あなたと過ごすクリスマス   歩美+α edition

 

 

 

 

「ごめんね、哀ちゃん!待った??」

「・・・かなり」

「んもう〜ごめんってば!許して!ね?」

哀に走りよってきた彼女の相手・・・吉田歩美は、両手を合わせて片目を閉じ

て見せた。

その、可愛らしいしぐさに哀はちょっと身を引き・・・そして苦笑する。

全く、この相変わらず無邪気で天使のような彼女には、誰も逆らえない。

それは、哀も同じ事だった。

「・・・仕方ないわねえ」

「えへ♪哀ちゃん、大好き!」

「・・・はいはい」

呆れたように歩き出した哀の腕に、歩美はぎゅっと自分の腕を絡ませる。

今日の歩美は、真っ白なセーターに赤いタータンチェックのミニスカートを

はいている。同じ赤のコートが良く似合っていて、本当に可愛らしい。

たしか、彼女をクリスマスに誘いたがっていた者もいた筈だけど・・・。

哀は、嬉しそうにニコニコしている歩美に聞いてみた。

「ところで・・・今日は、本当によかったの?クリスマスでしょ?」

「何が?」

「何がって・・・あなた、誰かさんに誘われてたんじゃなかったっけ?」

ああ、いいのいいのと歩美はあっさり手を振る。

「歩美は、哀ちゃんと遊びたかったんだもん」

「・・・ありがと」

昔から素直で、優しい親友。

哀にとっては、誰にも変えがたい大事な友達。

彼女のおかげで、ずっと救われてきたと・・・そんな、気がする。

「ところで、どこ行くの?」

「うふふ・・・な・い・しょ♪」

今日は、歩美がいい所へ連れて行ってくれると言っていた。

どこかわからないけれど、1人でないのなら、それで良かった。

・・・1人になることになんて、全く抵抗がなかったのに。

それは、今となっては遠い昔。

1人で研究し、1人で脱出し、1人で戦いつづけた。

しかし、1人の力は微々たる物だった。結局、多くの人の力を得て、あの悪

夢から逃れることが出来た。

それ以降、普通の女の子として、過ごす新しい日々は・・・ここまで、自分を

弱く変えてしまっていた。

そのことに哀はあらためて気づかされたが、それもまた素直に受け止めるこ

とができる。

突っ張っていても、何もいいことなんてない。

それを教えてくれたのは、歩美と、それから・・・。

「・・・歩美ちゃん・・・」

ふと、哀は思考を中断する。いつの間にか景色は、見慣れたものに変わって

いる。

「哀ちゃん、着いたよ?」

驚く暇もないまま。哀と歩美は、阿笠邸の前へと戻ってきていた。

何がなんだか分からない状態で、歩美に手を引っ張られ、哀はまた家の中へ

と入る。

「みんな、哀ちゃん連れてきたよ〜!!」

歩美が声をかけながらリビングに入ると、キッチンから出てきたエプロン姿

の光彦がから揚げを片手に慌てたように言う。

「歩美ちゃん、まだ少し早いですよ!」

そして、そのから揚げに手を伸ばしながら元太が言う。

「まあ、いいじゃん。この際、歩美と灰原にも手伝ってもらおーぜ」

その頭をぺしっとクリスマスツリーの星ではたき、コナンが言う。

「バーロー、お前もちゃんと手伝え」

そして、最後にはサンタクロース姿の阿笠博士が。クラッカーを手に、ガハ

ハと笑う。

「まあ、いいではないか。さあさ哀くん、今日はクリスマスパーティじゃぞ

い」

ようやくうっすら状況を把握し始めた哀に向かって、歩美はニッコリ微笑ん

で見せた。

「だって哀ちゃん、最近寂しそうだったんだもの。たまには皆で、集まるの

もいいよね?」

 

・・・そう、歩美のいうとおりだ。

寂しかったのだ、私は。

それぞれのことで手一杯になっている友人達の存在が。

少年探偵団を気取って、あんな風に走り回った日々は帰ってこないとは知っ

ていたけれど。

それでも、皆と一緒に過ごしたくて・・・哀にとっては何よりも大事な、仲間

たちと。

 

「哀ちゃん、ケーキの飾りつけ、一緒にしようよ?」

「・・・うん、そうね」

今宵は皆で、メリークリスマス。

 

END

 

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