<内容>
「DL2号機事件」
「右腕山上空」
「曲った部屋」
「掌上の黄金仮面」
「G線上の鼬」
「掘出された童話」
「ホロボの神」
「黒い霧」
<感想>
主人公の亜愛一郎がブラウン神父を思わせるような行動をとる(傘を忘れるとか)ということもあるのだが、内容からしても、まさにチェスタトン流と言いたくなる論理と展開。
それぞれの作品が単なる犯人当てではなく、何が飛び出してくるのか予想のつかないものとなっている。さらに犯人当ての作品に関しても、ちょっとした事実からアクロバティックな推理が展開され、こちらもまた予想だにしない名推理が飛び出してくる。
あと、ひとつ気になるのは、毎回ちょこっと登場する三角形の顔をした、洋装の老夫人の存在。いったい何者?
「DL2号機事件」
泡坂氏のデビュー作。通常の推理ものとは一味違う展開が心憎い。また、シリーズの探偵役となる亜愛一郎が語る推理も変わったもの。大地震が起きた後に引っ越してきた男の心境を論理的に解釈してゆく。
「右腕山上空」
トリックに関しては、そんなにうまくいくかなと首をかしげたくなるのだが、そのトリックを暴く愛一郎の推理は実にうまくできている。手袋とガムと葉巻の匂いという三つの要素が見事な伏線となっている。
「曲った部屋」
これもまた発想が良い。部屋の状況の不審な点から、そこで起きた事件を一気に紐解いてしまう愛一郎の推理がすごい。“団地”という設定をうまく生かしきった作品。
「掌上の黄金仮面」
愛一郎が、黄金仮面がつけていた面を見ることによって、真相の全てを明らかにするという離れ業をやってのける。この推理が見事。事件そのものよりも、黄金仮面の身に何が起きていたのかがポイントとなっている。
「G線上の鼬」
人間の行為について、心理的な部分にまで掘り下げた推理が面白い。この作品は「DL2号機事件」に通じるものがある。さらには、そこに不可能犯罪までもを付け加えてしまうところが、さらに作品の価値を高めている。
「掘出された童話」
見るからにして暗号もの。結論から言えば、決して常人には解けるものではない。なんとなくこの作品だけ、他のものとはシリーズとして異なるというか、違和感を感じてしまう。愛一郎の性格がちょっとおかしくなっていたようにも思われるし、話の中で起こる事件もやや中途半端。
「ホロボの神」
文化の違いをトリックとして用いた作品。今でいえばさほど目新しくないのだが、このような作品が30年以上前に書かれていたことに驚かされる。当時はきっと斬新だったのではないだろうか。作中より、この作品の本質を付いた一言を掲載。
『自分は反対に、ホロボ族の文化の最先端である罠を知らなかったために、大きな傷を作ってしまったのだ』
「黒い霧」
恐ろしげなタイトルに反して、内容はユーモラスなドタバタもの。ケーキ屋と豆腐屋の商品投げつけ合戦には思わず笑ってしまう。一歩間違えれば、毎年恒例のお祭り行事になったかもしれない。
そういったドタバタ劇が起こるなか、愛一郎はカーボンまき散らし事件の真相を言い当てる。ただし、かなりアクロバティックな推理というか推測。
<内容>
映画界のスター、北岡早馬と再婚することとなった伊津子。伊津子は、早馬の前妻が奇妙な状況のなかでガス中毒死したことを知らされる。早馬の妻となり、彼の屋敷へと行くと、そこで待ち受けていたのは前妻・貴緒のことを忘れられない人々。しかし、反対に早馬だけは、前妻の想い出を捨て去ろうとするような行動をとり続ける。そうしたなか、屋敷で事件が起きることとなり・・・・・・
<感想>
泡坂氏の未読作品が復刊されたので、さっそく購入して読んでみた。ちなみに、2018年の1月と3月にも、別の作品が復刊される予定。
本書は、前半はあまりミステリっぽくない展開で始まってゆく。主人公である普通の女性・伊津子が映画スター北岡早馬と結婚することとなる。ただ、早馬には前妻がいて、この女性が不慮の死を遂げたという。一応事故という事で処理されているものの、徐々にその不審な様子が明らかになってゆく。
前半の謎というものはそのくらいで、最初はただ単に伊津子が慣れない生活に戸惑いつつも、早馬の周囲にいる人達に紹介され、早馬や前妻に関する話をいろいろと聞かされてゆくこととなる。そして後半に入ると別の事件が起き、そこからさらなる事件が浮き彫りとなり、一気に物語は加速していくこととなる。
最終的に明かされる真相はなかなかのもの。前半でそれなりに伏線をはっていたところも見事といえよう。読み終えてみると、なかなか考え尽されたミステリ小説になっていることに気づかされる作品。
<内容>
資産家のドラ息子である達夫は、自前のヨットで沖に出て、読書をするのがお気に入りで会った。ある日、そのヨットに乗っている時に、中将モモコと出会う。達也はモモコに一目ぼれし、彼女にアプローチをかけるが、ちょっとした手違いから、モモコの付き人としてヨットを操縦するトキコと付き合うことになってしまう。達也はやがてモモコと付き合い始めることとなるのだが、トキコは一向に別れようとしてくれない。そこで、達也はとある計画を練りはじめ・・・・・・
<感想>
序盤は、男女の三角関係が描かれており、その男女関係のドロドロとした内容は、読んでいてもあまり面白いとは感じられなかった。しかし、中盤からはそれとは異なる展開で描かれている。
主要人物らがヨットに乗っている時に出会ったという事もあり、海洋ミステリ的な味わいを出しているというところが本書の特徴。さらには、冒頭で島で見つかった一つの遺体、そして一人の行方不明者と後半につながる謎を提示し、読者に気を惹くことにも成功している。
そうして中盤から後半にかけて、徐々に事の真相がはっきりとしてくる。何気に、単なる“手記”と思われたものの中に秘められた真相が隠されていたことに驚かされる。“蝶”を物語の背景に用い、幻想的な雰囲気で読者を惑わせる作風は見事と言えよう。
<内容>
酒びたりの日々をすごす、売れない奇術師・楓七郎は知人からの勧めで、船を改造して作った動く劇場<ウコン号>で開催されるショーに出演することとなった。知人から紹介されたアシスタント森真を連れて船に乗り込む楓七郎であったが、何故か船内は微妙な雰囲気であった。たずねてみると、七郎の前にノーム・レモンという外国人奇術師がいたのだが失踪してしまい、代わりに七郎が呼ばれたのだという。しかし、本当にノーム・レモンは失踪したのか?
すると、さらなる死体が七郎の前に現れ、それも一体だけではなく次々と。殺害された者達の名は上から読んでも下から読んでも同じ、つまり回文となっているのだが、それは事件の真相に関係があるのだろうか!? 七郎の昔の妻である唄子も現れ事態が混迷を極める中、連続殺人事件はさらに続いてゆき・・・・・・
<感想>
泡坂氏の過去の作品が復刊されたもの。書かれた時代の古さはうかがわれるものの、ミステリ作品としての内容は決して色あせていない。
本書の特徴はなんといっても“回文”にある。タイトルのみならず、各章題までが回文となっており、登場人物の多くが回文にまつわる名や芸名を持っている。そうしたなかで、回文の名前を持つものが次々と殺害されていくという凝りよう。
また、もうひとつの泡坂氏らしさが出ているのは、主人公が奇術師であるということ。奇術やサーカスなどの大道芸を舞台を背景にして事件が起きてゆくこととなる。こういった昔の奇術の様相をうかがえるところも本書の特徴といえよう。
この作品はミステリとしてうまくできていると思えるのだが、やや惜しく思えるのは最終的な解決の仕方について。もっと大々的に華々しく、探偵役のものがきちんと事件の解明を行えば良かったのではないだろうか。実際には、これが探偵役なの? という人物が淡々とごく一部の者達と語り合うという程度のもの。その語られる真相は、奇術によるトリックや、死体の入れ替え、意外な真犯人などなど、結構すごい内容のものとなっているとで、淡々と語られるだけというのは実に惜しい気がした。
最後の幕引きをもっと大々的にやってくれれば、作品に対する印象が大きく変わるように思えて、実に残念である。
<内容>
「藁の猫」
「砂蛾家の消失」
「珠洲子の装い」
「意外な遺骨」
「ねじれた帽子」
「争う四巨頭」
「三郎町路上」
「病人に刃物」
<感想>
亜愛一郎が活躍する短編集の第2弾。1作目と変わらず、本格ミステリを堪能できる作品集となっている。今作の中では「意外な遺骨」と「三郎町路上」が特に良かった。
「藁の猫」
完全なものを求める人間の人生のてん末を描いた作品。「DL2号機事件」に通じるところがある。謎を解くというよりも、一人の男の人生を読み解くというような内容。
「砂蛾家の消失」
家の消失を描いた作品。手の込んだトリックが仕掛けられており、ただただ驚かされるばかり。一見、あまりの大技でうまくいきそうにないようにも思えたのだが、そのトリックをうまくフォローし説得力を強めている。
「珠洲子の装い」
ネタとしてはわかりやすい。ただ、その理屈をきっちりと説明しきっている作品。ブラウン神父の逆説を思い起こさせる内容。
「意外な遺骨」
これはなかなかの秀作。童唄による見立て殺人の状況から、亜が論理的かつ飛躍的な推理を披露する。あますことなく伏線を回収し、見事な解決を見せてくれている。
「ねじれた帽子」
帽子から連想する推理はよいのだが、その先の推測まではやや行き過ぎているように思われた。一応理由付けはなされてはいるのだが・・・・・・。
「争う四巨頭」
受け取りようによっては深い話と言えないこともないのだが、ちょっとした小話程度という感覚の方が強かった。当事者たちとは関係なく、周囲がばか騒ぎしただけのような内容。ちなみに舞台は前作「狼狽」の「黒い霧」事件が起きたところ。
「三郎町路上」
ある種、早技のトリックとも言えるのだが、うまくできていると感じられた。いっぺんに運べぬものはバラバラの状態で搬入して、それから組み立てればよい、というアイディアがうまく決まっている。
「病人に刃物」
一見、突飛のようにも感じられるのだが、よく読んでみると考え抜かれ、練りに練られた作品となっている。最後に亜が語るバラとカーネンションの例えが印象的。
<内容>
廃品回収のアルバイトをしていた柱田真一は集めた紙の中から昔の有名な作家である樋口一葉の手によって書かれたと思われる手記を見つける。真一はまだ残りがあるのではないかと考え、その手記がどこから来たのかを辿り、一葉の手記の残りを手に入れようと上諏訪へと向かう。そこで真一は長谷屋麻芸という女と出会う。真一はどこかで彼女と出会ったことがあるようだと思ったのだが、それを裏付けるように麻芸から奇怪な話を聞かされる。彼女によると二人は前世で出会っているというのだ。麻芸は西原牧湖という女の生まれ変わりであり、真一は平吹貢一郎の生まれ変わりだという。そして前世で西原牧湖は平吹貢一郎を殺しているというのである。途方もない話であったが、それを裏付けるような事実と心当たりが次々と語られ始めることとなり・・・・・・
<感想>
1983年に出版された作品であるが、創元推理文庫によって今年復刊された。これを機に読んでみたのだが、これがまた放っておくには惜しいくらいの出来栄えの作品であった。さすがに復刊されるだけあって、価値ある作品といえよう。
とはいえ、実は最初読み始めた時にはそれほど良い作品とは思えなかった。荒唐無稽ともいえるような前世の記憶の話が描かれており、鵜呑みにするのもいかがわしいような内容が描かれている。それがまた真実であるように描かれているので妙な内容の作品だなと思って読んでいたのだが、中盤以降は見方ががらりと変わり、一気に内容に惹きつけられることとなった。
本書は当然のことながらミステリ作品であるがゆえに、基本的に“謎とき”の作品となっている。よって終盤になり、作品全体の謎が解かれてゆくのを目の当たりにした時には、ただただ感心させられるばかりであった。
本書では前世の話に追いやられてしまうのだが、最初は樋口一葉の未発表の手記を手に入れるというところから始まっている。こうした、物語上の細部においても、それぞれが事細かな伏線となっており、最後には隅から隅まですべてが意外な形で意味を持ち、真相が明らかにされることとなる。序盤を退屈だと思い込んだ私としては、まさに仕掛けられたミステリの罠にからめとられたとしか言いようがない。
近年の本格ミステリを見返してみると、こうした前世を背景に用いたミステリ作品というのは珍しくないように思える。しかし、これが書かれたのが1983年というのだから、そのころからすでにこうした作品が出ていたということに驚かされてしまう。もしも当時、この作品がさほど話題にならなかったのだとしたら、それは確実に書かれた時期が早過ぎたということなのであろう。
<内容>
「赤島砂上」
「球形の楽園」
「歯痛の思い出」
「双頭の蛸」
「飯鉢山山腹」
「赤の賛歌」
「火事酒場」
「亜愛一郎の逃亡」
<感想>
亜愛一郎が活躍する短編集の第3弾にして、完結編。
「赤島砂上」
ひねりはさほどでもなく、シンプルな内容の話ではあるのだが、冒頭で語られる部分が、ネタの全てをしっかりと説明しているところが心憎い。泡坂流の逆説が見事に冴えわたっている。
「球形の楽園」
シンプルな密室殺人トリック。似たような内容の作品はいくつか見受けられるのだが、ひょっとしてこのトリックを披露したのは、これが最初の作品?
「歯痛の思い出」
伏線は最初から張られているものの、謎の提示はされないために、ややじれったいと感じられた。最後には謎が一気に明かされることとなり、そこでようやく病院で長い間待たされる描写が続けられたのかを理解させられることとなる。
「双頭の蛸」
東スポ風の新聞記事と共に展開していく物語が面白い。ミステリとしての内容は、サム・ホーソン風の不可能殺人を描いたもの。最後に人の価値基準というものが軽く語られるが、このへんはチェスタトン流の風刺につながる部分と言えよう。
「飯鉢山山腹」
車に書かれている文字を見ての推理はなかなか面白い。トリックがやや強引に思えるが、そのトリックの謎を解くまでの推理のプロセスを楽しむことができる。
「赤の賛歌」
ある種わかりやすいミステリネタであると思える。それでも単に伏線を張り巡らしただけでなく、心理的な面に深く入り込んでいく真相はなかなかのもの。
「火事酒場」
“身長が低くて消防士になれなかった”という言葉が思いのほか利いてくるのには驚かされた。ただ、他にも色々と伏線があったように思えたのだが・・・・・・レッドヘリングであったのかな?
「亜愛一郎の逃亡」
亜愛一郎が活躍する最後の作品。今回は亜自身が謎となり、皆の前から姿を消すこととなる。さらにはその正体が暴かれ、見事な大団円が待ち受ける。
<内容>
怪しげな心霊術の実演などをしながら全国を練り歩く正体不明の外国人ヨギ ガンジーと、旅を共にする不動丸と美保子。三人は青森の恐山で一冊の本を入手する。それは新興宗教団体が出版した「しあわせの書」というもの。この宗教団体に興味を抱いた三人は、当てもなく、なんとなく団体本部を訪ねてみる。そこで彼らは、新興宗教の跡継ぎ問題に巻き込まれ、断食修行を先導することとなるのであったが・・・・・・
<感想>
昨年(2013年)話題になり、復刊されたことにより入手することができた作品。実はこのヨギガンジーが活躍する作品を読んだことがなく、初読を楽しむことができた。
ミステリといいつつも、最初はこれといった謎が提示されるわけではない。何やら怪しげな宗教団体があり、それを主人公ら三人(彼らのほうが怪しげだが)が興味本位で調べていくというもの。そうこうしているうちに、奇妙な断食修行に付き合わされることとなり、最後に物語の全貌が明らかにされる。
最後の最後に、“しあわせの書”に関する謎が明らかにされ、それがこの作品の目玉と言えよう。そこには二つの真実が隠されており、ひとつは物語の内容にかかわるもの。もうひとつは、読んでお楽しみということで。ただ、近年のミステリファンであれば、こういったものを得意として書く作家がいるので、目新しくは感じられないであろう。というか、書かれた年代からすれば、これこそが元祖というべきなのか。
<内容>
第一話 「ルビーは火」
第二話 「生きていた化石」
第三話 「サファイアの空」
第四話 「庚申丸異聞」
第五話 「黄色いヤグルマソウ」
第六話 「メビウス美術館」
第七話 「癸酉組一二九五三七番」
第八話 「黒鷺の茶碗」
第九話 「南畝の幽霊」
第十話 「檜毛寺の観音像」
第十一話「S79号の逮捕」
第十二話「東郷警視の花道」
<感想>
泡坂氏によるユーモアミステリ連作短編集。妖盗S79号と名乗る怪盗とそれを追いかける東郷・二宮両刑事との対決を描いている。
初っ端の「ルビーは火」で東郷・二宮両刑事が登場し、さらにはそこに登場した人物が次の「生きていた化石」にも総登場していた。同じ人物を使いまわししてゆくのかと思いきや、三話めからは基本、東郷・二宮以外は登場しなくなった。無理やり同じ人物ばかりずっと使いまわしされたらどうしようと思ったので、三話目からの描き方については良かったと思える。
ただ、全体的に怪盗対警察の構図もチープなもので、あまり見どころは少なかったような。たぶん“ユーモア”のほうに特化した作品ということなのだろうが、それほど読んでいて楽しくはなかったかなと。まぁ、古い作品なのだから仕方ないと思いきや、あとがきにて、この作品が単行本化されたのが綾辻行人氏の「十角館の殺人」が出たのと同じ年代だということに驚かされる。
各短編のなかでは第四話の「庚申丸異聞」が面白かった。演劇が行われている中で、突如そこから怪盗と警察の対決の構図が現れてくるという様相に驚かされる。
全体的に読むのに結構時間がかかったなと。後半になってからは、そのノリに慣れてきたのかだいぶページをめくるスピードがあがってきたように思えたが、それでもやや読み進めづらかった。強引なような気もするが、最終話では意外としっかりとまとめていたなという感じ。
<内容>
「奇跡の男」
「狐の香典」
「密会の岩」
「ナチ式健脳法」
「妖異蛸男」
<感想>
泡坂氏のノン・シリーズ作品集。なかなか味わい深い作品が集まっている。
「奇跡の男」は、幸運な男と称されるものの真実を描いた作品。似たような趣向のものが亜愛一郎シリーズでもあったような気がする。“奇跡の男”の裏側に隠れた犯罪計画はなかなかのもの。
「狐の香典」は、一番味がある作品と思わず感じ入ってしまった。ただし、ミステリとしてではなく、あくまでも小説として。とある登場人物の心持になんとも言えないものを感じてしまう。
「密会の岩」は、ちょっとしたエロティック・サスペンスといった感じ。そのノリで明かされる、バカミスっぽい真相が面白い。
「ナチ式健脳法」は、雪の上の足跡にまつわるミステリ。ただし、そのトリック自体はさほどのものでもない。ただ、トリックというほどのものでもないバカバカしさが、何気にいい味を出している。
「妖異蛸男」は、密室殺人を描いたミステリ。これぞバカミスと言いたくなるようなトリックが扱われている。奇想系とまでは言えないものの、それなりに本格ミステリしていて楽しめる一編。
「奇跡の男」 バスの転落事故で生き残り、宝くじの特賞を当てた幸運な男の顛末は!?
「狐の香典」 小料理屋に刑務所帰りの男が現れたことから始まる綺譚。
「密会の岩」 浜辺の民宿で過ごしていた画家が女子大の体操部員と知り合った後、殺人事件に巻き込まれる。
「ナチ式健脳法」 雪上の足跡を巡る殺人事件。
「妖異蛸男」 浴室で起きた密室殺人事件。犯人は蛸男??
<内容>
記憶が覚束ないという中村千秋という人物。千秋は透視をしたり、先を見通す不思議な力を持っているらしい。そして千秋はとある事件の犯人を透視で当ててしまい・・・・・・
<感想>
1994年に出た作品が20年ぶりに復刊。これは古本屋では買えない作品。というのは、ページが16ページごとに閉じられていて、そのままの状態で一つの短編作品として読むことができる。そのページを開封して読むと長編作品が現れるという趣向の作品なのである。本書が出た当時、興味がわいたのだが、買わずじまいで後から後悔してしまった。それがうれしいことに復刊されたので、今回ようやくこの作品に触れることができた。
短編作品としてはひとつの幻想作品のような感じ。長編作品としてはヨギガンジーが活躍する(というほどでもない?)、胡散臭い超能力の正体を暴くという内容。本書の目玉としては何といっても、短編パートに書かれていた作品が長編パートではどのように書き表されているかということ。
実際に読んでみた感想はというと、長編に関しての内容はなんとなく微妙なような・・・・・・この作品の構成を意識してか、話の流れが微妙とも感じられた。構成上しょうがないのかもしれないが、なんとなく長編小説部だけをとりあげると、いまいちのようにも。
ただ、短編小説と併せて考えると、かなり深い作品ともとらえられる。というのは、最初短編を読んだ後に長編を読んでいると、先に読んだ短編と本編の長編とは別の話なのかなと思われたのだが、最後まで読むと実はこれらが密接に関連しているのではと考えられるのである。深読みしても整合性が覚束ないような気もするのだが、さらに深読みすれば整合性がきちんととられているようにも感じられるのである。
両者を総合して考えると、長編の最終的な真相がうまく短編と絡み合い、一連の物語をきちんと創り出しているように思えてしまうのである。ただ単に短編と長編が読める作品というわけではなく、妙な深みのある一連の流れの作品として昇華した内容といえるのではなかろうか。
<内容>
「鬼子母像」
「弟の首」
「鳴き砂」
「ライオン」
「他化自在天」
「指輪の首飾り」
「竹夫人」
「三郎菱」
「ジャガイモとストロー」
「色縫い」
「幕を下ろして」
「連理」
<感想>
ミステリ作品集ではなく、テーマとして女の“性(サガ)”を描いた作品集といったところか。女性というものを描いているにもかかわらず、その多くの作品が男性視点から描いているところもまた興味深い。
好みの作品としては幻想色の強い「竹夫人」。怪奇的というのであれば「鬼子母像」「弟の首」。
一人の女性の人生を支え続けたトリックについて描く「ジャガイモとストロー」も印象的。
本書のテーマと考える(あくまでも個人的にだが)女というものを描いた作品としては「指輪の首飾り」や「三郎菱」が心に残る。
成熟した大人が読むに耐える、大人のための小説集。
<内容>
女奇術師・曾我佳城が活躍する短編作品を全て網羅したミステリ作品集。
(秘の巻)
「空中朝顔」
「花火と銃声」
「消える銃弾」
「バースデイローブ」
「ジグザグ」
「カップと玉」
「ビルチューブ」
「七羽の銀鳩」
「剣の舞」
「虚像実像」
「真珠夫人」
(戯の巻)
「ミダス王の奇跡」
「天井のトランプ」
「石になった人形」
「白いハンカチーフ」
「浮気な鍵」
「シンブルの味」
「とらんぷの歌」
「だるまさんがころした」
「百魔術」
「おしゃべり鏡」
「魔術城落成」
<感想>
長らく積読であったこの作品をようやく読了することができた。2006年から読み始めていたのだが、結局年をまたいでしまった。本書を購入したきっかけは、その年の「このミス」で一位になったことであったのだが、そのときハードカバーを買ってからなかなか手を付けず、そうこうしているうちに文庫版が出版されてしまった。結局、なんとか手を付けるきっかけにしようと文庫までもを買って読むことにしたのだが、またそれから読もうと思うまでにだいぶ時間がかかってしまった。
本書の内容が面白いことは十分に請合えるのだが、一気に読み通すというような性質の本ではないと思える。ゆえに、一編ずつじっくりと読んでいき女奇術師・曾我佳城の人生を堪能していくという作品集である。
「空中朝顔」
短い物語であり、肝心の曾我佳城もほんの少ししか登場しないのだが、朝顔に秘められた思いを実にうまく描いた良作といえよう。“空中朝顔”に秘められた思いを見事に描いた作品。
「花火と銃声」
この作品集のなかでは一番よいと思われた作品。警察は弾丸の痕跡から犯行当時の状況を描こうとするのであるが、それを逆手に取った犯人の奇想がすばらしい。
「消える銃弾」
実際に怪我をしたり、死人が出たりしたことのある拳銃による奇術を用いたミステリー。
ただ、トリックとして考えてみると、奇術師しだいによってどうにでもすることができそうなので、ミステリーとしてはさほどのものではないと感じられた。それよりも後に佳城の弟子となる串目少年の登場が一番のポイントであるのかもしれない。
「バースデイローブ」
読んで感じたことは、紐の結び目の描写というものは難しいなと。頭だけで考えてもなかなか理解しにくい。
内容は、被害者が絞殺され、ロープの結び目がポイントになるというミステリー。実は物語の最初から既に事件に絡んだ構成となっていることに気づかされることに。なかなかうまい構成の作品と言えよう。
「ジグザグ」
舞台で手品の手伝いをした人の死体が奇術道具の中から発見される。なぜか胴体だけは見つからなく・・・・・・という内容。
曾我佳城が推理をするものの、その推測が飛躍しすぎているというような印象を受けた作品。
「カップと玉」
暗号ミステリー。奇術師らしい暗号が見物である。とはいえ、全体的にドタバタ劇であるため、佳城が解き明かすような内容の作品ではないと感じられた。
「ビルチューブ」
お札を消し、意外なところから出現させるという手品。その手品が行われた後、盗難事件が起こるというもの。
佳城の犯人に対する罠のかけ方が面白く、奇術というものがふんだんに扱われた作品。
「七羽の銀鳩」
手品で使用する七羽の鳩が盗まれるという作品。
その動機や最後の展開が意外であるのだが、もう少しラストの展開に対する伏線を張っておくべきであると感じられる。
「剣の舞」
手品用の剣が凶器として使われる連続殺人事件。
サスペンス色をあおるような書き方がうまいと感じられた。なかなかしゃれた作品。
「虚像実像」
“虚像実像”という手品の最中に舞台の上で奇術師が殺害される事件。
そのトリックよりも動機に目を見張るものがある。その動機を明らかとする串目少年の一言が秀逸。
「真珠夫人」
曾我佳城の外伝的な物語。
「ミダス王の奇跡」
雪の中の足跡トリック描いた作品。何故か旅館の女将が曾我佳城。
トリック自体は独創的であるのだが、うまくいくのかどうかが疑問。しかも、作中では失敗の仕方もうまい具合に行き過ぎているような気が・・・・・・
「天井のトランプ」
“天井に張り付いたトランプ”という謎自体が魅力的。一度、試しにやってみたくなってみるトリックである。
ミステリとしての内容は、“天井のトランプ”によりダイイングメッセージを示しているものの、メッセージの内容としてはわかりにくい。しかし、よくよく考えてみれば、特定の人のみに向けたダイイングメッセージであるがゆえにうまくできているといってよいのであろう。
「石になった人形」
腹話術師が殺害され、残されたトランクにはなぜか大きな石が残されていたという内容。奇術ミステリ作品集だからこそ、読んでいるほうとしては考えもしないようなトリックである。でも昔このような方法を用いた腹話術師がいたとしたなら、それはそれで見てみたい。
「白いハンカチーフ」
曾我佳城がテレビ番組に出演し、食中毒事件の概要を聞く中で犯人を指摘するという、本編中では異色の構成の作品。
ミステリとしての内容もまた異色であり、心理的な面に強く踏み入ったものとなっている。推理としてはいささか飛躍しているように感じられるものの伏線はきちんと張られており、なかなか見所のある作品となっている。
「浮気な鍵」
鍵のかかったマンションの部屋にどのように出入りしたのか? ということがポイントとなる内容。密室作品というよりは、“鍵もの”とでも言ったほうがふさわしいかもしれない。ただ、そのトリックの説明がややこしいものとなっている。
それよりも、ここに登場する人物たちが破天荒な人たちでそちらのやり取りのほうが面白かったりする。
「シンブルの味」
曾我佳城らと共に旅行をしていたうちの一人がバラバラ死体で見つかるというもの。その死体の腹の中からシンブルが出てきたことにより身元が知れるのだが・・・・・・という作品。
全貌が明らかになれば、それなりには納得はできるものの、推理の根拠や犯人の行動になんとなく腑に落ちないものが残ってしまう。
「とらんぷの歌」
これは犯人の意外性・・・・・・というよりもうまくミスリーディングを誘っている作品と言ったほうがよいのであろう。ただし、本編中のミステリの部分よりも“いろは歌”のような“とらんぷの歌”のほうにどうしても興味がいってしまう。
「だるまさんがころした」
怪盗が跋扈する冒険活劇かと思えば、実はちょっとした恋の話に収まってしまっている。
ミステリとしての内容云々よりも、作中に出てくる仕掛けの施された奇術の品の数々を実際にこの目で見たいと思わされる作品。
「百魔術」
“百物語”ならぬ“百魔術”を行っている最中に死者が出てしまうという作品。これは、なんか普通に分かりやすい作品、という印象しか残らない。奇術師たちが集う中で行う殺人にしてはお粗末なのではと。
「おしゃべり鏡」
鏡によるトリックは、トリックというかちょっとした発見のようなものなのだが、よく思いついたなというたぐいのもの。ただ本編はそれだけではなく、その構成に見るべきところがあると思える。この作品では犯行が明らかになる前に、不審な点に気がつき、さらには犯人まで特定されてしまうというもの。そして、最後の警察と犯人とのやりとりを見せられると、感心させられるとともに、ちょっと噴出してしまうという場面までが挿入されている。
「魔術城落成」
本編が曾我佳城が登場する最後の作品となっている。なるほどラストはそのような展開が待っていたのかと思わされはするものの、ここまでこのシリーズを読み続けてきた読者が納得するようなラストとはとうてい思えなかった。とはいえ、ミステリであるからこそ、このような締めこそが必然であるのかもしれない。
<内容>
(一の部屋/職人気質)
風神雷神
筆屋さん
(二の部屋/奇術の妙)
胡蝶の舞
スペードの弾丸
赤いロープ
(三の部屋/怪異譚)
思いのまま
お村さんの友達
(四の部屋/恋の涯)
比 翼
記念日
好敵手
花の別離
<感想>
特にテーマは決まっておらず、色々な短編が読める作品集となっている。その多彩さに、もう少し内容を絞ってもらってもと思いつつも、逆に多彩だからこそ飽きずに読み通すことができるという利点もある。
繰り返すようであるが、本当にその多彩さは見事であるという他ない。人情物語もあれば、ミステリーもあり、ホラー・テイストな作品までも楽しめる。ただ、このへんまでなら予想の範囲であったのだけれども、SM的な作品や、超常現象的な作品といった何が飛び出すかわからない作品までもが含まれているのだから、先入観なしに読めばこの本の構成こそがミステリーだと思わされてしまう。
特にどれがという突き抜けたものはないにしても、佳作ぞろいの作品群に楽しませてもらえること間違いなしの本。
<内容>
「雪の絵画教室」
「えへのの守」
「念力時計」
「蚊取湖殺人事件」
「銀の靴殺人事件」
「秘宝館の秘密」
「紋の神様」
<感想>
さまざまなジャンルの泡坂作品が収められた作品集。
「雪の絵画教室」と「蚊取湖殺人事件」は謎解きを中心とした本格ミステリ。ちなみにこの2作品以外は文庫オリジナル収録となる。
「えへのの守」と「紋の神様」は家紋にまつわる話。「念力時計」は“曾我佳城”シリーズに登場する機巧堂の店主が登場する、ちょっとオカルトめいた作品。「銀の靴殺人事件」と「秘宝館の秘密」はミステリ作品ではあるが、サスペンスドラマ風のさらっとした作品。
「雪の絵画教室」はアトリエで起きた殺人事件を雪道に付けられた人の足跡と自転車の車輪の跡から犯人の行為を推理するというもの。これに人里離れた地で起きた大量殺人事件をからめた話となっている。話としてうまくできているのだが、素材を生かしきるにはページ数が足りなかったようにも思える。
「蚊取湖殺人事件」は何かのアンソロジーで読んでいたような気がする。湖のほとりで起きた殺人事件を包帯という奇妙な凶器をヒントして、読者に挑戦している作品。これは問題編と解答編にわかれているので、一度挑戦してみてはいかがか。とはいえ、詳細まで解き明かすのはちょっと難しいような気も・・・・・・