2人のライバル 〜学園祭〜

 

 

 

 

体育館に入ると、僕たちの前のクラスの劇が始まっていた。

ゆったりとした曲にあわせ、仮面を付けた男女2人がダンスをしている。

『ロミオとジュリエット』の、舞踏会のシーンと思われる。

仮面に隠れていてよくわからないけれど、各クラスとびっきりの美人を主役

に据えているらしいと聞く。きっと、ジュリエット役の彼女も、そうだろう。

・・・僕たちの主役だって、もちろん負けていません。

この時間だと、おそらく皆は舞台袖で待機しているに違いない。

体育館の正面舞台、その横の体育管理室を通って舞台袖へと滑り込む。予想

したとおり、小さいながらも緊迫した声が飛び交っていた。

「おい、俺の剣はどこいった?」

「知るかよ。あ、違うって、その背景はもう少し後だからこっち!」

「こっちって、どっち?」

「最初は、何のシーンだっけ??」

・・・まいったなあ。パニック気味ですね、皆さん。

どうしたものか・・・そう、思った時。低いけどよく通る声が、静かに言った。

「落ち着けよ、オメ−ら。いまさら慌てたって、しゃーねーだろ?いざとな

ったら俺と灰原でなんとかしてやっから、フォロー頼むぜ」

小道具係の力作である兜を片手に、不敵な笑いを浮かべる黒衣の騎士。

その彼が、「な、姫?」と呼びかけた先には・・・。

まるで、ウエディングドレスかとも見紛う程の真っ白なロングドレス。

うっすらと化粧されたその顔は、いつも以上に大人びて見える。

その、桜色の唇から柔らかな声が漏れた。

「そうね。やるだけやってみる、としか言いようがないわね」

「だろ?」

コナン君は満足げにうなづくと、人差し指と親指とで輪っかを作って皆に見

せた。

「ってことで、OK?」

その仕草に、皆の間にゆっくりと笑みが広がる。

OK

口には出さずに、同じように指で輪っかを作って、一斉にうなずくクラスの

仲間たち。

「えっと、じゃあ落ち着いて確認しよっか」

「おう、そうしよう」

さっきまでとは一変して和やかになった空気の中、僕はコナン君に近づいた。

それがわかったのか、彼は少し口を尖らせてみせた。

「おっせーぞ、光彦。監督がいなければ、話になんねーだろ?」

そう。文化祭の準備期間中、僕や歩美ちゃんや元太たちといつも一緒にいた

せいか。

彼はいつの間にか、僕のことを名前で呼ぶようになっていた。

『何やってんだよ、光彦!』

黒ぶちメガネ、理知的な瞳。

かつての親友の姿が、重なる。

「どした?」

「あ、いえ、その。すみません」

「なんだよ、オメ−も緊張してるのか?」

変なヤツだな、と笑うコナン君。

「ご苦労様。生徒会の仕事、終わったの?」

ふと掛けられた声に、我に返った。

「あ、大丈夫です。抜けさせてもらいましたから」

そう、とうなずく灰原さん。近くで見ると、一段と綺麗だ。

「よく、似合ってますよ。ものすごく、魅力的です」

「そう?ありがと」

にっこりと笑う彼女の隣り、「・・・さらっと言ったな・・・」とコナン君がつぶ

やく。

黒衣の騎士と、美しい姫。

並んで立つ2人は、正直とてもお似合いのカップルだった。

・・・悔しい。

そんな気持ちが、心の底から湧きあがる。

かつて、子供の頃。コナン君に対して感じていた嫉妬。羨ましさ。

それがそのまま、目の前のコナン君に対する気持ちに引き継がれる。

そう、ライバルは新一さんだけではない。

ひょっとしたら、それ以上に強力なライバルが帰ってきたのだ。

 

「それとも、望みもしないこの呪われた婚姻に、身を委ねよと申されるので

すか・・・?!」

静まり返った体育館に、澄んだ声が響く。

哀の声は低いと思っていたが、意外によく通っている。

横に座っていた生徒の保護者らしきオバサンたちが、「深みのある声ね。そ

れに、とっても綺麗な子だわ」と囁きあっている。

それを聞いて、満足げにうなずく博士。まったく、親バカだな。

だけど・・・。

舞台の上の哀は、誰が見ても綺麗に見える。俺や博士だけじゃない、今劇を

見ている人々全てがそう思っているに違いない。

真っ白なドレス。あの時はそう、蘭が着ていた。

『馬子にも衣装って感じで、イケてたぜ?』

確か、そんな誉め方をした記憶がある。

まあ、あの時は・・・訳のわからないまま舞台に立ち、おまけに殺人事件まで

起こったせいで何が何だか分からなくなってしまったけどな。

そういえば、あの時は哀の作った試薬品で・・・。

つい回想に更け入りそうになった俺を、博士の「おっ・・・」というつぶやき

が引き戻した。

舞台を見ると、あの時俺がやった役・・・黒衣の騎士が、舞い降りてきた所だ

った。

鮮やかな動作で、ハート姫を守る。

上手いもんだな。

やっている奴は、そうとう運動神経がいいらしい。そうでもないと、あれだ

け動けないだろう。

まあ、もちろん劇の話だし。かなり練習したんだろうけどな。

「小南君、というのか・・・」

何気なく聞こえた博士の言葉。

「え?!」

思わず、博士を見て・・・その手にあるパンフレットを奪う。

「あ、こら、新一!」

慌てて声が大きくなる博士に、周りから非難の視線が飛ぶ。

ぺこぺこ謝っているその姿も、俺は気にしていられなかった。

先ほどまで、博士が眺めていたパンフレット。どこでもらったのか知らない

が、今日の劇の案内が載せてある。

『2−F シャッフル・ロマンス  主演 小南俊介、灰原哀』

主演・・・てことは、主役だよな。

哀が、ハート姫って事はもちろん・・・。

俺は、再び舞台に眼をやる。

「・・・貴方はもしや、スペイド・・・」

哀の声。その細い身体には、黒衣の騎士の腕がしっかりとまわされている。

そう、あの小南俊介の腕が。

哀の身体に。

その事実に気づいた瞬間、カーッと体中の血が逆流したような気がした。

思わず叫びだしそうになる声を抑えるため、必死で唇を噛みしめる。

劇だ。これは、劇なんだ。

だけど・・・だけど、なぜアイツなんだ?!

俺を見つめる、不敵な眼差し。

哀を見つめる、優しい瞳。

「ああ・・・幼き日のあの約束を、まだお忘れでなければ・・・」

幼き日の約束?幼なじみ?

『蘭さんのことは、どうするつもりなんですか?』

光彦の言葉が、蘇る。

数年前。哀が作ってくれた薬で、舞台に立った俺。

蘭に会うために。蘭に会って、俺の姿を見せるそのためだけに。

あの時、舞台に立っていたのは俺と蘭。

そして今、舞台に立っているのはアイツと哀。

「どうか、私の唇にその証を・・・」

ゆっくり、2人の顔が近づく。

 

 

 

どうして、舞台に立っているのが俺じゃないんだろう。

 

どうして、彼女の隣りに立っているのは僕じゃないんだろう。

 

 

 

その瞬間、舞台が暗転した。

 

END


 

はい、とりあえず学園祭編が終了です。

中途半端で申し訳ない(^^; この後は、後夜祭編に続きます。

なんか、異常に長い話になっちゃってますね・・・。

でも、この3人のバトルぶりが書いてて楽しくて仕方が無い!!

マイブームなので、許してやってくださいませ♪

あ、ちなみに最後に舞台が暗転するのは、本当にキスしたかのように見せる

ための舞台上の効果って奴ですので、あしからず。別に、事件が起こったわ

けじゃないんで(汗)

 

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