物理学者を中心とする研究団の研鑚により、「時間」の謎が解明された。一介の大学生である僕には詳しいことは分からない。 研究の成果を利用して、タイムマシンが造られた。来月、それが五年後へとタイムスリップする。向こうでは当然、いつ、どこに着くかを知っているはずなので、きっと大歓迎されるだろう。
ところが、意に反して、未来の世界には誰もいない。街は廃墟と化し、あちこちに腐乱した死体や白骨がごろごろしている。操縦士は世界各国へと電波を飛ばしてみるが、反応はない。あきらめて帰ろうとし、マシンを動かす。 と、その時、誰かがタイムマシンの到着した丘のふもとから駆け上がって来るのが見えた。が、マシンはすでに帰還準備に入っており、止めることができなくなってしまっている。振動を増すマシンから見える映像は、かなりぶれて見えにくいが、マシンが時空の壁を越えようとするその一瞬、マシンの振動は止まった。その時、その男の顔がはっきりと画面いっぱいに映し出された。髪も髭も伸び放題で、見るからに汚らしい。現在の街中で時折見かける浮浪者の姿よりはるかにひどい。片手に鉄パイプらしき棒を握り締めている。鬼気迫る表情で、目もとには思わず身震いするほどの鈍い光を漂わせている。奈落のそこから姿を現した悪魔のような風貌だ。とてつもなく鋭い狂気と殺気をみなぎらせている。しかし、僕にはその男が底知れぬ悲しみを抱いているように感じられた。 男の叫び声がかすかに聞こえる。 |
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