目が覚めたとき、僕は水溜りの中、雨に打たれて横たわっていた。
トモミのすすり泣く声が聞こえる。
うずく頭を押さえながらゆっくりと起き上がり、泣き声のする方を見ると、どこからか漏れてくる薄暗い明かりの中、服をずたずたに引き裂かれたトモミがうずくまっていた。
「こっちに来ないで! 私を見ないで!」
悲鳴にも似た彼女の叫び声に、思わず足が止まる。しばらく呆然と立ち尽くしていた。
いったいどうすればいいのだろう。
僕は羽織っていた上着を彼女の足下にそっと置き、無言でその場を立ち去った。
駅に着き、切符を買おうとポケットに手をのばした。いつも財布を入れてある尻ポケットに財布はなかった。きっと気絶している間に抜き取られたのだろう。
ここから家まではかなり遠いが、歩いて帰ることにした。
現金やカード、学生証など、大切なものが入った財布だったが、悔しさも腹立たしさも、何も感じなかった。
いつの間にか雨はやみ、生暖かい風が頬をなでていた。
いつの間にか物騒な世の中になってしまった。
だんだんと世の中から秩序が消えていく。
僕の耳には、いつまでも彼女のすすり泣く声が響いていた。
その日から僕は学校へ行くのをやめてしまった。
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