綾辻行人  作品別 内容・感想

迷路館の殺人   7点

1988年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 風邪をこじらせ寝込んでいた島田のもとに一冊の本が届く。「迷路館の殺人」鹿谷門実著。その内容は、推理小説の老大家・宮垣葉太郎が4人の作家とその他数名を自分の屋敷である迷路館に招待するところから始まる。彼らを待ち受けていたのは宮垣による遺言で、4人の作家に5日間という時間のなかで作品を書いてもらい、一番良い出来であった者に遺産の全てを贈呈するというものであった。迷路館に閉じ込められた状態で小説を書き始める作家たち。しかし、この閉ざされた館の中で一人、また一人と作家たちが殺害されることとなり・・・・・・

<感想>
 久々の再読・・・・・・もう最初に読んでから20年ぶりくらいとなるであろうか。もうずいぶん前に書かれた作品であるにもかかわらず、その内容は全く色あせていないと感じられた。今更ながらに思うのだが、綾辻氏の作品のなかでも上位に入る出来栄えと言えよう。いや、これは再読してみてよかった。

 この作品の前に書かれた「水車館の殺人」は非常にストレートな推理小説であったが、それに対抗するかのようにこの「迷路館の殺人」は変化球気味の内容となっている。ただし、変化球気味だからといって、“フェア”という点においてはギリギリの水準できっちりと描ききっているところが著者らしいと言えよう。

 作中作である「迷路館の殺人」だけでも、一定の水準に到達している作品だと思えるのだが、それをあえて作中作によるトリックやどんでん返しまで仕掛けているところはさすがである。新本格推理を存分に堪能できる一冊であった。


人形館の殺人   6点

1989年04月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 飛龍想一は、育ての母親である叔母とともに、実の父親が残した京都の屋敷に引っ越してきた。彫刻家であった父親は自殺を遂げたことにより、通称人形館と呼ばれる屋敷は周囲から不気味な目で見られていた。そのため、現在は家の半分をアパートとして貸し出しているものの、半数しか埋まっていなく、小説家、大学院生、目の不自由なマッサージ師の3人のみが住んでいた。

 そんな人形館に想一が住むようになってから、彼の命を付け狙う不吉な事件が起こり始める。さらに巷では子供ばかりを狙う連続殺人鬼が跳梁していた。想一は助けを求めようと、かつて知り合いであった島田潔に連絡をとるのであったが・・・・・・

<感想>
 久々の再読。言わずとしれた館シリーズなのであるが、館外伝というか、囁きシリーズのほうに近いような感触。

 本書の大きな点は、館自体があまり生かされていないということ。マネキン人形も思わせぶりな配置や恰好のわりには、あまり活用されずじまい。

 ひょっとすると、今までの館シリーズを踏まえてのミスリーディングを誘ったものを著者は意識していたのかもしれない。その大きな穴にシリーズを続けて読んできた読者は、本書の主人公である飛龍想一と共にはまってしまうことになるという趣向なのであろう。

 そんな内容であるため、単体で読まずにシリーズの流れを踏まえて読んだほうがよさそうな作品といえよう。


殺人方程式  -切断された死体の問題-   7点

1989年05月 光文社 カッパ・ノベルス
1994年02月 光文社 光文社文庫
2005年02月 講談社 講談社文庫

<内容>
 新興宗教の教祖がマンションの屋上で死体となって発見された。しかも首と右腕が切断されているという変死体で! 容疑者はマンションに住む被害者の義理の息子。彼は義父のことを憎んでおり、前教祖である母親の死についても義父の関与を疑っていたのであった。この義理の息子を犯人とするには犯行状況に不審な点が多々見受けられたのであったが、事件当時マンションに出入りしたのは容疑者のみであり、他の者がやったとしても死体をマンションに運び込むのは不可能という状況。捜査一課の刑事・明日香井叶は、双子の弟・明日香井響の手を借りて事件の謎に挑むこととなり・・・・・・

<感想>
 久々の再読。昔ながらの新本格推理小説を堪能できて楽しかった。本書を読んで感じたのは、この探偵役のキャラクターが2作品にしか登場しないのは惜しいということ。綾辻氏といえば“館シリーズ”であるのだが、そちらに登場する探偵はどこか印象が薄い(名前も微妙であるし)。それに比べて、こちらに登場する探偵はキャラクターが立っているので、これを生かさないのはもったいないと感じてしまう。

 本書の内容についてであるが、かつて読んだ印象では“HOW”を強調した作品であったと思い込んでいたのだが、今回読み直してみると実は“WHO”に力を入れた作品であったということを認識できた。

 実は真相で犯人が登場したときには、これまた強引なと思ってしまったのだが、その後明らかにされる真相を聴くと実はしっかりと複線をはりめぐらせることによって、真犯人をきちんと指摘していることに気付かされる。いや、これはうまく書かれているなと、いまさらながら脱帽させられてしまった。犯行後の大掛かりなトリックについては、いささか強引だと思えないこともないのだが、犯行における心理的な部分や事細かい隠ぺい工作などについては、きっちりと考え抜かれているなと感心しきり。

 いや、一度読んだときに記憶を忘れていた分、存分に堪能することができてしまった。これを読んでしまうと、館シリーズのみに限らず、この殺人方程式のシリーズも3作目4作目と書いていてくれたらなぁと考えずにはいられなくなってしまう。


時計館の殺人   9点

1991年09月 講談社 講談社ノベルス
1995年06月 講談社 講談社文庫
2006年06月 双葉社 双葉文庫(日本推理作家協会賞受賞作全集68)

<内容>
 久しぶりに会った、現在推理作家として活躍中の鹿谷門実と、編集者となった江南孝明。江南は自社の編集クルーと大学のミステリー研究会らと共に、“時計館”という建物を取材しに行くという。そこに高名な霊媒師を連れて、霊視を行うというのだ。しかもその建物はあの中村青司が建てたという。そして、その時計館へと向かった江南らは、そこで恐るべき出来事に遭遇することとなる。そんな江南を心配した鹿谷は単独で時計館へと向かうのであったが・・・・・・

<感想>
 最初に読んで以来の再読。実は綾辻氏の作品で最初に読んだのがこの「時計館の殺人」。そのせいもあったのか、個人的には国内ミステリに関してはこの作品が私のなかではオールタイムベストであった。以後、さまざまな作品を読んできたが、再読するとどう評価が変わるのか、それが怖くて再読を避けていたような気がする。日本推理作家協会賞受賞作全集として双葉文庫から出版されたのを機に読んでみようと思ったものの、実際に着手したのが7年も経った今となって。恐る恐る読んでみたものの、実際に面白さは色あせていなく、完成度の高い作品であったことを再確認出来てほっとしている。

 読んでみると、かなりホラー色の強い作品であったという事がわかる。時計館のなかに自らこもった編集クルーとミステリー研究会の面々。そこで三日間を過ごす計画であったのだが、殺人事件が起きてしまう。通常のミステリであれば、そこで推理や検討が行われることが多い中、そんな検証をする暇もないというばかりに次々と矢継ぎ早に事件が起きてゆく。時計館の中にいる者たちが検証を行うことができないその代り、時計館の外では江南を心配した鹿谷と、遅れたミステリー研のメンバーのひとりが外で時計館にまつわる過去の事件を調べてゆくこととなる。

 そして三日後、時計館の扉が解放されたときに、中で起きた惨劇が明らかとなる。そこから徐々に真相が語られることとなるのである。その真相解明部分もページとしてはかなり長いものの、けっしてそれが無駄に描かれていると感じないところに感心させられてしまう。この事件の真相を解き明かすには、それだけのページ数をかけることが必然だと受けることができるのである。

 そして事件の真相に関しても、しっかりと練りに練られているなと感心しきり。何故このような事件が起きたのか? 過去に起こった事件の真相は? この時計館が建てられた意味とは? 事件が起きた際、時計館の中の時計の全てが破壊されていた理由は? そして事件は誰がどのようにして行ったのか? というった謎の全てがうまく重なり合い、見事に調和してひとつの作品を作り上げている。

 決して後味の良い作品とは言えないが、ミステリとしての完成度は非常に高いと感じられる。綾辻氏の作品のなかでは一番の出来だと思っているし、著者が一番乗りに乗っている時に書かれた作品なのだなと感じてしまう。そして、私自身の国内ミステリ作品オールタイムベストであるということも再読した今も変わらないでいる。


フリークス   7点

1996年04月 光文社 カッパ・ノベルス
2000年03月 光文社 光文社文庫
2011年04月 角川書店 角川文庫

<内容>
 「夢魔の手 −313号室の患者−」
 「409号室の患者」
 「フリークス −564号室の患者−」

詳 細

<感想>
 ノベルス版の帯に“謎と恐怖と驚愕の三重奏”と書かれているのだが、まさしくその通りの作品集。

 この作品は、全て「EQ」誌上で掲載された作品であり、「409号室の患者」のみ先立って単行本化されている。3作品出そろった後、ノベルス化され、ひとつの作品集と相成った。すべてが精神科という共通の舞台が出てきてはいるものの、内容は関連がなく、3つそれぞれ別々のものとなっている。

 内容は恐怖と驚愕を楽しむ作品といったところであろうか。それぞれの登場人物の行動どころか、語り手自身の話すら、決して本当のことが語られているとは言えないので、真相や先行きを解き明かすというのは無理な話。ただただ、読み通していって、それぞれがどのような展開から結末を迎えてゆくかを楽しんでいってもらいたい作品集。

 ただひとつ「フリークス」のみは、作中作により犯人当てが試みられているのだが・・・・・・ちょっと、こちらの意図したものとは異なる論理を用いていたような。まぁ、ある意味ミスディレクションを誘った犯人当てという風に言えるのかもしれないが。


どんどん橋、落ちた   7点

1999年10月 講談社 単行本
2001年11月 講談社 講談社ノベルス
2002年10月 講談社 講談社文庫

<内容>
 「どんどん橋、落ちた」
 「ぼうぼう森、燃えた」
 「フェラーリは見ていた」
 「伊園家の崩壊」
 「意外な犯人」

詳 細

<感想>
 久々の再読・・・・・・であるのだが、インパクトの強い作品が多く、内容を覚えているものが多かった。それでも、その真相を踏まえつつ読んでいくのもまた楽しい。

「どんどん橋、落ちた」は、この作品集でもメインとなる作品であり、本格ミステリとして味わい深い(人によるかな?)作品ともいえよう。一見、不可能に見えるアリバイトリックをどのように解決するのかが見もの。ただし、フェアを貫いていると著者は言いつつも、なんだかんだ言って、人をだますために作られた作品に他ならない。

「ぼうぼう森、燃えた」は、「どんどん橋」を踏まえての別トリック作品。一つの例を踏まえている故、こちらのほうが難易度が低そうに思われるが、これはこれで大概の人がだまされそう。私自身も、初読のときは全く見当が付かなかったはず。これもまた人をだますために作られた本格ミステリ。

「フェラーリは見ていた」もインパクト抜群で、一回読んだら忘れられない作品。しかし、内容についてはあまり覚えておらず、“それ”がどのようにして犯人特定のポイントとなるのか、確認するように読んでいった。この作品に関しては、前2作に比べれば、本格ミステリとしては弱いかもしれない。実際、そんな感じのエンディングを迎えているし。

「伊園家の崩壊」は、今の時代に書かれていたら、いろいろなところでたたかれたのでは・・・・・・いや、そのくらい世に広められた方が、この作品集を読んでもらえる機会が増えるのでは!? 某国民的アニメの平和の象徴とも言われた家族の崩壊の話(作中では某作品とは何のかかわりもないと書かれている)。これは、もう犯人当て云々よりも、その物語のほうのインパクトが強すぎて・・・・・・。また、実際に使われているトリックも、結構わかりやすいものと感じられた。

「意外な犯人」は、かつて綾辻氏が作ったはずの映像ミステリの真相を、それを作ったのを忘れてしまった綾辻氏自身が当てるという趣向。なんか、こういう映像トリックというと我孫子武丸氏の「探偵映画」を思い起こすのだが、作品集全編に“タケマル”が出てくることを考えると、実際にそれを意識していたとしてもおかしくなさそう。内容を忘れたにも関わらず、犯人については予想できてしまったのだが、真相はさらに問題編を事細かくえぐるものであった。


最後の記憶   6点

2002年08月 角川書店

<内容>
 若年性の痴呆症を患い、ほとんどすべての記憶を失いつつある母・千鶴。彼女に残されたのは、幼い頃に経験したという「凄まじい恐怖」の記憶だけだった。バッタの飛ぶ音、突然の白い閃光、血飛沫と悲鳴、惨殺された大勢の子供たち。死に瀕した母を今もなお苦しめる「最後の記憶」の正体とは何なのか?

<感想>
 七年の沈黙を破り、ようやく綾辻氏が長編にて我々の前に姿を表してくれた。ただし、作品の形態としてはホラー小説と銘をうったものとなっている。

 読む前は、今までの作品群の中から比べれば“囁き”シリーズに近いものかと思ったのだが、読んでみるとまたそれも違うように感じた。今作はどちらかといえば、ホラーというよりも幻想譚というべき趣がある。今まで書かれた“囁き”シリーズや“殺人鬼”などの作風をぎりぎりに残しながらも別の領域に昇華した作品といってもよいだろう。作家活動が沈黙していたにもかかわらずこれだけの物語を紡ぎ出すことができるところに感心せざるを得ない。

 とはいいつつも、綾辻氏を“本格ミステリ作家”として捕えている者にとってはまだ寂さを感じてしまう。ホラーという銘はうたれながらもラストにはギリギリともいえるトリックが仕掛けられている(このへんもあれこれ触れたいのだが、少しでも類似の作品を述べてしまうと完全にネタばれになってしまう。まぁ、ホラー作品ゆえにギリギリ許せる仕掛けということで)。やはりこういう部分があればミステリ作家としての綾辻氏に期待したくなる。けっして腕は衰えていないどころか、文章を書く腕前はますます熟練しているではないか。この力量でぜひともこれからも多くの作品を期待したい。

 次は“暗黒館”本当に楽しみである。


暗黒館の殺人   6点

2004年09月 講談社 講談社ノベルス(上下)

<内容>
 江南孝明は母の四十九日にて九州の実家に帰っていたとき、伯父の一人から熊本県の山の中に建つ館、“暗黒館”の噂を聞く。その暗黒館も中村青司に関係がある建物であることを知り、江南はその館を一目見ようと一人車を飛ばす。そして霧の深い中“暗黒館”にたどり着いたものの、そこで江南は・・・・・・。

<感想>
 いろいろな意味で前館シリーズ「黒猫館」が出てから「暗黒館」が出るまでに12年の歳月がある事を感じさせられた作品であった。

 今作「暗黒館」は今までの館シリーズの雰囲気とは違うものが感じられた。それは作中で語り手の記憶について意図的に書かれているからという理由もあるのだろうが、どちらかといえば前作「最後の記憶」に近い感覚ではないかと思われた。また、この「暗黒館」が出るまでに書かれた綾辻氏のホラー系の作品の雰囲気も取り込まれているように思える。ようするに綾辻氏の作家人生の現段階における集大成ともいえる作品がこの「暗黒館」なのであろう。しかしながら私自身としてはホラー的な要素などをとっぱらった、ミステリのみとしての“館”というものを読みたかったというのが正直なところである。

 では、本書をミステリとして評価できるかという点についてなのだが、その点においても微妙であると言わざるをえない。

 まず1点として、本書は起伏のなだらかな山を登って降りたかのような構成となっているように感じられた。いくつかの謎が提示されるものの、細かいものはそのつどそのつど解き明かされてゆき、最後に全ての謎が解き明かされるというものではない。このような手法はミステリの書としては平坦すぎるのではないかと思えた。

 また本書では大きなカタストロフィがひとつ用意されている。しかし、それが私には“カタストロフィ”と感じられなかったのである。別に途中でトリックがわかったとかそういうわけではない(実際、全然わからなかった)。ただ、それが明らかになったからといって事件自体にそれほどの影響を及ぼしていないのではないかと考えられるのだ。このカタストロフィを感じることができるのは、あくまで視点にたっている人物のみであり、読者にまで及ぼされるものであるのかどうかは微妙でないかと思われる。また、その本書の一番の謎ともいうべきものが、伏線をはったうえでのフェアさというものは認められるが、現象としてフェアであるかどうかは疑問である事も付け加えておきたい。

 ただし、当然のことながら本書にはミステリとして大いに評価できる部分も多々ある事は事実である。この作品では“密室”的な状況がいくつか出てくるものの、それらのほとんどは隠し扉という存在により解決がなされてしまう。しかし、それらをあえてギミックとし、その隠し扉が使われた状況において犯人を限定するための論理的解釈を持ってくるというところはさすがというべきであろう。

 そして上記に書いた“カタストロフィ”であるが、それによってある人物が犯人として特定される条件が浮き彫りにされるという事も事実であり、本書はその効果を狙った作品といえるだろう。

 ようするに本書は“誰が犯人か?”を論理的に解明されるように練りに練られた作品であるということがいえる。そして、それがおそらく容易に解くことができない、難解なミステリとして完成されているともいうことができる。

 と、評価すべき点も多々あるのだが結局のところ前作から長らく空いてしまった時間というものが本書のネックになっていると思うのだ。それは近年、“世界の崩壊”というものを描いたミステリというものは多く書かれているということである。本書「暗黒館」は8年前から着手したとのことであるが、この作品が8年前なり、5年前なりに出ていたのならばまた評価のされかたは変わっていたであろう。しかしながら、今の時期になりこの内容の作品が世に出たとしても今さらという気持ちがあることは否めないのである。


びっくり館の殺人   5点

2006年03月 講談社 ミステリーランド

<内容>
 僕は久々に戻ってきた町で、ある事からふと、昔に起きた事件のことを思い出した。それは不思議な屋敷で起きた殺人事件のことである。その屋敷は中村青司という変わった建物ばかりを建てる建築家の手によって建てられたものであり、周りのひとたちからは“びっくり館”と呼ばれていた。屋敷には病弱な小学生のトシオとそのおじいさんの二人が住んでおり、ぼくはたまたまトシオと仲良くなり、その館へよく遊びに行っていた。しかし、あるクリスマスの夜に招待されて館へと行った時に殺人事件に遭遇する事に!!

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<感想>
 読んだ感想としては“館シリーズ”の前作「暗黒館」と同様の作風が何点か感じられたということ。特に大きな点を2点あげるとすれば、ひとつはホラー作品としての傾向が強いということ。もうひとつは“密室”に対するスタンスというもの。

 ホラー作品の傾向が強いというのは、2000年以降出版された「最後の記憶」「暗黒館の殺人」に見られるように、ミステリーとしてよりホラー作品という印象が強く感じられること。ただし、昔に書かれた“ささやき”シリーズなどは元々ホラーの傾向も強いと思われたのだが、それでもミステリー作品として受け入れられたように思える。ということは、ここ数年の作品はミステリー的なものが薄まったということで、そう感じるようになったのかもしれない。

 また“密室”に対するスタンスなのだが、「暗黒館」でも見られたように今の綾辻氏の作品は“密室もの”というよりは“アンチ密室もの”というような印象を抱いてしまう。なぜならば“密室”というものを真正面からとらえずに、その密室自体にあらかじめ抜け穴を作っておき、それらをすべてひっくるめて推理や考察の対象にしているように思えるからである。ようするに私自身が望む“密室もの”とは違ったものが描かれているのである。

 と、2点ばかり挙げたのだが、これらに関しては見てわかるとおり作品に対してあまり好ましくないということを書いているのである。結局のところ、期待する推理小説とはどこか違うものであったということだ。

 また、蛇足ながら、この作品は“ミステリーランド”だからこそ出版した作品なのであろうが、子供に読ませたくなる作品だとはとうてい思えないという事も付け加えておきたい。


Another   6点

2009年10月 角川書店 単行本

<内容>
 榊原恒一は東京から夜見山中学へと転校してきた。持病により急きょ入院する必要があったため、榊原は5月から新しい学校へと通い始める。彼が転入した3年3組は不思議な雰囲気のクラスであった。どこかよそよそしく、全員で何かを隠しているかのような。さらには、クラスのなかでミサキという美少女が阻害されているように感じるのである。特にいじめられているというようではなさそうなのだが。やがて、榊原は夜見山中に隠された秘密を知ることとなり・・・・・・

<感想>
 ホラー小説としてはなかなかのもの。分厚いページ数にも関わらず、読みやすく一気に読む事ができてしまう。

 系統としては、「リング」に近いものがある。超自然が介在する謎の出来事が起こるのだが、それがどういう法則で行われ、それを防ぐにはどのようにしたらよいのか、という事態に主人公らが立ち向かうという内容になっている。

 ホラーのネタとしては十分におもしろく、よく考えられたものになっていると思えるのだが、その反面起きる現象が大きすぎるとも感じられた。これは、さすがに地域内だけで隠蔽しておけるような事態ではないように思える。というか、とっくにその地域から人がいなくなってしまいそうな気がするのだが。

 そういう点さえ除けば、非常にうまくできたホラー小説と思える。この内容であれば、長さ的にもちょうど良いのではないだろうか。また、これは大人向けというよりも、ここに登場する主人公と同じくらいの年齢にふさわしいと言えよう。やたらと読みやすかったせいか、なんとなく子供向けというイメージが強かった。


奇面館の殺人   7点

2012年01月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 作家の鹿谷門実は、自分に容姿が似た同じく作家である日向京助から、奇面館での集いに代わりに参加してもらいたいと頼まれる。その奇面館が中村青司の手による建築物であることを知り、興味を抱いた鹿谷はそこへと向かうことに。その奇面館で行われた集いとは、主人と招待客6人が全て用意された仮面をつけて会合するという奇妙なものであった。そうしたなか、予想されたかのように殺人事件が起きてしまう。雪に閉ざされた館のなかで発見された首なし死体。首と指が切断された死体は、館の主人のものだと思えるのだが・・・・・・

<感想>
 久しぶりに館シリーズを堪能できたという気がした。個人的には“黒猫館”“暗黒館”“びっくり館”は変化球気味に感じられたので、ストレートな館シリーズとしては時計館以来のような。ただ、驚天動地の館シリーズというよりは、作風としては「殺人方程式」風の地道な犯人当てというような内容。

 奇妙な館のなかで、奇妙な面をつけた、奇怪な会合が行われる。そして当然のように起こる殺人事件。発見された死体は、首と指が切り取られた状態。そんな異様な形で事件は幕を開けるのだが、調べが進められていくうちに事件はだんだんと地味な方向へと進んでゆく。

 首が切り取られ、指が切り取られているのだから、死体の主の正体を隠すためにやったのだろうと疑うのは当然のこと。しかし、死体の主は予想を覆すというものではなさそうで・・・・・・という具合に、推理小説的な裏をかいた行為が次々と否定されてゆく。すると残されるのは地味な殺人事件という事実のみ。しかし、どうしてこんな奇妙な館の中で普通の事件が起きなければならなかったのか。

 そういったところを焦点とし、探偵役である鹿谷は事件の核心へとせまってゆく。それら犯行方法の異様ながらも普通ともいえる状況のなかから的確に犯行の筋道を見つけていく推理は見事なものである。起きた事件が小さなものであったのは館シリーズとしては残念ながらも、きちんとした犯人像と犯行への道しるべが的確に表された良質のミステリ作品であることは確かである。


人間じゃない   5.5点

2017年02月 講談社 単行本

<内容>
 「赤いマント」
 「崩壊の前日」
 「洗 礼」
 「蒼白い女」
 「人間じゃない −B〇四号室の患者−」

<感想>
 綾辻行人氏の各シリーズに関わる番外編的な短編集。例えば「どんどん橋、落ちた」に含めるべきもうひとつの短編とか、「人形館の殺人」の後日譚とか、そういった位置づけのものが集められた作品集・・・・・・ということなのだが、なんとなくその設定も後付なような感じであり、“ボツ短編作品”とまでは言わないまでも、単なるノン・シリーズ短編集という感じ。全体的に、もう少し本格色が濃かったらよかったのだが、ホラー色に押されてしまっているのが個人的には残念なところ。

「赤いマント」
 著者自身が語っている通り、本書のなかでは一番本格色が濃い内容の作品。都市伝説“赤マント”が噂される公園のトイレ、個室に入った女性とを女教師が見守っていたのだが、誰も入ることができないはずの個室のなかで生徒はペンキまみれになっていたというもの。“誰?”ではなく、“何故?”にこだわった内容の作品。

「崩壊の前日」
「眼球綺譚」の系譜を継ぐ内容の作品。そういえばこの作品集に出てくる女性の名は全て“ユイ”となっていたことを思い出す。ホラーのような、幻想小説のようなという変わり種の作品。

「洗 礼」
「どんどん橋、落ちた」の番外作品という事なのであるが、内容に関してはそんな感じには捉えることができなかった。とはいえ、きちんとそれなりの謎解き小説となっていることは確か。ダイイングメッセージにこだわった内容の作品となっている。それでも作中の設定にもなっている、デビュー小説というくらいの位置づけのレベルの内容ではなかろうか(といっても、私は解答を当てられなかったのだが)。

「蒼白い女」
「深泥丘奇談」シリーズの番外編とのこと。短めの幽霊譚。

「人間じゃない −B〇四号室の患者−」
 一応、「フリークス」の番外編ということにしているようだが、元は漫画作品であり、それを小説化したものということ。本当はこの作品がミステリ的な内容で締めてくれれば、作品集全体としてバランスがとれていたように思えるのだが、ホラー作品のままで終わってしまったのが残念なところ。


「赤いマント」 (「人形館の殺人」の後日譚)
「崩壊の前日」 (「眼球綺譚」に収められた「バースデー・プレゼント」の姉妹編)
「洗 礼」 (「どんどん橋、落ちた」の番外作品)
「蒼白い女」 (「深泥丘奇談」の番外編)
「人間じゃない −B〇四号室の患者−」 (「フリークス」番外編)




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