Friends or Lovers? 3

 

 

 

 

「なんだあ、蘭?それ、男物じゃねえか」

そう問いかける小五郎に、ハンカチを手にした蘭は、プッと頬をふくら

ませた。

「いいじゃない。べつに」

「けっ・・・どうせ、あいつんだろーが。全く、毎度毎度ご苦労なことで」

毒づく小五郎だったが、その表情はどこか優しげだ。

こうやって旅行に出るたびに、帰ってこない探偵気取りの若造の為に何

かを買っている。

そんな、娘のいじらしさをどこかで感じ取っているのだ。

そんな2人の姿を、コナンは複雑な思いで眺めていた。

少し奥まった山間にある、小さな湯治場。いかにも常連らしい客が数組

泊まっているだけの、きわめて簡素な宿。それでも、日ごろの騒がしい

場所から離れられて、評判はいいらしい。

小五郎も、探偵としての名声が落ちてきていることなど何のその、昨夜

の宴会ですっかり機嫌を直したようだ。

お土産を選ぶ父娘の後ろで、コナンは足をぶらぶらとさせて座っていた。

・・・俺・・・工藤新一へのお土産、か。

蘭の部屋に、たまっている土産物の袋。そして、CDや本。すべて、新

一へと思って蘭が残しているもの。

それが、積み重なった彼女の思いを示しているかのようで、コナンは

時々胸が締め付けられるように痛くなる。

やっぱり、ハッキリ言うべきなんだろうか・・・。

でも、言うったってどうやって?工藤新一は、ここにはいないんだ・・・。

「コナンくん!これとこれ、どっちがいいと思う?」

蘭の呼びかけに、コナンは慌てて思考を中断する。

彼女の手にあるのは、小さな花をモチーフにしたイヤリング。赤いチュ

ーリップと、ピンクのガーベラ。

「そんなもん、どこでだって買えるじゃねーか」

「いーの。ここのオリジナルなんだから!」

ちゃちゃを入れる小五郎に舌を出して見せて、蘭は再びコナンのほうを

向く。

「・・・どっちでも、いいと思うよ。どっちも蘭姉ちゃんに、お似合いだ

よ?」

曖昧に笑って見せるコナンに、蘭は不満げな顔をする。

「だめよ。コナンくんに、選んで欲しいんだもん。・・・ねえ、どっちが

好き?」

じっと自分を見つめている蘭の瞳。不自然じゃない程度にそっと目をそ

らしながら、コナンは不安にとらわれる。

最近、こういうことが良くある。蘭から一緒に買い物に行こう、遊びに

行こうと誘われ、こんな風にコナンのことを見つめてくる。

・・・まるで、コナンの中の新一を見つけ出そうとしているかのように。

「どっちが好きなのか、ハッキリ言ってよ」

その言葉に、ハッと顔を上げるコナン。

どっちが、好きかって・・・?

そして、再び目に入る2つのイヤリング。

ああ、そうか。イヤリングか・・・。

「・・・ピンクのやつ」

「そう?ありがと!じゃ、こっちは園子にあげよーっと!」

嬉しそうにレジへと向かう蘭。もちろん、新一へのお土産であるハンカ

チも持っている。

そんな彼女を、コナンはいじらしく思う。

じっと、自分の帰りを待っててくれている。大切な、幼なじみ。

そして、ずっとずっと好きだった。

もし、いつか新一に戻る時が来たら。

果たして、拒絶できるのか?彼女を・・・彼女の積み重なった思いを。

あえて口に出さなくても、ずっと2人でいられると思っていた。いつま

でも、2人並んで歩くのだと思っていた。それは、きっと蘭も同じ思い

のはず。

「帰るぞ、坊主」

「あ、待ってよおじさん!」

 

俺ハ、蘭ヲ傷ツケル事ガ出来ルノカ?

 

 

 

もぞもぞ、と隣りで平次が身じろぎした。

その気配で、哀はふと雑誌から顔を上げる。壁にかかっている時計を見

ると、10時を少しまわったところだった。

「あ、やっぱり帰ったほうがええわな・・・」

少し、遠慮がちな平次の声。どうやら、時間を気にしていたらしい。

「・・・この時間じゃ、もう新幹線は無いでしょう?」

「あ、ああ。せやな・・・寝台特急ぐらいしか、無いな・・・」

さっきとはうって変わって、うつむき加減で答える平次。

哀は、そんな彼の様子をいぶかしげに見ていたが、スッと立ち上がった。

「・・・コーヒーいれなおすけど・・・いる?」

「あ、俺、ここにおってええんかなあ?」

平次は慌てて言うと、哀はコーヒーメーカーのスイッチを入れながらあ

っさり答える。

「いいもなにも、仕方がないでしょう・・・それとも、追い出してほしい

の?」

「・・・すまん」

うなだれる平次に、哀は肩をすくめる。

さっきの元気さはどこへやら・・・。

しばらくして哀がコーヒーを片手に戻ってくると、平次はうつむいたま

ま聞いた。

「なあ、お姉ちゃん・・・いつから、工藤のこと好きなん?」

「・・・答えなくちゃ、いけないかしら?」

聞き返しながらも、自分のコーヒーはブラックで。そして、平次のコー

ヒーには自然に砂糖2杯とミルクを入れる。

そんな哀のさりげないしぐさを、平次は少し辛そうな表情で見つめる。

「別に、ええよ・・・ごめん、俺が知りたいだけやねん」

哀は少し目を見開き、平次を見返す。

そして沈黙。2人は黙ったまま、コーヒーを飲んだ。

「ねえ」

今度は先に、哀の方から話しかけた。

どこか遠くを見るような表情で、コーヒーカップをコトンと机に置く彼

女。

「なんや?」

「・・・幼なじみって、どんな存在なの?」

幼なじみ。

平次にとっての、和葉。そして、新一にとっての蘭。

気づいた時には、そばにいた。遊び相手で、家族同様で。

『おおきくなったらケッコンしようね』と交わした、幼い約束。

春夏秋冬を何度も繰り返し、それでも一番近い存在。

・・・でもそれは、哀には言えなかった。

「・・・わからんわ。家族みたいなもんかな」

少しごまかして言った平次の言葉に、哀は薄く笑った。

「ふうん。・・・すごく、大事な存在なのね」

「いや、大事っていうか・・・」

慌てて訂正しようとした平次は、はっと気づく。

いつか、新一に聞いたことがある。

哀のたった一人の家族であった姉は、殺されているということを。

そのことが、彼女が組織から離れた理由であったということを。

彼女にとっての家族。それは、姉であり、一番大事な存在。

新一にとっての蘭は、一番大事な存在であると。そう言ったも同然だっ

た。

「いや、せやないって。あいつが一番大事なのは、あんさんやって」

「・・・あら。さっきとはえらく、違うじゃない?幼なじみさんに、怒ら

れるわよ?」

くすくす笑いながら、そんな風に返してくる哀。

その強がりの裏に見え隠れする、自嘲の思い。

・・・あかん。そんな顔されたら・・・。

「わかってるわ。彼の、心の中からあの人が消えることはない・・・」

そんな顔、されたら・・・。

「きっと、いつまでも・・・」

その時。

思わず哀は、息を飲む。彼女の小さな身体に回される、大きな腕。

「そんな顔、せんといてや・・・抱きしめてしまいそうになるやんか・・・」

平次はそう言いながら苦笑して、続ける。

「・・・って、もう抱きしめてしもたけどな」

ようやく驚きから覚めた哀が、冷静に問う。

「あなた、ひょっとしてロリコンの気でもあるの?」

「ないない、そんなん。ナイス突っ込みやなあ、哀ちゃん」

開き直ったのか、やけに明るくなってきた平次。哀を抱きしめたその手

は緩めずに、笑う。

「俺、あんさんのこと好きや。つくづく、そう思たわ」

「・・・それはどうも。わかったから、離してくれない?」

「・・・本気にしてへんやろ。本気にするまで、離したらへん!」

駄々をこねる平次。

どうしてこんなことになっているんだろう、と哀はため息をつく。

この人、ひょっとしてコーヒーで酔ったのかしら。

なんだかわからないまま、とりあえず離してもらうことにする。

「わかったわ。本気ね。じゃ、離して」

「・・・なんか、ごまかしてるような気がすんなあ・・・」

平次はそう言いつつも、しぶしぶ腕を外す。

そして、今度は正面からしっかり哀の瞳を見つめて言った。

「ほんまに、本気やから。俺、哀ちゃんが好きやから」

 

NEXT


 

ああ、言っちゃった。

どうしてこんなに平次が暴走したのか、私にもわからず()

さてさて、どうなることやら。ちょっと、自分でも期待。

 

さて、幼なじみ論。小さい頃に引っ越した私には、幼なじみの男の人は

いません。

だから、めちゃめちゃ想像で書いてます。

唯一、小学校低学年の頃から近所に住んでいる奴がいるのですが。

彼とは、高校から学校が違ったのでたまに出会う程度ですが、それでも

会えば立ち話ぐらいします。

1年ぐらいブランクが空いても、昨日も会っていたかのようなノリで話

せる存在。

それが、私にとっての幼なじみなのかもしれません。

 

 

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