<内容>
北海道、小樽の運河のボートの上にウエディングドレスを着た女性の死体が放置されていた。しかもその死体の部位は六人の異なる女性の体を合わせたものだったのだ。しかも切断個所の生命反応から女性達は生きているうちに殺されたということがわかった。 これが「堕天使殺人事件」の惨劇の始まりであった。
堕天使から届く女性の切断現場のビデオ
バスの中の集団殺人 消えた新聞記者
ウエディングドレスの謎 密室での惨殺死体
空飛ぶ堕天使
謎をかきまわすどっかで見た探偵達(作家達かも?)
果たしてこれらの謎を解くことができるのか? できるのか? 芦辺拓?
<感想>
初のリレー小説ということでどんなものかと思ったがそれなりにうまくできてるもんだと感心してしまった。やはりそれぞれの作家の力量だろうか。ただ、作家に対して好き嫌いがあるので少々贔屓目に見たり厳しく見たりしてしまう部分もあった。
第一章は後に期待させるうまい出だしだと思った。この出だしが自分にとっては最後まで読ませた原動力であったと思う。それにしても途中の村瀬氏の自分で提示した謎をその章の中で自分で解いてしまうのは反則だろう。一つの内容としては非常に面白いものであったがリレー小説としてはまずかったのではと思う。ラストのほうでは谺氏、愛川氏が非常に盛り上げてくれたのだがそのテンションを芦辺氏は下げてしまったように思える。(森江春策のせいか?)芦辺氏の内容や解き方はすばらしいものだったが、スピード感を落としてしまったのが残念であった。
それでも次回のリレー小説も期待していいのではないだろうか。
<内容>
学園祭前日のS大学付属高校で、生徒が死体を発見した。死体の主は、学校中から嫌われていた女教師・五百旗田真子。殺人事件の発生によって学園祭が中止されることをおそれた生徒達は、学園祭が終わるまで死体を隠し通そうと決意。死体をクマの着ぐるみにつめてカムフラージュしたのだが・・・・・・
<内容>
新宿副都心に開設された『EDS 緊急推理解決院』。そこには、専門分野ごとの探偵師たちが詰めていて、常時市民の相談にのり、その推理によって謎を快刀乱麻のごとく解いてしまうのであった!
石持浅海、加賀美雅之、黒田研二、小森健太郎、高田崇史、柄刀一、鳥飼否宇、二階堂黎人、松尾由美の9名による合作長編。
<感想>
これは“うまく”というよりは“無理やり”という感があるものの、よくぞ長編の形態にまで持っていくことができたなと感心してしまった。
本書は“EDS”という世界を用いての各作家による短編集と言って良いのであろう。ただ、それを本当に短編集という形にしてしまったら、普通すぎて面白くない。そこで、各作家が書いた作品をつぎはぎのようにして、無理やり時系列に当てはめてひとつの長編として創り上げたのが本書である。
はっきり言って、このような形態にしたからこそ、短編小説としての完成度が薄くなり、長編小説としても不恰好という気はするのだが、これは意欲的な作品として認めたいものである。それにしても、最終的に誰がどのような形でまとめあげて、このような形態にしたのか、その作り方を聞きたいものである。
内容については、本書を読んで思い起こすのは清涼院流水氏の“JDC”。これを各作家がいろいろなキャラクターを持ち寄ってひとつの施設を作ってしまったという感じ。
ここで惜しく思えるのは、今回参加した各作家の多くが、これという探偵キャラクターを持っていないこと。例えば、二階堂氏であれば渋柿というキャラクターを配したりという事ができたのだが、他の作家が扱った探偵は知名度というパンチ力が弱かった(当然、ここでしか登場しないというキャラクターを扱った作家もいたし)。ここでオールスター揃い踏みという事にでもなれば、また違った面白さが出てきたのではないかと思う。
何にせよ、こういう企画は大歓迎。作品の完成度はとりあえず置いておいてかまわないから、どんどんチャレンジしていってもらいたい。
<内容>
第一章「消えた山荘」 笠井潔
第二章「幽霊はここにいた」 岩崎正吾
第三章「ウィンター・アポカリプス」 北村薫
第四章「容疑者が消えた」 若竹七海
第五章「吹雪物語(−夢と知性)」 法月綸太郎
第六章「《時は来た・・・・・・》」 法月綸太郎
第七章「雪の中の奇妙な果実」 巽昌章
<感想>
この作品では改めて“リレー小説”というものの難しさを実感することができた。
今作では、話がそれすぎないように、登場人物を限定したり、現場も山荘の周辺限定で行うという試みがなされている。それにより、最初は話し自体が締まっていると感じられ、これは結構うまくいくのではないかと思われた。しかし、中盤へ行くとその試みが枷となり、話が全くといってよいほど広がらず、短編小説のネタを長編にむりやり引き伸ばしているように感じられた。
また、今回他の作家にとって枷になったのではと思われたのが、ナディア・モガールと矢吹駆の存在。矢吹駆自身は登場はしていないものの、彼を示唆するような出来事は多々述べられている。とはいえ、フランスでナディアと駆が分かれた後の日本での再開という、シリーズにおける重要な役割を果たすものを、他の作家が背負わされても困るのではないかと痛切に感じられた。まさか、駆を殺害してしまったり、犯人にすることもできないし、そういった意味でも扱いにこまる要素にしかならないのだから、リレー小説にもってくるネタとしてはどうかと思われた。
また、最終章を押し付けられた格好の巽氏には気の毒としか言いようがないのだが、他のそうそうたる作家の面々に比べてしまうと、読みやすさという点が気になるところ。しかも、登場していた主要人物達それぞれを用いて視点を変えながら書くという難しいことまでわざわざやってしまうのだから、さらに読みにくさが倍増してしまったように思える。
結局、今回はミステリとしてトリックをどうこう転がすというものではなく、物語をいかにして続け、いかにして回収して、それらしいものとするかに終始するリレー小説となってしまったようだ。よって、推理小説としては物足りなさが残るだけの結果となってしまった。
<内容>
「くしゅん」 北村薫
「まよい猫」 法月綸太郎
「キラキラコウモリ」 殊能将之
「ブラックジョーク」 鳥飼否宇
「バッド・テイスト」 麻耶雄嵩
「依存のお茶会」 竹本健治
「帳 尻」 貫井徳郎
「母ちゃん、おれだよ、おれおれ」 歌野晶午
「さくら日和」 辻村深月
<感想>
9人の作家によるリレー短編小説集。ただし、リレー小説と言っても話が続いているわけではなく、細かい縛りもない。前に書いた人がお題を決めて、次の人にバトンタッチするだけである。とはいえ、単語一言のお題から、きちんとした短編小説を書き上げてしまうのだからたいしたものだと感心してしまう。
どれもがちょっとした短編なので強烈なものはないのだが簡潔に読めて、かつ、名の知れた作家が書いているのだから読み出すとやめられなくなる。特に「法月→殊能→鳥飼→麻耶」というリレーはレア過ぎて、読書を中断するのさえもったいないくらいである。
また、ただ単にもらったお題から短編を書くとはいえ、それぞれの作家のスタンスが異なるのもまた面白い。前の作品とつなげようとしてみたり、前の作品のフレーズを利用したり、話そのものをそのまま用いたり、はたまた全く関係ない物語を入れてみたりと、縛りがない分色々な書き様を見る事ができて実に興味深い。
このようなリレー小説であれば、また似たような企画をやってくれるかもしれない。これは書きやすい形態のリレー小説といえよう。個人的にはこれだけの作家が集まったのならば、ミステリ・リレー小説を書いてもらいたいところなのだが、むしろこの面子でやると始めてからいつ書きあがるのかがわからないので要求すべきではないのであろう。