「ホライズン」 藤たまき 徳間書店 ISBN 4-19-960195-3 本体価格533円
「愛情」に関しての物語。何よりも、書き手の真摯さが痛いほど伝わってくる。
そしてこの、独特の物語世界。なんて言ったらいいのか・・いやなんもいえん・・。
最後の章で、父親と残された手紙によって向きあう場面があるのですが、もう・・(涙涙)
すごいなぁこの人の表現は。もうほんとすごいよ。
作中こういう表現があって。
「僕は人でないものになり羽がはえて飛んでいく
汚い自由なものになって初めて走り出し自分を見つける」
この人の言語センスってどーなってんだ・・あーもう脱帽。
もうあらすじとか一切書きません。とにかく読んで下さいというしかない。
このお話は、作者の「シーナの精霊日記」のサイドストーリーのようになってるの
ですが、 「シーナ」の本編で本書の主人公はどういう末路をたどるのかもう
わかっちゃってるんですよ。
だから本編とあわせて読むといっそう感慨深い。で、もちろん単体としても十分
お話として成立しています。また、こんな筋の話を書いておいて作者はあとがきで
「人々にはすべからく死んで欲しくないという私の趣味の反映の結果でもあります」
とかいてるんですよねえ・・この言葉はこの本を読んでから読むと非常に興味深い
言葉となります。ふーむ・・。
あー・・・誰かこれみて読んでみてくれるといいなあ・・一人でも多くの人が・・。
ってこの支離滅裂な、紹介文ともいえない文章では伝えられないねこの本のよさは。
はぁぁ。ジャンルも特殊な部類に入るので、
(しかも文章が多い・言い回しが独特)
読みづらいと思う人もいると思うんですが、読んでみて欲しいな、と思う1冊でした。
2002.09.03
「公安捜査」 浜田文人 角川ハルキ・ノベルス ISBN 4-89456-251-0
本体価格1276円
図書館返却棚にて発見。わかりやすーいタイトル借りをしてみまちた・・。
キーワードは警察内部での汚職構造、外部業者との癒着、北への闇送金、
地下銀行、警察と2つの公安のそれぞれの対立・・むーん、
私の心の琴線をゆさぶっとるのぉ・・ ゆさゆさ。
惨殺された被害者は、その背景から北への不正送金疑惑のかかっていた
容疑者でもあった。時を前後して被害者との癒着がリークされていた警察内部の
人間が次々と殺されていく。
警察内部の不正疑惑と殺人の両方の線から捜査を進める捜査本部の児島と、
国家の財政を脅かす不正送金疑惑の一大捜査に乗り出した公安の一匹狼・蛍橋。
目的も着地点も異なる捜査の過程が交差する時、事件は意外な展開を———!
・・・ってかんじで煽ってみたりして。あらすじはざっとこんなもんです。
さーて。警察側と公安側の2つの視点から捜査が展開されるというのはなかなか
おもしろいアプローチの仕方なので、期待が高まるところなのですが・・
いかんせん文章がこなれていない印象が。これ、デビュー作なんですね。
視点が整頓しきれていないので、散漫な印象を受けます。点と線、と言った感じに
うまく物事が集約していく・・という風に綺麗にはなっていなかったような。
また、真犯人と動機についても、ちょっと腑に落ちない・・。惨殺するまでの動機、
という風には受け取れないのですよね。とってつけたような感じなのです。
あと、表現が独特・・というか。「思う」→「想う」 「聞く」→「聴く」
「笑う」も違う漢字使ってたし・・(でないんだけど)文内で何か違う意味を
持たせたい時に、当て字のように使う用法が常用と化しているところが、
なんとなく気になりました。
そして最大にひっかかったのは・・・
「頭の片隅に」など、「頭」を使う形容の文章、の類がほぼ全て!
「頭」→「脳味噌」に変換されてるのです!「脳味噌の片隅に」とか。
これが多かったぁー。
こんなん、あげ足とりのように言及することではないのですが、そのへんが個人的に
非常に引っかかって読みにくかったのです。私だけかな・・?
まあ、色々気になるところはあるのですが、人物造詣は魅力的だし、
こなれてきたら面白いお話を書いてくださるのでは・・と思わせてくれます。
どうもこれ、続編が出ているようなので、それも読んでみます。
2作目でこの作家さんをまた読んでいくかどうかは決まる、と思います。ふむむ。
2002.09.09
「陰の季節」 横山秀夫 文春文庫 ISBN 4-16-765901-8 本体価格448円
高村薫が「マークスの山」を出した時に「全く新しい警察小説だ」と称されたのは
まだ記憶に新しいところだが、この小説こそ全く新しい警察小説と言えるのでは
ないだろうか。
だ・・だって!これ警察は警察でも管理部門の人しか出てこないんだよ!
刑事が出てきて捜査する、と言う筋ではないのね最初っから。
表題作からして警務課の人事(!)問題という。ほか3篇も秘書課、監察課の人たちが
主人公。警察内部の捜査(?)など、題材は地味なんですが、目の付け所が違う!
いやー目からウロコどころかエラが落ちそうですよ。
抑え目の文章も読みやすく、ほんと満足。いや、警察小説をたて続けに読んだだけに
色々と思うところがあるんですが・・
題材の派手地味ってのはやっぱり関係ないんだなあ、と。
今回のこれは着眼点が優れているのと、作者の筆力によってかなりおもしろい作品に
仕上がっています。ふーむ満足。
個人的には表題作の主人公の二渡さん(「エース」ね!全編通して登場します)
にもっと出てきてほしいな。そのお友達の前島さんにも・・続く短篇集「動機」
(これは何か賞をとってたはず・・)も評判が非常によろしいので、
こちらも読んでみたいと思います。
2002.09.15
「売り言葉」 野田秀樹 〜「せりふの時代」8月号に収録〜
・・・これは戯曲の感想。(ちょっと反則技?番外編?)
私はこの雑誌が小学館から出てるなんて初めて知った。
メジャーなところから出てるのね・・。
さて、この作品。
彫刻家・高村光太郎と妻・智恵子との愛を歌った名作詩集『智恵子抄』。
美しく、澄んだ言葉で綴られた詩の数々は、二人の愛の姿を忠実に映しだして
いるのだろうか。
光太郎との出逢いから、自身の死までを一人芝居で物語りながら、智恵子が
『智恵子抄』へ突きつけた“売り言葉”とは。 〜せりふの時代8月号より〜
あらすじのとおり、智恵子抄を題材にとっているこの作品。
私も思ってたよ・・石炭くらい自分でたけっつーの!と。いや、それはおいといて・・
なるほど、この著名な作品を智恵子側の視点を定めてから裏読みするとこうなる
という・・ 面白い書きかたするなぁ。
わかる?私は「貧に」貧しさに「おどろくような女」であってはいけないの。
そう光太郎が書いているんですもの。
76P
とかね。この作品が世にどう評価されてるかは知らないけど、私は面白かった。
やっぱ野田さんの作品は面白い。(でも「・・・犬!」のあたりとか松尾スズキっぽい?)
いつも思うのだが、この人はどの作品でもハッとさせられるような美しい表現、言葉を
出してくる。そのたびに、なんで皆おんなじ日本語使ってお話かくのに、
ちょっとの配列の違いでこんなに美しい表現が?と思わされてしまう。
戯曲は慣れてないとなかなか読む気がおこらないと思うんだけど、
読むとなかなかはまるのでオススメです。
野田さんので言えば「解散後全劇作」なんて取っ掛かりにはいい。
こんな高水準の戯曲がたくさん1冊に!と感動するぜ。といいつつまだ収録の
2作品しか読んでない私・・だって当分これだけの作品集でないと思うから、
勿体無くて・・。ちびちびと・・。
しかしアレだ、ホン読むだけじゃなくてやっぱ舞台は生を見ないとね(実も蓋もない。
ちなみにこれは大竹しのぶ主演でした。うわーはまりそう・・。)
でもこれ大阪こなかったんだよ!!てかNODAMAPは大阪にはあんまり
来てくれない!近鉄劇場もOMSもなくなってしまうし、大阪の劇文化はどうなって
しまうんだ—!
いや、これは本当に憂うべき深刻な事態だ。NODAMAPも必ず近鉄劇場だったしな・・
やばい。やばいぞ・・。(と憂いつつ退場)
本当に、私はこんなにも綺麗に死ぬことが出来るのかしら。
87P
2002.09.20
「ES」1〜2巻 惣領冬実 講談社モーニングKC 本体価格各505円
総領冬実といえばピンブルとかボーイフレンドのイメージが強いんですが、
(それしか読んだことがない・・「MARS」も面白いらしいんだけど)
なんとこれは遺伝子操作された人造人間のはなし。
他人の心の中に入れるジェネティック秋庭亮介。
物語の中心はこの秋庭と研究員九條さん。そしてもう一人のジェネティック「イザク」。
人体実験のために生み出されたイザクが、研究所を破壊し外に出て殺戮を始めた。
果たして九條・秋庭はイザクを止められるのか、ってのが話の本筋なんですが、
なかなかおもしろい。脳の高次機能に関しての話も面白い。
しかし何より「ほほー」と思わせられたのはその画力の高さ。
こんな絵のうまい人だったか・・と思っちゃうくらいよ。
カラーページなんて垂涎の美しさ。1巻の#01の巻頭の九條さんなんて
本当美しい。#00の心象描写もよく描けてるし・・。
少女漫画畑の人というイメージが強かったので、ビックリさせられたのと共に続きが
楽しみな作品でもあるな、と。もうちょっとブレイクしてもいいと思うんだけどな。
まだ2巻までしか出てないので読むはじめるならいまだ—!
2002.09.22
「熱氷」 五條瑛 講談社 ISBN 4-06-211441-0 本体価格1800円
ぬーん。五條さんの作品で、結末を知らずに一気読みできた作品は久しぶりだ。
(他のは雑誌連載で追いかけちゃったりしてたからなぁ)
いやしかしこれが面白かった!いつもより一般受けする作品ではないでしょうか。
俺は、人は撃たない。撃つのは氷だけ—そう決めている。
人気絶頂の現総理の元に脅迫状が届く。姿を見せない脅迫犯と氷山ハンターの男、
三日間の行き詰まる攻防。 〜帯より抜粋〜
てなあらすじなんですが、この人の作品は毎回登場人物がそれぞれ魅力的で、
読んでて飽きないところがいいですね。まあ、ツッコミどころは随所にあるんですが
(カナダって・・世間って・・狭すぎる!とかね。あとみんな早とちりやなぁーとか)
それはおいとこう。構成にそう破綻もなく読みやすい・・
私は徹夜でぶっ通しで読んだぞ!
犯人は半分くらいで分かっちゃったけど。まとまりもよく素直に面白い作品でした。
キャラで言うなら私は双子のスワロー&グースちゃんがお気に入りっ!
かわいいーー! なんてええ子らや・・。こっからネタバレのため反転。
この兄妹はよっぽど石澤さんのことが気に入ったのね・・
泣きながら腕にすがるなんて・・
泣かせるじゃねぇか!かわいいっつーの。
ほかの感想で言ったらタチアナはかわいそうすぎるぞ!こういう薄幸な女絶対出すよな
この作者。佐々木さんもかわいそうに。やはし死んでしまったんじゃろうか。荻原、
君が佐々木さんを殺すほど冷酷じゃないと信じたいのだが・・無理だろうな。
これ、荻原は果たして海の藻屑となったんでしょうかねえ・・案外生きてそうやな。
あーあとマヤさん男やったんかい!ビックリだったぜ。
はーすっきりした。
いや、面白かったですよ。一気読み本としてオススメざます。
最後に一言。作中の「テロリストの系譜」。このルポ・・文章がヘボすぎる!
これ出版しようったって無理だぜ。と肩をたたいてみる。ポン。
2002.09.23 明け方・・・
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