あなたと過ごすクリスマス   新一 edition

 

 

 

 

・・・潮の香り?

哀は、ふと鼻に感じた匂いに周りを見回した。

暗くてよくわからないが、どうやら海が近いらしい。

そんな哀の仕草に、隣りを歩いていた工藤新一が、心配そうに彼女の顔を覗

き込む。

「・・・寒いか?」

「平気よ」

「ちょっと待てよ・・・ほら」

新一は、自分が首に巻いていたマフラーを外し、哀の首に巻いてやる。

「少しは、ましか?」

「そうね・・・」

答えながら哀は、内心やれやれとため息をつく。

せっかく彼がくれたからつけてきた、シルバーのクロスペンダントもこれで

は見えない。

相変わらず、野暮な探偵さん・・・。

そんな彼女の思考も、当の本人の声でさえぎられた。

「着いたよ・・・ここだ」

「ここ・・・って」

2人の前に建っていたのは、少し古ぼけた建物。

年代ものらしい外灯が、その前面を淡く照らし出している。柔らかなオレン

ジの光に染まる、入り口と・・・その横の小さなクリスマスツリー。

てっぺんにある鐘と、窓の代わりに存在を主張する大きなステンドグラス。

「・・・教会?」

「ああ。入ろうぜ」

重厚な木で出来た扉をくぐり、2人は教会の中へと足を踏み入れた。

誰もいない教会の中は、冷たい空気がたまっている。

しかし、新一が壁のキャンドルに火をともすと、ぼうっと明るくなった室内

は、柔らかい光に照らされて暖かい空間へと変わる。

「ここは、去年神父さんが亡くなってな・・・後を継ぐ人がいないまま、残さ

れているんだ。本当は、取り壊されるらしかったんだが・・・さすがに持ち主

も、それはやめたらしい」

低く響く新一の声。

「勝手に入っても良かったの?」

とがめるような哀の言葉に、新一はウインクして答える。

「大丈夫。その持ち主が、この間の依頼人だったんだ。交渉済みだよ」

「・・・そう」

哀は軽く肩をすくめ、新一の後をついて前まで行く。

目の前には、説教台と十字架。十字架の向こうには、ガラス窓。

その向こうに広がるのは・・・海。

それでさっき海の匂いがしたのか、と哀はぼんやり考えた。

彼女の横で新一は、ポケットから小さなクリスマスリースを取り出す。それ

を説教台の上に残されたままの聖書の上に、そっと置く。

じっと見つめる哀に向かって、「花束の変わりだよ」と照れくさそうに彼は

笑った。

そのまま2人で、亡き神父への黙祷を捧げる。

目を開け、なんとなく微笑みあったその時・・・。

哀と新一の頭上から、澄んだ鐘の音が響いてきた。

「・・・まだ、鳴るのね・・・」

「そうだな・・・それとも今日は、特別な夜だから・・・かな?」

新一は微笑むと、じっと鐘の音に耳を傾けている哀を見つめる。

美しく成長した愛しい少女。

哀もまた、自分を見つめている新一に気づく。

・・・特別な人。

自分が運命を変えてしまった人。

それでもなお、恋わずにはいられない愛しい人。

新一は、哀の左手を取り、そっとその薬指にリングを滑らせる。

シルバーのクロスがついた、小さなリング。

息を飲んでそれを見つめていた哀は、首に巻かれたマフラーを外す。

・・・そう。それは、今つけているペンダントと揃いの品。

「似合うよ。・・・って、いつ言おうかずっと考えてたんだけどな」

苦笑する新一。哀は、そんな彼を幸せそうに見つめると、自分の身体を彼に

預ける。

ぎゅっと抱きしめてやりながら、彼女の耳元で優しく新一はささやいた。

「そのうち本物は買ってやる・・・まあ、予約権だと思えよな」

「・・・うん」

そっと唇を重ねる2人。その向こうでは、ガラス越しに雪が降り始めていた。

 

「メリークリスマス、哀・・・ずっと、一緒に居ような」

「メリークリスマス、新一・・・ええ、ずっと一緒に・・・」

 

END

 

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