ビンボー戦隊アキナマン

市ノ瀬蝶子さん・作



<第二章 涼介の戦隊>


バトルフィーバーD。 それが、涼介の作った戦隊の名前だった。
メンバーは、涼介、啓介、拓海、中里、そして紗雪の5人だ。

「カラーを決めるぞ・・・」
そうつぶやいた今日の涼介は、ギムナジウムの青年のような格好だ。
メンバーは今、基地(高橋邸)内部の涼介の部屋に召集されていた。
ちなみにこの部屋、中里と紗雪はひそかにたくらみの間と呼んでいる。

「カラーなんて、なんでもいいんじゃねえか?」
中里はそう言いつつも、自分はブラックがいいな〜と思っていた。
「確かに貴様のカラーなんざどうでもいいがな」
「・・・うっ」

冷たく言い放たれて、中里は口をつぐむ。何度こんな戦隊やめてやるっ!と思ったかしれない。
しかし中里が決してやめない理由は、言わずもがなムチムチプリン・紗雪ちゃんであった。

無視して涼介は「啓介は何がいい?」と5歳児に尋ねるような言い方で聞いている。
「おれっ?オレはもちろんイエローな!」
啓介は犬のように喜んで答える。誰も異存はない。

「拓海は?」
涼介に問いかけられて、拓海がぽっと赤くなる。(どーでもいいがオレは涼×啓のヒトなのに。)
「え・・・と、オレはパンダトレノだから・・」
どうしようかと・・・と、拓海はうつむきながらもじもじしている。
「それならホワイトはどうだ?」
「ホワイト?」
拓海は不思議そうに小首をかしげた。
(ホワイト・・・そうホワイト!)
涼介はひそかにニヤリと唇を吊り上げた。
すでに彗星脳では、真っ白いバトルスーツ(ぴっちぴち)に身を包んだ拓海が
あなたの色に・・・染めてください(はあと)
オーラを発している様が写し出されている。
(ああ・・・、拓海。なんて可愛いんだなんて可愛いんだなんて可愛いんだああああっ!)

「パンダでいいんじゃないの?」
アタシはブルーがいい、と涼介が妄想に浸っているうちに紗雪が仕切りはじめる。
(なにっ!)
リーダーの自分に逆らう(別に逆らってないよ・・・)者が出るとは思っていなかった涼介は、
信じられない、といった表情で紗雪を見た。

「中里はブラックでさ」
「お、おう」
いきなり話をふられて、中里も驚いた表情で紗雪の方を見る。

(おのれ紗雪!これだから巨乳はキライなんだ!!)
「だが、普通戦隊というものはパンダとかそういうんじゃなくてだな・・・」
涼介はどうしても拓海をホワイトにしたかたので、ギッと紗雪をにらんだ。
「でも、ギンガマン(98年度)でも『ブルブラック(黒牛、6人目の戦士)』とか居たじゃない
(紗雪、戦隊オタクなのか?)」
紗雪は平然と言い放つ。涼介の眼力は紗雪には効かないらしい。

「それに、ホワイトって拓海っていうよりもアニキってカンジしねえ?」
いつも兄に従順なはずの啓介まで、そんなことを言い出す始末。
啓介は、大好きなアニキのテーマカラーとも言えるホワイトを拓海がまとうことに、
どーしても納得できなかったのだ。
これぞ両手に花ゆえの涼介の誤算だった。
(け、啓介までなんて事を!!くそっ!シュミレーション失敗だ!
今夜はお仕置きだぞ、けいすけえええええ!!)

涼介が額に血管を浮かべてヒクヒクいってる、ちょうどその時。ジリリリリッと非常ベルが鳴り響き、
敵の襲来を告げた。
『緊急通報!緊急通報!妙義に敵があらわれました!』
Dのマスコット宇宙人「史浩」がメインコンピューターのある地下から、
たくらみの間のパソコンにアクセスしてきた。
涼介はチッと舌打ちすると、全員に現場に急行するよう指示した。


「あれか!」
現場に着くと、下層の走り屋小僧たちが3人、そろって立ちションしている(下品)
「掛け声はあとで統一する!とりあえず変身しろ!敵は300メートル先だ!」
涼介が、全員に腕時計型の変身ブレスを投げ渡した。
「変身って・・・どうするんですか!?カラーも決まってないのに・・・」
拓海はふだん起きてるんだか寝てるんだか分からないくせに、こういうときの質問は
さすがダウンヒルスペシャリストだけあって(何の関係があるんだ)、鋭い。
「心配無用だ!とりあえずのカラーはいれてある!」
涼介は自信満々に答えると、ニヤリと笑って見せた。

「よっしゃいくぜえええええっ!着装ッ!」
啓介がハデに叫んで、末期色・・・もとい真っ黄色いバトルスーツ(希望者多数により全員マスクはなし!)
に変身して走り出した。
中里も「へーんしんっ!」と仮面ライダーのようなポーズで
黒いバトルスーツに身を包み、啓介のあとに続く。
「んじゃアタシらも行くわよっ!」
「え、あ・・・はい。」
訳の分からない掛け声を上げる紗雪に気圧されて、拓海も一緒に変身ボタンを押した。

「ぎゃああああああっ!何コレえ!?)
転送されてきたバトルスーツに身を包んで、紗雪は悲鳴を上げた。
「高橋涼介・・・散々パンダは駄目とか言っといて・・・アタシはヒョウ柄かいっ!!」
時間がないので、2人並んで走りながら、紗雪はぎりぎりと歯ぎしりした。
「あの・・・でも似合ってますよ?」
拓海は紗雪のバインバインを目の当たりにして目のやり場に困っているらしく、
うつむきながらぼそっと言った。

「ありがとう拓海くん・・・って、はっ!」
今まで自分のことしか考えていなかったので、改めて拓海のバトルスーツをまじまじ見て、
紗雪は真っ青になった。
(高橋涼介・・・!!アンタが拓海くんにやたらとホワイトを勧めたわけがよ〜く分かったわ!)
拓海のスーツは(涼介の希望通り)ちゃっかりぴっちぴち(はあと)のホワイトで、
見るからに「あなたの色に・・・染めてください(はあと)」オーラが発令中であった。
(エロいー・・・エロすぎる!あのムッツリが!)
紗雪は心の中で涼介をさんざ罵倒した。

そんなこんなで、ようやく敵の元についた紗雪と拓海であったが。
「てめえら〜!立ちションやめれ〜!」
「なんだてめえら!恥ずかしいカッコしやがって!」
「うっ、うるせー!」
紗雪たちが着いた頃、啓介たちはかなり劣勢にあった。
啓介は頭で考えてることが言ってることに追いつかないので、口ゲンカは苦手なのだ。(敵と口ゲンカすな!)

「まったく・・・、ナニやってんのよッバカどもが!」
紗雪はまず味方に怒鳴っておいて、ギッと立ちション小僧たちをにらんだ。
全身ブルーのヒョウ柄で身を包んだ女に凄まれて、敵は戦闘意欲をなくす。

「そんなに聞きたいのなら、教えて上げてもヨクってよ!」
野郎ども!教えておあげッ、と紗雪は右腕を高らかに掲げる。
「聞いて驚け!」
えっへん、と誇らしげに啓介が叫ぶ!
「見て笑え!」
ガッ、と怖い顔で中里が叫ぶ!(←流されてる)

われら涼介さんのいちの子分!

くわっ、と目を見開いて拓海が叫ぶ!!
「啓介!!」
「中里!!」
「拓海!!」
ビシッ、と3人は組み体操で「扇」(?)を決めた。

「ちがうでしょッ、アンタたちっ!!」
紗雪は個人武器の「ムチ」で思うさま3人をぶん殴った。
「アタシたちは、峠の平和(と清潔)を保つ、ラブリーハッピーキューティな戦隊(なんじゃそりゃ)
バトルフィーバーDよっ!!さあっ、早く名乗りなさいっ!!
ポーズも決めんのよ!!」

戦隊オタクは怖い。コロされてはもともこもないので、3人は即刻、名乗ることにした。
「バトルイエローッ、啓介!!」
「バトルブラック、中里!!」
「バトルホワイト・・・拓海!!」
「バトルブルーーッ、紗雪!!」
バトルピーンクッ、!!涼介
「うぎゃああああああああああっ!!」

なぜか今頃あらわれた涼介のスーツの色を見て、中里と紗雪は失神しそうになった。
「ア、アニキ・・・遅かったな」
顔を引きつらせながらも、啓介がようやく喉から声を絞り出す。
「そうか?これでもいそいできたつもりだぞ・・・徒歩で(アニキ汗流すのキライ)」
ふふん、と涼介は鼻を鳴らした。

「あんたねぇ・・・、その色はなんなのよ」
あきれ顔で紗雪が額を押さえた。
「ああ、拓海がホワイトだからな。残ってるのはピンクくらいだろう」
「・・・レッドが残ってるじゃない」
「う゛・・・!(忘れてたらしい)」
涼介が言葉に詰まったのを見て、他の3人はひそかに紗雪最強!と思わずにいられなかった。
「オ、オレはピンクのほうが好きなんだ」
涼介の取り繕いの言葉に、紗雪は勝ち誇ったように「あーら」と言った。
「残念だけど、ピンクは女の子限定よ。
まあ、アンタがだって言うんなら、話は別だけど」
ニヤリ、と紗雪は意地悪く微笑む。

ぴきーん。

涼介の額に、青筋が何本も浮き上がった。
功としてのプライドを、いたく傷つけられたらしい。
「ゆ、許さん・・・!かさねがさね、もう勘弁ならん!勝負だ、紗雪!」
「望むところよッ!」
じりっ・・・と、2人が臨戦態勢を取る。先に動いたのは・・・涼介!
「くらえええええっ!!もみあげクラーッッシュ!!!」
「なんのっ!」
紗雪はムチで、涼介の針のように鋭く伸びたもみあげを弾き返した。

「・・・・・・・・」

いつの間にか、現場から敵の姿は消えている。バトルは延々と続きそうだったので、
啓介、中里、拓海の3人は、先に基地に帰っていることにした。

 後日、紗雪の独断と偏見により(どうやら涼介とのバトルに勝利したらしい)、
涼介はホワイトに、拓海はパンダになることになったという。


一方その頃。
アキナマンのリーダーことアキナレッド・池谷は・・・。
「オレはあきらめてませんよ、藤原さん。また来ると思います」

文太を勧誘していた。


<第2章・完>



 もどる 

 【3】へ