読書日記 

 2003年1月

新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!さー新春レビューだ!
あ、今度からISBNコードと価格明記は抜きでいきます。
よう考えたらあんま意味なかったかも、と思って・・



 「悪魔の手毬唄」 横溝正史 角川文庫     

  横溝第3弾。これまた名作の呼名高い作品ですが、評判にたがわぬ傑作でした。
 また岡山(正確には岡山と兵庫の県境)が舞台。鬼首村で事件は起こる。てか
 いかにも事件が起こりそうな村だ・・金田一さんも静養したいんなら岡山のしかも
 鬼首村なんて行かないほうがいいだろうよ。何で行った(笑)。

  数え歌の歌詞どおりに次々と人が殺されていく、いわゆるマザーグースもの。
 以前「黒猫亭事件」でも扱っていた「顔のない死体」も題材にからめてるところから
 見ると、(注:ネタバレではありません)相当力いれて書かれたのね先生・・という感じが
 ひしひしと伝わってきます。凄みのある情景を思い起こさせる殺害の様式・・
 これもまた横溝の真骨頂。
 なんというか、フルコース!でした。結末も衝撃的で・・・。掛け値なしに面白かった
 ですね。トリック云々について述べるなんて、もうこの作品についてはやり尽くされてる
 ので必要ないかと。
 でもやっぱり横溝作品は、トリック構成もさることながらそのストーリー作りに感服
 させられますね。単に殺人事件を追うばかりでなく、悲哀も含ませた作品に仕上がって
 ます。文章の古さは仕方ないですが、やはりそれでも常に印象が新しいのです。
 名作と称されるものは。いや、満足でした。イッキ読みしました。正月に・・(うう)
 そして特筆すべきはラストの一文。金田一さん・・・かーっ!アンタそれ名台詞だよ!
 なんつう余韻や!

  ところであとがきにて、横溝先生の息子さんが父の事を語っている文章が
 引用されているのですが。
 先生・・締め切りになると髪を逆立たせ、帯は解け、鬼のような形相で夜な夜な 
 田んぼの畦道を飛ぶようにして徘徊されてたそうです。それ見て子供が泣く、と。
 それはほんまにきょうてえ(こわい)なあ・・
 さすがエピソードもおどろおどろしい・・。ぶるぶる・・。

 2003.1.10 



 「夏の夜の獏」〜大島弓子選集第12巻〜 大島弓子 朝日ソノラマ   

  本当に、大島弓子の作品を読んだって、あらすじを紹介することができないから
 困ってしまう。
 そんなことしたって意味ないんだもの。あらすじ書いて「読んでみてください」、って言う
 ものじゃないんだよ、私にとって大島さんの作品は。そんなんがナンセンスなほど、
 とにかく「いい!」としか言えないんだよ・・。あー・・。いやほんと・・。
 大島さんバンザイ。なんなんでしょうこの、言葉の美しさは。筆舌に尽くしがたいよ。
 いつも思うことなんだけど。

  私は、昔、大島弓子の作品ってすごい少女趣味なんだと思ってて、
 食わず嫌いでずっと読まないでここまで来た。読みはじめたのってほんと最近だ。
 読んだきっかけってなんだったんだろう。全然思い出せない。
 多分本当になんとなく、だったんだろう。ほんと、先入観で敬遠したままでいかなくって
 よかった。読書の神様がついてたのかなぁ・・。実際に読んでみた作品群は、
 全然少女趣味じゃなかった。それどころかのけぞるほどシビアな側面を持っていた。
 そして同時に奥の見えない情景が広がってるんだ。「表現」という深淵だ。

 今回の収録作品では表題作「夏の夜の獏」と「つるばらつるばら」あたりが
 有名でしょうが、やはり全部よかったよ・・恒例のサバ漫画も。
 (でも今はもうサバはこの世にはいない・・泣)
 うわーと思ったのが「つるばら」の

 ほおは重力に逆らい
 瞳は飴がけの黒糖みたいなのよ

 という表現。容貌の表現ひとつとってもすごいぜ。・・はっいかんいかん。何をみても
 絶賛しちまう・・。

 「グーグー」の2巻読んで、大島さんが癌でもう少しで危なかったということ、
 そして無事生還したことを知って、本当に感謝しました。

 神様ありがとうありがとう。 私たちから彼女を取り上げないでいてくれて。

 2003.1.11


 
 「聖の青春」 大崎善生 講談社文庫    

  29歳で夭折した天才棋士・村山聖の青春を描いたノンフィクション。
 「将棋世界」の編集長であった著者が、実際に交流のあった村山の一生を、
 終始真摯に綴った1冊。
 この呆れるほどストレートな——直截に過ぎる題名が、なによりもその内容を表して
 いるといえよう。

  幼少の頃からネフローゼを患い、その闘病生活の中でわずか小学一年生にして
 将棋の道に目覚め、その後病魔と戦いながら名人を目差し、最後癌で志半ばにして
 倒れるまでの壮絶にして閃光のような輝きを放った彼の一生。
 読んでいて息が苦しかった。胸が詰まった。しかしそれにもまして心打たれたのは、
 彼が師匠・森信雄をはじめとした周囲の人間にいかに愛されていたかという
 くだりを読んだ時だ。読了後でも、あの筆者と森氏と村山の、夜の公園でのシーンや、
 限界まで飲んで運ばれた病院の薄暗い部屋で、村山の目覚めを待ちながら点滴の
 ビンにあたった灯りで読書する友人の姿、ゴルフに行きたいと言う村山を「あかん」と
 蹴りつけて後悔する森氏の姿・・などが目に浮かんでなんともいえない気持ちに
 なった。羽生氏との交流のひとコマにも胸が詰まった。
 このあたりを、著者は実に愛情をもってかつ淡々と書き綴っている。
 彼の一生を書いたのがこの人で良かったと思いながら読んだ。そして師弟愛。
 この2人の交流を著者は
 「私が生まれて初めてこの目で見た、言葉も理屈もない愛情そのものの姿であった」
 と記している。
 終章の、師匠の慟哭する姿は殆ど涙で読めなかった。しかしこの本は、ただ単に
 感動モノとして括れるものではない。そういう意図で書いてはいない。

  村山の戦いつづける姿勢の熾烈さ。体調が悪化すると、体力を温存するために
 何日もただひたすら布団に包まり、時間の経過はわずかに緩めた水道の蛇口から
 落ちる水滴の音ではかる・・それがなければ自分が生きてるのかどうかすら
 わからなくなるから、わざと緩めておくのだ。そんな思いまでして目差す名人への道を
 進みながらも、一方では「早く将棋をやめたい」と彼が語る言葉の裏にある思い・・
 村山聖という人間は人間的に非常に魅力のある人だったのだなと、様々な矛盾に
 苦しむ彼の姿をみてそう思った。
 彼はまたユーモア溢れる人でもあり、読書家でもあったそうだ。
 カート・ヴォガネットや推理小説を愛し、また少女漫画も愛好していた。
 好きな作家は大島弓子・萩尾望都など。
 遺品の蔵書を整理したら5000冊はあったらしい。

  巻末には彼の奨励会時代から、平成10年、最後の手合いまでの公式戦全記録と、
 主要試合の棋譜が「村山聖熱戦譜」として掲載されている。私は将棋を解さないが、
 それでもじっくり目を通した。
  名人という光を目差して、突き進んでいった村山聖という棋士の生涯。
 それがこのような形で残されることになったことは、密葬を望んだ本人の意向に背くもの
 かもしれないが、私は知ることができてよかったと思う。
 そしてただただ「惜しい」と思う。これだけの棋士がこの世から消えてしまったことが。
  
  対象に愛がなければ書き得ない一冊であり、本当に良い本を書かれたなあと思う。
 その一言に尽きます。

 行ってみたい場所は?

 宇宙以前


 2003.1.14



 「バッテリー」5 あさのあつこ 教育画劇      

  第1巻で第35回野間児童文芸賞受賞、第2巻で第39回日本児童文学者協会賞
 受賞した作品です。2連続で賞を受けるからには、面白いんだろう・・といささか興味
 本位で手にしてみたこの本。(あちこちの書評サイトや、新聞でも評判良かったし・・)
 何で児童書を読もうという気になったかというと、ちょうどその頃読んだダイアナ・
 ウィン・ジョーンズの本が面白かったから。
 私は子供の頃、児童書というものを殆どよまなかった。
 何故か。それは、背伸びをしたい子供だった私にとって「児童用」と銘打たれている
 ものは用がなかったから。大人が読むものを読みたくて仕方がなかった子供だった
 私には。
 (だから一足飛びにハヤカワとか筒井やキングに行っちゃったんだよ・・ああでも
 小学校の時ズッコケ3人組は読んでたかな)
 でも大人になった今、逆に違う目線で見ることができる児童書に興味が湧いてきて
 いるのだ。まだエンデの「モモ」だって読んでないし。ケストナーだって佐藤さとるの
 本だって読んでないしね。いつか、子供を持つ日が来たら、一緒に今までの分を
 取り返していきたい。それって実現したらすごいわくわくする試みだと
 思ってるんですが。

  おっと、猛烈に話がずれた。んで、「バッテリー」これまでのあらすじなんですが・・
 野球に命かけとる少年投手・原田巧(主人公)とその相方捕手・永倉豪のバッテリー、
 のお話。そのまんまやんけ!といわれてもそうとしか説明できんのじゃ・・。
 しかしこの話はねー・・最初読んだ時「こ、これ児童書!?」とびっくりしたよ。
 私の中の児童書のイメージとかなり違ってたので。1巻の頃なんて、小学生やのに
 異様に大人びてたもんなあ・・台詞が。
 (てか、リンチとか・・びっくり。あと脇の登場人物の男の子おもっきし喫煙してるし!
 よくOKでたね・・)
 またこの主人公の巧が、小生意気なー高慢なー!君なんぼなんでも自信持ちすぎ
 ですよ!女王様め!と、1、2巻の頃はさかんにそう思ってたっけな・・。
 でも、5巻まで読むと、このタイプの少年の、この年齢でのリアルな存在の仕方という
 のを、著者は書ききりたいんだろうなあ・・と言うのがひしひしと伝わってくる。
 そう、この作品て、「友情!努力ばんざーい」てテーマを書きたいって感じじゃなくて、
 本当にこの時期の、多感な、少年少女たちの姿ありのままを書いてるという感じなのだ。
 結構児童書って、あるテーマ(努力が〜云々)にこっそり誘導する、っていうのも多いと
 思うので、こういう書き方をしているのにはなんというか、好感が持てた。

  しかし、1巻読了時に引っかかってたことがひとつあって、それは豪君の性格設定
 なんだけど。あまりにもできすぎてると思ったのだ。
 そんな人格ができてる子供、おらんて!と思ったときに、ほんまの子供ってのを
 書いてない気がして、そこでいったん引きぎみになってしまったのだけれど、
 こうして巻を重ねると、ああ、そういうのもありかな・・と。
 「いい子」が壁にぶつかってから、苦悶して、成長していってる姿が実に微妙に描かれて
 いるので・・

  また、うまいなーと思うのは情景描写。子供の目に映る景色— 刻一刻、くるくると
 変化する景色が、心情とシンクロして非常にうまく描き出されてる様に思わず唸って
 しまう。ちょっと手元にないので2巻か3巻かどちらか定かではないんだけど、
 「うーんすごい!」と唸った描写があったんだが・・どこやったっけなあれ・・。

  で、この話のテーマって、5巻まで読んでみるとよく分かるんだけど、このバッテリーの
 「関係性」というものに重きをおいているみたい。そこで、この話が特殊というか、
 凄いなと思うのは、「バッテリー」という言葉に代表される人と人のつながりを、爽やかな、
 あたたかいものとしてだけの意味で扱う気が、どうやらないってこと。
 (5巻でそれはますますはっきりしてきたが)
 もっとドロドロして、時には相手への憎しみだって入り混じることを、書こうとしてるのだ。
 これはすごいぞー。つか児童書ではやらんやろう・・普通。この時期の危うい少年を
 書いてるところは紛れもなく児童書でいいと思うんだけど、総合テーマとしては
 ヤングアダルトでやってもいい感じだな。対象年齢高校生くらいの。
 このまま行くとますます子供向けじゃなくなるような・・心情描写多いしなー。
 もう3、4巻で十分暗めやったし。
 (あ、子供向けかそうでないかってのを考える時点で、大人の視点なんだな)

 シリーズ通して文章すごいんですが、試しに大人!な一文を引用してみましょう。

 あさましいほどの欲望が心の奥底で口をあけ、餌を求める。自分の中でうごめき、
 成長し、手に入るもの全てを食い尽くそうとする獰猛な欲望に息がつまる。 125P


 ・・・うーん、すごい文章だ。もっとすごいのがあるんですがきりがないのでちろっとだけ。
 読んでて「君ら・・すごい中学生や(笑)」と思うほどすごい台詞はいてます。
 すごいかけひきやってます。おばちゃんはびっくりした。

 (以下別にネタバレというほどでもないが・・先入観ゼロで5巻読みたい方は
 飛ばしてください)


 今、5巻では巧くんが、他人を理解することに興味を示し始めてるので
 (成長してきてるね・・としみじみ思ったよ今回)ちょっとほっとした。豪くんが4巻で
 どツボにはまってたんでどないしよーとおもったが、それもなんか危なっかしいながらも
 立ち直ってきてるし。あーはらはらする。しかし豪君、ええ男になりそうやねー。
 んーええ感じ。

  んで、このシリーズは脇役の少年達も注目です。みんないい味出してるんだこれが。 
 私は瑞垣君、4巻で出てきたときちょっとひいてんけど・・
 だってそんな喋り方する中学生おらんもん!
  (「姫さん」て・・同年代の男の子をそんな風にいうやつおる?
 君ようわからんけどおっさん?とかおもたわ)
 ちょっとね・・4巻筆すべってる?なんか変なところ目差してる?とちょっと違和感
 があったので、4巻は彼が出てくるシーンはちょっときつかったのですが・・
 5巻は彼がとってもかわいらしかった(笑)
 「俺も長いこと生きてきたけどな」って・・
 おまえー15年しか生きとらんやんけ!!(笑) 笑うわー。
 君もまだ子供だね・・あと相変わらず吉貞おもろい。門脇君も海音寺君も好きなので、
 もうこれで一本別の作品書いてくれ・・と思うくらい(いや、今でも十分でてるな・・)。
 今回は瑞垣君半分主役みたいやったしね。

  まあ、ここまで長々とりとめもなく書きましたが、児童書もこの年になって読んでも
 面白い物は面白いですね。やはり物語に年齢枠はないわ、ということをしみじみ
 痛感いたしました。

 これ、今大体1年ちょっとのペースで刊行されてるので、早く続きが読みたいところ。
 あと、ハードカバーで出すのやめて欲しい・・1冊1500円もするねんで!うううぅ・・。
 し、新書でええやないの・・ポ○ラ社みたいなさー。
 しかし、児童書でこんなテンポよく巻数重ねてるんだから、好評なんでしょうね。
 どうやらラジオドラマにもなってたみたいだし。(聞いたことなのですが)
 先が楽しみなシリーズです。児童書と思って侮るなかれ。色々考えさせられますです。
 ふむ。

 先のことなんか、どうでもいい。お前に追いつけなくなるという不安や恐れより、
 疼き続ける快感の方が、ずっと生々しいんだよ。 74P


 2003.01.16


 


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