保健所・保健福祉センター

  

  私に縁のある倉敷市についての具体的な例を見ながら考察を進めていきます。保健所・保健(福祉)センターは左図のように直接住民と触れあうところです。県立の保健所と、大きな市は独自の市立保健所(保健福祉センターと呼ばれることもある)があります。倉敷市では平成13年度から市立の保健所をもつことになりました。これにともない県立の保健所が整理統合されました。ここで一つの問題が持ち上がっています。それは、地域住民に密着したサービスを提供するはずの保健所が、整理統合に伴い車で1時間近く離れた場所に移ってしまったことです。倉敷市の場合、倉敷市玉島にあった県の西域保健所が整理され、玉島は倉敷市保健所の管轄になりました。玉島以外の西域保健所管轄下の地域は、県の倉敷保健所の管轄になりました。ここで問題なのは、倉敷保健所が管轄の地域に無く、倉敷市内にあることです。これでは、保健所を利用する可能性の高い社会的弱者が、保健所を利用しにくくなっていると予想できます。このような例が倉敷に限らず、あちこちでみられます。今まであった施設を利用することには賛成ですが、最大の目的である「地域に密着したサービスの提供」が行えないのではないでしょうか。倉敷市の場合では、倉敷市保健所の下に児島・玉島・水島保健福祉センターを置くことでこの問題を回避しています。しかしこれでは費用がかさむのも事実です。


  左は平成13年度の倉敷市提供の健康ガイドの表紙です。A4サイズで27ページあります。これとは別に倉敷市では「広報くらしき」が毎月各戸に配られます。この「広報くらしき」にも随時、保健福祉に関する情報が掲載されます。左の健康ガイドには中央右にあるような各種対人サービスが紹介されています。健康診査の年間スケジュールなどが細かく掲載されていて便利だと思います。挿絵も自然で優しい感じが伝わってきます。ただ字が小さいかなという気がします。
  癌検診や予防接種についてはその有効性についていろいろな議論がありますが、そのことはまた別の機会に考えたいと思います。私が注目したいのはこころの健康についてです。本来保健所は人生の全てのライフステージについてケアするという原則があります。しかし、小・中・高生、大学生も含めての精神的ケアがなされていないか、十分でないと感じています。実際左の健康ガイドの紙面を見ると、「母子」、「成人」、「介護」の言葉はみられますが、「青年」とか「思春期」といった言葉はみられません。このことだけで全てを言うことはできませんが、倉敷市の健康ガイドの表紙なので、倉敷市の健康に対する見方をを示す一つの材料にはなると思います。














倉敷市保健所利用状況
区分 総数 一般 精神・老人性痴呆 エイズ 母子 歯科 栄養
健康診断 結核 成人病・その他 要観察乳幼児
平成9年度 2327 280 495 285 101 19 408 16 723
平成10年度 4184 267 787 743 162 16 323 80 1806
平成11年度 1902 138 393 861 134 31 183 29 133
  上表は倉敷市保健所の利用状況です。利用数がかなり年によって違います。しかし倉敷市民は約40万人なので、それからすると利用状況は悪いと思われます。そして、こころの健康相談は上の表にはありません。利用状況の悪い原因についてよく言われているのは、日本の保健衛生は「国」よりも「家族」「企業」が主に担っているからだ、というものです。企業主催の検診や自分で病院に行き健診をうけたりすることです。すると、住民の健診受診率は高くても、保健所利用数には反映されません。確かにそういう側面もあると思います。しかし、私はあえてもう一つの原因について述べたいと思います。それは、保健所の広報活動についてです。私自身の経験から、子供時代には「保健所」といえば「犬が死んでたら連絡するところ」でした。現在の学校はわかりませんが、私が学生であった10年くらい前は学校で具体的に教えてもらった記憶がありません。家庭での学習が十分でないので、学校で習わなければ何も知らないのが今の教育です。成人がどの程度保健所についての知識をもっているのか機会があれば調べてみたいと思います。
  しかし、倉敷市もこの状況を黙ってみているわけではありません。広報不足は市政全体で言えることのようで、市役所全体で広報活動に力をいれているようです。次にその具体例をあげます。



  倉敷市では上図の出前講座を行っています。(上図はA4のカラーチラシの表裏です。取り込みの都合で白黒になりました。)赤枠で囲んだ講座が、「福祉」、「健康」、「環境」の厚生行政に関するものです。全部で32講座あります。これらの講座は問い合わせ先をみるとわかるとおり、生涯学習の一環として、市政を身近に知ってもらうために企画されました。しかし私は、広報活動の一つとしてとてもおもしろい企画だと思います。まだ始まったばかりのサービスなので具体的な利用状況についてのデータはありませんが、玉島の保健福祉センターの方にお伺いしたところ、健康についての講座は、学校の先生や保護者から授業のひとつとしての申し込みが結構あるそうです。健康についての講座については、講師は専門の先生におねがいすることもあるそうです。
  この出前講座企画は、倉敷市のオリジナルだそうです。生涯学習の面からも、市政の広報の面からも「こういった企画が広がるといいな」と思います。では、この企画のお知らせはどうなっているかというと、月刊の「広報くらしき」といっしょに1度だけ各戸に1部配られたようです。倉敷市民である私の親に聞いたところ、「あー、なんかそんなんあったなー」といっていました。玉島の保健福祉センターの方にお伺いしたところ、このチラシを配ったのは個人だけで、学校や企業に対しては配られなかったようです。担任の先生からの申し込みは、先生同士の横のつながりによる口コミが大きいようです。
  また、この企画の運営は現場の職員が行うので、それがまた魅力なのですが、本業との兼ね合いが難しいところです。これもまた玉島の保健福祉センターの方にお伺いしたところ、泣く泣く講座の申し込みを断ったこともあるそうです。せっかく現場の方にもやる気があり受講希望者もいるのに、講座が実施されないのは残念なことです。現場の職員を増やすなどの対応が期待されます。