冬の季節 【3】


ボーーッとした顔をしながら拓海がいつものように

配達帰りの運転をしていた。


ふと、遠くの方に見覚えのある車を見つけて、

アクセルを緩めた。


「よォ。藤原。」

アニキと離れて一人での行動なので、一応男っぷりはいい。

「啓介さん。今日はどうしたんですか?」

「・・・ん?ああ、今日は早く目が覚めちまったし、

最近あんま会ってねェから、藤原の顔見に来た。」

こともなげに啓介は言った。

(かっ・・・かわいい・・!!)

啓介の何気ない言葉が拓海の微妙な気持ちをくすぐる。


啓介はFDに軽く座って、とりとめのない話をした。

拓海は相変わらずボーっとした返事をしていたが、

いつものボーっではなく、啓介のスキを狙っての

ボーっなのであった。


「藤原?眠いか?」

生返事ばかりの拓海に、珍しく啓介が気遣う。

「いえ、全然」

(啓介さんのコトみてると、余計目が覚めますよ・・・)

ちょっとブラックな拓海が微笑んだ。

啓介は、その笑顔に、

「お前ってカワイイのなー」

と、のんきに、啓介スマイルを惜しげもなく拓海に見せた。

(・・カワイイのは啓介さんですよ・・?)

拓海のブラック度がどんどん上昇する。


ふと、話疲れたのか、啓介はポケットから

無造作に何かを取り出した。

「・・・?啓介さん、それ何ですか?」

「ん・・・?アニキにもらったんだ」

そう言って、リップを手に取ると、口に塗り始めた。


(・・・うっ・・・!!!)

拓海が(啓介の姿に)よろめいた。

(俺もう我慢できねーー・・!!)


拓海は塗り終わってピカピカの啓介の唇をじっと見つめると、

「啓介さん!!」

と、啓介に抱きついた。

もう完全にブラック状態である。

(しかし、身長差があるので、端から見ると、

啓介の胸にしがみついているように見える・・・)


「うわっ!何だよ?藤原!!」

啓介が驚いてもがこうとする。


しかし、拓海の腕はがっちりと啓介をつかんで離さない。


じりじりと拓海が啓介にキスしようと顔を近づけた時だった。


ゴアァアアアアア!!

ものすごい勢いで秋名の峠を登ってくる車のエキゾーストが

夜の闇に響き渡った。


(・・・・この音はっ!!!)

「アニキだっ!!」

啓介が嬉しそうにぱっ!と瞳を輝かせた。


白い車の運転席から、

予想通り、高橋涼介が現れた。


「啓介。帰ってくるのが遅いから心配したぞ」

涼介は、さりげなく啓介と拓海の間に割って入り、

拓海の腕を外すと、見せつけるように、

啓介の頬に手をあてて、啓介と見つめ合った。


「アニキ・・・やめろよな。藤原が見てるゼ?」

「ふっ・・。そうだったな。後は家に帰ってからのお楽しみだな。」

拓海の目の前で、堂々とイチャついてから

はじめて、涼介は拓海をチラリと見て、

「朝早くに啓介がジャマをしてすまないな。これからはもっと俺が気をつけるぜ・・」

(俺がいないところで啓介に何かできると思うなよ?)

ケンタよりは若干優しい目で涼介は拓海に言った。

(拓海のことは、ちょっとだけ他人とは扱いが違うのである)

もともと涼介の顔に弱い拓海はコックリうなずいて、

(意味が分かったのか分かってないのか・・?)

「じゃ、俺帰ります。」

と、素直にハチロクに乗り込んで、帰っていった。


(・・・俺、かわいい啓介さんも好きだけど、

涼介さんに見られるとドキドキするんだよなぁ・・)

要するに、高橋兄弟には弱い拓海であった・・・。


「啓介。」

弟の唇に触れながら、涼介は、ため息をついた。

「んー?」

唇を触られているのでおとなしく口を閉じたまま啓介が答えた。

(またここで塗ったのか・・・?)

凶悪なほどかわいさを発散する啓介に、

涼介は、自分がそうさせたとはいえ、心配の種が

まだまだ増えていくだろうと予想して、

さらに深いため息をついたのであった。


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