しょう子チャンの話

TALK to About HER.

「娼婦のカオをしてるね。」

「しょう子のショウは、娼婦のショウかい??」

2分前に初めて知り合った男の人が、煙草の煙を吐き出しながら事も無げに言いました。

彼女は笑顔を保っています。何故笑っているのかは解りません。何も可笑しい事など無いのに。

彼女の名前はショウ子ちゃん。

しかしそんな事は何の意味も有りません。本当の名前ですら無い。

口元のあたりまで伸ばされたストレートの髪と、青白い顔、白い肌。

この薄暗い空間にその存在が映える様、青く塗られている瞼。

少し不似合いな位赤い唇と、決して良いとは言えないスタイル。

普段は自分の為にしか笑わない、憮然とした彼女は目元の筋肉を作り、

曖昧な笑みを浮かべながら、目の前のグラスが何処迄減ったら作り足そうか、

何時煙草の2本目を咥えるだろうかという事を、

注意して観察し、機を伺わなければなりません。

目の前の男性と親しく話しているけれど、

決して友人ではないし、恋人でもない。

油断してはいけないと、彼女は自分に言い聞かせている様です。

彼女はこの男性を知らなかったし、

彼女に自意識を認識させる日常性に少しも組み込まれてはいません。

そして、これからもそうです。

譬えこの男性とショウ子ちゃんが、それから延々と話し込んで笑い合い、

彼に対する知識が積もっていったとしても、

其れはプライベートにほとんど作用しない事を彼女は知っています。

客観的な知識、日常を離れた特異な経験として断片的に残るだけで、

自分の世界を揺るがす様な事は決してしないでしょう。

ショウ子ちゃんはそうゆう場面、事象において、非常に簡単に割り切る事が出来ます。

容易に、体が心を裏切る事を許します。

その裏切りは彼女のプライベートでも時折発生して、周囲の人間の猜疑心を煽る事すら有ります。

彼女は理性的ではあるけれど、冷血。

どうやらショウ子ちゃんが居るこの場所も、そういう性質の場所であるようです。

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