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 ごめん。俺が甘かった。人生ナメてました。だから神様、頼むからコイツなんとかしろ!
「ほら、暴れないでよ?守衛さんに聞こえちゃうでしょ?」
 再開された相田君の行動は、もはや止める手立てがない。
「そうかッ、その手があったかッ!!しゅえいさ———・・・モゴッ。」
「いいの?先輩。こんな格好見られても。しかも相手は男だよ?」
「相田、てめぇッ、脅迫する気か?卑怯者!もう相田君なんて呼んでやんねぇ。相田だ相田!呼び捨てだ!ざまーみろ!!」
「大人気ないなァ、先輩。そんなとこもいちいちかわいいんだけど。」
「かわいいとか平気で言うなよ、このッ、変態ヤロー!!」
「なんとでも言ってください。大体先輩がこんな格好してるから・・・」
「こんな格好にさせたのはお前だろーッ!!」
「先輩がコーヒー零したからでしょ?必然の行為です。」
 ね?無駄な行動なんか、一つもないでしょう?こんな時でも相田君は笑って言う。

 そうなのか?そういう、もんか?

 あの時別れた彼女は、実は本を返し損ねた友達と付き合って即、結婚した。
 なんでもオレの無駄な行動についてお互い愚痴を言い合っているうちに意気投合してしまったらしい。

 ———そういう、もんかもしれない。

 無駄だと思っている行動でも、どこかでつながっている。遠回りして知る、人生の楽しさ。
 こんな単純なことに、何で今まで気付かなかったのだろう?目の前の偉大な後輩を見る。笑顔は変わらない。溜息をついて、思う。
 やっぱり、君は優秀だよ、相田君。
 ———でもな?
 だからって、このまま大人しく君にヤられんのは。


「やっぱ り、ヤダッ!!」
 逃げ惑うオレを強引に押さえつけてくる相田君。何でこんなに力が強いんだ?そうか、バスケ部で鍛え上げたその身体。しっかり役に立っちゃってる訳か?はッ!必然ね!!
「往生際が悪いな、先輩は。ホラ。身体はオッケーって言ってますよ?」
「はッ、あッ。ぁン。ってッ、テメー、なにしてやがるッ、どけ。馬鹿ッ!」
「口悪いなあ。そういうとこもまた、ソソルけど。」
 ぎゃー、やめてくれ!!
 逃げようとして揉みあえば揉みあうほど、オレの服はどんどんはだけられていく。
 なんって器用なんだ、相田!こんなこともどこかで覚えちゃってるのか?
 そうこうしているうちに、相田の手が徐々に下がって・・・
「ばー、ばかッ、どこ触ってッ!嫌ッ!」
「しょうがないじゃん、先輩、半分裸なんだから。かわいいよ。もう、こんなになってる。」
 何言ってやがる、このどちくしょ——————!!
 とか叫びたいのに、俺の口から出るのはもはや無意味な言葉ばかりで。
「あん・・・っつ、ちょ、や・・・ダッ。」
「大丈夫。ちゃんと、イカセテあげますから。」
 いつの間にか随分下まで下りていった相田君の口が、俺のモノを躊躇なく銜えた。
「すごい・・・コーヒーの臭い。俺、コーヒーあんまり飲まなかったけど、今日から好きになりそう。」
 変態だッ!コイツは変態エロ台魔王だ——————!!
 とか思いつつも、腰に来るような低い声で囁かれた俺は、もはや抵抗など出来ず、まな板の鯉状態になって全身の力が抜けていった。
「———う、・・・やば、・・・もち、い・・・。」
 口を付いて出でるのはこんな露骨に快感を追う声で。それをさらに煽るかのように、べちゃべちゃとあからさまに羞恥を誘う音を立てて相田君が俺のモノに吸い付く。
 絶対わざとだろ、コイツ。とか、真っ赤になってチカチカする瞼の裏を眺めつつ、溜息に近い吐息が漏れる中、本当にホントの、最後の気力を振り絞って考えた。
 分かった。もう社会勉強だよな、コレは。そう思おう。・・・けどな、相田君。コレだけは確認させてくれないか?先輩として、というより男として、意地っつーもんがあんだよ!!
「・・・俺が下かよッ!?」
 半泣きで叫んだ俺の声に、にっこり笑って相田君は告げた。
「だって、必然でしょ?この体勢じゃ。」
 かすかに残った意識の片隅で、悪魔的な笑みで俺の足を折り曲げてくる相田が、見えたような・・・。



 改めて、人生の厳しさと、社内一押しスポーツ系爽やか笑顔の好青年である後輩の裏の顔を思い知った翌朝。
 いつものように朝はやって来て、いつものように部長に書類を提出している自分。
「あだッ。」
「どうかしたのか?山崎?」
「あ、いえ・・・大丈夫です。」
 いつもとは違う部分の痛みに眉間にしわを寄せつつ、それでもなぜか気分はすっきりしていることに気がつく。
「山崎も最近残業続きで無理させたからなあ、身体には、気をつけろよ?」
「部長。・・・ありがとうございます。」
「あ、そうだ、今度から正式にお前の下に一人つくことになったから。」
「え?本当ですか?」
 ああ、やっぱり残業も無駄ではなかった。俺ったら今までの分、報われてる?
 そうして昨日の悪夢はすっかり忘れきろうと決意した、その時。
「おい、相田!」
「え゛?」
 部長の嬉々とした声が、よりにもよって今一番聞きたくないその名前を呼んだ。近づく気配に恐る恐る振り返れば、満面笑みの例の後輩がやけに至近距離に立っている。
「今日から相田がお前の下につくことになったから。」
「よろしくおねがいします。山崎先輩!」
「よ、よろしくって、相田は営業のほうに回されることになってたんじゃ・・・」
「ああ、昨日会議で決まってな。外回りの後、営業のほうで残念会と称して飲みに連れて行くことになったんだが、相田がお前のことを気にかけて途中で帰っちまってなあ・・・。いい人材だろ?仲良くやれよ?」
「もちろんです!」
 爽やか笑顔で答える隣の鬼畜ヤローを横目で睨む。目の前には、はっはっはっはっ。と豪快に笑う部長。
 知ってたのか、昨日、すでに!!
「言ったでしょ?」
 俺のすることに無駄なんか一つもないって。
 ニッと笑うその目に、不本意にも怯んでしまうオレ。昨日なくした先輩としての威厳は大きい。 
 覚えてろ?相田!!こき使って使いまくってやる。
「覚悟しとけよ?」
 これから散々いじめ返してやろうと胸に誓ってそう宣言した時。

「ねえ・・・なんか、この部屋、臭わない?」
「そう?」
 何気ない女子社員の声に、思いっきり動揺してしまった。
 昨日は、泣いて喘いで許しを乞いて。何回イかされたかわからないほどイかされまくった。

 「ほら、山崎さん・・・もうコッチにも欲しくなってきたんじゃないですか?」
 「・・・っざけんなッ、ばかッ・・・ああッ・・・」
 「ホントに初めてなの?ココ・・・、すごいよ、ぐちゃぐちゃいってる。」
 「・・・やッ・・・言うなッ・・・」
 「ねぇ?やらしいカラダだよね。・・・どうして欲しいの?」
 「ド・・・チクショ・・・、早くイかせろッ・・・ああんッ!!」
 「かわいくないなぁ・・・。そんなトコがまたかわいいんだけどね。でもちゃんと言うまでダメ。」
 「あ、やあ、ん・・・爪、立てんなっ」
 「なんだ、ココも弱いんだ。言わないとずっとこうだよ?」
 「ああああああん!!!」

 突然、飛ばしてしまった意識のカケラがフラッシュバックして額を抑える。
 なにがやさしくする、だよ?相田!!初心者相手にあれは反則だろ?
 まさか、とはおもうけど。昨日、いっぱい出してたし。どこに飛んだかなんて、知る由もないし。
「相田、おまえぇ。責任とれよな?」
 真っ赤になってそう言った俺に、
「はい。」
 笑顔全開の返事が返ってくる。分かってんのか?
 びくびくして席に戻った俺の耳に、女子社員の会話の続きが聞こえてきた。

「やーっぱ、臭うね!」
「うん、臭う臭う!!」
「「コーヒーの臭い!!」」

 世の中で無駄なことなんか一つもないんだよ?
 同時に目が合った相田の爽やかな笑顔が、そう告げた気がした。

fin.


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2002年の、いつ頃書き終えたかちょっと忘れましたが、5月頃終了、だったと思います。ギャグっぽく書きたくて。当時は一話完結だったんですが、読みにくいので分けました。先輩はおもいっきり流されやすい性格ですよね(笑)こういうカンジの人は大好物です。最後のオチは気づいてもらえたのかなあ・・・?コーヒーの匂いでス○ルマ臭が消えた、ということなんですけど・・・(死)また、続きがかけたらいいなあ・・・。いつか。