読書日記 2003年4月 今月マンガ多いかも・・・ |
「僕はいかにして指揮者になったのか」 佐渡裕 新潮OH文庫 私は昔、指揮者の存在の意味がわからなかった。演奏をするわけではないから、棒を 振ってるだけに見えたし、(生でみてるわけでなくTVで目にするのがほとんどだったし) 誰がやるかってことに違いがあるのか・・・いや、ないやろー、と思っていたのだ。 曲ってあくまで楽器を演奏する人たちのものだと思ってたから。 そんな私が指揮者・佐渡裕に興味を持ったのが、何年か前に目にしたCMの中で でした。たしかカード会社のCMだったかなんだったか・・・すごく短い、それこそワンカット ぐらいしかない指揮のシーンがやけに印象に残って、その後また偶然TVで彼の指揮する 姿を見たとき(多分今から思えばこの時のは、ヤングピープルコンサートの映像だったんで はないかと思う) なんかちょっと・・・ぴんっとくるものを感じたのでした。 うまくいえないけど。 そこにたたみかけるように「1万人の第九」の参加者募集要項の記事を見かけ、 タイムリーなことにその年佐渡さんが初めて指揮を引き受けることになっていたという。 それを見た私は即参加を決め、申し込んだのでした。 (思えば、興味を持って実際に客として見にいく前に、指導される立場から指揮を見たって 経験が、さらに彼への興味を大きいものにしたんだと思います。) で・・。これと前後して映像で見たり、実際に指揮する彼をみて、ようやく「指揮者」という ものがわかったというか・・・なんというか、あきらかに違っていたのです。 それまでに見たことのある2,3回のクラシックのコンサートでは分からなかった。 なんちゅーか・・指揮する佐渡さんの身振りや手の先から出てるなにかが演奏者に 伝わって、絶えずそれが交わされ、キャッチボールみたいになって増幅され収縮された ものが会場に・・空間に放たれるってかんじの・・いよいよ何をいっとるのかわからんく なってきましたが、とにかく指揮者がオーケストラを一つの楽器みたいにして、 全体でまさに「鳴ってる」ってかんじだったのです。 わけわからん説明ですが、その時に感じたのはこれよりもっと原始的な感覚だった んです。これこそ説明できん。 (この後いくつか違う指揮の第九をCDで聴いたりしましたが、たしかにそれぞれに違う!) 指揮という行為に関してこの時感じたことを、人の言葉であらわすとなると、佐渡さんが 本著の中で引用してるこの文章がまさに的確!と感じたので紹介すると、 「言葉によってではなく、身振り、態度によって、真の精神感応(テレパシー)によって はっきり感じ取れて抗しがたい放射によって、表し得ることである」 〜シャルル・ミュンシュ『指揮者という仕事』」/福田達夫訳 春秋社刊 抗しがたい放射!!まさにこれです。ずばりこれだと。言い当ててますね。 と、こんな風にして私は指揮者というものに(ていうかかなりの部分佐渡さんに)興味を もったわけなのです。で、この本。うーん・・・読んでてすごくすごく興奮しました。 下積み時代の話から小澤征爾との出会い、そして巨匠・バーンスタインの弟子になって またそこから現在まで・・。このひとはすごいなあ!才能もさることながらすごい 強運の持ち主だと思う。度胸がすごい。正統派の道を歩んでないのにここまで・・。 文章も人柄が出てる。すごくあったかい。説教くさくなるでもなく、本当に自分が伝えたい ことを拙いながらも一生懸命書いてるって感じ。ユーモアもあって楽しい。 (実際に「一万人の第九」でのリハで話される事を聞いていても、とても・・ 暖かくパワフルな人でした。) この本で書かれている小澤征爾との交流や、そしてなによりバーンスタインとの3年間・・ すごい感動した。(←こればっかいってる)電子辞書片手にお互いの人生を語り合う ところとか、トイレの個室で2人で語るところ・・・出会いからバーンスタインの死による 別れに至るまでの全てが・・・。もうどれ読んでもじんとくる。 なんて素晴らしい関係なんだ・・。 佐渡さんはレニーから「デビュー公演にはこれをやれ」といわれたベートーヴェンの 七番で、指揮者賞を受賞しているが、このときの山田一雄さんの佐渡さんへの手紙に 私は心うたれてしまった。まあこれは本著を読んで頂ければ分かると思うが、 こんな手紙をもらった佐渡さんの心中は、もう言葉にはできないものだっただろう。 この七番は相当色んな指揮者に打撃を与えたらしく、 全然興味もってなかった頃の私でも風評で聞いてたくらいだった。 曰くそれまでの日本人には創造し得ないベートーヴェンだと。佐渡さんはベートヴェンを 振る時に「自分の体の中にもベートーヴェンと同じ血が流れていることを実感できる」と 書いている。この一言に全て凝縮されていると感じとれるすごい言葉だ。 巻末には佐渡流「演奏会の楽しみ方」もついていて、これもすごい面白かったです。 ためになるわ・・(笑)。 もーものすごく名著!なこの本、一つだけ弊害あるとしたら・・・それはバーンスタインの イメージが全て関西弁に固定されてしまったことでしょうか・・ (佐渡さんは京都出身。バーンスタインの言葉は全て関西弁に翻訳されているのだ!笑) それもとっても味があってよいんですけどv(結局褒めたおしや!) 「ライフ・キャン・ビー・ビューティフルや!」 2003.04.08 「妖魅変成夜話」3 岡野玲子 平凡社 これは人界と仙界の物語。天下の皇帝が「孔子を学べ」なんていってる時代の中国が 舞台。官人になるべく上京した瑞雲たなびく生まれの李くんが、龍玉将軍のもとで 妖怪に囲まれ奮闘(いや振り回されてるだけなのか・・)するお話です。 岡野玲子が仙界のお話を書くってだけでそれはもう美しい画面になるだろうなあ、 と思ってたんですが、 まあ予想に違わぬ美しさ。ほんと美麗です。これは・・全部筆で書いてるんでしょうね。 水墨画のようです。と言うか水墨画ですなこれは。流れる線の美しいことといったら! 「ファンシィダンス」の頃から思ってたんですが、ものすごくセンスのいい人だなあと。 セリフからモノローグから、あと独特のユーモア溢れる・・「ウィットに富んだ」という表現 がピッタリくるんですよね。そして吃驚させられるのはその聡明さに。 「陰陽師」とかになるともうその表現のクオリティの高さにはただただ脱帽! という感じになるんですが・・ この人のすごいのは自分なりの解釈を、あの洒脱さで表現できているということにあると 思います。何回も言うが「陰陽師」なんて陰陽五行道(その他もろもろの文献)など、 あそこまで学び、咀嚼しかつ表現できるのはすごいことだと思います。 (巻末の注釈とかで驚倒することがあるもの。これを漫画で表現するのか・・) 私は陰陽道に関しての知識などありませんが、それでも書き手がどこまで理解してる のか、そのくらいは感じ取ることができます。 そして勿論、この妖魅変成夜話でもその質の高い表現はフルに、画面いっぱい展開されて いるのです。 にしても3巻ではいろいろとしょーぐんの秘密が明らかに・・!なってないか。いや、 なってるないろいろと。以下反転→この人ってやっぱり両性なのか?仙人はどちらにでも なれるんだっけ?もともと仙女みたいだけど・・?でも純粋に仙人ではなさそうなんだ よねえ。謎だ。でもって李くん、将軍の婚約者だったのかい!ひえー・・。まじすか。 とにかく絵巻のように美麗な漫画です。眺めているだけでもうっとり・・・vv (もう「漫画と」表現するのが妥当なのかどうかも分からない・・絵画ですなもはや) だんだん、この作者の常として難解になってきてますが、それも味です。 この作者の本を一度も読んだことがないという人は恐ろしく損をしていると思うので、 ご一読を推奨いたします。 2003.04.15 「半所有者」 河野多恵子 新潮社 ここのところ小説というものを読めない状態に陥っていたのですが、今作で復帰。 ていうかリハビリにするにはすごい話、だったわ。 これはちょっと前の川端康成文学賞を取った作品だったので、書名だけは知っていたの だが、題材が屍姦だとは知りませんでした。さすが河野さん。すごいぜ・・。 ページ数にして30P足らずの非常に短い話ですが、濃い。 この題材は、うかつに手を出すには難しい領域であるかな、と思うのですが、こう書くか・・と 唸ってしまいました。ある意味衝撃だ。 なんというか、河野多恵子という人は純文でありながらその精神は非常にアナーキーな・・ 危ない感じがして怖くていいですね。淫靡だし。ほんと得体が知れないというか。 作品が「文学」という単語で表すに相応しい作家であるかなと。(←こう言ってるのは、 なにも文体や志向の事を指すのではないです。難解な文章・崇高なテーマであれば 文学たりえるかというと、決してそうではないように) にしてもすごい文章だ。「流石に珍しい死顔だけのことはあるぞ!」って・・・ そこでそれかい!これ書けるのはすごいわ・・。行為に至るくだりとかね。 「半所有者」とはよくぞ言ったものですわ。タイトルの妙ですな。深すぎ。 なんとも恐ろしい作家であります。 2003.04.25 「神戸在住」5 木村紺 講談社 わーいわーい、俺的2002ベストの漫画の一つ、「神戸在住」の5巻が出ました—。 あ〜あいかわらずええわあー。なごむー。ほんとこの漫画いいよね。トーンとか全然 使ってなくて、線だけ!で髪の黒さとか、シャツの模様とか書いてるのね。それがすごい 味のある絵になってるんだよー。それにいろんなとこが細かくって感心しちゃう。 ちょっと妹尾河童ににたものが・・(ち、違うか?) で、今巻も相変らず神戸での大学生活がまったりと続いております。 これがいいんだよねまた・・(←単に褒めまくってる・・) 今回はかつらっちの高校時代の友達が神戸に。この回よかったよー。 なんか泣いちゃったさ。と言うか毎巻どっかで泣いてるような。 しみじみといいお話だよ。 ところでそろそろかつらっちの恋愛話も読みたいなあ。あーでもそうなったら 「神戸在住」っぽくなくなっちゃう!・・と勝手なことを言いつつ、やっぱりそういうエピソード 読みたいな・・だって、5巻まで来てほとんど皆無なんだよ!でも今回もててたし(笑) 次に期待しようかね。 で、何回も言いますが今回も。この漫画おすすめです。 ↑ あー一際でかい字で書いてすっきりしたぁ! 2003.04.30 |