旅は道連れ 世は情け

12
 僕とおねえは結局電車を降りることなく、富山駅まで戻ってきた。あれからほどなく元気を取り戻したおねえは、窓を開けて、海の匂いとウミネコの声を堪能していた。それで満足したらしい。
「で、これからどうする?」
 駅の雑踏の中、僕はおねえに尋ねた。
 もう昼だ。今日中に帰るかどうか決めてくれないと困る。朝が早かった分、おなかも空いている。
 おねえはさっぱりしたような顔で僕を見た。
「帰ろっか。切符もあるしね。あんまり家をあけてると、ユズルの親も心配するでしょ」
 それは僕の親じゃなくておねえの親の方じゃないだろうか。
「結局たいした観光はしなかったなあ」
 僕は思わずぼやいてしまった。思い返せば、なんだか観光というよりは、来てみました程度だった。 なんとなくもったいない気もする。
「あら、もう一泊したいの?」
「・・・・・・やめときます」
 いろいろな意味で、それは危険だ。
 ポケットの中で、また携帯が騒ぎ出した。
「電話だ。まさか・・・・・・」
 取り出してみれば案の定、また彼氏からの電話だった。意外としつこい。それだけの熱意を別の方面に向けていれば、もうちょっとなんとかなっただろうに。
 おねえに電話を差し出すと、首を振って拒絶している。ほんとにもう吹っ切れたようだ。
 僕は電話にでることなく、携帯の電源を切った。何を話すより、それが一番いいように思えた。
 おとなしくなった携帯をポケットにつっこむと、おねえのカバンを持ち上げる。今となっては当たり前のようになっているけれど、少しだけ、変えてみたくなった。
「ほら、行くよ」
 おねえに言われるより先に、僕はホームへと歩き出す。置いていかれたおねえは、一瞬の間ののち、慌てて追いかけてきた。
「切符も持ってないくせにどこ行くのよ」
「このかばんに入ってるだろ。早く来ないと置いてくよ」
「なっ、女性のカバンを勝手に開けるもんじゃないわよ!」
 ぶんぶんと飛んでくるこぶしをよけつつも、僕はなんだか楽しかった。
 こういう旅行も、たまには悪くない、かな。

                              終
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