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Act 1

『今夜のパーティには、大事なお客様がお見えになるから』
夫からの電話があったのは、お昼すぎだった。
結婚して一年。
学生時代に培った人脈を元に、セレブの仲間入り。
だって、当然でしょ?
金持ちでいい男をゲットするためだけに、努力してきたんだもん。
そりゃ……F4にはほど遠いけど、容姿はまぁまぁで旧華族の血を受け継いだIT企業の社長。
とりあえず、まずまずの合格ライン。
25歳までには結婚したかったから、この辺りで手を打ったの。
えりかも美奈子も同じようなことを考えてたみたいで、私達は同時期に結婚している。
えりかは、財務省官僚のエリートと。
美奈子は、旧財務系商社御曹司と。
それぞれ、セレブな新婚生活を楽しんでいるの。
「百合子さん。 今夜のパーティは九条家にとっても大事なものですから、九条家の嫁としての務めをしっかり果して下さいね!」
唯一の誤算は、この姑。
口うるさいったらありゃしない。
「あなたと違って、九条家は皇族にも繋がる由緒正しい家柄。 何かあったら、恥をかくのは私や慎也ですから」
姑の嫌味は今に始まったことじゃないけど、本当にムカつく!
旧公爵家かなんか知らないけど、お高くとまっちゃって、やな感じ。
夫は私にベタ惚れだし、私がこの家の女主人なのよ!
そのうち、しっかりわからせてやらないと。
今夜のパーティは、“九条夫人”としての社交界デビューだもん。
私が、今夜の主役になるのよ!
ほほほほほっ。
姑の嫌味を振り切るように、会場となるメープルホテルへ向かった。
夫はかなりの『道明寺司フリーク』で、大事なパーティはメープルホテルを会場としている。
私達の結婚式もそう。
見合いの時も、道明寺様のことばかり聞いていたっけ。
『百合子さんは、英徳大学のご出身と伺いましたが』
『ええ、幼稚舎から英徳学園ですわ』
『では、道明寺さんと同窓なんですね。 うらやましいなぁ』
『高等部の頃は、親しくしていただきましたわ。 クルージングや別荘に招待されて』
嘘はついてないわ。
どさくさに紛れてだけど、クルーザーでのパーティにも行ったし、カナダの別荘にだって行ったもの。
『おおっ! 高校生だった道明寺さんって、どんな方だったんですか?』
『それは、F4のリーダーと言うだけではなく学園のリーダーでしたわ。 ほほほっ』
『僕は道明寺さんの大ファンでね。 高校を卒業されてNYに行く時に“4年後、迎えに行きます”って宣言したのがカッコいいと思ったよ』
……この人、相当だわ。
事業家として内外から注目されている道明寺様だもの、男のファンがいてもおかしくないわね。
『あの時のお相手も英徳の方でしたよね?』
『えっ……ええ。 私の同級生でしたけど、庶民の方ですわ。 今は、どこで何をしているのか……』
牧野つくしのことまで知っているとは。
結婚した時も、「道明寺司の友達と結婚する」って大騒ぎだったらしいし。
メープルホテルに着くと、すでにえりか達が到着していた。
パーティは6時からだけど、姑の悪口三昧でストレス発散しないとやってられないわ。
フロントでチェックインを済ませ、控室として用意したスイートに向かう途中で支配人にあいさつされて立止まった。
「九条様、本日も当ホテルをご利用いただきまして、ありがとうございます」
「道明寺様には学生時代に親しくさせていただいたんですもの、当然ですわ。 ほほほっ」
天下の道明寺司と親しいことを強調すると、周囲から羨望の眼差し。
ふふふっ、羨ましいでしょ?
その時、支配人の肩越しに見えた上品なスーツを着ている女。
えっ? 今のは、牧野つくし?
いや、そんなことはある訳ない。
あの超ビンボー牧野が、あんな高級なスーツを着て、ここメープルホテルにいるはずがないわ。
まだあれこれと話かける支配人へのあいさつもそこそこにエレベーターに乗り込み、えりか達に声かけた。
「ねぇ? 牧野つくしって、今何しているか、知ってる?」
「急にどうしたの?」
えりかが不思議そうな顔で、私を見ている。
こんなところで「牧野つくしを見た」なんて言っても信じないだろうし。
「別に……。 ちょっと気になっただけよ」
エレベーターを降りて、スイートに向かう途中も、自分自身に人違いだったと言い聞かせた。
それに、牧野つくしに会ったとしても、何も困ることなんかないし。
この時の私は、そう思っていた。

( 2007/2/9 )


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