夕張市成人祭 〜マスコミが報道しない真実〜
●はじめに
財政破綻した北海道夕張市では、成人式の予算も1万円だけになった。そこで、若者たちが手作りの成人式をしようと支援を求めた結果、全国から238万円の寄付が集まり、成人式は大成功となった。と、いう美談がある。
しかし、いくつもの疑問が出てくる。
「そもそも1万円だけで、成人式をするべきだったのでは?」
「予算1万円って、式典の予算ではなく、パーティの予算では?」
そして、なにかがおかしいという違和感。
実際に、夕張市の成人祭実行委員会事務局に話をきいたところ、テレビや新聞の報道では隠されていた事実が判明した。

●成人式?成人祭?
まず「成人祭」という言葉に違和感を覚えた人も多いだろう。夕張市では、伝統的に成人式のことを成人祭と呼んでいる。ほとんどの地方自治体で行なわれている成人式は、来賓の話を聞く「式典」だけだったりするが、夕張市は違う。「式典」のほかに、占いコーナーや写真コーナー、郷土芸能の実演などさまざまな出し物がある。その中でも新成人が楽しみにするのが「ふれあい広場」。夕張市外に出て行ってしまった新成人たちが、再び集まって語り合える、同窓会のような場、それが「ふれあい広場」だ。「手作りの成人式」として報道されているのは、ほとんどこの「ふれあい広場」だが、夕張市では、式典もふれあい広場も、そのほかの出し物も、全部ひっくるめて「成人祭」なのだ。

●予算は1万円?
夕張市は、成人祭実行委員会に対し、毎年60万円を助成していた。しかし、2007年は予算削減により助成金は0。昨年からの繰越金である1万円だけが成人祭の予算だった。一部批判では「成人式の予算はあったが、飲み会(成人祭)の予算が1万円だった」との憶測が流れているが、これはまちがい。式典も、ふれあい広場も全部ひっくるめて1万円だった。たしかに、成人式全部の予算が1万円だけというのは少ないような気もする。

●予算1万円での開催
「予算が1万円しかないなら、その予算でなんとかやりくりすればいいじゃないか」と批判する人がいる。成人祭実行委員会は、実際にこの予算でなんとかしようとした。まず、会場となる市民会館。使用するのは当然有料だが、無料で借りれることにした。また、占いコーナーや写真コーナーのスタッフ、例年は足代などが支払われていたが、今年はボランティアで行なうこととなった。例年記念品として贈られていたアルバムだが、これも無償で提供されることとなった。
結果として、これらのことは誰もが知っていることだろうが、報道されていないことがある。これらのことは、2006年の10月末にはすでに決められていたことだった。つまり、2006年10月末には、すでに予算0円で成人祭が行なえる段取りは整えられていたのだ。

●実行委員会って?
一部報道では、新成人の土屋美樹さんら6人が実行委員会であるかのように報道されていた。が、これは間違い。本来の実行委員会は、夕張の各地区の代表6人や、商工会の代表など、合計10人からなる「大人」によって構成された実行委員会である。しかし、今年については「ふれあい広場」に関して、当の新成人たちで作ってもらおうと、6人の「子供」たちに協力を請う形になった。もちろん新成人の6人も実行委員扱いではある。しかし、本来の実行委員会は10人の大人たちであり、新成人6人はあくまで「ふれあい広場」のスタッフである。土屋美樹さんも実行委員長であるかのような報道があるが、新成人代表であって、実行委員会の代表ではない。土屋美樹さんに与えられていた役割は、報道されているものより、はるかに小さいものだったと言える。

●ふれあい広場の予算
成人祭の予算は1万円だったが、式典などの予算を0円に抑えられたために、1万円はまるまる「ふれあい広場」にまわされることとなった。ただ、飲み食いするには1万円の予算では少ないことは明らか(成人式での飲み食いに公費が使われることに批判もあるだろうが、それは取り合えず置いておく)。さすがに、「大人の」実行委員たちも、1万円では少ないと思ったのだろう。「大人の」実行委員たちもカンパ集めをすることとなった。集まった額は18万円。重要なのは、この18万円、朝ズバッなどで「予算1万円」と報道されたときには、すでに集まっていることである。テレビで放送されたからカンパが集まったのではない。それ以前にすでに集まっていた。ちなみにこの18万円という数字、例年の飲食代よりも多い金額らしい。

●18万円の飲食代について(私見)
成人式で、新成人の会費などの負担なしで、パーティをすることには、色々批判もあるだろう。実際、ほとんどの区市町村ではパーティなどやってないだろうし、やっても会費制だったりする。「財政破綻しているのなら、パーティなどしなければよい」というのももっともだ。ただ、この18万円の多くを、「大人の」実行委員たちがカンパを集め、夕張の大人たちがカンパをしている。自分たちの市の新成人たちがパーティをできるように、その市の大人たちがカンパをし、それでパーティをするのなら、それこそ美談だと思う。ちなみに、「大人の」実行委員たちがカンパ集めに奔走したという話はほとんど報道されていない。

●予算1万円の報道
夕張市の成人式問題が大きく報道されたのは、おそらく12月22日の朝ズバッが最初だと思われる。テレビ番組欄には「夕張成人式もピンチ新成人が涙の猛抗議に大人たちは」と書かれている。新成人の土屋美樹さんが涙ながらに市側を非難する映像は、おそらくここで見たものだと記憶する。
しかし、この時点で、すでに成人祭をやることは決定していたし、その段取りも決定されていた。「ふれあい広場」のための予算18万円も用意されていた(番組取材時には、まだ土屋美樹さんには手渡されてなかったが、オンエア時にはすでに手渡されていたらしい)。つまり、成人祭は予算的になんの問題もなく「やれる」状態だったのだ。報道後、夕張市には善意の寄付が集まり、その総額は236万円となった(最初の18万円を含む)。

●なぜ、「やれない」と?
この項目は私見で、想像が入る。
成人式がやれる状態だったのにもかかわらず、なぜ「予算1万円」を強調し、お金がないように報道されたのか。一番好意的に考えれば、報道側の取材不足である。しかし、報道側も、この事実を把握していたように思われる。「予算1万円」というのはセンセーショナルなワードであるし、その窮地に対して若者ががんばるのは感動的だ。財政破綻した夕張市を「なにもしていない」とワルモノに仕立て上げるのも、わかりやすい構図だ。
しかし、都合のいい部分ばかりを編集して伝える報道に、正義はない。センセーショナリズムのみを追求して、事実をゆがめて報道するのは、それが結果美談になろうとも、決して行なわれてはいけないことだ。夕張市や、夕張の新成人に対する批判もあるだろう。しかし、一番非難されるべきは、真実を隠蔽して報道をしたマスコミである

●美談でおわらせないで
夕張市の成人祭の話は一見「美談」である。「美談」ゆえに、それにケチをつけることは、粋ではないかもしれない。しかし、「事実をねじまげる」マスコミがいることには脅威を感じる。
今からでも遅くはない。美談の中にある、まちがった報道内容を検証し、正しい情報を与えるべく、マスコミ各社は動くべきではないか。
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