<内容>
謎の重武装軍団が日本海沿岸の原発を狙う。機動隊は殲滅され、住民は一斉に非難。折しも日本海では米原潜の頭上でロシア船が爆発炎上。航行不能となった原潜を挟み「北」と米日韓はまさに一触即発。その時東京で、米国大使館と警視庁に同時爆弾テロ。さらに衆参両議員に仕掛けられる青酸爆弾。誰が、一体何のために?
<感想>
Cの福音はおもしろいとは思えなかったのでこの作品も単行本を買うのは差し控えた。文庫で出たので期待せずに読んでみたがなかなか面白かった。
クーデターの計画がそれなりにおもしろく、主人公の視点よりもそちらの方が楽しめた。クーデターという言葉は海外のニュースではよく聞くものの、日本ではほとんど耳にしない。さらには日本国内においてクーデターを実行しようと考えている者はまずいないであろう。本書では日本においてもしクーデターを成功させるならば、このように行うしかないと思わせる。いろいろな意味でも興味深い本となっている。
ただ、それだけに全編にわたり、偶発的な部分やあっけない部分などが多く見られてしまうのは残念だ。思いきってシリーズ化とは別にクーデターを成功させる小説にしたほうが面白かったのではなかろうか。
<内容>
「Cの福音」の続編。朝倉恭介が再び登場。
ニュヨークを舞台に朝倉恭介がマフィアの抗争に巻き込まれ、開拓してきた日本のコカインルートの存続の危機にあう。復讐と憎悪に朝倉恭介の冷たい血が沸き立つ。
<感想>
なかなか読み物としては面白く一気に読めるのだが、内容が薄く感じられるのはなぜだろう。また、主人公である朝倉恭介の話の割には登場回数が少ない様に思える。話の内容よりアメリカの実状とか背景とかに力を入れすぎているような気が・・・・・・
前作の「クーデター」でもそうなのだが、確たる主人公を登場させたシリーズ物としているのならば、もう少し登場人物らの造形や活躍に気を配って欲しいものだ。そうしないのであれば、かえってノン・シリーズとしたほうが余分な部分が削除され、もっと良い作品になると思う。著者のなかでは主人公同士の対決をと青写真を描いて書いていっているようだが、肝心な主人公たちに思い入れがなければその狙いというのも無意味になりかねないだろう。
<内容>
巨人現る! 前代未聞の怪事件に自衛隊が出動する大騒ぎとなる。ところが、巨人とコミュニケーションがはかれることが判明した。危害はないとわかった途端、官僚たちは管轄官庁を押し付け合い、一方では金儲けを考えて算盤を弾く者が出てくる。この怪物の正体は何なのか?
<感想>
東京湾にゴジラのような怪物が出現したら、国家総出で攻撃すればよい。しかし、一般人が巨大化したかのような者が突然現れたら、いったいどうすればよいのか? 物語はコメディー調でありながら、実に現実的な話へと向かっていく。巨人の保護におおわらわする官僚の様子などはあまりにも想像がつきすぎて笑いを誘う。
その後、巨人の利権を巡る話へと発展していくのであるが、これはおもいっきりバブルの象徴であろう。最後まで読めば誰もがそう思うはず。それを形を変えて右往左往する人々を嘲笑うかのように風刺した社会小説となっている。小説とは心温まるぶぶんなどもあり、読み応えはあるのだが、果たして笑って良いものか悪いものか・・・・・・
<内容>
インターネットに“凌辱”され、ネット社会への“復讐”を誓った天才プログラマー、キャサリン。高度3万フィートの上空で、突如操縦不能に陥った2機のハイテク機。犯行声明HPには全世界から7000万人がアクセス。だが、そこには恐るべき罠が・・・・・・。世界を音もなく破壊し尽くす凶悪なウイルス“エボラ”が動き出すのはいつか?
<感想>
同じインターネットにからむ小説であったためか、服部真澄著「鷲の驕り」がだぶってみえた。そして長い序盤を過ぎると、捜査不能の飛行機が舞台にでてきて、物語は一気に加速し始める。半分を過ぎたところからは一気に読むことができた。
最近よく取り上げられるようになった、インターネットによる恐怖を取り扱ったものでウイルスをからめ、コンピュータ社会の崩壊を描いている。これを読むと、昔の「日本沈没」という小説を思い出す。まさに「クラッシュ」は現代版「日本沈没」といえよう。ただしこれは、日本が海底に沈むとか大地震がきて日本が壊滅するというような視覚的に理解できる壊滅ではない。気がつくと壊滅状態に陥っていた、壊滅状態にならざるをえない状態にあった、という壊滅である。だれもがコンピュータ社会のもろさを感じていながらも、そのコンピュータに頼らざるをえない社会状態への痛烈な皮肉ともとれるかもしれない。またこれは新たなるテロや戦争への黙示禄といっても、2000年問題に対しての社会の騒ぎ様などからすると笑ってもいられないのかもしれない。
しかし、それにしてもこの話しの主人公と思えた川瀬雅彦君は目立っていない。存在理由を問われてもおかしくないぐらいである。どちらかといえばこの話しに関してはキャサリンこそが主人公なのであろうが、川瀬君・・・・・・。こんなことで朝倉恭介と対決できるのだろうかと不安になってしまう。朝倉に勝つには必殺技の偶発的な敵の失敗に頼るしかないのだろうか? がんばれ川瀬雅彦!!
<内容>
世界の大国アメリカを滅ぼそうと在日米軍基地に仕掛けられる恐怖のウィルス兵器・・・・・・危機管理ゼロの日本を襲う最悪のシナリオ!「北の陰謀」を未然に防ぎ、テロリストを殲滅せよ。密命を帯びて沖縄に飛ぶ恭介を待ち受けるものは? 皮肉な運命の糸のねじれか、追われるべき恭介がCIAの工作員として「北」の男を追う!!
<感想>(2001年10月23日)
この小説を読む前に世界では、アメリカでの同時多発テロ、タンソ菌、また日本では狂牛病、とさまざまな事件が起きていた。そして本書を手にとって見ると、これらのキーワードが全て含まれていることに驚く。本書の前の作品の「クラッシュ」ではインターネットウィルスの恐怖を描いていたが、それらも現に日本もしくは世界中で規模は小さいものの様々な問題を起こしている。これらの事実を思い返すだけでも楡氏の作品が現代において起こりうる新しい形の恐怖について訴えかけているように感じる。
内容のほうだが、今回はかなり朝倉恭介が活躍してくれる。都合が良すぎるような気もするが朝倉恭介がさらにパワーアップし、着々と悪(?)の道を爆走している。いままでの作品では、舞台背景のほうに力を入れすぎているような気がして小説としてはどうか?とも思っていたが、今回はバランスが良かったと思う。また主要登場人物が絞られていたせいもあり読みやすく、小説としての面白さを堪能できた。
さて、次回作がとうとう朝倉恭介シリーズの最後となるのだが、絶頂期にある朝倉恭介がどうするのか? さらには周りを取り巻く人々はその朝倉をどうするのか? 非常に興味深く思える。
<内容>
自らの全知力と肉体を振り絞って作り上げた完璧なコカイン密輸のシステム。悪のヒーロー・朝倉恭平の完全犯罪が、ついに白日の下に。追う警察、暗殺を企てるCIA、そして訪れた川瀬雅彦との決闘。はたして恭介は逃げ切ることができるのか?
<感想>
全6作にして終結した朝倉恭平・川瀬雅彦シリーズ。全ての作品にいえることは、キャラクター小説というよりは、社会派の色のほうが強い小説となっている。
その社会派としての部分であるが、近代社会情勢における危うさを予言しており、これら作品の発売以後に起きた社会状況を考えると見事に将来を予見していたという他はない。インターネット社会、そしてそれにともなうネットウイルス。さらにはテロリズム。こうしたことに著者は先見の明をもっており、近代社会に対する警句を与えるという点では社会派小説としては見事である。
ただ、これらの作品群をエンターテイメント小説として見た場合はどうであろうか。客観的に見て、さほどブレイクしたとはいえないような気がするのだ。(肝心の宝島社によるこのミスでも取上げられてはいないようだし)というのも社会派的要素が強すぎて、キャラクター小説としては中途半端になってしまった点が上げられると思う。朝倉や川瀬の活躍がこれらの作品群のなかで本当になされたのだろうか? 悪のヒーローとか正義のヒーローとかというレベルには達し切れなかったのではなかろうか? さらに付け加えれば、朝倉や川瀬らが活躍する活劇部分において、偶然による要素というのが多すぎたように思える。全作品において、偶然により命が助かったり、偶然により予定が変更したりというような事が多かったように思える。ある意味、著者にしてみれば現実においてはそれが当然であるという見方もあるのかもしれないが、それでは読者を納得させきることはできないのではないのだろうか。
今後の期待も望まれる著者ではあるが、ノンフィクションとフィクションをうまく融合させることができないのであれば、ノンフィクションの方面を強く押し出しいくようなものに切り替えていったほうが良いのではとも感じられる。
<内容>
スバル運輸の営業次長・吉野は独自のアイディアを次々と打ちたて、抜群の営業成績を誇り、会社をけん引してきた。しかし、その強引な手法により、評判が悪かったせいか、会社で新たに構築した部門・新規事業開発部へと左遷されることとなった。しかもその開発部で年間四億の売り上げをあげろと・・・・・・。いったんやる気を失った吉野であったが、画期的な物流システムを思いつき、それを行うことによって会社に莫大な利益を挙げられると確信する。吉野はなんとかその巨大ビジネスを成し遂げようと奔走するのであったが・・・・・・
<感想>
久々に楡氏の作品を読んだ(と言っても、この本に関しては積読にしていただけなのだが)。読んでみるとリーダビリティがあって、一気に読めてしまった。
本書は企業小説である。物流のシステムを描いたもので、中身はやや難しいと言えよう。しかし、物流に関して全くの素人である私が読んでも話がわかるように実にわかりやすく描かれている。楡氏の作品全般に言えることであるが、難しい内容を分かりやすく書くという手腕には優れたものがある。
この作品は、物流システムに関する独自のアイディアを実現させるまでの奮闘を描いた内容。基本的に主人公は剛腕凄腕の営業職である吉野という人物。ただし、この人物以外にも配送部で働く元野球選手や、新たに吉野の部下となった仕事のできない人物、吉野の存在を煙たがる上司など、重要な脇役が周囲を固めている。
企業の再生小説ではあるものの主人公が弱者というよりは、孤独ではあるが強者ゆえに、さほど感情移入できるものではない。ただ、徐々に仕事が進められてゆくにつれて、吉野の心情も変化してゆき、部下を育てるという自身に欠けていた資質に目覚めてゆくこととなる。そうして、吉野が強引に引っ張りつつ、数人の協力者とともに仕事を達成させようという、いつしか夢を追っていくというような内容へと変貌してゆくのである。
また、この作品で出されているアイディアも優れたものであり、さまざまな社会的な問題が組み入れられており、決して無視することのできない内容になっている。あくまでも巨大資本を持つ運輸会社ありきの内容ではあるのだが、そのなかには企業経営に必要なさまざまなヒントが盛り込まれているようでもある。
さまざまな経済書が出ているが、そうしたものが難しく読みづらいと思うのであれば、まずは楡氏の小説を読んでみてはいかがか。他にも楡氏による企業小説がいくつか出ているので、私自身もこれから何冊か読んでみようかなと思い直しているところである。
<内容>
米国フロリダに住む中学三年生の日本人少年・研一。彼は隣人の仲の良い少女パメラから、彼女が養父に性的虐待を受けていることを打ち明けられる。研一はパメラを救うためにパメラの養父を殺害する事を決意する。そうして実行した研一であったが、すぐに警察により逮捕されることに。彼は第一級殺人罪で法廷で裁かれることとなる。彼の運命は12人の陪審員にゆだねられるのだが・・・・・・
<感想>
これは良い小説と言えるだろう。何がよいかといえば、日本での裁判員制度を考えるうえでうってつけの小説と言えよう。この作品は2007年に単行本で出版され、わずか2年で文庫化されたわけだが、今年という調度良いタイミングで出版されたということにうなずける作品である。
本書ではアメリカで未成年の日本人少年が犯した事件が扱われている(あくまでもフィクション)。義憤にかられた少年が殺人事件を起こし、実際にこの少年が殺人を犯したということは明らかである。しかし、その事件を起こした背景からして、少年を重罪として裁くことの是非が問われている。
上記の説明では、あくまでも外国で起きた事件であり、日本の裁判員制度とは関わりはないのでは、と思われるかもしれないがそうでもない。なぜならば、本書では何故アメリカで陪審員制度というものがとられているのかという意義についてきちんと描かれており、その意義こそが法廷で少年を裁くうえでの焦点となっているのである。
この作品はひとつの事件を通すことにより、陪審員制度さらには日本の裁判員制度の利点欠点について考察されている。また、日本とアメリカでの少年犯罪の裁き方の違いというものについても描かれており、これもまた興味深く読むことができる。
日本で裁判員制度が行われるにあたって、どのように対応すればということが今話題になっているが、こうした作品を読んでその背景たるものがどうなっているかということを今一度確認してみるということも必要なのではないだろうか。本書は非常に読みやすい作品となっているので、興味があるかたは一読していただきたいものである。
<内容>
総合商社にて部長の責務を負う山崎鉄郎は順風満帆なサラリーマン人生を過ごしていた。そうしたなか、昔の友人から故郷の町長を引き受けてくれと要請をされる。彼の故郷は公共事業の繰り返しにより、莫大な借金を抱え、周囲の町から合併を断られる始末。そんな役職を引き受けられるか、と思っていた山崎であったが、ちょっとしたミスから出世街道を外れる羽目となる。結局、山崎は故郷の町長の職に付くこととなり・・・・・・
<感想>
楡氏による町おこし小説。公共事業により借金を抱えた、さびれた町を復興させようと、総合商社のサラリーマンから町長に転身した男の奮闘を描く。
通常、町おこし、村おこしといえば、楽しげなイベントを起こしたりとか、地域の物産を流行らしたりとか、そういったものをイメージしやすい。しかし、ここで描く町おこしは、なんと老人向けの総合施設を建設するという、これまた現実的なもの。
さびれつつある地域の町、増えすぎた老人と老後の生活、こうした日本が抱える問題を取り上げ、正面から立ち向かった内容の小説となっている。これらの話は、考えさせられるどころか、考えなければならない問題だと、思い悩まされる。特に自分もそこそこの年齢であるので、会社を退職した後は? とか、会社を定年まで勤め上げることができるのか? とか考え込んでしまうことはあるので、60歳、65歳を超えた時の生活はどのようなものになるのかというのは重要な問題。
ここに描かれているように、うまく企業を誘致出来て、順風満帆に! とは実際にはそううまくはいかないだろう。とはいえ、これくらいの夢は見させてもらってもいいのではないかと思わされる内容。でも、お金がなければ、そこで住むことも・・・・・・と考えると気が重くなってしまったり。
なんか、内容を楽しむというよりは、今後のことをあまりにも深く考えさせられる小説。でも、こういったことも重要なんだろうなぁと考えさせられただけでも良かったのかもしれない。まさに、これぞ大人のための小説と言えよう。読みやすい小説であるので、40歳以上は必見!!
<内容>
日本自動車工業は新社長牧瀬のもとで、新たなエコカーを開発し、国内販売台数第1位を目指そうとしていた。開発により、従来のものより燃費はよくなるものの、これという強烈な売り文句がなく、広報戦略としては滞っていた。そうしたなか、ひとりの社員が環境問題を打ち出し、あらたな考え方を会社にもたらすこととなり・・・・・・
<感想>
タイトルの“ゼフィラム”はラテン語でゼロを意味する。ただ、それだと本の内容がわかりにくいからか、文庫本には“CO2ゼロ車を開発せよ”という副題がかかげられている。副題についても実際の内容と比べると微妙ではあるのだが、おおざっぱにいえばそんな感じ。つまり、エコカー開発に関する内容が書かれている。
ただ、内容がメカニックなものかといえば、全くそうではない。ここではエコカーを売るためのビジネスモデルの構築について描かれている。ただ単に燃費がいいとか、そういったことだけではなく、一般の人々の強烈にアピールすることができ、環境問題などを取り入れつつ、かつ将来的に企業の利益となるようにという非常にハードルが高い内容。そうした点を踏まえてのビジネスモデルのひとつがここに表されている。
おおざっぱにいえば、エネルギー問題と車の発展性とをひとまとめにするというビジネスモデルが構築されているのだが、結構納得させられてしまう。たぶん、この作品に書かれているほど完全な道筋を立てているような企業はないものの、似たようなことは現在行われていそうな気がする。
実に説得力のある内容の小説なのであるが、その分、やや小難しいというか説明が多すぎるような感じがした。基本的にはビジネス書を読まされているような気分。読みやすいビジネス書と見るべきか、読みにくい小説と見るべきか。エネルギー問題や、エコカーの未来に興味がある人に読んでもらえればいいのではないかと。