リナ、おおいに満足する           聖都怒濤の五日間14

     

           

 ずがーん。
「ひいいいい!!!」
 どごーん。
「た、たすけてくれえええええ!!!!!」
 ばきいいいっっっ。
「うわああああんっっ!おかーちゃーん!!」
 ゼルガディスが扉の向こうに消えてはや1時間。
 派手な効果音と共に、ごッつい男どもの泣き叫ぶ声が閉ざされた扉の向こう側から途切れることなくおんおんと響いてくる。ガウリイと並んで廊下に座り込んでいたアメリアは、ひくりと肩を震わせた。
「な・・・何やってるんでしょーね、リナさん・・・」
「うーん」
 ガウリイは抱え込んでいる剣をカチャカチャもてあそびながら、
「この様子だからな−。憂さ晴らしか八つ当たりってとこだろうなあ」
 いつもの穏やかな口調でさり気なくとんでもないことを言って、
「ま、だいじょうぶだろ。ゼルもついてるし」
 それはわかっている。でも・・・。
 アメリアは改めて扉を眺めやった。
 ゼルガディスはあまり御機嫌麗しそうではなかった。
 御機嫌よろしくないゼルガディスというのは、ある意味リナよりおそろしい。もともと冷徹な男ではあるが、その冷徹ぶりにますます拍車がかかる傾向があるからだ。冷徹ゼルガディスと壊れリナ、この組み合わせの取り調べというのは、落ち着いてよく考えたら、ほんとにまったく危険なことこのうえない。アメリアの中で、国王代理アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン第二王女としての意識が頭をもたげてきた。男達はセイルーン王国としても大事な容疑者、情報源なのだ。このままほんとうに「見殺し」になってしまっちゃったりしても・・・いいのだろうか?
 それに、実のところやっぱりゼルガディス本人のことも気掛かりである。なにせこの世界でも並ぶ者のない受難率を誇っている男だ。
(さっきからゼルガディスさんの声全然聞こえてこないし・・・取り調べどころか、リナさんの巻き添えを食って真っ黒焦げになっちゃってるのかも・・・・)
 大暴れしているリナの背後で、こんがりローストされたゼルガディスが床に転がったまま昇天しかけている。そんな様子を思い描き、アメリアはぶんぶんと頭を振った。
「ん?どうしたんだ、アメリア」
「わわわわたし、ちょっと様子を見てきます」
 リナもこわいが、正義を捨ててゼルガディス(と容疑者)を助けられない自分になってしまう方がもっとこわい。意を決してアメリアは異音に軋む扉の前に立った。
 ノブを掴む。それを引こうと腕に力を込めた時−−−−−−

 ずばったーんっ
「ふぎゅっ」(←この声は扉の開く音にかき消された)

「あっははははーっ。すーっきりしたーあっ!!」
 リナが伸ばし上げていた片足を踏み下ろしながら現れた。黒焦げの塊三つ、すなわちリナのありがたーい取り調べを骨の随まで受けてしまった哀れな子羊・・・もとい容疑者三人の末路、を景気良く廊下に放り出すと、ぽんぽんと満足げに両手をはたく。扉は部屋の中からみると外開きの造りになっている。つまり、この美少女天才魔道士は扉をいやというほど思いっきり蹴り開けたのだった。
「お待たせ−。・・・あれ?アメリアは?」
 きょろきょろあたりを見回す栗色の髪越しに、後ろから顔を出したゼルガディス・・・・煤こそかぶっているが結界を張っていたのでなんとか巻き添えを食わずに済んでいた・・・がジロリと、
「扉の裏に何かはさまってるぞ」
 そこへガウリイ、とどめの一言。
「アメリア・・・い、生きてるかー?」
「へ?!」
 リナがあわてて扉を引き戻すと、
 ぺたん。
 扉と石壁の隙間から倒れてきたのは、まさしくアメリア。
 10cm程度にプレスされ、目をぐるぐる渦巻きに回して完全に気を失ってはいるが・・・・。
 ゼルガディスが抱え起こす。おでこに見事なたんこぶがこさえられているほかには異常がないのを確認して、
「扉の前にでも立ってたんだろう。超合金製じゃなかったら内臓破裂どころじゃ済まなかったぜ、今の勢いは」 
「リナ、お前なあ」
「だあってえ。アメリアがいるなんて思わなかったんだもん」
 ガウリイはふうと息をはいて、珍しくややお叱り視線気味に、
「ていうかさ・・・俺が言うのもなんだけど、お前、やっぱりもう少し、加減ってのを考えたほーがいいんじゃないか?」
「なによ。あたしが勢い良く扉開けんのがそんなに問題なわけ?」
 ずごごご・・・・
 地響きのようなものが聞こえてきた。拳を握りしめていたリナがきょとんと周りを見回す。
「ほら。な」
 リナに頷きかけたガウリイが、ひょいとその小柄な体を部屋の外に運び出したとたん、

 ごごごご・・・・どがらっがらがっしゃーん

 肚に響く轟音とともに、凄まじい量の塵埃をまき散らしつつ取調室の石壁が崩れ落ちていく。リナの「取り調べ」もとい「火炎攻撃」が石壁の耐熱温度をはるかにオーバーしていたのだ。
「ははは・・・。そ・・・そーだね・・・ガウリイ・・・」
 リナ=インバース、建造物破壊、セイルーン到着二日目にして早二件目。
「フィルさんに・・・殺される・・・」
 へなへなへな。
 呆然と座り込むリナの横で、ゼルガディスは脇目もふらず腕の中のアメリアに治癒をかけ続けている。

        

              

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