冬の季節 【2】


赤城では・・・いよいよ始まった冬の季節で、

いつもより冷たい風がゴーゴーと吹き荒れていた。

「啓介さん、今日は特に寒いですね。」

ケンタが啓介に身を寄せるようにしてぶるぶる震えていた。

「アニキも今日は来ねーしなァ・・」

(・・・やっぱり涼介さんのことしか考えてませんね・・)

ケンタはそっと、ため息をついた。

が、次に啓介が取り出したモノを見て、ぎょっとした。

「け・・・啓介さんっ!!そっ!それはぁ・・・!!」

あたふたするケンタを後目に啓介は、

「何だよ?オレがリップ塗っちゃ悪ィかよ?」

キョトンとした顔で言った。

そのまま、平然としてリップを塗りおわると、

ピカピカの唇をニカッと広げて、

「アニキにもらったんだ。いいだろ?」

と、嬉しそうな笑みをケンタに向けた。


(あ・・啓介さん・・・・・俺、試されてるんスか・・・?)

ケンタが啓介スマイルにぐらっ、ときて、

「啓介さん・・・」

啓介に近寄って、辺りをキョロキョロと伺い、

人がいないかどうか確かめようとしたときだった。


コツコツコツコツ・・・・

(・・・・・?何だ?この音・・?)

ケンタは近づいてくる人影に目を凝らした。


「あっ!アニキだ!!」

(・・何で分かるんだろう・・・?) と、啓介が目を輝かせてその人影に走り寄った。

「アニキー!今日は来ねェんじゃなかったンかよ?」

言葉とは裏腹に、予想外の出来事に喜んでいる

啓介のあまえ声が聞こえた。


ケンタにとっては、いつもは愛しいその人の声も、

自分の死刑執行を告げる声に聞こえたのだった・・・。


「ケンタ・・・」

涼介の声が、逃げようとするケンタを追った。

「な・・何スか?涼介さん・・・」

真っ青な顔で見てはいけないモノを見るように、

おそるおそるケンタは振り返った。

すると、ケンタの予想通り、涼介の

「この世で一番冷たい視線」が待っていた。


「こんな寒い日にいつまでも外にいたら、風邪をひくだろう?」

(お前啓介に風邪をひかせる気か?)

傍目には優しげな涼介のいたわりの言葉だったが、

ケンタには、その真の意味が分かった。


「今日は程々にしてもう帰ったらどうだ?」

(これ以上啓介にベタベタしたらタダじゃおかねェぞ?)

さらにとどめの台詞がケンタに突き刺さった。


「はい、お言葉に甘えて先に帰らせていただきます・・」

ケンタは控えめに言うと、すごすごと自分の車へ向かった。


(・・・怖かった・・!!寿命が縮んだかも・・)

冷や汗をかいて、愛車を運転するケンタだが、

以外と神経が太いので、同じコトを何度も繰り返すのであった・・・。

(その度の涼介の出動は、RED SUNDS内では名物なのである)


ケンタを追い払うと、涼介は、

「啓介。帰るぞ。」

と、愛しい弟を見つめたとき、

自分がプレゼントしたリップが弟の口で

つややかに光っているのを目ざとく見つけた。


「啓介・・・。お前、今ここでリップ塗ったか?」

「塗ったけど・・?」

大好きなアニキの登場にまだ顔を緩ませている

啓介が、無邪気に答えた。

「・・・・・啓介。他人の前では塗るな、って言わなかったか?」


「・・・・・あっ!!」

おぽんちな啓介の返答に、涼介は、

さらに心配の種を増やしてしまったことに後悔し始めていた・・・。





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