Friends or Lovers? 4

 

 

 

 

コナンは、そっと玄関のノブを廻した。

かちゃり、という音に耳を澄ますが、大丈夫のようだ。小五郎も蘭も

旅行疲れなのか、起きる様子はなく、ぐっすり眠っているらしい。

夜の闇の中へ、そっと身体を滑らせる。そしてそのまま、コナンは走

り出した。

目指している先は1つ。彼女が・・・灰原哀がいる、阿笠邸。

不安だった。なぜかはわからないけれど、不安だった。

蘭の気持ち、哀の気持ち、自分の気持ち。

そのすべてに、ハッキリした答えを出せなくなりそうで・・・。

今はただ、哀に会いたかった。

 

阿笠邸に着いたコナンは、窓から漏れるリビングの明かりに違和感を

覚えた。

時刻はもう、11時をまわっている。もちろん、この時間まで哀や博

士が起きていることは珍しくないのだが、2人はそれぞれ自分の研究

室を持っている。この時間の研究は、そちらでおこなうことが多いは

ずなのに。

なんとなく、嫌な感じがする。

そう思ったコナンは、少し焦るようにチャイムを鳴らした。

しばらくの沈黙。やがて、「はい」という博士の返事が返ってきた。

「俺だよ、博士。新・・・コナンだよ」

「・・・え・・・」

戸惑っているかのような声。その反応にコナンが首をひねった時、玄

関がかちゃりと音を立てて開いた。

「はっ・・・!!!」

中から現れた意外な人物に、絶句するコナン。

「よう、工藤。まあ・・・はいれや」

「服部、お前なんでここに・・・!」

思わず食ってかかってくるコナンに平次は苦笑すると、ぐいっとその

手をつかんで玄関の中に引っ張りいれる。

「工藤、お前大きな声出したらあかんって。近所迷惑やんか」

「近所って、あのな、そんなことよりお前が何で・・・」

まだ何か言い募ろうとするコナンをまあまあと押さえると、平次はガ

チャリと鍵をかける。

「・・・ったく。これからって時に、帰って来んねんからな・・・」

平次の、意味深な言葉。コナンは、無言のまま彼を見上げる。

こいつ・・・何を言ってるんだ・・・?

「ま、ええか・・・」

リビングへと、すたすたと戻っていく平次。コナンは、仏頂面でそれ

について歩く。

「やっぱり、工藤やったわ」

平次はリビングへ入ると、ソファに腰掛けていた哀にそう言った。

哀は目を落としていた机から視線を動かすと、コナンの顔を見つめて

口の端を少しだけ上げる。

「・・・お帰りなさい」

「ああ、ただいま・・・」

哀のかすかな笑みに、コナンが微笑み返そうとしたのも、つかの間。

彼女の視線はまた、すいっとそらされる。

その瞳が新たに捉えたのは、じっと2人の様子を見つめていた平次。

「ね・・・チェックメイトなんだけど」

「え?うわわ〜ほんまや〜」

慌てて平次は、机に駆け寄る。机の上のチェス盤には、コナンがチャ

イムを鳴らした時まで対戦していたのであろう、駒が並べられている。

「はあ〜参った!」

どすっと哀の横に腰を下ろし、平次が大げさに天井を仰ぐと、哀はく

すりと笑う。

「これで3戦3勝・・・ね」

「・・・次は負けへんからな」

「まだやるの?無駄よ、探偵さん」

・・・何だってんだ、これは・・・。

コナンは、目の前で繰り広げられる会話に唖然となる。

何で服部が、米花町にいるんだ?いや、何でこの家にいるんだ?

この、初対面に近いはずの2人の・・・この、打ち解けた態度は一体・・・。

「あかん、あかん。運気を取り戻す為に、なんか飲も」

笑いながら立ち上がった平次を睨みつけ、コナンは不機嫌な声で尋ね

る。

「オイ。何してんだよ、お前」

平次は答えずに、にやっと笑う。

その反応に、コナンは怒りで顔を真っ赤にする。思わず怒鳴りつけそ

うになった時。

「・・・あなたを、待ってたのよ」

そんなコナンを諌めるかのような、哀の静かな声。

「俺を・・・?」

「そう。話があるんだって」

「・・・ふーん・・・」

じゃ、なんだってこんなに仲良く話してんだよ、お前らは・・・。

そう言いたかったものの、さすがにそれは言えず、コナンは今まで平

次が座っていた場所・・・すなわち哀の横を陣取って、どすんと腰掛ける。

「博士は?」

「まだだけど」

「まだあ?だって、さっきインターホン越しに声がしたぜ?」

コナンの問いには、3人分のコーヒーをいれてきた平次が答える。

「あれはな、お前の蝶ネクタイと一緒や。自動変声機や」

「自動変声機って、何でそんなもの・・・」

不思議そうな顔をするコナンに、平次はあきれた声で言う。

「当たり前やん、そんなん。こんな夜中に、哀ちゃんの可愛い声で応

答してみい?よからぬことを考える奴がいても、おかしないやろが」

・・・哀ちゃん、だと?

・・・可愛い、だと?

平然とそんな風に言う平次を、コナンはあっけに取られて見つめてし

まう。

が、しかし。あらためて沸々と、彼の中に怒りの感情が湧き上がって

くる。

・・・じゃあ、何か?この屋敷の中、この時間に2人きりだったってこと

か?

「ほら、哀ちゃん。熱いで、気いつけて飲みや」

「ありがと。いただくわ」

平次の、今まで聞いたことがないような優しい声。哀にそそがれてい

る、少し微妙な色合いを帯びたまなざし。

・・・ちょっと待て。ひょっとして、服部、お前・・・。

コナンは、すぐにその意味を悟る。が、到底信じられないこと。

呆然と2人の様子を見ていたコナンは、平次がコーヒーを飲むのも忘

れたように、じっと哀を見つめていることに耐えられなくなって、叫

んだ。

「服部!」

「・・・なんや、さっきから・・・」

うっとおしそうな平次に、コナンは深く息を吸い、押さえた低い声で

言う。

「お前、俺に用事があるんだろ?隣り、行こうぜ」

コナンの言う隣りとは、阿笠邸の隣りにある工藤家のこと。

心底、怒りをこらえているかのようなコナンの瞳に、平次は内心息を

飲む。

・・・こいつ、ほんまに怒った顔しとる・・・。ちょお、やりすぎた、か・・・。

せやけど、と再び哀を見る平次。

目の前で繰り広げられている男2人の争いにも、さして興味がなさそ

うな顔でコーヒーを飲んでいる少女。

その、硬い殻の内側に見つけた、壊れそうな彼女の心。

・・・悪いけど。俺も、譲られへんかもな。

「せやな。行こか」

少し笑みを見せて言う平次。

コナンは、今度は自分の番とばかりに哀に向かって言う。

「灰原、俺が帰ったらちゃんと戸締りしろよ?」

「・・・ハイハイ」

わかっている、とばかりに肩をすくめてみせる哀。

すると、平次も哀に向かって言う。

「哀ちゃん、しばらく離れるけど、俺のこと忘れんとってな〜」

「・・・善処するわ」

今度は呆れたような顔を一瞬見せたものの、微笑して答える哀。

その反応にコナンは思いっきり不機嫌になり、平次は飛びっきりの笑

顔になった。

 

コナンは平次を押すようにして阿笠邸の玄関を出ると、無言のまま工

藤家に向かう。

いつも持っている鍵でドアを開けると、少しホコリっぽい空気が2人

の鼻腔をくすぐる。

「・・・入れよ」

「おじゃましまーす」

リビングに点けられる、必要最低限の明かり。もちろん、黒の組織を

意識してのことであるが、その薄暗い雰囲気が男2人の心情を表して

いるかのようだ。

とりあえず、2人はリビングのソファに腰掛ける。

「何か言いたそうな、顔やな?」

小さな明かりの下、平次はコナンの顔をうかがうと、からかうように

言った。

コナンは、無言のままうつむいていて、答えない。

その小さな身体に、トゲトゲした空気をまとって。

平次に、聞きたいことはいっぱいある。

話とは何なのか、なぜ阿笠邸にいたのか。

いや、違う。

1番聞きたいのは、なぜあんな顔つきで哀のことを見つめているの

か・・・。

「お前が言わへんのやったら、俺から聞いてもええか?」

「・・・なんだよ」

平次は、すっと今までの笑みを消して、真剣な顔つきになった。

「お前、哀ちゃんのことどう思ってるんや?」

ある程度予想していた問いに、コナンは顔を上げる。

平次の、挑みかかるような視線。

そして彼は、一語一語区切ってコナンに言った。

「どっちなんや・・・Friends or Lovers?」

 

to be continue・・・


 

コナンVS平次のはじまり、はじまり〜。

・・・っていうか、やっとタイトルがでてきたし()

今回の平次くんは少し、イケズ(意地悪のこと。by関西弁)ですね

え。でもまあ、次回は何とか最終回かと思うので、せいぜいがんばっ

てもらおうと。

書いてるうちに、どんどんコナンをいじめるのが楽しくなってきてし

まったので、少し反省()

 

HOME / コナンTOP