揺れる想い 3

 

 

 

 

哀の到着を待たないまま、パーティはなし崩し的に始まった。

よく食べよく話す元太の冗談に、蘭を始めとした女性陣は笑い転げる。

だけど、新一は気づいていた。時々、うかがうような不安そうな表情で蘭が

自分を見つめている事を。

気づいていても、気づいていないふりをする。そんな居心地の悪さを感じて

いるのは、もちろん新一だけではない。

快斗も、平次も。同じような思いで落ち着き無くあたりを見回し・・・そして、

時計に目をやる。

彼らが待っている、ただ一人の少女。彼女に会いたくて来たと言っても過言

ではない、今日。

微妙に牽制しあう3人は、一種異様な雰囲気を醸し出していた。

その時。不意に歩美が「あ!」と声をあげた。

「どした、歩美?」

元太の問いに、彼女は唇に人差し指をあてて耳をすます。

一瞬、哀が来たのかと玄関に目をやった新一であったが、急に静かになった

居間にはポツリポツリと、屋根を叩く音が小さく響いた。

「・・・雨、か」

誰ともなく出たつぶやきに、青子がふう、とため息をつく。

「快斗ってば、雨男だもんねえ。まさか、今日まで降っちゃうなんて」

「・・・悪かったな」

むくれたように言う快斗に、笑い声がおきる。

そんな中、再び時計を見上げた新一が立ち上がった。

「新一?どうしたの?」

蘭の問いには、穏やかに微笑む。

「いや・・・あの子は、傘をもってないだろ。車で迎えに行ってくるよ」

「あの子って・・・哀ちゃん?」

「・・・ああ」

うなずいた新一に、後ろから平次の声がかかる。

「待ちや、工藤。お前は今日の主役やろ?・・・俺が行くわ」

・・・オメーなあ・・・。

とんでもない事を言い出した平次を、新一は横目で睨む。

ふふん、と嬉しそうな平次に突き刺さったのは、和葉の冷静な一言。

「なに言うてんねんな。あんた、この辺の地理に詳しぃないやろ?」

「・・・い、いや、せやけど・・・」

弁解しかける平次に、和葉は畳み掛けるように言う。

「それとも何か?この辺は詳しいんか?何回も、来とったとか?」

冷静な、というよりも冷たい声。

痛いとこを突かれて、黙ってしまう平次。

そんな2人の様子を眺めながら、快斗は心の中で考える。

・・・ここで、俺が行くって言ってもな。余計、話がややこしくなりそうな気

がする。

と、なると・・・。

「僕が、行って来ますよ。多分、まだ学校だと思うんで」

・・・やっぱりな。

名乗りをあげた光彦に、参りましたとばかりにため息をつく快斗。

状況的には、それが1番無難で正しいのかもしれない。でも。

なんか、ずるいよなって思ってしまうのは俺だけ?いや・・・。

憮然とした表情の新一。

そっぽを向いている平次。

同じことを思っているらしい2人に、快斗はやれやれと苦笑するのであった。

 

「じゃ、気をつけてね」

蘭が傘を差し出すと、光彦は微笑みながらうなずき、それを受け取った。

蘭の後ろに並ぶ、新一、平次、快斗。そして和葉と青子。最後尾になんとな

く立つ元太と歩美。

結局、全員で玄関まで見送りに出ていた。

「それじゃあ、行って来ます」

光彦はそういった後。少し意味ありげに、新一たち3人を見つめた。

「ちゃんと、灰原さんは連れてきますから」

・・・バーロ。

・・・生意気なやっちゃの〜。

・・・相変わらずだな。

3人3様の悪態を心の中でつきつつも、心もち誇らしげに見える彼の姿が

やっぱり気に食わない新一たち。

そんな彼らの無言の圧力は・・・ドアが開いた時に、一時棚上げとなった。

細く降り注ぐ雨。そして、少し薄暗い闇。

外灯に照らされた、大きな傘。

ブルーグレーのその傘の下で、こちらに向かって歩いてくる高校生達。

傘に隠れてはっきり見えないが、赤い髪がときおりのぞく女性徒は間違いな

く灰原哀。すらっとしたその身長は、横に並ぶ男子生徒とは10センチほど

の差しかない。

その男子生徒は。

哀と同じ帝丹高校の制服。傘を持つ手をやや傾け、彼女に雨が当たらないよ

うに角度を調節している。

メガネをかけているらしく、時々傘の下できらっとレンズが光る。

・・・え?

その姿に、奇妙な既視感を感じる新一。

あれは・・・あの姿は、まるで・・・。

と、その時。傘が揺らいで、2人の顔姿がはっきりと見えた。

「え?」と小さく声を上げたのは、蘭。とっさに横に立つ新一を見つめたの

は、平次と快斗。

そして新一本人は。

黙ったまま、ごくりと喉を鳴らした。

中肉中背の身体つき。前を見据える鋭い視線。そして、整ってる方と言える

顔つきには少し似合わない黒ぶちのメガネ。

「・・・ナン・・・君・・・?」

ごくごく小さな、蘭のつぶやき。

 

あるはずがない。そんなはずが、あるはずがない。

だって、工藤新一はここに居るのだから。

だが、そんな必死の考えが元太の声でさえぎられた。

 

「あれ、何だよアイツも来たのか・・・コナン!」

 

一番後ろからそう叫んだ元太に、皆が一斉に注目した。

まさか。まさか、そんなはずが。

心に渦巻いているはずの疑問は、とっさには言葉にならない。

2人は工藤家の玄関先まで歩いてくると、その大きな傘を閉じた。

そして、息をのんでいる一同の前までやって来る。

「今、迎えに行こうかと思ってたとこだったんですよ」

光彦が、少し残念そうな声で言った。

「・・・こっちに、ついでがあるって聞いたから」

哀はそう答えて、傍らに立つ少年を見つめる。

「ありがとう、送ってくれて」

彼は「ああ」と短く答えた。そして、自分に向けられた驚愕と好奇の視線に

戸惑いを見せる。

光彦と元太と歩美は。一体何が起きたんだろうと、周りを見回す。

そんな中で、哀はクスリと笑った。

「・・・自己紹介したら?」

「・・・なんでだよ」

小声で哀に答えている、少し不満げなその物言い。

・・・どーなってんねん、これは・・・。

平次は、おそるおそる隣りに立つ新一を覗き見る。

工藤、やんな・・・この工藤は、工藤で・・・・そして、こいつは・・・。

ぶるっと、思わず身震いする平次。

「・・・新一?ひょっとして、この子・・・」

蘭が言いかけたのを片手で制して。新一は一つ大きく息を吸い、目の前の少

年に問いかけた。

「君は、一体誰だ?」

 

 

NEXT

 


 

え〜っと。てなわけです(苦笑)

なんか、怒られそうな展開になってきて・・・剃刀入りメールとか来なかった

ら、いいんですけど・・・(^^;

 

HOME / コナンTOP