愛 情 ゲ ー ム ( 後 編 )

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何かを引っかいた。
指に何か生暖かいものが触れて
其れはぽつんと出た血だった。

「ってー…」

「あ、…ごめん。」

「いや、別にいーけど」

彼が動くたびに、髪から汗がぽつりと垂れて。
俺の髪に落ちた。
俺は自分自身を抱く手を
そっと自分の身体から話した。
彼は不思議そうな顔をする。
俺はごめん、もうやめて、と上目遣いで言う。
無意識なのについやってしまうらしい上目遣い。
彼が此れを弱点とするのを最近知った。

彼は何処か大きいと思う。
其の広い背中に、何を抱えて生きてるのか

スポーツマンとしての人生?
妹の教育?
…俺には関係の無いことだというのは承知してるけど、さ。
やっぱり気になるわけで(旦那のことは何でも知っておきたいでしょう、奥様も)。


きっと俺が知らない世の中のことをたくさん知り
その知識を何処かに蓄えている。
知識だけじゃない、心も、魂も、刹那さえも。

何処かに蓄えて、其れを肥料にして

呼吸をしたりして生きているのだと。


「…七原」

「ん?」

「七原クン、"ヨッキューフマンな顔"してるわよ?クスッv」

「…何のつもりだよー」

「相馬のマネ」

ふざけんのもいい加減にしろよッ!
俺は凄く真剣なのに
彼は何時も肝心なところを隠してしまう。
俺は何のためにお前のそばに居るんだよ。

何も言われず抱きしめられて。
其のまま身を委ねて。

其れで

其のまま

動かず喋らず

…何時ものことだけど。

「…みむら、いーにおいがする。」

こういう気だるい雰囲気も好きだけど
やっぱ俺は話すほうが性にあってて
とりあえず思ったことを言ってみた。
三村の肩が少しこわばった気がした。

「そ?」

何時もと同じ目で。
俺を見つめてて。

「うん。うまそーなニオイ」

別に美味そうじゃないけどさ。
あー、腹減った、なんか食いてー。
三村ポテチ無いわけ、なー何かくれよ。
そういう意味合いを込めたつもりだったんだけど。

「じゃあ、さ」


三村の指先が
耳と顎に触れて。
唇も触れて。

…くすぐったい。



「キスして味確かめよっか、シューヤちゃん?」

一瞬、時間が止まったかと思った。(っつーか、寿命が縮まったってヤツ)

「…や、だあ」

「何だよ其れ」

「あのさぁ三村」

「ん」





「泣きたい。三村のこと好きすぎて泣きたい」





貴方にとって俺って何?


俺は何時も不安で(愛されていないかという見捨てられた彼女の気分だ、ロンリーってか?)
俺は何をされても満たされなくて(夫に浮気されている妻の気分もこうなんだろうか)
俺は何時も淋しかった(なあ、本当に俺のこと"アイシテル"?)





「俺だけに愛してるって言って」

(泣きたくなる)

「他の女と同じような扱いにしないで」

(俺は本当に三村が好きなのに)

「女と比べるようなモンでもねえだろ」

(怒らないで)

「みむら、おれどうしていいかわかんねえ」





涙が出てくる

なんでそんな




三村は、怒ってるんだ


なんで三村は



そんなに哀しそうな顔をしてるんだ?



彼が俺を大切に扱ってきたのは解ってるのに
此れが自分の我侭だってことも解ってるのに
何でそんなに壊れそうなものを扱ってる様にするのか
其処が俺は嫌だった。



貴方のためなら壊れてもいいのに。



あ あ 、 頭 が 割 れ そ う に 痛 い 。


「俺はな」

「…ん。」

「多分もうまともな恋が出来ない」

「其れってどういうこと。」

「まともに女とデートしたりキスしたり寝たりとかできねえってことだよ。…つまり」

俺の額に軽く自分の額をくっつけて。
笑った。
低い声が、狭い空間に響いて
頭の中が真っ白になった。

「七原は今まで付き合ったどの女とも違う。其れなりに区別はつけたつもりだ、オーケイ?
 簡単な推理ですよ、ワトソン君」




…なんで俺がワトソンなんだ。(っていうかお前ホームズってガラじゃないし)







「…俺、三村のこと好きだよ。」

「何言ってんの七原。俺お前のこと好きじゃねーもん」

「!?(え!?)…何だよー。俺のこと嫌いなのかよ!」

「オイオイオイ。好きじゃないけど嫌いとも言ってねーぞ」

「…?」







「"愛してる"」





















「…クッセー」










嬉しいけど。
お前やっぱ世界一だよ。いろんな意味でさ。



完。


愛情ゲーム 前編