機動戦士と汎用人型決戦兵器と共に流れる岡崎一家の徒然なる休日

 日曜日。

 俺たちは家族で古河パンを訪れていた。

「あれ? 汐は?」

 手洗いから戻ってくると、愛娘の姿が見えないのに気づき、渚に訊いてみる。

「しおちゃんなら、あっちでお父さんと遊んでます」

 視線を振る。

「はっはっは、ザ○とは違うのだよ、○クとは!」

「ぼうやだからさ…」

「カトンボめぇぇ————っ!」

「なぐったなぁ…おやじにだってぶたれたことないのにー!」

 ……確かに。

 というか、セリフの順番に全く脈絡がないぞ。

「楽しそうですねっ」

「ああ、脈々と受け継がれるアホの子遺伝子…」

 がっくりとテーブルに突っ伏す。

 顔を上げると時計が目に入った。

「お、こんな時間か…」

 何気なくリモコンを取り、テレビを点けてみる。

 アニメらしき番組が入っている。

『新世紀エヴァン○リオン』

 再放送だ。

 俺でも名前くらいは知ってるほど有名なやつである。

「朋也くん、見るんですか?」

「いや、ただつけてみただけだけど…」

 渚と並んで、ぼーっと画面を眺める。

 どうやら第二十四話らしかった。

 ストーリーなんて知らないので、正直退屈である。

 俺がチャンネルを変えようとすると、とあるキャラクターが目に付いた。

「朋也くん。渚 カ○ルさんっていう人みたいですよ」

 ああ、それで俺も反応したのか。

「色白いなー…」

「朋也くんと正反対ですね」

「…悪かったな」

「ああっ、えっと、そういう意味じゃないです」

 俺がふてくされてみせると、渚は律儀にも慌てふためいてフォローしてくれる。

「朋也くん、日焼けして、お仕事頑張ってます。そう思うと、すごくかっこいいです」

「それはそれで照れるぞ…」

「えへへ…」

 見つめあい、いい雰囲気になる。

 渚の目が、待っているような気がする。

 口元を寄せた。

 渚はじっとしていた。

 あと少し…。

「させるものかぁ———っ!」

「ええっ、何でだよっ」

 いきなりの大声に反射的に振り向くと、オッサンと汐がガ○プラをそれぞれ抱えて熾烈なドッグファイトを繰り広げていた。

「………………」

 渚は顔を突き出したまま、ぷるぷると震えていた。

「えっと、わたし、すごく運悪いです…」

 そして顔を真っ赤にして俯いてしまう。

「ま、まぁまぁ。俺もお前の実家だってこと忘れてたし。また今度な」

「はい…」

 やっと面を上げる渚。

 テレビ画面の中では、まだアニメが続いていた。

 改めて先ほどの少年が名乗っている。やはり渚という苗字らしい。

「こいつと結婚したら、お前渚 渚になっちまうな」

 渚を和ませるつもりで冗談めかして言ってみる。

「ダメですっ。朋也くん以外とはしないですっ」

 本気で応えられた。

「仮定の話だって」

「はい、えっと…応えてから、そうかもしれないと気づきました…」

 アホな子だ…。

「けど、そんな名前ヘンですから、仮定の話でもやっぱりダメです」

「そうか?」

「はい。どんなことがあってもわたしは、岡崎 渚でいたいです…えへへ」

 渚が身を寄せる。

 ほとんど半身をくっつけあう体勢。

 渚の体温と、柔らかな感触が心地よかった。

「よし…じゃあ俺は、どんなことがあってもお前を、岡崎 渚じゃなくさせない」

 渚の顔がさらに赤くなる。

「嬉しいです…朋也くん」

「渚…」

 また見つめ合う。

 埋める距離は、さっきよりも短くて済む。

 俺は首を傾げた。

 そして、渚はその反対に…。

「ジィィィ————クッ、ジオォォ——ンッ!!」

「じぃぃ———く、じおん——!!」

「ジ———ク、ジオ——ンっ」

「お前ら絶対わざとだろっ!」

 いきなりの不自然な盛り上がりを見せたその方向を見る。

 早苗さんまで加わっていた。

「…………………………」

 渚はまたもや顔を突き出したまま、ぷるぷると震えていた。

「えっと、わたし、もう二度と朋也くんとできないかもしれないです…」

 本気で落ち込みだす渚。

「早苗さんまで…一体何やってんですか」

「いちねんせんそうごっこなの」

 汐が饒舌に答えてくれました。

「ごめんなさい、朋也さん。秋生さんに頼まれて」

「でしょうね…」

「ふっふっふ。甘いぜ、ボウズ。俺の目の赤いうちは、渚とイチャつかせてなんかやらねえぜ!」

 どんだけ寝てないんだ、あんた。

「お父さん、キライですっ」

 渚が顔をあげて第一声に言った。

「ぐはああああああっ!!」

 向こうへ吹っ飛んでいく。

 着地すると、真っ白になって燃え尽きていた。

「あっきーが『れんぽうのしろいやつ』になった」

 汐はそれにとてとてと駆け寄っていった。

 …つんつんとつついたりして遊ばれてるあたりが哀愁を誘う。

「ごめんなさいね、渚」

 たしなめる早苗さん。

「お母さんはいいんです。悪いのは全部お父さんですからっ」

「ぐぁはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 後ろで追加ダメージを食らっている奴は無視して、俺は渚の頭をぽんぽんと叩いてやった。

「早苗さん、そろそろ夕食の支度ですよね?」

「はい」

「ほら渚、手伝ってきてやれって」

「はい。そうですね…」

 相変わらずしょぼんとしたまま、立ち上がる渚。

 まったくコイツは…。

 俺とのことで、こんなに一喜一憂してくれるとは——まだまだ初々しいやつである。

 俺は早苗さんに目配せをする。

 察してくれたようで、早苗さんは一足先にキッチンへ向かっていった。

 渚もそれに続こうとする。

「渚」

「はい…えっ」

 呼び止めるとともに、腕を引いて、抱き寄せる。

 必然的に迫ってくる愛らしい顔。

 そしてその口元に、俺は自分のそれを重ねた。

「んっ…」

 驚きもつかの間。

 渚は俺に身を預け、目を閉じた。

 触れ合わせるだけのキス。

 夫婦である男女が交わすにしては、少々幼いかもしれないが…これでいいのだ。

 ——俺たちは、未だ初々しいのだから。