奈はそういった。
だが、そんなことを言われて赤くなるような枸子ではない。
枻杜に対する枸子の思いは友達程度だからだ。
「あたりまえ。」
さらっと返すと櫂樹の声が聞こえた。
「お〜い、」
「ぁ!櫂樹先輩!」
「よかったね。」
枸子は美奈に耳打ちをした。
「うん。」
笑顔で答えた美奈の声に少し重なり、今度は枻杜らしき声が聞こえた。
「枸子〜〜。」
「かいと?!」
「うっわぁぁぁ。」
枸子をみた枻杜は驚きと感動に満ちた言葉を発した。
「なっなに?」
「すっげぇな。」
そして枻杜は眼をぱっちりと開けて枸子を見つめた。
だが、自分に対しての恋愛感情に関しては
鈍感に超がつく枸子に
枻杜の想いが届くはずもなく、枸子は聞き返した。
「なにがよ?」
「なんでもないっ。」
枻杜は嬉しそうにそう答えた
「そう?」
「じゃあね、枸子。」
「へ?」
枸子は季夏にそういわれてびっくりした。
「枻杜くんと、見て回りなさい。」
「え゛。」
「まじ☆?」
枻杜は嬉しそうだが、枸子はあっけにとられた。季夏だけではなく、繭もそういったのだ。
「私達からの、命令よ!」
そして英理もにっこりと笑って、そういった…。
ようするにここに来ているメンバー全員(枸子をのぞく)が
枸子と枻杜を一緒にいさせよう
というたくらみを持っていたのだったのだ。
枸子はあきらめて枻杜に聞いた。
枸子はようするに回れて、花火を見れればそれでよかった。
「………………枻杜、何時まで大丈夫?」
「とりあえず、オールでも平気。」
「ならいいや。命令じゃ、しょうがないし。」
枻杜は最高に嬉しそうな顔をして季夏を始め、たくらんだ人を見て言った。
「先輩方!」
〚ん?〛
「どうもありがとうございましたっ!」
〚どぅいたしまして。〛
枸子は脱力しつつも、祭りを楽しもうと思い、枻杜に声をかけてから歩き始めた。
「いくよ〜・」
「あ。おぅ。」
二人は、歩いていった。
そんな二人を、楽しそうにクラスの友達は見ていたようだ。
祭りの2日後くらいに、そういう話を聞いた。
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