判決

サイボウズ事件

第1審

東京地判平14年9月5日

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■ 経緯と原告・被告の反応

経緯

第1審判決 を要約をしたサイト

  1. IT Agent(2002.9.6)
  2. IPーNews(2002.9.6)
原告(サイボウズ) の主張

第1審(2002.9.5)

被告(ネオジャパン)の主張

第1審(2002.9.5)


■ 私見 コメント

なかなか厳しい判決が出ました。この事件はソフト製作会社にとって有利な面もありますが、創造性というソフト本来の性格を難しくする判決でもあります。後発者が先発者の事例を検証し一部は参考にしなければ発展・改良が市場で進まないのも事実です。裁判としては「著作性」に絞った点が敗因だったかもしれません。プログラム特許やビジネス特許を成立させておけば、戦い方がまた違っていたかも知れません。東京地裁民事部の知的財産権専門裁判官は被害認定をしたがらないとも言われています。高裁で今回の地裁判決が覆る可能性は充分に残っているとも言えるでしょう。


■判決文(抜粋)・・・東京地判平14年9月5日

☆ ソフトウェア表示画面の著作物性 ☆

主文

  1. 原告の請求をいずれも棄却する。
  2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第2 事案の概要

1 原告の請求の内容

原告は,その製作・販売するビジネスソフトウェア「サイボウズoffice2.0」(以下,「サイボウズオフィス2.0」あるいは「原告ソフト」という。)は,個々の表示画面がそれぞれ著作物であることに加えて,各表示画面の集合体としての全画面も全体として一つの著作物であると主張する。

そして,被告が製作・販売する別紙物件目録1記載のビジネスソフトウェア「i office2000 バージョン2.43」(以下「アイオフィス2.43」という。)及び同目録2記載の「同バージョン3.0」(以下「アイオフィス3.0」といい,「アイオフィス2.43」と併せて「被告ソフト」ということがある。)は,原告ソフトを複製ないし翻案したソフトウェアであり,被告が被告ソフトを記憶媒体に収録して,これを頒布し,自社のホームページから利用者にダウンロードさせた上で,使用許諾している行為は,原告ソフトにおける前記各著作物に関して原告の有する著作権(複製権・翻案権,頒布権,上映権及び公衆送信権)を侵害する行為に該当すると主張して,著作権法に基づき,前記第1(原告の請求)の第1〜第5項及び第7項の請求をしている。

また,原告は,原告ソフトの表示画面が,商品形態として不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」(周知商品等表示)に該当すると主張する。そして,被告ソフトの表示画面もまた商品等表示として機能するところ,原告ソフトの商品等表示画面と類似するから,被告の行為は同号所定の不正競争行為に該当するとして,同法の規定に基づき,前記第1(原告の請求)の第6〜第8項の請求をしている。

さらに,原告は,仮に被告ソフトの頒布等が被告ソフトの前記著作権を侵害せず,不正競争行為にも該当しないとしても,原告ソフトに依拠した被告ソフトを故意に販売する被告の行為は,民法上の一般不法行為(民法709条)に該当すると主張して,前記第1(原告の請求)の第7,8項の請求をしている。

第3(省略)

第4 当裁判所の判断

  1. ビジネスソフトウェアにおける表示画面及びその組合せの著作物性等本件において,原告は,原告ソフトは,個々の表示画面がそれぞれ著作物であることに加えて,相互に牽連関係にある各表示画面の集合体としての全画面も全体として一つの著作物であると,主張している。

(1)    一般に,電子計算機に対する指令(コマンド)により画面(ディスプレイ)上に表現される影像についても,それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)である場合には,著作物として著作権法による保護の対象となるものというべきである。すなわち,美術的要素や学術的要素を備える場合には,美術の著作物(著作権法10条1項4号)や図形の著作物(同項6号)に該当することがあり得るものであり,いわゆるコンピュータゲームにおいて画面上に表示される影像などには美術の著作物に該当するものも少なくないが,この点は,いわゆるビジネスソフトウェアについても同様に当てはまるものということができる。

  ソフトウェアにおける表示画面は,これを見る利用者に,画面全体を一体のものとして認識されるものであるから,それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」として著作物に該当するかどうかは,画面全体を基準として判断すべきものである(なお,本件において,原告は,原告ソフトの表示画面の特徴につき,画面の一覧性や直感的な画面表示というコンセプトに基づき,利用者が閲覧し(情報表示画面),あるいは入力すべき情報(入力画面)を,重要度・頻度に応じて画面上に配列した点にあると主張しているものであり,原告も,各表示画面について,画面全体が一定の思想に基づいて構成され,表現されている旨を主張しているものと解される)。

     著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することであるから,ある物が既存の著作物の複製に当たるといえるためには,これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得することができる程度に再現されていることを要する。したがって,既存の美術の著作物に依拠して作成された物があるとしても,その物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製に当たらない。

  また,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいう。したがって,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案に当たらない。

   本件において,仮に原告ソフトの表示画面に画面全体として何らかの著作物性が肯定される場合には,これに依拠して作成された他社等のソフトウェア(以下「他社ソフト」という。)の表示画面がその複製ないし翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,原告ソフトの各表示画面における画面全体としての創作的特徴が他社ソフトの対応する表示画面においても共通して存在し,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面の創作的な特徴が直接感得できるかどうかを判断すべきものである。そして,この場合,原告ソフトの表示画面の特徴的構成の一部分が他社ソフトの表示画面においても共通して見られる場合であっても,共通する当該一部分のみでは画面全体としての創作的特徴を基礎付けるには足りないときや,あるいは,他社ソフトの表示画面に原告ソフトにない構成部分が新たに付加されていることにより,表示画面の全体的構成を異にすることとなり,これを見る者が表示画面全体から受ける印象を異にすることとなったときは,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面全体としての創作的特徴を直接感得することができないから,他社ソフトの表示画面をもって原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。

(2)ア 一般にビジネスソフトウェアにおいては,ディスプレイ上に表れる表示画面は,常に一定ではなく,利用者がクリックやキー操作を通じてコンピュータに対する指令を入力することにより,異なる表示画面に転換する。このような一定の画面から他の画面への転換が,特定の思想に基づいて秩序付けられている場合において,当該表示画面の選択と配列,すなわち牽連関係の対象となる表示画面の選択と当該表示画面相互間における牽連関係に創作性が存在する場合には,そのような表示画面の選択と組合せ(配列)自体も,著作物として著作権法による保護の対象となり得るものと解される。

    この場合,個々の表示画面自体に著作物性が認められるかどうかにかかわらず,表示画面の選択又は組合せ(配列)に創作性が認められれば,著作物性を認めることができるというべきである。そして,編集物における素材の選択・配列の創作性が著作者により1個のまとまりのある編集物として表現されている集合体を対象として判断されることに照らせば(著作権法12条1項),このような表示画面の選択と相互間の組合せ(配列)は,牽連関係にある表示画面全部を基準として,選択・配列の創作性の有無を検討すべきものである。

  本件において,原告ソフトは,「グループウェア」と呼ばれるソフトウェアであって,複数のアプリケーションの機能を備えたものである。この点からすれば,原告ソフトにおける表示画面の選択とその相互の牽連関係(組合せ)に創作性が認められるかどうかは,原告ソフトウェア全体を構成する表示画面全部,又は一定の機能を有する特定のアプリケーションを構成する表示画面全部を基準として判断されるべきものである。

   そして,仮に原告ソフトの表示画面の選択又は組合せに創作性が認められる場合において,他社ソフトにおける表示画面の選択及び組合せが原告ソフトの複製ないし翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,原告ソフト全体又はそのうちの特定のアプリケーションを構成する表示画面全部における表示画面の選択及びその相互間の牽連関係(組合せ)の創作的特徴が,他社ソフト全体又はそのうちの対応する特定のアプリケーションを構成する表示画面全部における表示画面の選択及びその相互間の牽連関係(組合せ)においても共通して存在し,他社ソフトの表示画面の選択及び組合せから原告ソフトの表示画面の選択・組合せの創作的特徴が直接感得できるかどうかを判断すべきものである。

  この場合,原告ソフトの一部の表示画面が他社ソフトに存在しないときには,当該表示画面の欠如が原告ソフトにおける表示画面の選択・組合せの創作的特徴に影響しない特段の事情のない限り,他社ソフトを原告ソフトの複製ないし翻案ということはできない。また,他社ソフトにおいて,原告ソフトにない表示画面や,原告ソフトにない牽連関係が新たに付加されているときには,これらの付加が付随的なものであって,原告ソフトと他社ソフトの表示画面の選択・組合せの創作的特徴の共通性に影響しない特段の事情のない限り,他社ソフトを原告ソフトの複製ないし翻案ということはできない。

. 争点(1)(著作権侵害の有無)に対する判断

 (1) 概説

  前記1において述べたところを前提に,検討する。

   前述のとおり,原告ソフトは,会社や部署などのグループによる作業を効率化するために,ユーザー間のコミュニケーションや情報の共有を行えるようにする「グループウェア」と呼ばれるビジネスソフトウェアであって,「スケジュール」「行き先案内板」「施設予約」「掲示板」「共有アドレス帳」「プロジェクト管理」「電子会議室」等の複数のアプリケーションの機能を備えたものである。

    一般に,ビジネスソフトウェアは,表計算や文書作成など特定の計算処理や事務的作業を行うことを目的とするものであって,その表示画面も,コンピュータへの指令や数字・文字等の情報を入力するためか,あるいは計算の結果や作成された文書等を利用者が閲覧するためのものである。このような表示画面は,作業の機能的遂行や利用者による操作や閲覧の容易性等の観点からその構成が決定されるものであって,当該ビジネスソフトウェアに要求される機能や利用者の利便性の観点からの制約があり,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は限定的なものとならざるを得ない。

また,本件の原告ソフトにおける「スケジュール」「行き先案内板」「施設予約」「掲示板」「共有アドレス帳」等のアプリケーションについては,コンピュータの利用が行われるようになる前から,企業や学校等においては,黒板やホワイトボード等を用いた予定表,掲示板や帳簿等を用いた施設予約簿などが存在しており,また,システム手帳等も存在していたから,過去に利用されていたこのような掲示板,帳簿等の書式の慣行を引き継ぐ必要から来る制約というものも存在する。

    このような点を考慮すると,原告ソフトの表示画面については,各表示画面における書式の項目の選択やその並べ方などの点において,作成者の知的活動が介在する余地があり,作成者の個性が創作的に表現される可能性がないとはいえないが,上述のような多様な制約が存在することから,作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は限定されており,創作的要素が認められるとしても画面における部分的な範囲に存在するにとどまるものというべきである。

    そうすると,仮に,他社ソフトの表示画面に,原告ソフトの表示画面において認められる創作的要素のうちの一部が共通して認められるとしても,原告ソフトにおける他の創作的要素が他社ソフトの表示画面に存在しない場合や,原告ソフトに存在しない新たな要素が他社ソフトの表示画面に存在するような場合には,表示画面全体としては,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面の創作的表現を直接感得することができないという事態も,十分に考えられるところである。

    これを要するに,原告ソフトの表示画面については,仮にこれを著作物と解することができるとしても,その創作的表現を直接感得することができるような他者の表示画面は,原告ソフトの表示画面の創作的要素のほとんどすべてを共通に有し,新たな要素も付加されていないようなものに限られる。すなわち,仮に原告ソフトの表示画面を著作物と解することができるとしても,その複製ないし翻案として著作権侵害を認め得る他者の表示画面は,いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに限られるというべきである。

   また,原告は,原告ソフトにおける個々の表示画面のみならず,相互に牽連関係にある各表示画面の集合体としての全画面も全体として一つの著作物であると,主張している。

    上述のように,ビジネスソフトウェアにおいては,ディスプレイ上に表れる表示画面は,常に一定ではなく,利用者の操作により異なる表示画面に転換するものであるところ,このような一定の画面から他の画面への転換に関して,表示画面の選択と表示画面相互間における牽連関係に創作性が存在する場合には,そのような表示画面の選択と組合せ(配列)自体も,著作物として著作権法による保護の対象となり得るものと解される。

    原告ソフトにおける画面の選択と組合せ(配列)については,作成者の知的活動が介在する余地があり,作成者の個性が創作的に表現される可能性がないとはいえないが,この場合においても,創作性の有無については,当該ビジネスソフトウェアに要求される機能や利用者の利便性の観点からの制約や,既存の同種ソフトウェアにおけるものとの比較等の観点から判断されなければならないものであって,作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は限定されており,創作的要素が認められるとしても部分的な範囲に限定されるものというべきである。

    したがって,仮に原告ソフトの表示画面の選択及び組合せに創作性が認められるとしても,上述のとおり,その創作的表現を直接感得することができるような他社ソフトは,原告ソフトの表示画面とその組合せにつき実質的にその全部を共通に有し,新たな表示画面や組合せが付加されていないようなものに限られる。すなわち,仮に原告ソフトにおける互いに牽連関係にある表示画面の集合体を著作物と解することができるとしても,その複製ないし翻案として著作権侵害を認め得る他者のソフトウェアは,いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに限られるというべきである。

   既に,前記1において述べたとおり,原告ソフトの各表示画面及び相互に牽連関係にある表示画面の集合体を著作物と認めることができるかどうかはさておき,仮にこれらの著作物性が肯定されるとしても,被告ソフトが原告ソフトにおけるこれらの著作物の複製ないし翻案であるといえるためには,被告ソフトの各表示画面及び相互に牽連関系にある表示画面の集合体に,原告ソフトにおける創作的表現ないし創作的特徴と共通する表現が存在し,それによって,被告ソフトから原告ソフトの創作的表現ないし創作的特徴を直接感得できることを要する。

   そこで,証拠(省略)及び弁論の全趣旨に基づき,原告ソフトと被告ソフトについて,個々の画面表示及び画面の選択・配列を対比して,両者の間の共通点を抽出し,これらの共通点が創作的要素を有するものであって,原告ソフトにおける創作的表現ないし創作的特徴を感得させるものかどうかを,以下,検討する。

   (2) 表示画面の対比

(省略)

  (3) 表示画面の選択・配列

(省略)

  (4) 小括

   以上のとおり,原告ソフトの表示画面については,個々の表示画面をもって,創作性を有する思想・感情の表現として,著作物に該当すると認めることができるかどうかは検討すべき点があるが,その点をひとまずおくとしても,原告ソフトの表示画面と被告ソフトの対応する表示画面との間で共通する点は,いずれもソフトウェアの機能に伴う当然の構成か,あるいは従前の掲示板,システム手帳等や同種のソフトウェアにおいて見られるありふれた構成であり,両者の間にはソフトウェアの機能ないし利用者による操作の便宜等の観点からの発想の共通性を認め得る点はあるにしても,そこに見られる共通点から表現上の創作的特徴が共通することを認めることはできない。したがって,原告ソフトにおける個々の表示画面をそれぞれ著作物と認めることができるかどうかはともかく,いずれにしても,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案に当たるということはできない。

   また,原告は,原告ソフトにおける個々の表示画面のみならず,相互に牽連関係にある各表示画面の集合体としての全画面も全体として一つの著作物であると主張しているが,被告ソフトは,原告ソフトにないいくつかのアプリケーションを備えているほか,原告ソフトのアプリケーションに対応するアプリケーションを見ても,少なからぬ数の表示画面が付加され,これに対応する牽連関係(リンク)も存在するから,この点をもって,既に被告ソフトは,ソフトウェア全体においても,対応する個別のアプリケーションにおいても,原告ソフトと表示画面の選択と配列を異にするというべきである。さらに加えて,原告が指摘する,原告ソフトと被告ソフトとの間で表示画面とその牽連関係(配列)を共通とする部分を検討すると,それらの部分における表示画面の選択・配列に創作性を認めることができない。したがって,原告ソフトの全体又はこれに含まれる個別のアプリケーションに属する表示画面の選択及び牽連関係(配列)に,創作性を認めることができるかどうかはともかくとしても,被告ソフトにおける表示画面の選択・配列をもって,原告ソフトの複製ないし翻案ということはできない。

  したがって,原告ソフトの著作権の侵害を理由とする原告の請求は,いずれも理由がない。

3. 争点(2)(不正競争行為の成否)に対する判断

  原告は,原告ソフトの画面表示は,他社のグループウェア製品と根本的に異なる特徴を備えたものであり,商品形態として,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当すると主張する。

  コンピュータソフトウェアの表示画面,例えばトップページ,情報表示画面や入力画面等が他に例を見ない独特の構成であり,そのような表示画面の構成が特定の商品(ソフトウェア)に特有のものとして,需要者の間に広く認識されている場合には,当該表示画面が同号にいう「商品等表示」に該当することも,可能性としては否定することができない。しかしながら,ソフトウェアの表示画面は,通常は,需要者が当該商品を購入して使用する段階になって初めてこれを目にするものであり,また,ソフトウェアの機能に伴う必然的な画面の構成は「商品等表示」となり得ないものと解されるから,そのような事態は,ソフトウェア表示画面における機能に直接関連しない独自性のある構成につき,これを特定の商品(ソフトウェア)に特有のものである旨の大規模な広告宣伝がされたような例外的な場合にのみ,生じ得るものである。

  本件における事実関係からは,「サイボウズオフィス」なる名称やそのロゴマークが原告ソフトの商品等表示として周知となっている可能性はないとはいえないものの,原告ソフトの個々の表示画面は,既に検討したとおり,グループウェアとしての機能に伴う構成の域を出ないものであり,また,表示画面自体が需要者の間に広く知られていると証拠上認めることもできない(原告ソフトの解説書が複数の出版社から出版されている程度の事情によっては,その表示画面の構成が「需要者の間に広く認識されている」とは,到底認めることができない)。

  以上のとおり,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為を理由とする原告の請求は,理由がない。

(被告の主張)

4. 争点(3)(不法行為の成否)に対する判断

  本件において,原告は,仮に被告ソフトの製作・販売が原告ソフトの著作権の侵害ないし不正競争行為に該当しないとしても,被告の行為は民法上の一般不法行為責任(同法709条)に該当すると主張する。

  しかしながら,一般に,市場における競争は本来自由であるべきことに照らせば,著作権侵害行為や不正競争行為に該当しないような行為については,当該行為が市場において利益を追求するという観点を離れて,殊更に相手方に損害を与えることのみを目的としてなされたような特段の事情が存在しない限り,民法上の一般不法行為を構成することもないというべきである。したがって,このような特段の事情の認められない本件において,ソフトウェアの表示画面の類似性等を理由とする原告の一般不法行為の主張は,採用することができない。

したがって,民法上の一般不法行為をいう原告の請求も,理由がない。

第5 結論

 以上によれば,原告の請求は,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
            裁判長裁判官  三   村   量   一
               裁判官  村   越   啓   悦
               裁判官  青   木   孝   之


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