「ちっ」
 苦虫をかみつぶしたような顔で、優作は短く舌打ちをした。
 こんなとき、相手が女性なら、黙らせる方法がひとつあるのだが……
 しかし、今組み敷いている相手は男である。いくらかわいくて色気もあるとはいえ。
 外の街灯の明かりが薄く悠人の姿を照らしている。少しずつ暗闇に目が慣れてきたため、悠人の姿がはっきりと見えるようになった。
 必死の形相で泣き叫ぶ悠人の表情に、優作は切なさと同時に愛しさも覚えた。
 そして気が付けば、悠人の顔を引き寄せ、唇を吸っていた。
 愛しさを込めて愛撫するように、悠人の唇を吸い上げ、やがてキスは段々と濃厚なモノになっていった。
「んっ…、んンっ……」
 愛情溢れる優作のキスに、悠人は一瞬身体を硬直させた。身体が甘く痺れてくるような気がして、しばらく優作のなすがままにされていたが、すぐに忌まわしい記憶がフラッシュバックしてきた。
 悠人は優作の巨躯から何とか逃げ出そうと、肩を押して必死に抵抗するが、力の差は歴然である。
 一時は大人しくなった悠人が再び暴れ出し始めたので、優作は逃がすまいと悠人を抱きしめる腕に更に力を込めた。
 密接していた唇が離れ、お互いに暗がりの中で見つめ合った。
「はな……せ……よっ」
 息も絶え絶えに悠人が毒づくが、涙目で睨み付けてくる表情がかえって優作の欲情をそそる。
 いや、すでに優作の自制心は飛んでいた。
 悠人の言葉に返事もせず、優作は頭を悠人の首筋に埋め、耳から首筋を丹念に舐め回した。
「あっ……! あはっ……、ああンっ!」
 舌での愛撫に、びくりと身体を痙攣させ、悠人は無意識のうちに喘ぎ声を漏らす。
 優作は空いている手で、床を手探りで何やら探していた。
 手に取ったのは、床に置きっぱなしになっていた、赤色のネクタイだ。
 首筋から顎へのラインを舌で責め続けながら、左手で悠人の両手首を取り、右手で悠人の両手首をがっちり縛り上げた。
「!!」
 いつの間にか腕の自由を奪われた悠人は、驚きと恐怖の入り交じった表情で優作を見た。
 あの飄々とした雰囲気はどこへいったのやら、悠人を見据えるその顔は、鬼気迫るものがあった。
 悠人はただならぬ恐怖を感じたが、だからといって相手のなすがままにされるのもイヤだった。
 恐いと思いつつも、文句をぶつけずにはいられない。
「何の真似だよ! ほどけよ、ヘンタイ!」
「結構」
 優作はそれだけ言うと、再び悠人の口を吸い上げた。
「んっ!」
 悠人の口腔の中で、優作の舌が生き物のように暴れまくる。
 先程の優しいキスとは打って変わった激しいキスに、悠人は腰まで痺れる感覚に襲われた。
 優作の手が悠人のタンクトップの中に潜り込み、すでに固くとがっている小さな突起物を転がす。
「ンぶっ! ふっ……ん、んんンっ!」
 手のひらで転がされるように優しく愛撫され、時には憎しみを込めたように激しくつねられ。緩急のついた胸への愛撫は、悠人の全身の感覚をとろけさせるようだった。
 やがれ優作は悠人から唇を放すと、もどかしくまとわりついている悠人のタンクトップを力任せに引きちぎった。
 びりびりっと音を立てて破れたタンクトップの中から、悠人の白い上半身が露わにされた。
 優作と違って華奢な身体つきである。触れただけで折れそうな、そんな繊細さも持っていた。
 しかし、優作は構わずに悠人の華奢な身体を力一杯抱きしめると、刺激を与えられ感じやすくなっている胸の突起を吸い込んだ。
 口の中で悠人の小さな突起を舌で転がしたり、時に強く吸ったりしながら、さらに刺激を与えると、そのたびに悠人は切なさそうな喘ぎ声とともに全身を痙攣させる。
「あ、あ、ああっ! はうあっ。 はああンっ」
 紅潮しきった悠人の顔が、涙と唾液で濡れてしたたる。
 悠人は抵抗するのも忘れて、優作が与える快楽に身を任せていた。
 優作自身は怒りをぶつけるように悠人を責めているつもりだったのかもしれないが、悠人はその中にも何かしらの暖かみを感じていた。
 だから、優作が与える快感を、素直に受け取ることができたのかもしれない。
「あっ……ンあっ、ふあっ! あくゥ!」
 戒められているのも忘れ喘ぎまくる悠人に、優作は更なる快感を与えるべく短パン越しに悠人の股間に膝を押し込んだ。
 新たな感覚に、悠人は全身をのけぞらせ、与えられる快感に抵抗する。
 ぐいぐいと何度も膝を押し込まれる度に、悠人はたまらず喘ぎ声をあげた。
 次第に短パンの布の感覚がもどかしくなってくる。
 もどかしげに動く悠人の腰に、動きを止めた優作が手を掛けてきた。
 朦朧としてきた意識の中でも、何をされるかと不安になった悠人は、薄目を開けて優作を見た。
 優作は手に掛けた悠人の短パンを一気に引きずり下ろし、すでにいきりたっている悠人のモノをさらけだした。
「やっ……」
 悠人が何か言う前に、優作は悠人の股間に顔を埋め、固くなった悠人のモノを口に含んだ。
「やっ、やっ……だ……、あああっ!」
 ペニスから脳髄に直接与えられる快感に、悠人は悲鳴に近い声を張り上げ身をよじった。
 節くれ立った優作の指が、優しく悠人のペニスを包み、上下にスライドする。
 更に優作は、悠人自身の先端を丁寧に舐め回し、何度も舌で強く先端を突っつく。
 悠人の身体の奥がゾクゾクと痺れ、我慢の限界を訴え始めた。
 悠人は何とか堪えようとしたが、もう臨界点を超えてしまった。
「も、も、だめ……。イッちゃ……う……」
 ペニスをいじりだしてまだたいして時間が経っていないのに、悠人はもう限界を訴えた。
「なに?」
「あ、ア、あああーーーーーーーーっ!!」
 優作が訝しげに思い口を離そうとしたとき、悠人の先端から白濁した液体が勢いよく飛び出し、優作の顔を直撃した。
 射精の余韻にひたる悠人の顔を、優作は眉をひそめてのぞき込んだ。悠人の吐き出した精液で、口の周囲が白くベトベトしている。
「おいおい。ったく、随分と堪え性がないなあ」
 口の周囲でべとついているものを舐め取りながら、優作は呆れたように呟いた。
「ご、ごめんなさい……」
 悠人は怯えたように小さな声で言った。
 けれどもその恐怖は優作から受けたモノというよりは、悠人の内から沸いて出たものに対してであるのだが、優作は知る由もない。
「もうしません……。もうしませんから、許して……」
 怯えるようにすすり泣く悠人は、消え入りそうな声でそう呟き続けた。
 悠人の尋常ではない仕草に、ようやく優作は、悠人が自分以外の何かに怯えているのに気づいた。


探偵物語

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