「ひみつ 後編」


「くそっ・・・なんで判ってくんねーんだよ・・・!!」
 ゼフェルはアンジェリークのハンカチを握り締めながら己の心が届かない事に憤りを感じた。
「俺は世界中の誰よりもアンジェを・・・っ」
(ふっ・・・この坊やはとっくの昔にお嬢ちゃんの秘密を知っているのにな。それを当たり前だと思っているから秘密に気が付かないんだ。)
 オスカーは段々彼らを見ているのが楽しくなってきた。
(当のお嬢ちゃんも気がついていないときちゃあ・・・な。)
 別に、オスカーだけが知っている事ではないのだ。
 ゼフェルとアンジェリークにとってはごくごく日常茶飯事のこと。
 ・・・当たり前の事が、以外に大事だったりするんだぜ・・・?
「判ったよ、坊や。2人でそこの所をようく話し合うんだ。それでも解決しないのなら本当にお嬢ちゃんを奪うからな。」

。。。。。。。
『話し合えって何をどう話し合えばいいんだよ』
 ゼフェルは考え込んだ。アンジェリークは困ったようにオスカーが去った方と自分の足元を交互に見ている。最後にゼフェルを見た。その瞳は何かを決心したように真剣さを帯びている。
「ゼフェル様。私・・・!」
 ゼフェルはどきっとしながらアンジェリークの言葉を待った。
「私・・・の秘密は・・・」
 段々声が小さくなっていく。
「ずるいです」
 アンジェリークは少し頬を膨らませて拗ねたように言った。ゼフェルは目をパチクリさせてアンジェリークを見た。拗ねたアンジェリークは可愛らしくて笑ってしまう。
「ゼフェル様の秘密を教えてくれたら私も言います」
「あ゛?」
 ゼフェルは思わず間の抜けた声を上げてしまった。

。。。。。。。
「何だって?」
 ゼフェルが聞き返すとアンジェリークは拗ねたように頬を膨らませた。
「私の秘密ばかり聞いてずるいです。ゼフェル様の秘密教えてくれたら言います」
 ゼフェルは考え込んだ。
『オレの秘密って何だ?』
 まさか身長のことか?いやいやしかしそのことはアンジェリークも知っているはずだ。はっもしかして辛いもの好きってことか!ってそんなの秘密でもなんでもねぇ。
 などなど頭をめまぐるしく働かす。
『オレ他のやつに言えなくてもアンジェになら言ってることってあるしなあ。アンジェにさえ言ってねぇことといえば・・・』
 たった一つだ。ゼフェルは赤くなりながら冷や汗をかいた。

。。。。。。。
「オレの秘密は・・・」
 ゼフェルが言いかけるとアンジェリークはじっとゼフェルと見た。
「オレは・・・」
「あー二人ともこんなとこにいたの?」
「探したんだぞ」
 賑やかしくランディとマルセルが乱入してきた。ゼフェルはびくっとし、二人に怒鳴る。
「何か用かよ!?」
「今日は皆でお茶会するって約束してただろ?」
「そうだよ」
 怒鳴られなれているから二人とも怯えず呆れたように言い返した。
 ゼフェルは秘密を言わずにすみ、ほっとした。まだ言う時じゃない。もう少しだけ待って欲しかったから。

。。。。。。。
 お茶会に来たゼフェルとアンジェリーク。ケンカというほどでもないが、ちょっとしたいざこざがあった後のせいか二人ともギクシャクしていた。オリヴィエはそんな二人の様子に敏感に感じ取りやれやれという顔をする。
「二人ともさっきからよそよそしいけどさ、ケンカでもしたワケ?」
「違うぜ」
「違います」
 二人仲良く口を揃えて否定する。
「何かゼフェルの秘密がどうとか言ってたな。それって関係あたりしてな!」」
 ランディがあははと笑いながら鋭いとこをついてくる。
「おめーオレの話聞いてやがったのか?」
「聞こえちゃったんだよ」
 ランディは悪びれた様子も無く言ってのける。オリヴィエは何かを企んだようにニッと笑うと言った。
「あたし知ってるよ。あんたのひ・み・つ☆」
「何ですか?」
 即座にアンジェリークが反応する。
「それはねぇ」
 オリヴィエがしごく楽しそうに話し出した。ゼフェルは万事窮すと頭を抱えた。

。。。。。。。
「自分で言う!」
 ゼフェルは怒鳴った。その目は据わっている。オリヴィエはにやにやと人の悪い笑みを浮かべながらゼフェルに言った。
「へぇ自分でねぇ。言えるワケ?」
「うるせぇ! 他人にバラされるくらいなら自分で言う方がマシなんだよ!」
 ゼフェルはアンジェリークに向き直り口を開きかけたが・・・ワクワクと見守っている同僚達に気付きチッと舌打ちをした。
「来い!」
「きゃっ」
 有無を言わせない勢いでアンジェリークの腕を掴みズンズンと歩いていく。

 ゼフェルとアンジェリークはまた森の湖に戻ってきた。
 アンジェリークを逃げられない様に木に押し付けて、両腕でアンジェリークを挟むように木の幹に置く。
 アンジェリークをキッと睨んだ。
「・・・っ」
 睨まれたアンジェリークはビクッと肩を震わせる。
「オレの秘密教えてやる!よーく聞けよ!」
「はい」
 真面目な顔をして肯くアンジェリークに向かって叫んだ。
「オレの秘密はなぁ、おめーが好きだってことなんだよ!!」
 アンジェリークの驚きで瞳が丸くなった。
「今度はおめーの番だぞ。おめーの秘密は何だよ!?」
 恥かしくて視線を逸らしたままのゼフェルに抱き付いてアンジェリークが涙声で言う。
「私の秘密はゼフェル様が好きってことです」
「何・・・だよ・・・オレと同じじゃねぇか・・・」
 気が抜けたような声になってしまうのは安堵のため。ゼフェルは嬉しくてぎゅっとアンジェリークを抱き締める。
「もっと早く明かせば良かったぜ」
 何だかおかしくなり二人でくすくす笑い合う。
「しゃくに触るけどオスカーとオリヴィエのお陰だな」
 二人がはっぱ掛けなかったらゼフェルもアンジェリークも秘密を打ち明けるのはまだ先のことになっていただろう。
「ゼフェル様大好き・・・」
「好きだ。アンジェ」
 秘密が無くなった二人は晴れ晴れとした顔をして微笑み合った。

〜fin〜