読書日記 2003年2月 今月ちょっと遅いスタートね・・ |
「崩れる 〜結婚にまつわる八つの風景〜」 貫井徳郎 集英社文庫 八つの、結婚にまつわるそれぞれのお話・・。でも、読了後未婚の人で 「あー私も(あるいは「俺も」)結婚したいっ!」と思う人はいないと思う・・(うぅ)。 著者の作品は「慟哭」(←ちなみにめっちゃおもろかった)が初読で、 そのときから一本芯の通った文章で、正統派の読み応えのある話を書く人、 という印象が強かったのだが、今回の作品ではその想像力というか・・ 描写力にびっくり。特に表題作「崩れる」は、何で男の人なのに主婦の気持ちを、 いや女の気持ちをこんな超リアリズムで書けるの・・!?と唸ってしまいましたわ。 いや、本当に。 (ほんとアホほど暑い日に素麺茹でてとかいわれたら鬱陶しいよね!・笑) ちょっとこれ・・世の主婦さん達にはブラックユーモアかも。 ラストの芳恵の一言!うーん・・(笑) 他7編、どれも読み応えありであっという間に読んでしまいました。 ・・・ただ、結婚を控えている方にはお薦めできないかも・・・。 2003.02.09 「マークスの山」上下 高村薫 講談社文庫 ※注:ネタバレありです。この作品は単行本の文庫落ち、と言うことで 別部屋を設けずこちらに書評をあげていますが、文庫で初読の方はご覧に なられない方がいいと思われます。 2002年夏頃に発売情報が流れていたが(発売日も決定していた)、そのまま延期になり、 2003年の1月にようやく発売された本書は、93年に刊行された単行本を全面改稿した ものである。ここで、本書に関する所感を述べる前に著者の改稿癖について 触れたいと思う。 高村さんは単行本を文庫化するときに例外なく改稿する。この作家の恐ろしいのは、 単に文章上の表現を変えたりとか、詳細を少し足したりといったような些細な 手の加え方ではなく作品の印象そのもの、主人公の性格(!)、また登場上人物の 末路まで変えてしまうところだ。 殆ど別物になってしまっているらしい「李歐」なんかがその筆頭に上げられると思うが、 「神の火」も文庫化したら400枚話が増えている。ざっと目を通しただけで確認は 不十分だが、どうも登場人物の性格も変わっているような感じだ・・ (この二作品は単行本を完読していないので、読んだらまた比較ができると思うが) そして今回のマークスが、私にとっては初めての「単行本→文庫本」の順で読んだ 作品となったわけだが、やはりかなりの改稿がなされていた。 個人的な考えでは、作家が一度世に出した作品を改稿するという行為には 賛同しかねる。 (特にこの人の場合は手直しのレベルを明らかに超えて、ほぼ別物にするのだから尚更 賛同しがたい) それでは作品世界の否定になるからだ。 手直しがきかない唯一のものだから作品たり得るのに。 読者にとっては初読の思い入れのあるものが、改稿されるたびに否定される。 それはちょっと耐えがたい。こう考えるのは多分私だけではないと思う。 ・・だが、高村薫という人の作品を読む以上はそれは享受しなければならないことの ようだ。それはこの人がはっきりと自分の改稿癖を是認してしまっているからなのだ。 ・・要するに治らないってことだ。著者の雑文集「半眼訥訥」でも、自身の改稿癖について 「たまにはわたくしのように、一歩進みたびに過去の足跡を 後ろ足で蹴散らしていくような者もいる」 「自分を認めて現状を肯定するよりは、分解し、叩き潰すことで新たな地平を 開こうとあがくものである」 と書いている。これはもう確信犯なのであって、成る程著者らしいな・・と諦めざるを えない。ここまではっきり書かれては。 福田和也が 「高村にとっては小説は生き物ではなくて、切ったり貼ったりできる何ものかなのだろう」 と述べていたが、半分は当たってるな・・。そうでなければここまで自作をいじることは できないだろう。著者の小説に(自作に)対するスタンスは、今の日本の作家の中でも かなり特異な位置にあるような気がする。 それを探るのも、私が著者の小説を読む一因でもあるのだが。 だって本当に変わってるよこの人は・・。 通常の考え方で行けば、これほどの改稿をする作家は自分の性にあわない筈なのだが、 それを考慮に入れてもやはり読んでしまうのは、それほど好きってことなんだろうな・・ ああ、なんか悔しい。でも読んでしまう・・。 結論は、改稿は好かんが、この作家限定で読まされてしまうということか。ううむ。 そろそろ本題に戻って、文庫版の評を。 読んだ感想としては・・・全体的に事件の筋が分かりやすくなっていたと思う。 警察小説としての色合いがますます濃くなっていたなあ、と。捜査の描写も細密に なっていたし。七係も、ハードではみんなタメ口だったのに、文庫になったら丁寧語に なっていたのは、警察が厳しい縦社会であることを考えると、現実に沿ったなあ という感じ。 その分仲間ってかんじが薄れてて寂しいけど。(ペコさんとの会話も減ってたしー) そして「あらら・・」と思ったのはハードでは死んだ人間が生きてるということか・・。 殺された人は自殺になってたり。まあこれは脇役の話だからまだいいか・・。 一番変わってたのはマークス・水沢と合田の描写。水沢はハードの時に感じられた 人間味がほぼ排除されて、狂った感じが増していた。それに伴って真知子との絆の 描写も消えていたというか変わっていたというか。この辺りは悲しかった。ハードの時は そこが好きだったので。印象的な台詞も削られていたし。 合田は・・LJの時の描写に近くなっていたと思う。つまりなんか「壊れかけ」なのだ。 文庫化で一番「それはどうか・・」と思った箇所がこれで、単行本だと 「マークス」「照柿」(←未読だが筋は知ってる)「LJ」の順で、彼が壊れていく過程を 踏んでるのだが、文庫化したらこの過程を踏まず最初っから壊れかけというのは どうだろう。文庫が初読の人は「なんでこの主人公はこんなに疲弊してるんだろう・・」 と思うだろう。そこがちょっとひっかかった。その辺りのつじつまあわせを考えない ところが「今」の心境でかけるものしか書かない著者らしいが・・。 さてここからネタバレ。ハードでのあの台詞・描写がこんなに削られて代わりに・・! (反転させて読んで下さい・・) ぎゃー私の好きだった「豆腐とがんもどき」発言が消えてる!「刑事は楽しい商売」も! 義兄の合田紹介シーン「捜査一課の硬い石」も真知子の「水沢を許して欲しい・・・!」も 山の中の《愛してる》も、お蘭の山が自分に合ってるわけを言う所もー! ぜ、全部消えとる・・(涙) 極めつけは最後の義兄&合田の電話シーンが丸ごと消えてることか。 ・・・涙。変わりに増えたのは義兄の通い妻描写だぞ。なんやそれは・・。風呂焚いて 靴みがいとるがな。嫁か君は。(今日はちょっと時間ないからつっこみはこのへんで・・・ 後日ここ増えます。) 読み終えて思うのは、私はやはりハードカバー版のほうが好きだということ。 だが、文庫版も初読の人にとっては相当面白く、読ませる作品に 仕上がっていると断言できるのも確か。 何しろ一度読んだことのある筋なのに、 朝の4時まで読む手を止められなかったのだから。 しかし同じ作品の再読を迫るという点では、まったく高村薫は罪な作家であると 言わざるを得ない。読んでしまうのだがね・・。はぁ。 2003.02.10 「最終兵器彼女」全7巻 高橋しん 小学館 ・・・・・・号泣・・・・。 これ、ほんと、あざとくなんかない、すごく・・なんて言っていいかわかんない・・ すごいお話でした。発想もすごいけど。 まんま、彼女が「最終兵器」って話なの。意味わかんないと思うけど、読めば分かる。 よく最後風呂敷たためたなあ。がんばったねえ。 話の中で、世界観の説明とか殆どないんだけど、 (なんで地球が急に終末を迎えたかに関してもそうだけど、事態の説明も殆どなくて、 ただ状況だけが悪化していってる様が書かれてるっていう) でもあとがきにも書いてたとおり、それはこの作品には必要ないんだと、 思える。あら捜ししようって気にならない。何を一番書きたかったかってのは、 読んだら伝わってくることだから。 いやもう一気に読んじゃった。目ぇめっちゃ腫れた。 貸してくれた人からメールで「漫画読んで泣くなよ」ってあったけど、ごめん、 泣いちゃいました・・(泣) でも泣く、泣けへんの問題じゃなく、これは本当に面白い作品でした。 (描写力とか、作画のレベルがすごく高い!のも驚きでした) 本当に。面白かった。 ※余談ですが・・連載中に読んでた影響を受けた本たち、として著者がリストアップしてる 漫画や本のラインナップをみてると・・なんか・・かなり趣味があうなあ・・特に漫画とか かぶるわあ。 2003.02.11 「どうにかなる日々」 志村貴子 太田出版 またマンガ。しかも全然知らない作家のを買ってしまった・・・。 タイトルがなんか町田康の作品に似たようなのがあったな・・と思ってなんとなく 買ったら、あとがき見ると本当に町田康の「へらへらぼっちゃん」からとったそうな。 あらびっくり。 これは太田出版の「マンガ・エロティクスF」という雑誌で連載中らしい。 太田出版のエロ系統・・さぞかし濃そうな・・・と思ったのだが、全然そんなことは ありませんでした。いや、ある意味ロコツなのよりえろいかも。 初読の人ですが、「間」がすごく絶妙な作家かと。絵もシンプルだけど丸みがあって 好み。近親相姦やいろいろフェチなネタなどてんこもりでやっぱ濃い、か。 個人的にはアパートに住み着いてる幽霊の話とか、「無毛信仰」、あと 「ハッピーなエンド」の双子の兄弟の話が好き。お兄ちゃんと家庭教師の話 「先生のくせに」は続編があれば読みたいなあ。 かわいい話でした。(←この話、特に会話の間がいい) 検索かけると他に長編の話を一本書いているらしい。「敷居の住人」というやつ。 読んでみようかな・・。 余談ですが表紙・裏表紙ともに装丁がとてもかわいい。 2003.02.17 「第一級殺人弁護」 中嶋博行 講談社文庫 リーガル・サスペンスで有名な著者の作品では、これが初読。 長編のイメージしかなかったのだが、これは短篇集でした。 当番弁護士が主役の連作。私はこれを読んで初めて当番弁護士の事を知りました。 一種のボランティアのようなもので、当番制で起訴前の被疑者のもとに駆けつけ、 法的なアドバイスを無料で行うというもの。さすがに現職の弁護士である著者ならでは の目の付け所で、なかなか面白いなあと思った。 取り上げる題材も、措置入院や蛇頭がらみの話、DNA鑑定やDV,犯罪被害者 についてなど、興味深いものばかり。雑誌掲載は94年からの連作集なのに、 題材が新鮮味を失っていない。 解説の稲本絵里氏によるとDV(「ドメスティック・バイオレンス」 )という単語が 小説の題材に取り上げられたのはこの作品が初めてではないか?と書いていたが・・ どれも感心しつつ読むことができた。文章も読みやすくオチもいい。 専門知識をフル活用するだけで面白いものがかけるというわけではないと思うから、 やはり著者の文章力でしょうね。本職弁護士さんなのにすごいなあ。 特に「鑑定証拠」は傑作!ほんとよくできた作品です。これを読むだけでも価値がある。 ほんまおもろかった。 主役の京森のキャラクターがいい。世に溢れる弁護士ものの作品には、 やたらと正義感ばりばりのキャラが出てくるが、実際の弁護士さんはこうだろうなあ、 という現実的な感じ・・打算と保身、そしてやはり正義感もある・・ 人間味があってよろしい。そら弁護士も慈善事業ではないのだから、 お金稼がないとローンも払えないもんね。 でもこういうサスペンス系で初めて見たよ、月末のリース料の支払いに怯える 弁護士・・(笑)。そしてこの人、有能なんかあほなんかわからんよ! 「鑑定証拠」で おお!京森さんごっつかっこええやん!と思わせといて「民事暴力」で 「あ、あんたーあほかあっ!」と叫ばされたしね。250万もどないすんねん! もー考え甘いんやから!・・・ふうふう。 いや、なかなか愛すべきキャラクターです。 このくらいが感情移入しやすくていいの・・かも。 全体的にバランスも取れてて、すっと読めます。面白い。お薦めですね。 著者にはリーガル・サスペンス3部作といわれている長編があって、 それをずっと読んでみたかったのですが(もともと法廷ものが好きなので)、 俄然読む気が湧いてきました。 読むぞー! 2003.02.22 「受難」 姫野カオルコ 文春文庫 これはもうあらすじ・・書けない! でもちょっとトライしてみると・・『ある日突然フランチェス子に人面瘡(古賀さん)ができた。 奇妙な共同生活が始まるのだが・・』ってほら訳わからんやろ! うーーーん・・・どこから思いつくのこんな話・・。すごすぎる・・ これが直木賞候補というのも・・いや、案外目のつけどころいいな・・。 テーマはいつもと似通ったテーマなのですが(というか既読分全部そう) ここまで同じ主題を追求したいならもうとことん付き合いましょう、という感じ。 そしていつも感心するというか・・唸っちゃうのはこの独特のユーモア。 ほんとに笑える。すごいセンスだなあ。似た人ってのが思い浮かばないもの。 一見非常に頓狂な話なのですが、切なくもあり、オチもなんとも言えないかんじ で飽きない。一気に読んでしまった。そしてこの言い表しようのない爽やかさと言うか なんというか・・。かなり重い題材も抱えていながらも、この全体の透明感。 本当にこの人は「うまい」なあと思う。これだけ毎回似通った人物像やテーマ書いて まだ読む気にさせるってのがすごいわ。 姫野さん、まだまだ読んでいこうと思います。 (あと何作か読んだら、もっとポイントをまとめてこの作家をご紹介できると思うのだが) 本当にこの作家はお薦めですわ・・。 2003.02.26 |