Friends or Lovers? 2

 

   

 

 

『・・・せやけど、あんさんの想いっちゅうもんはなかなか難しいんとち

ゃうかって、俺は思うねん』

わかってる。

『いつか、あいつを元に戻すつもりなんやったら。・・・もう、やめとい

た方がええんとちゃうか・・・?』

それも、わかってる。

『友達で止めとかんと、傷つくんはあんさんやで・・・?』

わかってる・・・わかってるもの、そんなこと・・・。

 

平次の声が、哀の頭の中をぐるぐる回る。

想いが通じたあの日から。ずっと、ずっと抱えてきた不安。

あらためて第3者に言われると、結構こたえるわね・・・。

哀は、うつぶせていたベットからようやく体を起こした。

このまま、彼を好きでいてもいいのか。

まだ、コナンが迷っているのを知っている。

あの人への想い・・・それが、残っていることを知っている。

でも、どうしても止められなかった・・・。

哀は軽くため息をつくと、立ち上がった。

ふと、さっきまでためらいがちに繰り返されていたノックの音が、途

切れていることに気づく。

・・・帰ったのかしら。

哀は、かちゃりとドアノブを廻すと、顔だけドアの外に出した。

あたりに、平次がいる様子は無い。

拍子抜けしつつも階段を上がりかけて・・・哀ははたと立ち止まる。

・・・何の匂い?

ひくひくと動かす鼻にただよって来るのは、香ばしい匂い。

少し足を速めて階段を駆け上がり、キッチンへと急ぐ。

哀はそこで、エプロン姿の平次を見つけた。

「おっ。出てきてくれたんか〜・・・よかった、まあ、座ってーや」

「・・・貴方、何してるの?」

いぶかしげに問う哀に、平次は少し照れ笑いを浮かべながら言う。

「いや、さっきは・・・すまんかったな」

黙って哀が平次の顔を見つめていると、彼は耐えられなくなったかの

ようにがばっとその場に土下座して見せた。

「ほんっまに、すまんかった!!俺、あんたのこといじめるつもりは

無かったんや・・・。どうか、堪忍してくれ!!」

エプロン姿で土下座する、大の男。

呆れた、と思いつつも苦笑してしまう哀。

「・・・別に。本当のことだから」

そっけなく言う哀に、平次は頭を床にすりつけて再び謝る。

「そんなん、言わんといてくれ!全部、俺の失言やから!!」

「もう、いいわよ・・・それより、これ何?」

哀は、なんだか気恥ずかしくなり話をそらす。

テーブルコンロの上には、丸い穴のあいた鉄板と、丸い物体。

平次は、床に正座したまま答える。

「たこ焼きや」

「たこ焼き?・・・たこ焼きって、家で作れるものなの?」

「何言うてんのや、お姉ちゃん!」

哀の問いに、平次は慌てて立ち上がる。そして鉄串を握ると、にかっ

と笑って見せた。

「よう、見ときや」

鉄串が、くるくると鉄板上のたこ焼きをひっくり返していく。あっと

いう間にまん丸になっていくその様子を、哀は物珍しそうに眺めた。

「へえ・・・うまいものね」

「あったりまえやがな!関西の人間は、一家に1台たこ焼き機を持っ

てんねんで?出来て当然やっちゅうねん」

「ふうん・・・でも、この鉄板は?」

「ああ、これは俺が阿笠のじーさんにやったもんや。全然さらぴんや

んけ、使てへんのう・・・」

ぶつぶつ言いながらも、平次の手は止まらない。

「お姉ちゃん、ご飯よそうてや。メシにすんで」

「メシ?」

哀は、不思議そうに問い返す。ご飯は炊いてあるが、おかずも何も作

っていない。

・・・ひょっとして・・・。

「ねえ、貴方・・・まさか、これがおかずだって言うんじゃないでしょう

ね?」

哀が指差したのは、大量に出来つつあるたこ焼き。

「おう、そうや。あ、ビールあるか?酒のあてにも、ぴったりや」

「貴方、未成年でしょう?・・・っていうか、これがおかず・・・?」

「大阪人は、お好み焼きで飯が食えるんや。たこ焼きかって、立派な

おかずや」

「・・・でも、炭水化物のおかずが炭水化物って・・・」

訳のわからないことを言う、とばかりに哀が平次をまじまじと見つめ

ると、彼は何を言ってるんだかと首を振る。

「わかってへんなあ・・・。まあ、ええわ。とにかく、食うで食うで!」

平次は、哀を自分の向かい側に座らせ、焼きたてのたこ焼きを皿に入

れてやる。

「味ついてるからな!食べてや〜」

勧められるまま、哀はたこ焼きを口に運ぶ。アツアツのたこ焼きを、

少しはふはふしながら食べる。

あら・・・意外。

以前、探偵団の皆で食べた屋台のたこ焼きとは違い、ソースも何もつ

いていないシンプルな味。それでも、濃厚なだしの味が、しっかりと

ついていて美味だった。

ちらりと目線を上げると、そこには期待に満ちた平次の顔。

このまま、美味しいといってしまうのは少し悔しい気もするけれど、

結局哀はうなずいてみせた。

「美味しいわ」

「・・・そうか」

平次も、ほっとした様に笑う。彼なりの、反省の気持ちはどうやら通

じたようだ。

もぐもぐと美味しそうに食べる哀の姿に、平次はなんだか気持ちが暖

かくなっていくのを感じた。

最初会った時は、冷たそうな少女だと思った。元は黒の組織の人間で、

工藤新一を小さくした張本人だと知り、強い否定感情も生まれた。

それでも、学園祭の時に新一を助けた彼女。そして・・・いつのまにか、

新一の心に住みついたらしい彼女。

『工藤君、ほんまに戻らへんのかなあ?平次、確かめてきてーな・・・

蘭ちゃん、可哀想やわ』

和葉の言葉に、もっともだと思った。相談は受けていたのでうすうす

知ってはいたが、本当に心が動いたのか、新一に会って確かめるつも

りだった。

しかし・・・。

 

「・・・美味しかったわ。ありがとう」

「いやいや、かまんへんがな。俺も、喜んでくれて嬉しいわあ」

平次と哀は、食後のコーヒーを飲みながら、ソファに並んで座ってい

た。

少しぼんやりと、何かを考えているような哀の表情。そんな、無防備

な彼女の横顔に、平次は心ならずも見とれてしまう。

悪い女だと、思っていた。すべての元凶が、この女にあると思ってい

た。

しかし。実際会ってみると、ほんの小さな少女に見える。もちろん、

本当の年は平次より上らしいし、話す言葉も知的でそれなりの知識の

あるものだと分かる。

その小さな身体で、誰よりも大きな重荷を背負っている彼女。どこま

でも、まっすぐな視線で見返してくる強い心。そして、時々見せる切

なそうな表情。

・・・守ったりたいなあ。

そう口走りそうになり、思わず視線を哀からそらす平次。

ドキドキする心を押さえつつ、コーヒーを飲む。

「・・・ねえ、まだ帰らなくていいの?」

哀の問いかけに、平次は少し乾いた笑いを返して言う。

「はは・・・工藤のとこへ泊めてもらうつもりやってんけどな・・・どない

しょ・・・」

「帰ってくるの遅くなるって言ってたわよ?それまで、ここで待つ?」

そばにあった雑誌をめくりながら、どうでもいいような感じで答える

哀。

それでも、そこからにじみ出る彼女の優しさを平次は感じた。

・・・あかん。なんか、俺おかしい。

平次は、自分の頬が火照ってくるのを感じた。

・・・何なんや、この感情は・・・。ひょっとして、俺は・・・?

 

NEXT


 

さて。こういう展開に、なりました()

うーん、もう少し続きそうです。後、2話ぐらいかなあ・・・。

 

ちなみに最初の平次と哀ちゃんの会話は、先日某チャットにて盛り上

がった話を元にしています。典型的関西人と、それ以外の方との会話

ですね。

いや、たこ焼きがおかずなのは私だけかもしれませんが()。でも、

お好み焼きはおかずになるし、たこ焼き機が一家に一台というのも本

当。多分。

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