Friends or Lovers?

 

 

本をパタン、と閉じて哀はため息をついた。

今、この家には哀一人だった。阿笠博士は、発明学会とやらいう怪しげ

な集まりに出かけている。

・・・久しぶりの、1人の休みね・・・。

コーヒーメーカーを取り出し、コーヒー豆をミルにいれながら哀はぼん

やりと考える。

少年探偵団の面々は、皆どこかへ家族と出かけているらしい。

今は、宿題も無い春休み。ぽかぽか陽気で、行楽には絶好の季節だ。

そして、コナンも。彼も、旅行に出かけている。

『旅行?』

『・・・ああ。なんかな・・・最近、おっちゃんの評判が落ちているらしくて

さ・・・』

『・・・無理ないわね。あなたが、一緒にいないんだもの』

『まあな・・・』

少し、困った顔のコナンがそう言っていた。

それなりに落ち込んで、酒の量が増えた小五郎を心配して、蘭が旅行を

計画したらしい。

温泉につかって、のんびりやろうというものだろう。

当然、蘭はコナンも一緒に連れて行くと言い張り・・・。

・・・仕方ないわね。小学生なんだもの。

旅行、なんて聞けば嬉しがって当然だろう。コナンは、断ることなんて

できるわけが無い。

ポコポコと、コーヒーメーカーが泡を立て始めた。

哀はマグカップを2つ用意しかけて・・・思わず、苦笑する。

だから、工藤くんはいないんだってば。

彼のいない休日。1人の休日。

それは、思った以上に・・・。

ピンポーン。

・・・誰かしら?

哀はマグカップを置くと、少し早足で玄関に出る。スコープから外を覗

くと、西の名探偵がそこには立っていた。

・・・珍しいお客だこと。

ガチャ、と哀がドアを開けると、ノー天気な声が頭上から降ってきた。

「よう!!!阿笠のじーさん・・・って、あれ?」

「・・・」

「なんやあ、お姉ちゃんかいな。元気か?」

平次はしゃがみこんで哀と目線を合わすと、ニッコリ笑った。

「あなたも、相変わらず・・・」

「そうかそうか、元気か!そりゃよかった!」

ぐりぐりと、哀の頭をなでる平次。その大きな手を、哀はうんざりとい

った感じでスッと避ける。

「あ、すまんすまん。お姉ちゃんは、ホンマは大きいんやったな」

「大きいって・・・貴方、何しに来たの?」

アハハと陽気に笑う平次に、哀は呆れた声で訊ねる。

「いや、工藤に会いに来たんやけどな。あいつ、今日からおらへんらし

いやん?このまま大阪に帰んのも、つまらん思てな」

「だからって、別にここに来なくても・・・」

「・・・それにな」

平次は、微妙に笑いを押さえると哀の顔を見た。

「ちょっと、お姉ちゃんと話がしとうてな」

哀は少しだけ目を見開いたが、しばらく平次の顔を見上げた後で言った。

「・・・入れば?コーヒー、沸いたから」

 

平次をダイニングに通すと、哀はコーヒーを手早くいれ、カップを平次

に渡す。そして、自分もソファに腰掛ける。

「で?話って、何なの?」

「ブッ。ちょお待ってーや、お姉ちゃん。えらい気ぃ早い子やなあ、ホ

ンマ」

思わずコーヒーを吹き出した平次に、哀はタオルを渡す。

「おおきに。・・・まあ、つまらんことやねんけどな」

そう言いながら、平次はなかなか話そうとしない。

黙ってコーヒーを飲む姿を、じっと見つめる哀。平次は居心地悪そうに

視線を動かしていたが、哀からは顔をそらしたままで言う。

「あんなあ・・・」

「何?」

「・・・めっちゃ、照れるねんけど・・・」

はあ、と哀はため息をつく。

「・・・気になるでしょう?話がある、なんて言われたら」

「まあ、そやな・・・」

平次は思い切ったかのようにコーヒーをぐっと飲み干すと、カップをテ

ーブルにおいて話し始めた。

「あんなあ・・・和葉が、気にしてんのや・・・」

「和葉?」

「えーっと、俺の幼なじみや。工藤にとっての、蘭ちゃんみたいな。ほ

ら、帝丹高校の学園祭にも来とったやろ?」

ああ、あの人、と少しそっけなくつぶやく哀。

「その、和葉がやな・・・なんか、蘭ちゃんがおかしいって言ってんのや」

「・・・おかしいって?」

「うん・・・なんか、またあのチビが工藤なんと違うかって思てるみたい

やって・・・」

苦々しげな表情で言う平次に、哀はかぶりを振る。

「まさか。だって、あの時・・・」

「せやねん。コナンと、工藤があん時は同時に存在した。そんなわけ無

いって、わかってるはずやのにな・・・」

なぜ・・・なぜ、あの人がそんな・・・?

「和葉は、言うとってん。多分、蘭ちゃんは寂しいんとちゃうかって・・・」

平次の言葉に、哀は腕組みをしてソファの背にもたれる。

「・・・それで?あなたが、プレッシャーをかけに来たの?」

彼女の言葉の拍子が変わったことに気づき、平次はハッと顔を上げた。

その目を見返した哀は、冷ややかな表情に自嘲めいた笑みを浮かべた。

「早く、解毒剤を作れって」

「いや、せやのーて・・・」

哀は、話は終わったとばかりに立ち上がると、くるっと平次に背を向け

た。

「・・・帰ってくれる?すぐにでも、解毒剤の研究にかかるから。貴方と、

彼の大切な幼なじみの為に・・・ね」

「あのなあ、せやから俺の話を・・・」

聞く耳は持たない、とばかりに哀はダイニングルームを出て行く。その

後を、平次が追っかける。

階段をトントンと下りていく哀に、平次が後ろから必死に話しかける。

「なあ、俺の言い方が悪かったって。せやのーてな・・・」

バタン!

平次の目の前で、地下室のドアが閉められた。

「なあ、おい、お姉ちゃん?!」

かちゃり、と鍵を閉める音。平次は、やれやれとばかりにその場にへた

り込む。

ひゃー・・・参ったなあ。

そんなつもりやなかったんや、とつぶやく彼。とはいえ、思った以上に

自分の言葉があの子を傷つけたらしいというのは、理解していた。

部屋の中からは、何も聞こえない。

「なあ・・・頼むし、聞いてーな・・・」

平次は、哀が聞いているのかわからないまま、話し始めた。

「あのな、俺は工藤とアンタが好きおうてんのは知ってんねん。せやけ

ど、工藤と蘭ちゃんが好きおうてたんも知ってんねん。・・・正直、俺も

混乱してんにゃろな・・・」

まだ、哀の存在を知らない頃。大阪にでてきたコナンと蘭は、平次にと

って似合いのカップルに思われた。最初、蘭をなぜか敬遠していた和葉

も、すぐに彼女とは仲良くなった。

何も、問題ないように思っていた。だけど・・・。

「その、な。余計なお世話やと思う。せやけど、あんさんの想いっちゅ

うもんはなかなか難しいんとちゃうかって、俺は思うねん」

ことっ、と部屋の中で音がした。ドアの向こうで、哀が自分の言葉を息

をひそめて聞いているような気がして、平次は苦しそうに続ける。

「いつか・・・いつか、あいつを元に戻すつもりなんやったら。・・・もう、

やめといた方がええんとちゃうか・・・?友達で止めとかんと、傷つくん

はあんさんやで・・・?」

答えの無い、ドアの向こうを平次は黙って見つめる。

コン、コンと軽くノックもしてみる。しかし、やっぱり答えは無い。

ふいに、その時電話が鳴り出した。

重苦しげな雰囲気に、場違いなベルの音が軽やかに邸内に響く。

哀はどうやら受話器を取らなかったようで、留守番電話の応答が流れ出

した。その後に、阿笠博士の声が聞こえてきた。

『哀君、おらんのか。今日はな、悪いが旧友と飲みに行くんで遅くなる

ぞぃ。帰るのは、明日になるかも知れんから、戸締りだけして寝るよう

にな。土産は、ちゃんと買って帰るから、勘弁しておくれ。んじゃあな』

哀を思いやった、博士のメッセージ。天涯孤独、と聞いた彼女の今の唯

一の保護者である。

「・・・聞いたか?」

優しく問いかけてみるが、やはり返事は無い。

平次は困りきって、ドアを背にずるずると座り込む。

はぁ、やっぱりめっちゃ余計なお世話やんけ・・・。俺、何やってんのや

ろ・・・。

部屋は、静まり返っていた。

 

NEXT

 


 

さて。初の、続きもんです。思った以上に話が長くなりそうなので、続

けてみました。

平次くん、再登場!しかし、嫌な役かも〜()

果たして、彼は何を考えているのか?・・・ちょっと、私にも謎。

だって、こんな話じゃなかったはずなので・・・()

べったべたの、関西弁しゃべってます。

通訳が必要な方は、BBSでどうぞ()

 

 

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