星粒’S ROOM 2 



うしろすがた

投稿日: 4月23日(火)07時36分08秒

彷彿させる
少女のうしろすがた
眩いばかりに陽光をしたがえて
花を摘む
かつての わたし
友は 彼方を子馬のように走り
わたしは花輪の編み方を思い出して
スカートにいっぱいのしろいはな
 しろい花は匂いが無く
 花環はつくりおえてしまうと
 とたんにせつなくなる

少女のうしろすがた
指をくわえて
弾丸のようにめくらめっぽうに
鬼ごっこする子達を眺めている
いれて
とは言えない
 怖い言葉を言われたら
 輪の中で泣き出してしまうので
 早い足も持っていない
 たちすくんでいるだけだった


滑り台の銀色が
夕暮れの閃光に反射して
其処だけが午後を留めながら
少しずつ暗くなってゆく

 もう誰も居なくなった公園
 少女はほっとしたように
 砂場におりて
 住んでみたいと思う
 庭つきの家をつくる


彩り

投稿日: 4月13日(土)00時46分23秒

若い母親が 愛を存分に与えている光景は
緑の芽吹く公園に似つかわしい
ベンチにはしょぼくれた人が背を折り曲げ
ひからびたパンなどを
肥え過ぎた鳩にやるのも、なごやかだ

晴れた朝には晴れた朝に彩りを添え
膨らむ気持ちを抑えずとも
そっと笑いかけてみたくなったら
其れは昨日よりも
ほんの少し自分を許せたことかもしれない

通りかかった偶然の光景は
一つも冷淡なものが無く
夢の中に迷い込んだのかと
あたりを見回して見た


春暖

投稿日: 3月18日(月)14時41分00秒

猫になってしまいたい
光になってしまいたい
ぬくもりとゆうものがわたしをだめにするまえに
にんげんでいられなくなりそうだ
こんな空は
カマンベールチーズよりも
ねっとりとやさしい
ざわめきたてる風の音ひとつ
響いてはこない

スカートをはいたまま
その上にだれかのあたまを
乗せていたあれはいつ

光になってしまいたい
夢になってしまいたい
翼になってしまいたい
光くゆらす太陽の
わるふざけに
わたしはとうめいの
はるのくらげになってしまいそう


走る、ひと。

投稿日: 6月19日(火)23時46分40秒

前を眺めているひとは
空気中に 真っ白な水平線を見つけたかのようだ。
ただ
わき目も振らずに 
走ってゆく。

たゆまぬ努力を放棄している
たくさんの人間が交差点で
好き勝手な方角を向いて
いるのに
走るひとは
精神を弛めない。

走るひとの回りには
雨のオーラが かかっている。

ほんとうの心臓の使い方を
知っているのかもしれないそのひとは
走ってゆく。
呼吸を 調節しながら


貝殻ほどのちいさな痛み

投稿日: 6月 5日(火)06時36分00秒

砕けた貝の破片を 引き出しに見つけた。
耳たぶのようにうつくしいかたちをしていたのだが
もう 聴きたくない地上の音にたえかねて
砕けてしまったのかもしれない。

海の奥にもぐってゆけば
ひとの言葉は つうじないのだろう。
知らなくていいことを 青緑の
夢の 朽ちない底で
しずかに 泡のように うたっていればいいのだろう。

爽やかな6月のそらが
余りにも 海に似ているので
こころが
真っ青で 途方に暮れた
そんな  貝殻ほどのちいさな痛み。


TONIGT


投稿日: 5月29日(火)05時45分13秒
電柱が
砂の色の 神殿跡のような くっきりとした輝き。

誰かがあるいていた道だろうけれど
浮かぶままに影をうっすらとにじませて
ウエンディのように
羽虫がうつくしく
灯りの縁で乱舞している。
緑が
暗く 宝石を隠したように葉をねむらせて
匂いがする
木の呼吸の匂いがする。
なにをしにきたか忘れてしまう夜だ。

帰ろうとすると
下水の音色が聞こえはじめる
耳の奥で沈んでいたものが沸きあがる。
澱んでいたのに
しゅるしゅると渦を巻く其れは
なみだの帯のようにも見える。

夜は
泣いている。
壊した夕闇の欠片が
たとえば
ぎざぎざの鳥の羽毛に
なごりおしそうな
くれないの色をにじませて さいしょはゆっくりと
しだいに足早に
流れにのみこまれてゆくのだ。