明日へ…第二部19

遠くから何かわめきながら、よろよろと近付いてくる人影が見える。見覚えのある服を着ている。
確かあれは街角で説法していた教団の服だ。サトルもあの教団の服を着ていたはずだ。
そんなことを考えながら僕はその男を見ていた。
男は僕の近くまで来て、力尽きたように倒れ込んだ。
「大丈夫か」と、その顔を覗き込むと、他でもない、サトルそのものだった。見る影もなくやつれ果てているが、間違いなくサトルだ。
「生きてたのか」
感動の再会に思わず声を上げたが、サトルには僕が分からないようだった。
彼はしきりに何かつぶやいている。口許に耳を近付けてみた。
「タイムマシン、タイムマシンだ。今日、今日来るんだ。だめだ」
彼はそんな言葉を繰り返している。
と、突然、僕の腕を強く握りしめ、「頼む、タイムマシンを…」と叫び、うなだれた。
気を失ったようだ。僕はサトルの言葉を考えていた。タイムマシン…。

その時、カッと遠くの丘の上に閃光が走った。轟音がそれに続いた。それですべてが理解できた。
僕は肉片の詰まった包みを捨てて、丘へ走った。
この惨状を見せてはいけない。この映像を見てから、人々は希望と一緒に正気も失った。
少しずつ、しかし、確実に人々は人間性を失い始め、やがて人間であることをやめてしまった。
我々はこのまま滅亡するのか—
滅んでゆくしか道はないのか—
そんな思いが未来を狂わせたのだ。この世界を決して見せてはいけない。僕は走った。間に合ってくれ。

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