2人のライバル 〜学園祭〜

 

 

自宅の前で覆面パトカーから降りると、運転席の窓が開いた。

「じゃあ、工藤君。今日はありがとう」

「いいえ。じゃ、気をつけて」

走り去る車を見送ると、俺は自分の家の鍵を手にしかけ・・・ふと、時計を見

る。

まだ、14時か・・・。今日の仕事は、早く終わったな。

なんとなく、隣りへ寄り道をしてみる気になる。

昼下がりの阿笠邸。

この時間、高校生の哀はもちろん学校だろうが、博士は家にいるはずだ。

そう思ってチャイムを押してみたが、手ごたえはない。

壊れているのか、留守なのか。ガチャリと玄関のノブを回してみると、それ

はあっけなく開いた。・・・全く、無用心なことだ。

「博士〜?新一だけど・・・入るぜ?」

玄関で一声かけ、上がりこむ。いつものリビングには博士の姿はない。

どこに行ったんだか。

と、その時。奥の研究室より、物音がした。

博士?いや、それとも・・・。

とっさに足音を忍ばせ、研究室へと近づく。少し開いたドアの影から中をう

かがう。

中に立っていたのは、博士だった。全く、何をしているんだ。

哀がAPTX4869の研究を終了させてからは、彼女と博士の研究室は一

緒になっている。

博士は、その哀のパソコンの前で何かの書類に目を通しているようだった。

「哀くんの出番は・・・15時からじゃったな。急がんと」

「何を急ぐんだ?」

ガサガサガサァァ!!

俺のかけた声に、弾かれるように博士が手にしていた紙をまるめる。

「お、おお。なんだ、新一君か」

わざとらしいまでの大声。・・・なんか、怪しい。

つかつかと博士に近寄る。

「あ、ダメじゃぞ、新一・・・暴力に訴えては、その・・・ああ!!」

あっさり博士の手から丸めた紙を奪い取ると、俺は丁寧に広げてみせた。

見慣れた・・・いや、どことなく懐かしいザラ版用紙。帝丹高校からのプリン

トだ。

〜第○回帝丹高校 学園祭のお知らせ〜

「なんだよ、単なる学校からのお知らせじゃねーか・・・」

何を隠す必要があるんだ、全く。

「そ、そうなんじゃ。だから・・・」

くい、くい、と返してくれと言わんばかりに動く博士の両手。

その動きは無視して、目を落としたプリントに。俺は気になるタイトルを見

つけた。

2年F組 演劇『シャッフル・ロマンス』

・・・あれ、この劇って確か・・・。それに、Fつったら・・・哀のクラス?

「博士、確かさっき、哀の出番がどうとか言ってたよな?急ぐんだったら・・・

キリキリ白状してくれよな」

 

「円谷、もうここはいいぞ。お前、クラスの演劇、もうすぐだろ?」

「あ、はい。すみません、じゃあ後はお願いします!」

確かに、時計はもう2時半を指している。後30分で、僕のクラスの出番が

来る。

学園祭の間、実行委員会の本部でもあり総統括役員の控え室でもある生徒会

室を出て、小走りで廊下を急いだ。

・・・うまくやれるんでしょうか。

頭に浮かびかけた思いを断ち切るように、首を振る。

いや、役者たちは皆、一生懸命練習した。それに、裏方だって・・・。

それよりなにより、主役2人が頑張ってた。絶対、成功するはずだ。

よし、と気合いを入れて通用口を出る。体育館までは、渡り廊下ですぐだ。

その渡り廊下で・・・僕は、思ってもみない人と出会った。

「よう」

「あれ・・・新一さん」

工藤新一さん。言わずとしれた名探偵で、僕の尊敬する人でもある。

毎日毎日、事件と格闘しているはずの人が・・・なぜ、ここに?

「どうしたんですか?」

「どうって・・・俺はOBだぜ?見学にぐらい、来させてくれよな」

「ああ・・・そうですよね、すみません」

今日は休みなのかな。・・・ああ、こうしちゃいられないんだっけ。

「すみません、これから劇なんで・・・また、後で」

「おう、頑張れよ。それ、見に来たんだから」

頭を下げて、通り過ぎようとして・・・振り返る。

ニコニコ笑ってた新一さんが、いぶかしげな顔つきになる。

「ん?どうした?」

「あの、ひょっとして・・・それ、って僕らのクラスの演劇を見に来たって事

ですか?」

 

「そうだけど。・・・なんだよ?」

答えると、急に光彦の表情が変わったような気がした。

じっと俺を見つめて・・・いや、睨まれてる、と言った方が的確な表現かもし

れない。

それほど奴の視線は、厳しい。

「・・・灰原さんを、見に来たって事ですよね?」

そっけない響き。

ふうん、そういうことかよ。

「ああ、そうだよ」

・・・隠しても、無駄だ。俺はそう思って素直に答えた。

大体、光彦はずっと哀のことを想い続けてるみたいだからな。いまさら照れ

やごまかしが通用する相手だとは、思ってもいない。

「あの、前から聞こうと思ってたんですけど・・・」

そう来たか。

次に続く言葉は、想像がつく。すなわち『灰原さんとは、どういう関係なん

ですか?』だ。

その質問に対しては、当然『付き合っている』と答えるつもりでいた。

こいつに・・・光彦に対しては、本当にごまかす気も否定する気もない。かつ

ては、仲間だった・・・いや、今だって大事な友人なのだから。

「蘭さんのことは、どうするつもりなんですか?」

・・・・・・は?

「このままじゃ、蘭さんが気の毒すぎますよ。灰原さんだって・・・きっと、

気にしているはずです」

光彦は、俺の目を真っ直ぐに見た。

「そんないい加減な人には、灰原さんは任せられません」

 

「なっ・・・」

絶句している新一さんを見つめる。

尊敬している。憧れている。

・・・だけど、それと共に軽蔑もしている。

演劇の練習中。灰原さんが、何度やっても間違う部分があった。

いや、間違いじゃない・・・恐れ、だ。

黒騎士と抱き合うシーン。

最初は、照れかと思っていた。でも、そのときの彼女は細かく震えていた。

気づいたのは僕と・・・おそらく、小南(コナン)君だけだろう。

彼は後で、僕に教えてくれた。灰原さんが、彼につぶやいた言葉を。

『このシーンが、1番嫌いなの・・・嫌なことを、思い出すから』と。

最初は分からなかった。彼女が一体何を思い出すのかを。

だけど、僕はわかってしまった。

昔、同じ劇を新一さんと蘭さんとで演じたこと。クライマックスの、このシ

ーン。

灰原さんが実際に見ていたのかどうかは知らないけど、きっと話は聞いてい

るはずだ。

・・・許せなかった、どうしても。

過去の事とはいえ、そんな風に割り切れるのなら彼女がおびえるはずがない。

あんなに、寂しそうな横顔を見せるはずがない。

「答えは、とりあえず保留にしておきますよ。急いでいるんで・・・失礼しま

すね」

 

光彦が去ると、俺は猛烈な後悔に襲われた。

何で・・・何で、きちんと答えられなかったんだ?

蘭の事はけじめをつけている、哀が・・・彼女が、一番大事だからと。

いや、違う。

自分の唇が、微妙に歪むのがわかった。これが、自嘲の笑みって奴だ。

けじめなんて、まだつけていない。蘭にはっきりと、哀の事を伝えていない。

奴がどうしてそれに気づいたのかは、分からないけど・・・。

それでも多分、それは光彦の哀に対する気持ちの深さからなのだろう。

参った。

今までは、余裕さえ感じていた。どんなに奴が哀を想ったところで、変わる

ような関係ではないと考えていた。

それは、今も信じている。でも。

・・・最強のライバル出現、ってとこか。

 

どうやら、かなり気を引き締めてかからないといけないらしい。

 

NEXT


 

さて、お待たせいたしました。2人のライバル、光彦&新一編です。

彼らにとっては、やっぱりお互いがライバルなのですな。

いや、それにしても・・・この話の光彦、カッコいいわね♪←自分で言うなっ

て(苦笑)

続きは・・・これに小南君が混ざって一波乱、ってところでしょうか。

頑張って書きます(^^;

 

HOME / コナンTOP